わいせつ-2
(わいせつ-無くせるか?・法律-2016年~2023年4月26~)



2023.08.17-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230817/k10014164661000.html
私に性行為を強要した先生が塾講師に…
(社会部 記者 小林さやか 杉本志織)

  「身近な大人の巧妙な手口を見抜くのは、子供には無理」 中学生の時に教員から性被害を受けた女性の言葉です。子供たちを身近な大人による性犯罪から守るためにどうすればいいのか。

  今、子供に関わる仕事などに就く際に、性犯罪歴がないことなどを確認する新たな仕組み「日本版DBS」の導入に向けた議論が大詰めを迎えています。
  被害にあった人たちの声に耳を傾けました。(社会部 記者 小林さやか 杉本志織)
「私を理解してくれる」と思っていたのに…
  中学3年の時に、同じ学校の教員から性被害を受けたという30代の女性です。加害者は生徒会の顧問だった教員。
  家族や学校での人間関係に悩んでいた女性に、いたわる言葉をかけて優しく接し、徐々に体を触ってくるようになったといいます。
  性的な触れ方におかしいと感じたものの「私を理解して話を聞いてくれる大人は先生しかいない。こんなに気にかけてくれるのだから仕方がない」と思うようになっていた女性。ついには教員に性行為を強要されました。
教師は逮捕されたけど…
  卒業後、その教員が別の生徒にみだらな行為をしたとして、青少年健全育成条例違反の疑いで現行犯逮捕されました。女性のほかにも複数の生徒に対して、同様の行為を繰り返していたことが発覚したのです。

  「常習性や依存性がある加害者だったんだと思います。手なずけ方が巧妙で、入り込める子をねらっていたのだと思いますが、当時は気付くことができなかった。見抜くことは子供には無理だと思います」

  中学生だった女性は、被害を知った周囲の大人たちの対応にさらに傷ついたと言います
  「非行をした」と責められ、誰も守ってくれなかったと感じていました。女性は「拒めなかった自分が悪かったんだ」と自分を責め、大人になってもずっと心の不調を抱えてきました。
  逮捕された教員は、罰金50万円の略式命令となり、懲戒免職処分となりました
  しかし、ほどなくして地元の近くで塾を開業し、今も続いているといいます。その後、どのような生活を送っているかはわかりません。しかし、女性は、自分と同じような被害に遭う子供がもう二度と出ないよう、子供に接する職業に就かせないようにしてほしいと望んでいます

  「時間は巻き戻らないし、返してもらうこともできない。今も、どうしようもない気持ちを背負って生きていかなくてはいけないという悲しさと諦めが、ないまぜになっている。誰一人として同じ思いをしてほしくない。大人や社会が、子供への性被害に厳しく臨む姿勢を示すことを願います」

縦割りだった子供を守る対策
  これまでは、同じ子供に接する職種でも、教員や保育士では所管する省庁が違うため、それぞれが対策を進めてきました。教員については2021年、新たな法律が成立。
  採用の際、児童・生徒へのわいせつ行為による懲戒免職や教員免許の失効などの経歴を確認することが義務化され、今年4月からデータベースの運用がスタートしました。また、保育士については2022年、児童福祉法が改正され、子供へのわいせつ行為などを理由に保育士登録を取り消された場合、再登録ができないなど厳格化されたほか、経歴のデータベースも近く運用予定です。
  しかし、所管ごとに進める対策では不十分だという指摘がたびたびあがってきました。部活動の指導員や保育を補助するスタッフ、ボランティアなど、教員や保育士といった資格がない人に対しては、対応するすべがないからです
  2020年には、保育のマッチングサイトを利用していたベビーシッターが相次いで逮捕されたことなどから、子供に関わる仕事に就く人については犯罪に関する経歴を確認する仕組みの必要だと訴える声が高まりましたが、省庁の縦割りのはざまでこれまで議論がなかなか前進しませんでした。
イギリスでは犯罪歴チェック制度を導入
  一方、イギリスでは、先進国でもいち早く犯罪歴のチェックを進めています。
  2012年に犯罪歴照会にあたる「DBS制度(Disclosure and Barring Service)(前歴開示・前歴者就業制限機構)」を確立させました
  イギリスでは、子供に関わる職業や活動を行う使用者側が、子供に対する性的虐待などの犯罪歴がある者を雇うことは犯罪にあたると定められ、犯罪歴の照会が義務化されています。
  使用者は、求職希望者本人の承諾を得て、DBSに犯罪歴のチェックを依頼。-DBSは裁判所による有罪判決、有罪にならなかった事案でも警察官が載せるべきと判断した情報、DBSへの通報などをもとに、独自に作成した子供と接する仕事に就けない者のリストと照会します。そして、DBSは証明書を求職希望者本人に郵送。同時に犯歴などがなかった場合は、使用者にその旨を通知します。
  こうしたチェックを受ける対象は、ボランティアも含め、子供の教育や指導、世話をする人、子供のための車の運転をする人なども含め、一定の期間以上、子供と接する人たちと広範囲に及びます。
犯罪歴照会について現場では…
  イギリスで3歳から11歳までの子供およそ80人を放課後に預かる学童保育を運営しているシャープ千穂さんに話を聞きました。イギリスで今のDBS制度ができる前は、子供に対する性犯罪で有罪となった人だけをリスト化し、教育現場の仕事に就けないようにしていました。
  しかし、2002年に起きた、未成年へのわいせつ行為で何度も通報されていた小学校の管理人が、2人の小学生を殺害した事件をきっかけに、制度の厳格化を求める声が高まりました。逮捕された管理人が過去に起訴されずに有罪となっていなかったために学校で働けたことが問題視され、有罪判決だけではなく、通報歴なども含めて幅広く照会する今の制度になったといいます。
  シャープさんによると、照会する情報の範囲が広いことから、申請から完了まで時間がかかり、シャープさんが新しいスタッフを雇用した際も、長い場合だと3か月かかりました。その間の給与が出ないため、求職者にとっては収入が不安定になるなどの課題はありますが、子供たちの安全を確保するためには必要な手続きだとシャープさんはいいます。

  「イギリスは時間をかけて制度を進化させています。今も、例えば性転換をして名前を変えた人や、こうした制度がない国から来た人の情報を確認できないなどの漏れはありますが、制度ができたことをきっかけに犯罪を阻止しようという社会の意識が高まりました。申請には費用も手間もかかりますが、子供を守るためには必要なことだと皆、納得しています」
「日本版DBS」議論の論点は
  日本でも、こども家庭庁が、日本版の同様の制度を作ることを基本方針として掲げ、6月に有識者会議を設置して議論を進めています。
  主な論点をまとめました。
    〈1 対象となる事業や職種の範囲〉
      ・学校、保育、放課後児童クラブや学習塾、習い事、ベビーシッターなど、どこまでを対象にするか。   ・義務化か、希望する事業者だけが参加する手上げ制にするか。
    〈2 対象とする性犯罪の前科などの範囲〉
      ・裁判で有罪となったケースのみを対象にするのか。   ・刑法犯だけにするのか、自治体によって異なる条例違反も対象にするのか。   ・「示談」などで不起訴処分になったケースを対象に含めるのか。   ・逮捕はされていなくても、懲戒免職になったケースは対象にするのか。
    〈3 個人情報保護などとの兼ね合い〉   ・性犯罪歴などの確認を申請するのは使用者側なのか、求職者本人なのか。   ・確認した情報の安全管理はどのように行うのか。   ・職業選択の自由との兼ね合いはどうするか。
  専門家「人権制限は必要な限度で」「手上げ制導入を」  こうした論点についてこれまでの有識者会議では、様々な立場から意見が出されました。

〈東京大学・宍戸常寿教授/憲法学〉「人権の制限は必要な限度で」
  自由や人権を制限するからには、子供への性犯罪を抑止するという目的の達成に必要な限度でなければならず、対象となる範囲をきっちり議論する必要がある。
  性犯罪を行ったという事実の認定は正確にしなければならないため、起訴猶予などを含めることは現時点では難しいのではないか。
  日本では、個人情報保護法で、本人に自分の犯罪歴があるかを開示請求することを認めていない。認めると、あらゆる仕事で雇用の際に、開示を求められてしまうおそれがあるからだ。このため、事業者が、対象者本人の同意を得た上で確認することが適切ではないか。
  取得した情報が流出しないよう情報管理は遺漏なきよう制度設計をしていくことが大事だ。
〈磯谷文明さん/弁護士〉「広く網張るため『手上げ制』導入を」。
  学校や保育のように、届け出や許可が必要ない塾なども制度の対象に。   採用時にDBSを使って確認することに加え、研修や防犯対策などを行っている事業者に「マル適マーク」を付与してはどうか。
  性犯罪は、示談をすることによって、不起訴になるケースも相当数ある。   起訴猶予にする際に、データベースに乗せることの同意を取るのはどうか。
使用者側の受け止めは… 使用者の側からも意見が出されました。
〈保育園や幼稚園の団体〉
  採用時に使用者側が性犯罪歴を聞くのは現在は難しく、新しいシステムに期待したい。
  人手不足で採用が困難な中、手続きが煩雑になることで求職者が減少しないようにしてほしい。
〈自治体〉
  既存の教員のデータベースなどとDBSを別々に運用するのではなく、一元化してほしい。
娘が性被害受けた母親「有罪は氷山の一角」   議論の行く末を見守る人がいます。が3年生の時に、担任から性被害を受けた母親です。
  5年前、当時小学3年だった娘のクラスでは、男子も女子も多くの児童が、日常的に教員から下着に手を入れられるなどの被害を受けていたといいます。
  教員は懲戒免職処分となりましたが、その後の刑事手続きでは「子供たちの証言以外に客観的な証拠がない」などとしてすべて不起訴処分となりました。

