monomousu   もの申す
2019年4月8日
露に領土返還の意思は毛頭ない 北海道大学名誉教授・三村 汎
産経新聞・・・正論

ロシアでの世論調査結果は、たしかに信用しがたい。まず、3大世論調査組織のうち2つまでが、官製機関である。次いで、調査方法も適切といいがたい。
     固定電話にかけて設問するので、若年層でなく、自宅にいる年金生活者の声を反映しがちである。
  このような欠陥をもつ調査とはいえ、参考になる点がある。1は時期別の数字の変化が分かること。2は政権がどのような項目について、
     調査を欲しているのかが明らかになることだ。具体例を挙げて説明しよう。

≪人気凋落にあえぐプーチン氏≫

プーチン大統領の人気は多少水増しされているとはいえ、概して高いので、必ず3大機関はこの種の調査を実施する。その結果、ロシア国民間の
     プーチン大統領支持率の相対的な変化が判明する。プーチン氏の人気は、2014年のクリミア併合後に86・2%、15年のシリア空爆開始後に
     89・9%へと急上昇した。ところが現時点では64%へと落ちている。1月には、同氏を信頼すると答えた者は33・4%、「ロシアが誤った方向へ
     進みつつある」とみなす者は45%。全て06年以来、最も悪い数字である。

   プーチン大統領の人気凋落(ちょうらく)傾向の理由は、明らかといえよう。一言でいうと、同大統領がこれまで実施した対外的冒険行使のつけが
     回ってきたのだ。同大統領は、ウクライナやシリアで「勝利を導く小さな戦争」を敢行し、ロシア国民から拍手喝采を浴びた。だが、
     戦争は始めるのは容易だが、終結するのはむずかしい。その後、二正面作戦の泥沼から足を抜け出せないために戦費や駐留費がかさみ、
     ロシア経済を圧迫している。ロシア国民は、対外的成果の美酒に暫しの間酔っていたが、振り返ってみると己の冷蔵庫がすっかり空っぽに
     なっていることに気づかざるを得なかった。彼らは、経済上深刻な“三重苦”に見舞われている。原油価格の暴落、ロシアの通貨ルーブルの
     急降下、先進7カ国による経済制裁である。プーチン政権は、国庫収入を増大させようとして、年金支給年齢の引き上げや付加価値税の増額
     を図ろうとした。ところが、政治的不自由には耐えるロシア国民も、物質的生活水準の低下には抵抗を示す。

   1917年の二月革命も「パンよこせ!」の抗議運動からはじまった。また、2004〜05年、プーチン政権が社会保障関連の諸特典をソビエト期の
     現物支給制から現金化へ移行させたときも、国民は彼らが従来受けとってきた権利や便宜を目減りさせる政策転換とみなし、街頭デモを繰り返した。

≪脈ある交渉は秘密裏に進む≫

領土「引き渡し」の是非を問うべきか、否か。現ロシアで世論調査実施の是非は、プーチン政権の意向次第で決定される。このことを如実に示したのは
     中露間国境線の決定時だった。プーチン政権は04年、中国との領土紛争に終止符を打った。すなわち同政権は、ウスリー川とアムール川の
     合流点の三角州に位置する3つの島(ボリショイ、タラバーロフ、大ウスリー島)の主権帰属先問題に関して、係争3島の全面積を2等分し、
     その半分を中国領と認めることに同意した。

   現文脈で重要なのは、しかしながら、このときプーチン政権は同交渉の経緯をロシア国民に一切知らせず秘密裏に話を進めた事実だった。
     なぜ、そうしたのか。その理由は明らかだろう。もしロシア国民、とくにその極東地域の住民たちが交渉の進行状態を知った場合、必ずや彼らは
     プーチン政権の最終決定に猛反対するに違いない。同政権は、こう危惧したからである。

   実際、同三角州を己の行政下においているハバロフスク地方のビクトル・イシャーエフ知事は、たとえ1平方メートルの土地ですら中国に引き渡すことに
     反対していた。それを熟知していたプーチン政権は中国との交渉を隠密裏に進め、ロシア国民に向かい世論調査を実施し、彼らの意向を前もって
     質(ただ)すつもりなど毛頭示さなかったのだ。

≪世論調査の実施は何を物語るか≫

右の歴史的先例は、北方領土問題解決の展望に関して悲観的なヒントを提供する。というのも、プーチン政権は、日本との国境線画定問題ではまさに
     正反対の手法を取っているからだ。すなわち、北方領土の対日引き渡しの是非をロシア国民の意向を問う世論調査を積極的に実施している。

   筆者は、北方領土の島民たちに同調査を実施している様子をロシア・テレビ「ベドモスチ」で見たが、何と係官が回答者1人ずつに面接し答えを
     書き込む手法だ。このような直接インタビュー方式で領土の対日返還に賛成と答える勇気のある者など現れるはずはなかろう。案の定、
     ロシア人住民の77%、島民の96%が反対と答えた。手法はともあれ、日本との領土交渉に関してはプーチン政権は世論調査を行わせている−
     このこと自体が、島を引き渡さない政権の意向を明確に物語っている。日本側はこのメッセージを厳粛な事実として受け止める必要があろう。

(きむら ひろし)


露のクリミア併合

2019年3月18日
【主張】クリミア併合5年 露の暴挙を忘れてならぬ-産経新聞

ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合して18日で5年となる。 ロシアはこの間、自国本土からクリミア半島に架橋し、現地に発電所を
     建設するなど実効支配を強めてきた。ウクライナの領土を強奪した暴挙を日本と国際社会は決して許してはならない。

  ウクライナでは2014年2月、首都キエフなどでの大規模デモで親露派政権が崩壊し、親欧米派が実権を握った。クリミア併合は、これに怒った
     プーチン露政権が強行したことだった。 プーチン政権は、ロシア系住民の多いクリミア半島に軍の特殊部隊を投入し、行政庁舎や議会、
     テレビ放送拠点といった中枢施設を占拠させた。その上で「キエフには民族主義のファシスト政権が発足した。ロシア系住民には危険が迫っている」
     といったプロパガンダ(政治宣伝)を行った。

  ロシアは、クリミアで同年3月に行われた住民投票で「ロシア編入」が支持されたと主張する。しかし、ウクライナ憲法に反し、武力を背景に行われた
     投票を認められないのは当然だ。 旧ソ連で第2の構成国だったウクライナは1994年のブダペスト覚書で、核兵器を放棄する見返りに、
     米英露から安全保障の約束を得た。ロシアがこの合意を踏みにじったことの悪影響は、核不拡散の面でも重大だ。
 
  プーチン露大統領が、クリミア併合に際し、核戦力を臨戦態勢に置く用意があったと発言した事実も忘れるべきでない。 ロシアは2014年春、
     クリミア併合の余勢を駆って、ウクライナ東部でも親露派武装勢力を支援して同国軍との戦闘をたきつけた。この紛争は1万人超の死者を出し、
     今も終結していない。 昨年11月にはクリミア半島の近海で、ロシアの沿岸警備艇がウクライナ海軍の艦艇に発砲し、3隻を拿捕(だほ)した。
     ロシアは乗員24人の拘束を続けている。 クリミア併合は現在進行形の問題であるとの認識を持ち、対露制裁を維持する必要がある。

   武力による現状変更という意味で、クリミア併合は北方領土問題と同根である。中国が、南シナ海の人工島で軍事拠点化を進めていることも
     然(しか)りだ。 北方領土問題を抱えているわが国こそが、クリミア併合を厳しく糾弾せねばならない。


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