  不起訴の通知書
  強制わいせつ事件(事件番号 令和3年日、不起訴処分としたので通知します

  幼い子供たちは、繰り返された性加害に対し、自分自身が性被害にあっているかどうかも理解できず、具体的な被害や日時の特定が困難だったことが原因の一つだったのではないかと母親は感じています。教員は懲戒免職となった後、障害のある子供たちの支援施設に再就職していたといいます。子供の性被害が刑事裁判で有罪となるケースは氷山の一角だとして、DBSでは対象を限定的にせずに広く網をかけるべきだと訴えています。

  「被害にあっても、なかなか子供たちが身近な大人に話せなかったり、親が被害を公にしたくなかったり、被害届を出しても証拠が不十分とされてしまったり…。いくつものハードルがあって、有罪となるのは氷山の一角だと感じます。抜け穴がなく、どこででも安心して生活できる、そういう社会になってほしいです  日本版DBS 今後の見通しは…
  有識者会議は来月にも、意見をまとめる方針です。これを受け、こども家庭庁は内閣法制局との調整の下、法案を策定。
  次の国会への提出を視野に入れているということで、早ければ秋の臨時国会にも提出される見通しです。子供を性犯罪から守るため、社会としてどのような制度を求めるのか。制度化への議論が深まる日本版DBSについて、ご自身の体験など情報をお寄せください


2023.04.26-東京新聞-https://www.tokyo-np.co.jp/article/246285
薬悪用の性犯罪早期認知へ 警視庁が簡易鑑定キット

  睡眠導入剤など「デートレイプドラッグ(DRD)」と呼ばれる薬物を使った性犯罪を根絶しようと、警視庁は相談に来た人が薬物を使われたかどうかをその場で簡易鑑定できるキットを、全国で初めて開発した。性犯罪捜査を担当する女性警部は「事件性を早期に見極め、第2、第3の被害を防ぎたい」と話す。

  捜査1課によると、検査キットの名称は「D1D plus」。キットの特殊な用紙に尿をかけて数分待つと、線の出方で体内のDRDの有無が分かる。捜査1課がDRDを断ち切るとの思いを込め、略称の真ん中に「1」を差し込んだ。
  DRDを用いた性犯罪はここ数年、都内で毎年20件前後起きている飲食物に混ぜられて意識や記憶を失い被害に遭う人が多いが、従来の本鑑定では判定が出るまで1カ月ほどかかるケースも。この間、相談者が「酒を飲み過ぎたせいではないか」と自分を責め、捜査協力が得られなくなることも多々あったという。


2023.03.09-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20230309-64447HNSP5PJDP67CC4COANGFY/
児童ポルノ摘発10代が4割 SNS影響、警察庁統計

  令和4年に全国の警察が児童ポルノ事件で摘発したのは前年に比べ64人増の2053人で、このうち10代が905人と44・1%を占めることが9日、警察庁の統計(確定値)で分かった。10代の割合は元年以降、4割超で推移し、平成25年の22・7%と比べ約2倍となっている。905人の6割が高校生だった。

  警察庁の担当者は「実態として10代が児童ポルノの被害者にも容疑者にもなっている」と指摘。スマートフォンや交流サイト(SNS)の普及の影響とみられ、適切な利用を促す広報啓発活動を進めるとしている。
  摘発された児童ポルノ事件は前年比66件増の3035件。被害に遭った18歳未満の児童は29人増の1487人で、中高生が約8割を占めた。被害状況別では、だまされたり、脅されたりして、自分で撮影した裸の画像をSNSなどで送信させられるケースが約4割を占めた。


2023.02.24-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230224/k10013989921000.html
刑法「強制性交罪」を「不同意性交罪」へ変更する案 法務省

  性犯罪の実態にあわせた刑法改正案で、「強制性交罪」について、被害者が「同意しない意思」を表わすことが難しい場合には罪になり得ることが明確にされる中、罪名を「不同意性交罪」に変更する案が法務省から示されました

  現在の刑法では、強制性交などの罪は「暴行や脅迫」を用いることなどが構成要件になっていますが、被害者側は、「暴行や脅迫」がなくても恐怖で体が硬直してしまうなどの実態があるとして、見直しを求めていました。
  今回の改正案では、罪の構成要件として、
    「暴行や脅迫」のほか、
    「アルコールや薬物の摂取」
    「恐怖・驚がくさせる」など、
  8つの行為を初めて条文で具体的に列挙し、こうした行為で被害者が「同意しない意思」を表すことを難しい状態にさせ、性交などをすることとしています。
  24日に開かれた自民党の法務部会では、法務省が、この罪の罪名について「不同意性交罪」に変更する案を示しました。
  部会のあと、宮崎法務部会長は「被害者側の要望を踏まえたもので、社会全体に不同意な性的行為はしてはいけないというメッセージ性を持つと思う」と述べました。


2023.02.03-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/special/jiken_kisha/shougen/shougen58-2/
密室で抵抗できなかった 性犯罪 立証の壁
(京都放送局記者中村りお・・・2020年入局・・・障害者福祉や性犯罪の問題を中心に取材

  「やめてくださいと言おうと思いました。でも恐怖心が強くなり、抵抗できませんでした」
  アロママッサージ店の経営者に、わいせつな行為をされたと被害を訴えた女性。しかし経営者は、当初、罪に問われませんでした。同意があると思い込んでいたと主張された場合、その主張を覆すことが難しいと検察から説明されたのです。女性は怖くて声が出せなかっただけなのに。
(京都放送局記者 中村りお)
  (※この記事では性被害の実態を広く伝えるため、被害の詳細について触れています。フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください。)
恐怖で体こわばる
  京都市に住む女性です。初めて訪れた店で性被害を受けたと訴え続けてきました。女性の証言をもとに事件の経緯を振り返ります。
  2018年1月、女性は美容関係の人気アプリで、さまざまな資格を取得しているという記載があり、口コミの評価も高かったアロママッサージ店を見つけて予約しました。
  店を訪れたのは夜。複数のスタッフがいると思って入店したところ、店内にいたのは経営者1人だけだったといいます。密室で2人きりという状況に不安を感じましたが、いきなり帰ることもできず、マッサージを受けることにしました。
  違和感を覚えたのは、マッサージの終盤。徐々に手が下着の中に入ってきて、胸を触られているように感じました。「自分の勘違いかもしれない」
  当初はそう思いましたが、無言のまま行為はエスカレートしていき、女性は恐怖と混乱で声が出せなくなったといいます。体はこわばり、できたのは耐え続けることだけだったと振り返ります。
女性
  「最初はやめてくださいと言おうと思いましたが、部屋は密室でほかに誰もいない状態でした。大声を出して、首を絞められたらどうしよう、殺されたらどうしようと恐怖心が強くなり、抵抗できませんでした」
被害届を提出 検察は
  女性は店を出たあとすぐに友人に相談し、翌日、警察に被害届を出しました。警察は女性に事情を聴くなどし、2019年6月、この店の53歳(逮捕時点)の経営者を準強制わいせつの疑いで逮捕しました。調べに対し当時、「女性に拒絶されなかったから続けた」と供述したということです。
  その後、女性は検察からの聴き取りで、想像もしていなかったことを告げられます。
  経営者は行為の一部始終を盗撮していて、警察は動画を押収していました。その動画を見た検察官は、動画の中の女性には性的快感を覚えたと受け取られかねないような反応が見られるというのです。
  検察官は、女性が目立って抵抗をしておらず、相手が行為に同意していると思い込んでいたと主張すれば、無罪になる可能性があると説明したということです。2019年9月、検察は経営者を嫌疑不十分で不起訴にしました。
女性
  「抵抗して、例えば殴られたり傷つけられたりすれば、やっと性犯罪だと認めてもらえるのだろうかと思いました。私は被害者ではないのかと、怒りと絶望でいっぱいになりました」。女性はその後、不起訴処分を不服として検察審査会に申し立てました。
  検察審査会は、知らない男性と密室にいる状況で、すべての女性が抵抗や拒否ができるはずはなく、女性が同意していないことは明らかだとして不起訴は不当だと議決。これを受けて検察は再捜査し、2021年6月、一転して経営者を準強制わいせつの罪で起訴しました。
  女性が警察に被害の相談をしてから3年半近くがたっていました。
被告は無罪主張 裁判所の判断は
  ようやく開かれた裁判の初公判。被告側は胸を触るなどの性的な行為については認めました。一方で「女性には受け入れていたとみられる態度がみられ、同意があったと考える」として、無罪を主張しました。
  被告人質問では、同様の行為をほかの女性客にも繰り返していたと発言。その数はのべおよそ100人で、嫌がっていたかどうかについて、考えたことはなかったと主張しました。
  嫌がられたことはありませんでしたか?・・・明確にはありませんでした。みな満足して帰っていきました。
  拒否を言い出せない可能性や本当は嫌かもしれないと考えたことはありますか?・・・ありません
  検察は「女性が同意したことはなく、抵抗しないと見るや性的部位を触った卑劣な行為だ」と述べ、懲役3年を求刑
  一方、被告は審理の最後に「抵抗できるはずなのに抵抗していないのは、望んでいたという明らかな証拠です。女性は一夜限りの恋を楽しんでいた事実を隠し、うその被害届を提出した」と話し、改めて無罪を主張しました
  2022年9月の判決。
  京都地方裁判所は被告に懲役2年の実刑を言い渡しました
川上宏 裁判長
  「女性が性的快感を覚えたような反応を示したとしても、刺激で生理的な反応として生じてしまうことも十分考えられる。女性は他人には話しづらい性被害を知人や警察に申告をしていることなどから、同意していたとは認められない性的サービスの提供を何らうかがわせていない店舗を初めて訪れ、初対面の被告と2人きりの状況でわいせつな行為を受け、困惑や恐怖心などによって抵抗が困難な状態になった。そうなったことを被告が認識していたことは明らかだ」

  判決を受けて被告はその日のうちに控訴しました。一方、女性は涙を流しながら判決までの4年半を振り返りました。
  「すごく長くて大変でした。4年半の間、事件のことを忘れることができませんでしたが、今回の判決で気持ちも落ち着き、一区切りできたと思います。不起訴のままだったら、この事件がなかったことにされて明るみにならず、まだまだ被害者が増えていたかもしれません。訴えてきたことは無駄ではなかったと感じています
なぜ当初 “なかったこと”に
  実刑判決が言い渡された事件が、なぜ当初は不起訴という“なかったこと”にされたのか。
  刑法が専門で、性犯罪に詳しい立命館大学法学部の嘉門優教授は、背景に刑法の条文の解釈の難しさがあると指摘します。
  嘉門教授が特にその難しさを指摘するのが「抗拒不能」という言葉です。
  「抗拒不能」は被害者の抵抗が著しく困難な状態という意味です。準強制性交や準強制わいせつは、抗拒不能心神喪失でなければ罪は成立しないと解釈されています。
  しかし、嘉門教授によると被害者がどのような心理状態に陥った場合に抗拒不能と認められるのか、その判断は非常に難しく、明確な基準もないということです。各地の裁判でもこの解釈をめぐって判断が分かれ、無罪判決が出た例もあります。
  このため法務省の法制審議会の部会では、あいまいだった解釈をより明確にしようと、専門家の意見をもとに、法律の改正に向けた議論が進められています。
  これまでに公表された試案では強制性交準強制性交強制わいせつ準強制わいせつの4つの罪を構成する要件について、具体的に次の8つの行為が示されました。
  (1)「暴行や脅迫を用いること」・・・(2)「心身に障害を生じさせること」・・・(3)「アルコールや薬物を摂取させること」・・・(4)「睡眠、そのほか意識が明瞭でない状態にすること」・・・(5)「拒絶するいとまを与えないこと」・・・(6)「予想と異なる事態に直面させ、恐怖させたり驚がくさせたりすること」・・・(7)「虐待に起因する心理的反応を生じさせること」・・・(8)「経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること」
  この8つの要件に照らせば、今回の京都の事件は(6)「予想と異なる事態に直面させ、恐怖させたり驚がくさせたりすること」に該当する可能性があります。
立命館大学法学部 嘉門優教授
  「要件が列挙されることで、こういった状態での行為は性犯罪なのだという認識が広がり、処罰に値する事件に対して正しい対応がなされると期待しています。現状では、被害者が事情聴取で『なぜ抵抗しなかったのか』『抵抗できなかったのか』と問い詰められるという問題があると指摘されています。条文が変わればそのような事態はなくなり、列挙された状態に追い込まれた被害者は性行為には同意していたわけはないとされ、門前払いといった事態は避けられるようになると思います
  一方で、えん罪事件を防ぐ観点などから「処罰対象が広がるのではないか」「処罰に値しないものが含まれる可能性がある」といった指摘も部会の一部の委員から出ています。
  国はこうした議論をもとに、法改正に向けた検討を進めることにしています。
“門前払い”や泣き寝入り 防ぐために
  性被害を訴え、判決まで4年半かかった女性。この法改正の動きに期待を寄せています。
女性
  「最初に不起訴とされたとき、検察官から『今の法律では』という言葉がたくさん出ました。ほかにも私のように門前払いされ、泣き寝入りしてる人がいるのではないかと思います。加害者側が処罰されなければ性犯罪は繰り返されます。早く法律を変えて声を上げられない被害者を救ってほしいです」
取材後記
  私(記者)は性被害は絶対にあってはならないという思いで、これまで事件の取材を続けてきました。女性は「絶対に泣き寝入りはしたくない」と強い意志で何度も取材に応じてくれましたが、裁判の終盤にさしかかったころ、疲れた顔で「泣き寝入りする人の気持ちが分かります」と口にしました。
  女性はこの4年半、警察署や検察、そして裁判所に足を運び、何度も被害の内容を詳しく語り、盗撮された動画も多くの人に見られました。その悔しさや悲しみ、憤りは計り知れません。今回の取材を通じて、これまでどれだけ多くの被害者が泣き寝入りしてきたのかを想像すると、一刻も早く被害の実態に即した対応をとる必要があると思いました。
京都放送局記者中村りお・・・2020年入局・・・障害者福祉や性犯罪の問題を中心に取材



2022.10.30-朝日新聞-https://www.asahi.com/articles/DA3S15460074.html
(フォーラム)子どもへの性暴力 反響編
(編集委員・大久保真紀・島崎周・塩入彩)(岩田千亜紀・法政大助教)

  障害のある子どもを性暴力から守るためには――。「子どもへの性暴力」第7部で障害のある子どもの被害について取り上げ、ご意見・感想を募ったところ、被害者家族の方たちから体験が寄せられました。何ができるのかをみなさんと一緒に考えたいと思います。
■障害ある娘が訴え、施設で狙われた
  「司法面接というものがあるんだ」。50代の男性は、8月18日の朝刊に掲載された記事をわらにもすがる思いで読んだ。重い知的障害のある中学生の娘が、放課後デイサービスで男性指導員に下着の中に手を入れられ、性器を触られた、と被害を訴えたことがあるからだ。
  記事には、被害にあった障害のある子どもが、警察、検察、児童相談所(児相)が共同で行う「司法面接」を受けたという内容が書かれていた。司法面接は、何回も被害者に話を聞くことを避け、できるだけ正確な情報をできるだけ負担なく聞き取るための方法だ。
  娘にもこうした対応が必要なのでは、と思い、児相に連絡してみた。児相職員からは、長女への対応についての助言をもらった。長女の思考能力は5歳程度と診断されている。娘が被害を訴えたのは、放課後デイサービスの様子を妻が聞いたときだった。娘はおもむろに「こうされた」と言いながら、片手を股の間に持って行き、触るしぐさをした。
  施設に連絡をとり、退所を申し入れたが、該当する男性指導員は否認した。施設からは「本人が否定している以上、会社として動けない」と言われ、男性は言葉を失った。
  その後、長女は「胸が痛い」「胸に何かがいる」と言うようになり、「夢に指導員が出てきた。またパンツの中に手を突っ込まれた」と泣きながら訴えることもある。
  男性は妻とともに暗澹(あんたん)たる思いでいる。「娘は作り話ができるような子ではない。加害者は抵抗できないことを狙ってやっているのではないか。極めて悪質だ。許せない」。指導員がその後も働き続けていることに、第二、第三の被害者が出てこないかと気をもんでいる
  男性は言う。「加害者がきちんと罰せられる仕組みが必要だ。被害を受けた子どものケア態勢も不可欠。足りないことばかりだと、被害に遭って初めて気づいた」
(編集委員・大久保真紀)
■「泣き寝入りしか」立件の壁に憤り
  「これは娘のケースと全く一緒ではないか」
  記事では、障害のある子どもの被害が発覚しても障害の特性から立件や立証が難しいことを取り上げた。東京都の女性(55)は、読みながら長女(29)に起こった出来事を思い出し、もどかしさを感じていた。
  娘には軽度の知的障害と自閉症がある。特別支援学校の高等部を卒業後、福祉作業所に通っていた。
  2017年9月。夕食を食べた後に居間でテレビを見ていると、福祉施設での障害者への虐待のニュースが流れていた。気になって、何となしに娘にたずねた。「職員さんに変なことされてないよね?」。すると、思わぬ答えが返ってきた。「変なことされたことある」
  高齢の男性職員に体を触られたという。「どこ触られたの?」と聞くと、「お尻とかおっぱいとか、股とか。女子更衣室で」と答えた。
  警察、行政の虐待防止センター、弁護士などに相談。聞き取りの中で、娘は、商業施設の駐車場にとめた車の中で職員の陰部を股に入れられたと告白した。
  一方、施設側からは「職員から聴取をした結果、主張しているような事実は存在しない」とする報告書が届いた。女性は1年以上、施設について調べたり、娘に何度も話を聞いて、資料を作ったりしてきた。しかし、被害を受けた日時などは特定できず、具体的な証拠がないとして、警察や弁護士から「立件は難しい」と言われた。「障害者は性暴力に遭っても、泣き寝入りするしかないことに納得がいかないし、自分たちの中では終われない」
  今は娘を別の施設に通わせている。それでも、万が一を考えて、「嫌なことはなかった?」と女性はこまめに聞くようにしている。「早期に気がつくためにも、子どもとの普段からのコミュニケーションを大事にしている」。障害者の性被害について相談できる窓口を増やしてほしい。そう願っている。
(島崎周)
■次女も言葉で訴えられない
  千葉市に住む山本里奈さん(39)は、7月に配信された「信頼していた施設で性暴力に遭った娘 重度障害、つけこまれた特性」の記事を見て、ドキッとした。知的障害のある次女(5)のことが頭をよぎったからだ。
  記事には、当時12歳だった重度障害のある少女が、ショートステイ先の職員から性暴力を受けたことが書かれていた。「12歳が狙われたことに驚きました。被害に遭うのは、もっと年齢が上の人だと思っていた」
  娘も、被害を言葉で訴えることはできず、「将来、同じ被害を受けてもおかしくない」と感じた。同時に、被害を申告しにくい障害のある子どもへの加害は発覚しづらく、「いま明らかになっているのは、氷山の一角なのだろう」と思った。
  現在、娘は児童発達支援施設に通っている。以前は送迎時に職員2人がついていたが、最近は1人だけの時もあり、利用者と職員が2人きりになる場面も出てくる。施設の規約を見ても、送迎時の職員態勢に関する決まりはなかった。
  小学校入学後を考え、近所の放課後デイサービスについても調べている。各施設のホームページには「職員募集」という言葉が目立つ。「どこも人手が足りない。特別な知識がなくても、誰でも職員になれてしまうのではないか」と感じる。
  だからこそ、国がしっかりと、障害のある子どもが性暴力の被害に遭わないための環境をつくる必要があると感じている。「職員と2人きりにならないよう、障害児が通う施設への基準を厳格にし、障害者への性犯罪はより厳しく罰せられる刑法にしてほしい」。被害を防ぐための、最低限の仕組みの整備を――と願っている。
(塩入彩)
■把握されぬ実態、欠かせぬ
人権教育
  障害のある子どもは、そうでない子に比べて、性暴力被害にあう割合が約3倍にもなる。岩田千亜紀・法政大学助教(社会福祉学)によると、欧米などの調査では、そんな結果が出ているそうです。一方、日本では、障害のある子どもの性被害の実態は十分に把握されていません。
  知的障害や発達障害、精神障害がある場合、被害を被害だと認識しにくい上、起こったことをうまく伝えられないことも多い。そうした点につけ込んで、障害を知りうる立場の人物が加害に及ぶ事件が相次いでいます。連載や読者の体験で共通するのは、障害のある子どもが必死に訴えても、相手側が否定をすると、刑事責任を問うことが非常に難しいという現実です。
  海外では「障害に乗じた性犯罪」「障害を知りうる立場に乗じた性犯罪」が規定されている国も少なくありません。日本では刑法の性犯罪規定の見直しを議論している法制審議会が24日に改正試案をまとめ、心身の障害による拒絶困難であることに乗じた性交やわいせつ行為は犯罪とする案が示されたところです。しかし、職員など障害を知る立場の人からの行為については明確な規定がされておらず、支援団体からは規定の創設を求める声があがっています。
  また9月には、「障害者権利条約」の日本の取り組み状況についての国連委員会による対面審査を受けて、「包括的性教育の推進」が勧告されました。子どもを守るためには、人権教育としての性教育も欠かせません。
  「子どもへの性暴力」は、タブー視されてきた子どもの性被害を正面から取り上げる企画で、約3年前から続けています。性暴力がときに命を奪い、人生を壊すほどの影響があることを認識し、性暴力をなくす。万が一被害に遭ったとしても、影響を最小限にする。そのために何ができるのかを、読者のみなさんと考えていきたいと思います。
  今後も、男子の被害、加害者、回復やケア、教育などについて取り上げる予定です。
(編集委員・大久保真紀)
■障害者への性犯罪に関する各国の規定・・・
【韓国】
  障害者施設の職員が、保護や監督の対象である障害者に強姦(ごうかん)やわいせつ行為をした場合、法定刑が1.5倍まで重くなる
【フランス】
  身体や精神に障害などがあり、著しく脆弱(ぜいじゃく)な状態にあることが明白な人への強姦罪は、通常懲役「15年以下」が「20年以下」に加重される
【スウェーデン】
  障害者については「特に脆弱な状態」にあるとされ、性的暴行から逃れる可能性が制限されていればレイプ罪が成立する
【ドイツ】
  被害者が身体的・精神的状態により反対意思を形成・表明することが著しく限定されている場合は、同意がない限り、性犯罪が成立する
【イギリス】
  精神の障害が原因で拒絶できない人に対する性的行為を性犯罪として規定。法定刑の上限は終身刑
【日本】
  障害者への性犯罪に関する規定はない。心神喪失・抗拒不能(抵抗が著しく困難)に乗じた場合、準強制性交罪や準強制わいせつ罪が成立する
(岩田千亜紀・法政大助教の論文などから)
■性犯罪の不起訴事件調査(2018年度、法務省調べ)
  検察が「嫌疑不十分」として不起訴にした性犯罪 548件 (少なくとも61件で被害者に障害あり)
 不起訴事件の、障害がある被害者60人の供述の信用性の主な内訳(複数該当あり)
   客観証拠などと整合しない 17人 ・ 虚偽供述や記憶変容の可能性がある 11人 ・ 看過しがたい変遷がある 10人
■内閣府による性暴力調査
  2017年8月~18年3月に、性暴力に関する相談支援を行っている民間団体14団体から協力を得て、30歳未満のときに受けた性暴力268件について調べた。障害の有無についての回答があったのは127件で、そのうち「障害あり」と見受けられる事例は70件だった。内訳は、発達障害16件、精神障害19件、軽度知的障害9件、解離性障害6件、知的障害5件、パーソナリティー障害5件、双極性障害4件などだった。

性暴力被害にあったときの相談先の一覧を朝日新聞デジタルに掲載しています=QRコード。「子どもへの性暴力」企画へのご意見・感想はseibouryoku@asahi.comへお願いします。
アンケート「『移民受け入れ国』としての日本、どう考えますか?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。


2022.10.24-Yahoo!Japanニュース(産経新聞)-https://news.yahoo.co.jp/articles/b7bfbc504cb8965535b86e6d959a53bed283bc5c
「盗撮罪」「グルーミング罪」も新設、法制審試案- (荒船清太)

  24日に開かれた性犯罪規定の見直しを検討している法相の諮問機関「法制審議会」の担当部会では、盗撮を対象とする撮影罪やグルーミング罪を新設する事務局試案も提示された。

  社会問題化している新たな犯罪類型の摘発にもつなげたい考えだ。
  グルーミングはもともと動物の毛繕いを意味するが、性犯罪の文脈では、親切を装って未成年者を手なずける行為を指す。
  最近は交流サイト(SNS)を通じ、未成年者が大人に誘い出された後に性被害に遭う事例が後を絶たず被害の前段となるグルーミングの犯罪化が子供の支援団体などから求められていた
  部会の試案では、16歳未満に対し、脅かしたり、噓を言ったり、誘惑したりして面会を要求する行為拒否されても何度も面会を要求する行為-などに1年以下の拘禁刑(懲役刑と禁錮刑を一元化した刑)もしくは50万円以下の罰金を科するとしている。
  一方、都道府県ごとの迷惑防止条例で禁じられてきた盗撮行為を撮影罪として新たに規定したのは、難航していた航空機内などでの摘発を容易にするためだ。 航空機内では、盗撮があった時点で直下にある都道府県の条例が適用されるが、猛スピードで移動するため、適用される条例を特定するのが困難で、取り締まりに支障が生じていた。
(荒船清太)



2022.10.24- 秋田魁新聞-https://www.sakigake.jp/news/article/20221024CO0041/
性犯罪「拒絶困難」が処罰要件に 不同意含めず、被害者反発

  刑法の性犯罪規定の在り方を検討する法制審議会(法相の諮問機関)の部会が24日開かれ、法務省が見直しの試案を示した。強制性交罪などで処罰できる要件に関し、被害者を「拒絶困難」な状態にさせた場合とし、現行法で定める「暴行・脅迫」のほか、上司・部下や教諭・生徒といった関係性の利用など計8項目の行為・状態を例示した。要件を具体的にし、明確化を図る狙いがある。

  被害者団体は、不同意の性行為を広く処罰できるよう強く求めていたが、試案では採用されなかった。被害者側の反発は必至だ。
  「性交同意年齢」は現行の13歳から16歳に引き上げ、16歳未満への性行為は罰する
  内閣府は、性被害に関する相談窓口「ワンストップ支援センター」を設け、医療や心理面、法的な支援に当たっている。
  全国共通で短縮ダイヤル「#8891」。警察の性被害相談窓口は、全国共通で短縮ダイヤル「#8103」


2022.02.23-東洋経済-https://toyokeizai.net/articles/-/599807
子どもへの性加害、親が意外と知らない怖い実態
「優しいお兄さん」と思っていたら裏切られる事も

(1)
  大学3年生の男性(20歳)が6月、8歳の女児に対する強制わいせつ致傷の疑いで逮捕された。子どもへの性犯罪は後を絶たず、保護者や学校は被害防止に神経をとがらせる。しかし専門家の話からは、加害者が親たちの想像を超えて周到、かつ計画的に子どもたちに近づいている実態が浮かび上がる。また加害者の中にはかつての「被害者」も多数含まれているなど、社会的にも根深い問題が潜んでいるという。
周到に準備 言葉巧みに
  話を聞いたのは、小児性犯罪の再犯防止プログラムに関わる斉藤章佳・大船榎本クリニック精神保健福祉部長。斉藤氏は性犯罪者をはじめとする加害者臨床が専門で、著書に『「小児性愛」という病―それは、愛ではない』(ブックマン社)がある。2017年6月に「小児性愛障害」患者に特化した治療プログラムを日本で初めて立ち上げ、2022年6月現在、事件を起こした加害者、200人以上が受講した。
  親の多くは子どもへの犯罪というと、人気のない場所で、怪しげな男性が逃げる子どもに襲いかかる……といった、極めて暴力的な犯行をイメージするのではないか。しかし斉藤氏は「多くの場合、加害者は『優しいお兄さん』として近づき、子どもの警戒心を解いて継続的な関係を築こうとします」と話す。
  初対面の子なら、例えば体を使った遊びの中で、偶然を装って体を触る。何度か接触して、子どもたちの顔なじみになることも多い。そのうえでターゲットを定め、人気のない場所に誘導して要求に応じざるをえない状況へ、言葉巧みに子どもを追い込む。そのうえで口封じもする。
  「加害者の中には、登下校の時間や通学路、親の監視の目が緩みがちな運動会などの行事日程を詳しく把握し、周到に準備する人も珍しくありません。ゲーム感覚で計画し、成功することで達成感を得るパターンもあります」
SNSを使って子どもに取り入る「オンライングルーミング」もある
  「家族や友人との関係がうまくいかず、『誰も自分をわかってくれない』と思っているような子に、加害者はカウンセラーさながらに親身に寄り添います」
(2)
  そのうえで実際に会って「君が好きだ」などと言い、性的な行為を求める。子どもの側も加害者と「恋愛」していると信じ込み、被害者意識を持てないこともしばしばだ。「実際は対等な恋愛関係が成立しているのではなく、大人が子どもを手なずけ、巧みに洗脳しているだけ。被害者は成長とともに自分が何をされたかに気づき、心に深い傷を負いかねません」と、斉藤氏は語気を強めた。
死角に行かない、子どもの話を聞く 親にできる予防策
  子どもに防犯ブザーを持たせる、警察からメールで不審者情報を受け取るなど、被害防止のための対策を取っている親も多いだろう。しかし巧妙な加害者たちから子どもを守るために、やるべきことは他にもたくさんある。
  斉藤氏によると、まずは近隣にある公衆トイレなど、『死角』になりやすい場所を子どもと共有し、行かないようにする。お尻など水着で隠れる部分は「プライベートゾーン」で、他人が触ってはいけないと教えることも、無闇に体に触る「怪しい大人」を見分けるのに役立つ。
  加害者は、子どもが騒ぐと犯罪の発覚を恐れて、離れていくことが多いという。普段から大声を上げたり、防犯ベルを鳴らしたりする練習をしておくことも1つの手だろう。さらに普段からなるべく子どもの話を聞くようにして、加害者を付け入らせないこと。万が一子どもが被害に遭った時、事実を隠さず打ち明けてもらうためにも重要だ。
  また斉藤氏は「男の子の親の多くは、わが子が性被害に遭うかもしれないという認識が薄い。女の子と同じように警戒を」と訴える。男児は男性トイレを利用するなど、男性加害者にとって女児よりも狙いやすい。性別にかかわらずどんな子でも被害に遭う可能性があることを、肝に銘じておきたい。
(3)
  残念なことだが、加害者の中には子どもに関わる職業に就いているケースもある。「仕事熱心で、子どもたちや保護者に慕われる人も多い」と、斉藤氏。過度に疑う必要はないが「あんないい人が、性犯罪などするはずはない」という油断は禁物と言えそうだ。
被害者が加害者に転じる
  日本の刑法に定められた性交同意年齢は、13歳と諸外国に比べ極めて低いが、とにかく13歳未満の子どもとの性交渉は、同意の有無にかかわらず罪に問われる。しかし加害者は口々に「でも斉藤先生、人を好きになるのは自由でしょう」「好きになった子が、たまたま10歳だっただけです」などと「純愛」を主張するという。
  「自分の行為は『純愛』だ、という認識のゆがみを正すのは非常に難しく、時間もかかる。このため治療ではまず、行動を変えることに焦点を当てます」と、斉藤氏は説明する。
  加害者には、公園など子どもの集まる場所に行かない、子どもが近づいたら距離を取るなど具体的な「回避行動」を身につけてもらう。子どもと接触しない期間が長くなり「純愛幻想」が少し遠ざかったところで、考え方の歪みに取り組むほうが、認識も修正されやすいという。そのうえで最終段階として、加害に至った理由を自分で説明し、被害者への謝罪と贖罪に向き合ってもらう。
  「小児性犯罪者の特徴は、自らの欲望に対する衝動を制御するのが難しいこと。言語化は衝動性とは真逆の行為であり、自分の言葉で加害について繰り返し語ることが、衝動的な行動を抑えるのです」
  斉藤氏はまた、小児性犯罪者は深刻ないじめや親からの虐待などを経験し「自分の思いを言語化する力を、奪われてきた人が少なくない」と指摘する。痴漢や盗撮など他の性犯罪に比べても、小児性犯罪の場合はこうした「逆境体験」を持つ人が顕著に多いという。かつてモノ扱いされた人が、今後は自分の番だとばかりに弱い子どもたちをモノ扱いする、悪循環が起きているのだ。
(4)
  ある男性は、自分も小6まで6年間、同じ団地の「お兄さん」に性加害を受けた経験があり、同じように男の子を襲った。斉藤氏は言う。
  「もし男性が誰かに被害を打ち明けて適切なケアを受けていたら、次の被害者は生まれなかったかもしれない。被害と加害は地続きであり、加害者臨床の目的は再犯防止だけでなく、負の連鎖を断ち切ることにもあるのです」
再犯防止のカギは孤独の解消:ジェンダーバイアスも背景に
  斉藤氏によると、性加害者にとって再犯の最大のトリガーは「孤独」だ。「社会から排除されて自尊感情が傷ついた時、最も手っ取り早い回復の方法が加害行為だからです」
  しかし「社会から最も強いバッシングを受ける」(斉藤氏)のもまた、子どもへの性加害者。このため小児性愛者は、加害者臨床の中で最もドロップアウトする割合が高いという。
  ただ治療を通じて、同じ問題を抱える仲間に出会うことで、何年も再犯せずに過ごす受講者も増えている。斉藤氏は「適切な治療を受ければ、加害者は必ず変われる」とも強調する。
  また斉藤氏は、男性は女性から敬われ、上に立つべきだという社会のジェンダーバイアスや、子どもを性的な対象と見なすことが許容されがちな文化の在りようも、加害につながっていると考える。日本は、多くの先進国が輸入や購入を禁じている「児童型ラブドール」を、合法で所有できる国でもある。
  「加害男性にとって、子どもは決して自分の存在を脅かさない『かわいい』存在であり、彼らを支配し生殺与奪の権利を握ることで『飼育欲』を満たしています。社会全体が男尊女卑的な価値観から脱することは、新たな加害者を作らないという面でも、よい影響をもたらすと思います」



2020.09.28-沖縄タイムス-https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/639083
社説-[性被害者「蔑視」発言]「心の傷」さらに深めた

  政府が性犯罪や性暴力への対策を強化する方針を決め被害者ケアにも力を入れようとしている中、事実であれば耳を疑うような発言だ。
  自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が党内の会議で、性暴力被害者の相談事業を巡り女性はいくらでもうそをつけますから」と述べたという。 杉田議員は否定しているが複数の出席者が認めている。会議では来年度予算の概算要求に関し、行政や民間が運営する性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」を全国で増設する方針などを内閣府が説明した。
  問題の発言は質疑の中で出た。杉田議員は、相談事業を民間委託ではなく警察が積極的に関与するよう主張し、被害の虚偽申告があるように受け取れる発言をしたという。「魂の殺人」とも言われる性暴力。被害の声を出しづらく、必死の思いで訴えても信じてもらえず孤立する当事者たちがいる
  「うそをつくという言葉は女性差別にとどまらず、苦しむ当事者をさらに傷つけるものだ。通底するのは、被害者に落ち度があったという偏見や、本気で抵抗すれば避けられたはずだという思い込み、いわゆる「レイプ神話」ではないか。

  内閣府の2017年の調査によると、男女約20人に1人が無理やり性交された経験を持ち、そのうち56・1%が誰にも相談していなかった。警察に連絡や相談した人はわずか3・7%だった。社会の無理解が被害者に沈黙を強いてきたのだ。

  杉田議員の言動は、これまでもたびたび問題視されてきた。
  2年前、性的少数者への行政支援を疑問視する論考を月刊誌に寄せ、「彼ら彼女らは子どもをつくらない、つまり『生産性がない』」との持論を展開した。 ジェンダーや「慰安婦」問題に関する研究について、ツイッターで「捏造」などと投稿され名誉を毀損(きそん)されたとして女性研究者4人に昨年提訴された。 性暴力被害を公表したジャーナリストの伊藤詩織さんを誹謗(ひぼう)中傷する投稿に、賛同を示したことで名誉を傷つけられたとして、伊藤さんから先月訴えられている。今回を含めて、杉田議員は取材にきちんと応じていない。記者会見を開いて自らの発言を説明し、疑問に答えるのが政治家として取るべき対応だ。自民党の同僚女性議員はどう感じているのか聞いてみたい。

  性暴力撲滅を訴える「フラワーデモ」の主催者は、謝罪と議員辞職を求める署名活動を始めた。デモを通し被害者が声を上げるようになり、社会にその思いを受け止める機運が出てきたのに後退しかねないからだ。
  発言の端緒となったワンストップ支援センターは、被害者を受け止める「駆け込み寺」の役割を果たすが、人材不足や財政的な課題も残る。被害者を勇気づけ、寄り添った支援の拡充こそが国会議員の仕事だ。


2020.09.03-Yahoo!Japanニュース-https://news.yahoo.co.jp/byline/haradatakayuki/20200903-00196413/
教師による性犯罪をどのように防ぐべきか
(原田隆之 -筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務、エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマ。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題、社会的「事件」に対する科学的な理解。)

教師による性暴力
  教師が児童生徒に対して性暴力を働くという犯罪は、卑劣という言葉では表現しきれないくらいのものがある。
  教師という立場を利用し、児童生徒との関係性や信頼感を逆手に取って、相手の人権や将来にまで残る心の傷のことなどを一顧だにせず、自らの欲望の赴くままに行動することなど、到底許されるものではない。
  こうした事件が続発していることを受けて、文部科学省は教育職員免許法(教免法)の改正を検討している。現行の規定では、わいせつ行為で教員免許を失っても、3年がたてば再取得が可能となるのであるが、いくら何でもそれは甘すぎる。再取得した免許で再び教壇に立ち、再び事件を起こしたというケースもある。
  先日、文科省が検討している改正案は3年の期間を5年に延長しようとするものであるとの報道があった。これに対し、多くの驚きや反発の声が上がっている。
性犯罪の再犯リスク
  私は10年以上にわたって、刑務所や精神科クリニックにおいて、性犯罪者に対する「治療プログラム」を実施している。
  まず、性犯罪の再犯率について犯罪白書などのデータを見てみると、性犯罪全体では5年間の性犯罪再犯率は十数%程度であるが、痴漢、盗撮が最も高く約30%、小児わいせつは約10%である。また、同種犯罪での前科が2回以上ある者に関しては、小児わいせつの再犯率は約85%まで跳ね上がる(ただし、サンプル数は13人と少ない)。犯罪統計には明るみに出ていない「暗数」はつきものなので、実態はもっと多い可能性が大きい。

  したがって、これら繰り返されやすい性犯罪に対しては、刑罰だけでは限界があり、刑罰に加えて治療を実施する必要があるとの考えから、われわれは「治療プログラム」を開発し、実施しているのである。
  よく誤解されるが、それは性犯罪を「病気」であるとみて、罪を軽くしようということが目的ではなく、刑罰に加えて治療を実施することによって、より効果的に再犯を防止することが目的である。
  一般に性犯罪(に限らず一般犯罪も)の再犯リスク要因には、以下の8つがあることが大規模な研究によって見出されている。
  それは、1)犯罪の前歴、2)不良交友、3)反社会的価値観、4)反社会的パーソナリティ、5)家族の問題、6)学業・仕事上の問題、7)薬物・アルコール使用、8)不健全な余暇活用、の8つであり、これらを総称して「セントラル・エイト」と呼ぶ。
  児童生徒に対して性暴力に及んだ教師の場合、このうち、1)犯罪の前歴、3)反社会的価値観、4)反社会的パーソナリティを満たしていることは明らかである。1)は言うまでもないが、3)に関しては、規範意識の低さ、信頼関係の悪用、犯罪を容認する態度などが考えられる。
  また、4)に関しては、共感性の欠如、攻撃性、衝動性などがあてはまるだろう。さらに、ほかのリスク要因に関しても、一人ひとりを詳しくアセスメントすることによって、明らかにすることができる。
小児性愛とその治療
  子どもに対する性的欲求を抱くことは、一種の性の逸脱と考えられており、精神障害の1つとして公式の診断マニュアルにも「小児性愛(ペドフィリア)」としてリストアップされている。しかし、それ自体がすぐに犯罪に直結するわけではない。小児性愛傾向のある者であっても、実行するかしないかは大きな違いがあり、実行にまで至る者のほうがはるかに少ない。そして、そちらがより「重症」であると言える。

  だとすると、セントラル・エイトを見ても、1)に挙げたように子どもに対する性犯罪の前歴があるということは、実行にまで至った「重症の小児性愛者」と言うことができる。 加えて、規範意識の欠如、共感性の欠如、衝動性など、そのほかのリスク要因が重なることによって、より危険性が増していくのである。 こうした人々の治療はどのようなことを行うかというと、「認知行動療法」という心理療法が主流である。そこでまず行うことは、再犯に結び付く「引き金」を徹底して避けるということである。
  ストレス、性的欲求不満、イライラなどが「引き金」になる者が多いが、言うまでもなく最大の「引き金」は、子どもとの接触である。現在クリニックで治療中の患者さんにも、学校や公園などを避けたルートで通勤する、児童・生徒の通学時間帯を避けて電車に乗る、などの方法を徹底している。
  ここでは便宜的に「小児性愛」として述べてきたが、それは相手が高校生だろうが、大学生だろうが同じである。同意のない相手に対し、あるいは性的自己決定力がまだ未熟で、十分な同意のできない相手に対して、関係性に付け込んで一方的な性的行為を行うことは、すべて同様の悪質さと心理的問題性(リスク要因)を有していると言える。
  このように、科学的に考えても、子どもに対する性犯罪を犯した「重度の小児性愛者」に、再度教員免許を与えて教壇に立たせるということは、わざわざ「引き金」に近づけることと同じで、きわめて危険であることは間違いない。
職業選択の自由
  もちろん、犯罪を真摯に反省し、二度と行わないと心から誓った者もいるだろう。しかし、これらの行為は、意志の力だけでは制御できないところに留意する必要がある。「引き金」が引かれたら、意志の力をはるかに上回る衝動に突き動かされてしまい、再犯に至るということが多いからだ。
  したがって、いくら反省して更生を誓ったとしても、わざわざ再犯リスクを高めるような選択肢を残すべきではないし、法の改正もその方向で行うべきである。言うまでもなく、それは子どもをみすみす危険に晒すことになるからだ。
  もちろん、人には職業選択の自由があるし、その自由は保障されるべきである。とはいえ、やはりリスクが残っているのであれば、被害者に与える大きなダメージを考慮して、その自由は制限されても仕方がない。どのような免許や職業においても、欠格事由は存在する。
  また、今ここに存在している人の自由を、まだ存在しない将来の被害者を想定して制限するのはおかしいという意見もあるだろう。犯罪の可能性があるということでその自由の制限をすることは、ある種の「保安処分」のような危険な兆候を感じ取る人もいるかもしれない。
  しかし、われわれが今、子どもに対する性犯罪を防止するためにできる最善の方法は、今のところ「再犯の防止」しかないのである。残念ながら、まだ一度も性犯罪に至っていない者を事前に見きわめて、犯行を防止するだけの知恵も技術もない。 だとすれば、こうしたリスクの高い者には再度教員免許を与えないという方法を取るしかないのである。
不当な差別は許されない
  性犯罪の前歴がある者全員を危険視して差別するのはよくないという意見も理解できる。ならば、全員を危険視しないために、性犯罪者の再犯リスクを測定するためのツールを活用して、再犯リスクの大きさを把握するという方法も検討できる。
  これはわれわれの研究グループが日本版を開発した「スタティック99」という質問紙であるが、わずか10項目の質問で、再犯リスクの大きさが判定でき、その予測精度は80%弱である。とはいえ、20%は外してしまうのだ。これは、PCR検査などでもよく指摘される「偽陰性」が出てしまうということだ(再犯をしないと予測したのに、再犯してしまったというケース)。
  したがって、これが現時点での科学の限界である。科学には100%がないのは当然のことであるが、だからと言ってそれを許容し、「1人や2人の被害者が出るのは仕方ない」とは絶対に言えない。とすると、やはり現時点では、性犯罪の前歴のある者はすべて免許の再取得はさせないという方法が、一番合理的な選択である。
  繰り返すがこれは、前歴のある者を色眼鏡で見て差別しているのではなく、その犯罪を実行したというその事実が、本人の心理的問題性と将来の犯罪リスクの大きさの証明となるからであり、5年やそこらで「治る」ようなものでもないからだ。また、仮に改善していたとしても、かつてと同じような状況で「引き金」に近づけることは、再犯リスクを高めるからだ。
  その一方で、本人の更生のためには、彼らを社会から排除するのではなく、社会の中に受け入れて治療や就労支援など、できる限りの支援をすべきである。教員の道は絶たれたとしても、更生の道は他にも数多く残されているはずであるし、そこで「不当な」差別があってはならない。


2020.07.31-iza(産経新聞)-https://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/200731/lif20073114110023-n1.html
見えない性被害…「逆らえない」教員の立場悪用 子供守る制度創設を
(1)
  小学5年の娘を持つ女性は今、苦しみの中にいる。今年に入り、娘が3年の頃、当時担任だった男性教諭から性暴力被害を受けていたことを知ったからだ。
  休み時間や放課後になると、教室で男性教諭に呼ばれ、この教諭の机のそばで下半身を触られていた。卑劣な行為は他の児童たちもいる中で行われていたといい、回数は「数えられない」と娘は説明した。他の児童たちも被害に遭っているのではないか、との訴えもあった。

  男性教諭は年度途中に突然休職(後に懲戒免職)になったが、理由が公表されることはなく、娘の被害を知ったのは同級生の母親からの情報提供だった。女性は「学校側は被害に遭った子供たちがいることを疑いながら保護者への報告や説明を一切せず、個別対応で済ませてきた」と学校側を非難する。
  信じがたいことは他にもあった。学校側の説明では、この男性教諭は娘の担任をする前の年度にも、受け持ったクラスの女児の体を触る不適切な行為があったとして問題視されていた。だが学校側は「指導力のある教員」などと評価しており、翌年度も担当する学年を変えて、担任を続けさせていた。

  「被害当時、娘は自分がされていることの意味が分からず、抵抗することもできなかった。ましてや加害者が担任の先生。言うことに従うのが正しいとされる人からの被害の場合、逆らうのは非常に難しい。教諭はそのことを十分に分かった上で、巧妙にわいせつ行為を重ねていた」。女性は憤りを隠さない。
(2)
  保育の現場でも性暴力被害は深刻だ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で今春、長女(5)の通っていた保育所が休業になったという母親の場合、仕事を続けるため、ベビーシッターの男性を自宅に招き入れたのが悲劇の始まりだった。
  男性に依頼したのは計8回。毎回、業務中の長女たちの様子をにこやかに報告してくれた。ところが、仲介業者から突如、「男性は今後、サポートできなくなった」と告げられた。理由は「個人情報」とされ、教えてもらえなかった。

  長女は残念がるだろうと思っていたが、男性が来られなくなったことを伝えると安堵(あんど)した様子を見せた。嫌な予感を覚え、詳しく聞いてみると、公園のトイレなどで下半身を触られていたと打ち明けられた。
  男性は後に強制わいせつ容疑で警察に逮捕されたが、「娘の心の傷はいかばかりか」と母親はおもんぱかる。「大人になるにつれ、自分がされた行為の意味が分かってくる。思春期になったときに精神的な問題を抱えたらと思うと恐ろしい気持ちでいっぱい」と苦しい胸の内を明かした。

  保育・教育現場で発生する性犯罪は、表面化しづらい。特に幼い子供の場合、周囲にうまく状況を説明できなかったり、わいせつ行為を行う大人から“口封じ”をされたりして事態の発覚が遅れ、被害が拡大する恐れも指摘される。
(3)
  加害者への罰則の軽さも、性犯罪が減らない一因とされる。子供へのわいせつ行為をした教員は懲戒免職となれば免許を失うが、3年後には再取得が可能。保育士は禁錮以上の刑を受けた場合、都道府県が登録を取り消すが、刑の終了から2年経過すれば再登録できる。

  ベビーシッターは法的な資格がなく、研修受講などの要件を満たせば、都道府県への届け出で仕事を得られる。派遣業者の中には採用時、シッター希望者に賞罰の有無の記入を求めたり、面談を複数人で行ったりするなど、性犯罪のリスク低減に努める動きもあるが、未然防止の対策には限界もある。
  こうした中、子育て支援に取り組むNPO法人「フローレンス」(東京)などは、英国の制度を参考に、子供とかかわる仕事に就く際は公的機関が発行した「無犯罪証明書」の提出を義務付ける制度の創設を行政側に求めている。

  同団体の駒崎弘樹代表理事は「国内では子供たちのための保育・教育現場があろうことか、性犯罪の温床になっている」と指摘。「性犯罪歴のある人を保育・教育現場に立ち入らせない仕組みを整えるはじめの一歩として、無犯罪証明書を取得できる仕組みの創設を求めたい」と強調する。(三宅陽子)

  教師や保育関係者の立場を悪用した子供へのわいせつ行為が後を絶たず、保護者らは「子供たちの安全を守れない」と悲痛な声を上げる。しばらく後で被害に気づき、精神的なダメージを引きずるケースも少なくない。表面化しづらい「見えない性被害」の脅威にさらされた保育・教育現場の実態と課題を探る。


2020.7.21-毎日新聞-https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20200701/pol/00m/010/002000c
性犯罪・性暴力の被害者が勇気を持ってあげた声を大切に
上川陽子・元法相

  2017年7月に改正刑法が施行され、これまで被害者を女性に限っていた「強姦(ごうかん)罪」が性別を問わない「強制性交等罪」となるなど大幅な改正が行われた。声をあげることさえ難しい性犯罪・性暴力の被害者があきらめることなく声をあげてきた活動のたまものだったと思う。一方で当時からさらなる改正を求める意見があり、施行後3年をめどに政府に検討を求める付則が設けられている。

  私が会長を務める自民党の司法制度調査会も継続的にこの問題に取り組んできて、施行後3年となる今年7月を前に提言をまとめ、政府の強化方針に反映させた。私は、被害者の方々にお会いした時に「あるべき姿まで一気にいくことは難しいが、絶対に諦めず、一つ一つ段階を踏んで成し遂げていきましょう」とお話をさせていただき、私自身もそういう思いでやってきた。
  性暴力に抗議するフラワーデモが広がり、勇気を持って声をあげる被害者の方が前に出てきた。社会全体も大きく変わってきた。親から子への長期的な性的虐待があることや、障がいを持つ方が施設内で被害に遭うというケースがあることも広く知られるようになり、問題の根深さや深刻さが認識されてきたと感じている。
被害者の立場に立って
  性犯罪に限ったことではないが、社会的に弱い立場に置かれている人が被害に遭う実態がある。記憶が十分ではない、あるいは供述をうまくできない場合がある。時間がたって供述内容が変わったりすると結果的に相手を処罰できない場合がある。最近は被害に遭った方が警察に行く前にネットで調べて「警察で嫌な思いをした」とか「解決できなかった」という書き込みを見て、警察に行くこと自体を諦めてしまうというようなことも起きていると聞く。「ドアがいつも閉まっている」というイメージがあっては問題である。
  提言に「被害届の即時受理の徹底」という項目を入れたのはこのためだ。警察は大きな組織であるが、窓口で被害者に向き合う職員一人一人がどのように対応できるかが重要である。対応した人によって被害届が受理されたり、されなかったりということがあってはならない。
  もう一つ大切なのは「ワンストップ支援センター」の充実と関係機関との連携強化だ。性暴力の被害を受けた女性のうち6割が誰にも相談しなかったという調査がある。また性暴力の加害者の7、8割は顔見知りだと言われる。警察に被害を申告することがなかなかできず、時間がたってしまう。
  緊急避妊や性感染症への対応、証拠保全などが必要だが、突然被害に遭った方にしてみれば、とてもそこまで考える余裕がない。だから、ワンストップ支援センターは被害を受けたその時からすぐに相談できる場所として、体の面でも精神的な面でも被害者をサポートできる存在でなければならない。
  そのためには普段からその存在を知っていてもらわなければならないし、病院を含めた必要な機関につなぐことのできる能力を持たなければならない。性被害は平日も休日も昼も夜も、時間を選ばない。電話やSNSも含めていつでも相談を受けられるようにすることも大切だ。
性暴力の当事者にならないための教育
  提言には「生命の安全教育」ということも盛り込んだ。自分を尊重すること、相手を尊重することについて理解が深まれば、加害者にも被害者にもならない。そして傍観者にもならない。自分の体を守る力を日常的に蓄えていくためには、交通安全教室で学ぶように、小さい時からわかりやすく学ぶ必要がある。水着で隠すようなところは他人に見せない、触らせない、というように具体的に教えていかなければならない。
  性暴力のない社会の実現を目指す議員連盟(ワンツー議連)のプロジェクトチームで5月に大阪市立生野南小学校の取り組みについてオンラインで話を伺った。取り組んでこられた方の話を聞くと、約5年をかけて、教師、保護者の意識を変えてきたという。我々もこの問題には粘り強く取り組んでいきたい。
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  再犯防止のためのGPS機器装着については人権上の問題があるという指摘もある。英国の刑務所でGPS機器を足につけて帰宅させる実例を見たが、かなり大きな足かせのようなもので、これをそのまま日本でやるのは厳しいという感想も持った。一方で、性犯罪の繰り返しを防ぐため、状況によって段階的に対応することもできるのではないかと考えている。例えば、有罪判決が確定した人の執行猶予期間中や、仮釈放中の保護観察の時期など、対象や段階を限定しつつ、慎重ながらもしっかり検討していく必要がある。
  強制性交等罪の成立要件に「被害者の反抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫」(暴行・脅迫要件)が必要とされていることについては2017年の刑法改正の際にも、撤廃すべきという意見があり、議論がなされた。
  私は単にこの要件だけをなくせばよいということではなく、被害者保護のための仕組みを全体的に検討する必要があると考えている。法務省の有識者検討会で議論が始まっていて、性被害当事者の山本潤さんも委員として参加している。司法制度調査会でも法務省の議論も踏まえて検討していきたい。
被害者の声を形に
  性犯罪・性暴力は表に出にくい。だから、潜在化していた被害者の声が出てきた今が極めて大事なタイミングだ。このタイミングを逃せば、その声が形にならないまま宙に浮いてしまう。
  次なる被害者を生まないため、勇気ある被害者の声をいかに生かすかに粘り強く取り組んでいきたい。被害者も、支援する立場の方も、官も民もみんな一緒になって、目の前にあるこの課題に真正面から取り組んでいくことが社会を変えていくことにつながる。


2019.11.14-しんぶん 赤旗-https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-11-04/2019110413_01_1.html
DV・性暴力なくせ(被害当事者らパレード)
東京
  配偶者・恋人からの暴力(DV)や性暴力、子どものころの虐待の被害当事者らが3日、東京都内でパレード「第11回あるこうよ むらさきロード2019」(同実行委員会主催)を行い、約200人が参加しました。女性への暴力根絶のシンボルカラー・紫の衣装や仮面でカラフルに仮装した当事者らが、「暴力のない社会をつくろう」とアピールしました。

  オープニングイベントで波多野律子実行委員長が「被害者のうめきや願いが聞き取られていない。声を届けていこう」とあいさつ。全国女性シェルターネット元事務局長の遠藤智子さんは「被害当事者が安全に生きられる社会へ」とDV防止法改正などを求めました。お茶の水女子大学の戒能民江名誉教授も、同防止法や性刑法の改正、性暴力被害者支援法の必要性を指摘し、「女の自由と平等を守る社会へ、いまが正念場です」と訴えました。
  超党派の国会議員が出席。日本共産党の吉良よし子参院議員が、これら法整備は「まったなしの課題。超党派で取り組みたい」と決意表明しました。
  参加者は「なくそう性暴力 あなたは悪くない」などの旗を掲げて行進。初めて参加した性暴力被害当事者の女性(20代後半)は、「もうこの問題を後回しにしてほしくない。声を上げることが人々に響き、社会が変わってくれれば」と語っていました。


2019.6.27-毎日新聞-https://mainichi.jp/articles/20190627/k00/00m/040/154000c
無罪判決の波紋~性と司法・私の考え
立場の強い者による性暴力を罰する別罪が必要 上谷さくら弁護士
(1968年生まれ。青山学院大法学部卒。毎日新聞記者を経て2007年弁護士登録。保護司。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長を務める。)

  実の娘への性的虐待を認定しながら父親を無罪とし、議論を呼んだ名古屋地裁岡崎支部の判決。性暴力の被害者支援に携わる上谷さくら弁護士は、「長年にわたり性的虐待を受けてきた人への想像力が欠けている」と判決を批判し、裁判官への研修の強化や、地位や関係性を利用した性暴力を処罰する罪の創設を訴える。【聞き手・塩田彩/統合デジタル取材センター】

虐待被害者の特徴、裁判官は理解していたのか
  相次いだ無罪判決を読み、いくつもの疑問が浮かびました。長年の性的虐待が認定されたにもかかわらず、被害者である長女が「抗拒不能(抵抗できない状態)だったとはいえない」として準強制性交等罪(旧準強姦罪)に問われた父親が無罪になった名古屋地裁岡崎支部の判決も、疑問に感じる事実認定が複数あります。
  まず、公訴事実である性行為の直前に加えられた「こめかみのあたりを数回拳で殴られ、太ももやふくらはぎを蹴られた上、背中の中心付近を足の裏で2、3回踏みつけた」暴力についてです。判決では強度の恐怖心を抱かせるような強度の暴行であったとは言い難い」と指摘していますが、私は、相当激しい暴行だと思います。被害者はそれ以前の暴行について「頻度としては多くない」などと供述していますが、長年虐待を受けた被害者が暴力行為を正面から認めることは非常につらく、ある程度慣らされてしまう面がある。虐待のそうした特徴を、裁判官は理解していたのでしょうか。

必死にもがいたら……「親に反抗できる状況だった」
  また、性的虐待が積み重なった結果、抵抗しても無駄だという気持ちになり、抵抗できない状況が作り出されていったと指摘する精神科医の診断を、判決は「非常に高い信用性がある」と言いながら、抗拒不能の判断と完全に切り離した点も甚だ疑問です。

  14歳の頃から実の父親から性的虐待を受け、時々抵抗を試みると収まるが、少し気を緩めるとまたやってくる。ああやっぱり終われないのかという絶望感、無力感。判決はそうした長女の心理をすくい上げず、「抵抗できたときもあった」「だから今回も抵抗しようと思えばできた状態で、抗拒不能とは言えない」と判断しています。さらに、長女が親の了解を得ずに大学進学を決めたり、家事を十分に手伝わなかったりしたことを捉えて、親に反抗できる状況だったとしています。
  でも、本当にそうでしょうか。父親から長年性行為を強要され、母親との関係も悪い。金銭的にも裕福ではない。そんな中で、彼女は自分の人生をなんとかしなければと必死にもがいていたように私には読めます。それを捉えて、抵抗できたという事実認定に使うのはおかしい。そのような状況に置かれた人への想像力が決定的に欠けていると思います。
  また、抗拒不能の判断について、判決は「被告人が被害者の人格を完全に支配し、被告人に服従・盲従せざるを得ないような強い支配関係にあったとまでは認めがたい」と述べています。しかしそれほど強い支配・従属関係ではなくとも、抗拒不能を認定した判例は過去にも複数あります。
暴行・脅迫要件の撤廃は難しい
  強制性交等罪などの成立要件である抗拒不能や暴行・脅迫の認定は、裁判官によって幅があります。ただ、裁判官の中でも、被害者の立場を理解しようと努める人は増えていると感じます。だからこそ、そうではない裁判官が目立つのかもしれません。
  認定のばらつきをなくすためには、裁判官の研修を充実させていくしかないと思います。法律を変えても、裁判官の事実認定がおかしければ、今回のような判決がまた出てくるからです。今は短期間の座学のみですが、例えば性暴力被害者のワンストップ支援センターに赴き、ひっきりなしに電話がかかってくる様子を見る。被害者に直接話を聞く。そのくらいはやってほしいと思います。
  女性裁判官を増やすべきだという意見もありますが、被害者に厳しい女性の警察官や検事も見てきました。私は、性別は関係ないと思っています。
  刑法改正については賛成ですが、議論になっている暴行・脅迫要件の撤廃は、難しいと考えます。処罰範囲が広がりすぎ、罪に問える範囲が不明瞭になるからです。

  2017年の刑法改正では、強制性交等罪(旧強姦罪)の法定刑の下限が3年から5年に引き上げられました。要件を撤廃すれば、この下限を再び引き下げるべきだという議論も起こりかねません。
  ただ、同意のない性交について、処罰は必要だと思います。被害者や支援者がそれを訴えることは意義のあることです。運動を進めていくことで、世の中の意識が変わっていけばいい。性行為は同意あってこそ、のものです。被害者に対する偏見がまだまだ強い中、広く世論を喚起することは非常に重要だと思います。
関係性を利用した性暴力の処罰化を
  現在の刑法で救われないケースはたくさんあります。典型例は、上司や取引先など仕事上の立場が上の相手から性被害を受けるケースです。30~40代で役職を与えられている人も被害に遭っています。
  例えば、仕事の飲み会帰りに上司に「打ち合わせしよう」と言われ、ホテルのロビーで実際に仕事の話をする。その後、「もう少し込み入った話をしよう」と部屋に誘われる。「企業機密に関する話だろう」「まさか性的なことがあるはずない」とついていったところで被害に遭う。周りに訴えても、「ただの不倫じゃないか」「キャリアウーマンのあなたが断れないわけがない」と言われてしまう。

  離婚した実父から性的被害を受けたケースもありました。改正刑法では親から子への性暴力を処罰する「監護者性交等罪」が新設されましたが、離婚で別居している場合は当てはまらない。でも、同居の母親に何かあったら頼れるのは父親だけ。その父親に嫌われてはいけないという意識が子供にはある。
  他にも、就活セクハラや医者による患者への性暴力も起きています。共通して言えるのは、立場の強い者が弱い者に加害するという図式です。だから私は、刑法を改正して「関係性に着目した罪」を新設すべきではないかと考えています。

  海外では、業務・雇用・その他の関係によって、監督保護を受ける人に対して姦淫(かんいん)した場合の罪や、被害者が反対意思を形成したり表明したりすることができない状況を利用した場合の罪があります。日本でも、暴行・脅迫を用いたレイプを処罰する強制性交等罪を残しつつ、関係性の中の性被害を救えるよう、暴行・脅迫要件などを緩和した別罪の創設を検討すべきではないでしょうか。
被害直後から専門家が支援を
  性犯罪は、被害者支援の視点から他にも多くの課題があります。まず起訴のハードルが非常に高いこと。私が相談を受けた案件の半分も起訴できないというのが実感です。起訴されなかった事件の被害者は、司法や行政に根強い不信感を抱き、被害回復にも支障をきたしてしまいます。
  一方で、無罪が増えてもいいから起訴率を上げるということはすべきではありません。冤罪(えんざい)防止はもちろん、被害者にも影響が大きいからです。否認事件の場合、証拠の整理や公判に時間がかかります。被害者は必死に法廷で嫌なことを証言したのに、無罪になったときの衝撃は計り知れない。「あなたは被害者ではない」と国が認定してしまうわけですから。
  被害者への支援は、公判段階からではなく、被害直後から、遅くとも警察署に被害届を出すところから専門家がフォローすべきです。事情聴取もすべて被害の再体験です。それがどれほど被害者にとって負担か。裁判になってもならなくても、できるだけ早く被害者を手厚く支援することが大切だと思います。


2016.07.18-西日本新聞-https://www.nishinippon.co.jp/item/n/259678/
性暴力の実相・第4部(1)信じた教師が… 立場弱く拒絶できず
(1)
  女子高校生のヨウコ(仮名)が性暴力の被害を受けたのは、九州の地方都市にある高校の寮。相手は、生徒を守るはずの男性教諭だった。
  勉強に専念するために寮に入った。宿直当番で定期的に泊まり込む男性教諭は、悩みを相談するほどの仲。クラス担任でも、自分の部活動の指導者でもなかったが、スポーツで日焼けした壮年の男は面白く、友達のように話しやすかった。
  ある晩、寮生の女子2人と宿直室に遊びに行ったときのこと。眠くなって友人と横になると、周りに分からないように教諭から体を触られた。どうしていいか分からず、寝たふりを続けた。
  いったん部屋に戻ったものの、「なぜそんなことをしたのか」聞くため、1人で宿直室に戻った。信用していた教諭からいきなり抱きつかれ、キスされた
  「おまえのことが気になってたよ」「男はこうしたら喜ぶんだぞ」。体が硬直して払いのけられず、わいせつな行為をされた。
  以来、毎週のように、深夜に部屋を訪ねられ、耳元でこう言われた。「宿直室に来なさい」
(2)
「2人だけの秘密だぞ」
  ヨウコには彼氏がおり、教諭に対する恋愛感情はなかった。それでも被害を言い出せなかったという。
  恋人に対する罪悪感から、呼び出しに応じなかったとき。「何で来なかったんだ」と翌朝とがめられると、反射的に「ごめんなさい」と謝っていた。「2人だけの秘密だぞ」。この言葉にも縛られた。
  学校推薦での大学進学を目指しており、表沙汰になれば内申書に影響するのではないかという不安もあった。「(最初に)自分で宿直室まで行っているから『あんたも悪い』『誘ったんでしょ』と責められると思っていた。家族にも絶対に知られたくなかった」
  性暴力の被害が続くうちに、頭がぼーっとし、吐き気が止まらなくなった。何度も授業中に保健室に運ばれたが、養護教諭には「具合が悪い」と言うのが精いっぱい。苦しみが澱(おり)のようにたまっていった。
  教諭の要求はエスカレートし、「校舎内でもしような」などと言われるように。異変に気付いた寮の友人に諭され、「やめてください」と言えたのは、半年後のことだった。
(3)
「結局、被害は公にならず」
  ヨウコは今、30代になった。「『おまえも興味あるだろう』って、被害者意識を持たせないように上手にやられたと思う」と当時を振り返る。先生と生徒という関係の中で、正常な判断ができなかったのかもしれない。「泣きながら無理やりされたわけじゃないから、先生が100パーセント悪いと思えなかった」。結局、被害は公にならなかった。
   「幼少時から教師の言うことを聞くように刷り込まれた子どもたちは簡単に拒絶できない」。そう指摘するのは、教師による子どもへの性被害に詳しい中京大法科大学院の柳本祐加子教授(子どもの権利論)。「力関係を背景に、成長段階で芽生える自然な性への関心を利用されるケースも目立つ」と話す。
   男性教諭は勤務を続け、管理職に就いている。西日本新聞の取材に対しその行為を認め、「申し訳ない」と話した。

「性暴力の実相」第4部では、学校現場での被害の実態を追い、対策を考える
 ■教師による性暴力の影響
  学校での性暴力に詳しい大妻女子大人間生活文化研究所の徳永恭子研究員によると、教師からの性被害は児童生徒の心身を深く傷つけるだけでなく、大人への不信感を植え付ける。学校に対する安全意識が崩れて不登校になる場合も多い。「子どもたちはよく理解できないまま自分を責め、混乱の中で被害が長期化する傾向にある」という。2011年に東京都の教職員277人に行った調査では、「教え子とメールや携帯で性的な話題をすることはセクハラ」と回答したのは7割にとどまった。

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●メール syakai@nishinippon.co.jp
=2016/07/18付 西日本新聞朝刊=







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