スマートフオン問題-1



2022.06.14-ITmedia News-https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2206/14/news133.html
深刻化するスマホの転売問題 「転売ヤー」に隙を与えたのは誰なのか
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  スマートフォンの大幅値引き販売が復活したことで、いわゆる「転売ヤー」による人気スマートフォンの買い占めが携帯電話業界で問題となっているが、現在の転売問題は以前とはかなり質が違う、非常に深刻なものとなっている。その背景と対処について考えてみたい。
転売ヤーによる買い占めがNTTドコモの措置で注目
  NTTドコモが2022年6月より、顧客に対して購入したスマートフォンのパッケージへの記名や押印をするようになったことが報道され、話題となっているようだ。その理由は購入した端末の転売を防ぐためであるとされ、端末購入時の割引を受ける条件として名前の記入や押印する必要があるとされている。
  こうした措置はもちろん、今まで存在しなかったものだ。とりわけ日本では箱も丁寧に取っておくユーザーも多いことから、SNSなどでは今回のNTTドコモの措置に反発する声も少なからず挙がっているようだ。

  その背景にあるのは言うまでもなくスマートフォンの転売問題が深刻化していることだ。21年半ば頃より、携帯電話会社のショップ(キャリアショップ)や家電量販店などで、「一括1円」「実質23円」など、一時は姿を消していたスマートフォンの大幅値引きが復活してきたが、そこに目を付けたいわゆる「転売ヤー」が、値引きされたスマートフォンを買い占めてしまう事例が多発。本来販売したい顧客に端末を販売できなくなるとして問題となっているのだ。
  実際、総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」では、これまでにも店頭では転売ヤー問題がかなり深刻な状況にあるとの意見が何度か出ていた。それゆえ端末を単体で購入できるのは1日に1人1台に限定するなど、ショップ側で自衛策を講じているケースもあるようだが、本質的な問題の対処にはつながっていないのが現状といえる。
  過去を振り返ると、スマートフォンの値引き販売は幾度となく過熱したことがあり、当時も転売はそれなりになされていたが、買い占めが起きるほど深刻な事態にはなっていなかった。これまでの経緯を振り返ると、事態の深刻化を招いたのは19年10月より施行された改正電気通信事業法にあるといえる。
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転売を阻止していたセット販売が法改正で禁止に
  法改正前は携帯電話回線の契約とセットで端末を購入することが一般的で、端末を非常に安い価格で販売する代わりに、さまざまな制約を設け回線の長期契約が求められる複雑な仕組みとなっていた。具体的な制約としては、他社の回線で利用できないようにする「SIMロック」や、回線を長期契約することを条件に料金を値引く一方、中途解約すると高額な違約金支払いが求められる、いわゆる「2年縛り」の存在などが挙げられる。
  つまり以前は端末販売と回線契約が完全にひも付いていたため、端末を安く買うには携帯電話の回線を長く持ち続けないと損をしてしまうし、回線数を超えて端末を安く購入することもできなかったのだ。それゆえ転売のために調達できる端末の数にも限りがあり、大規模転売が防がれていたといえる。
  ところが、セット販売で端末の大幅値引きを実現できるのは企業体力のある携帯大手に限られることから、セット販売が主体の商習慣がユーザーの囲い込みにつながり、競争が加速せず携帯電話料金が下がらない要因になっているとして、長年総務省が問題視していたのだ。
  そこで総務省は携帯大手の商習慣を変えるべく、10年以上にわたって議論や対処を続けてきた。その集大成となったのが先の法改正で、端末値引きの根幹となるセット販売自体を禁止し、回線契約と端末販売の明確な分離を求めたほか、回線契約にひも付いた端末値引きの上限を税抜きで2万円に規制。さらに2年縛りの違約金水準を10分の1に引き下げ有名無実化するなど、従来の商習慣を法律によって根底から覆したのである。

  加えて21年10月には、総務省のガイドラインにより販売する端末にSIMロックをかけることも原則禁止された。その結果、消費者はほぼ縛りを受けることなく自由に携帯電話会社を乗り換えられるようになったし、キャリアショップに行って回線契約することなく、SIMロックのかかっていない端末を堂々と購入できるようになるなど、自由度が大幅に高まったことは確かだろう。

  その一方で、端末大幅値引きの根幹を担っていたセット販売が禁止されたことから、端末の大幅値引きは姿を消した。加えて20年に首相に就任した菅義偉氏による政治的圧力で携帯各社は料金の引き下げを求められ、携帯電話料金の大幅な引き下げも実現。これである意味総務省が理想とする市場環境が出来上がったかに見えたのだが、それも長くは続かなかった。
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「セット販売ではない値引き」の隙を突く転売ヤー
  それは法改正で苦しめられた、携帯電話会社の反動によるところが大きい。乗り換え障壁が極限まで低くなったことで携帯電話会社は顧客を抱え続けられなくなり獲得競争が激化した一方、携帯料金引き下げに積極的な菅氏が2021年9月末で首相を退任。携帯各社は行政主導による携帯料金引き下げで数百~1000億円レベルの巨額損失を計上しているだけに、菅氏によるプレッシャーがなくなったことから再び端末値引きによる競争が加速することとなったのである。

  もちろん既に法律でセット販売は禁止されているが、物販での値引きに電気通信事業法の影響は及ばないし、従来の商習慣の影響から、現在もスマートフォンを購入する際は回線契約が必要と思っている消費者が多い。そこで携帯各社が取ったのが、スマートフォン自体の販売価格を直接値引くという新たな手法である。
  具体的には端末の販売価格自体を大幅に引き下げ、誰でも大幅値引きでスマートフォンを購入できるようにし、それに加えて番号ポータビリティで他社から乗り換えた人に向けた、改正法の範囲内での割引などを追加。これによって規制の範囲内で「一括1円」という端末価格を実現し、回線契約の呼び水とした訳だ。

  つまり現在の値引きは、端末を単体で購入できる消費者が少ないことを前提としたもので、知識を持った人に端末だけを激安で購入されてしまい、収益の基盤となる回線契約が残らないという大きなリスクも抱えている。そのリスクを的確に突いたのが転売ヤーだった訳だ。

  セット販売が禁止されショップ側が端末の単体販売を拒否できず、しかも回線契約の“縛り”がなくなったことで短期間で乗り換えや解約がし放題という状況の中で、スマートフォンが大幅値引きで販売されていることは転売ヤーにとってメリットしかない。そこで値引きされた人気のスマートフォンだけを単体で購入、あるいは事前に安価なサービスを契約し、短期間で乗り換える「ホッピング」を活用して割引を全額適用して購入するなどして、人気のスマートフォンを安価に調達、転売する行為が横行するようになったのである。
  もちろん、安価な料金プランの増加でホッピングがしやすくなったこと、さらにはフリマアプリの普及など以前よりは転売しやすい環境が整ったことなどもあり、個人による転売も活発になっている。そちらも問題ではあるのだが、個人で調達できる端末の数には限界もあるため、それだけで問題がここまで大きくなるとは考えにくい。
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円安と組織的な「転売ヤー」の存在
  より問題になっているのは組織的な転売ヤーの存在であろう。日本でスマートフォンを安価に購入できることに目を付け、日本で調達した端末を海外で転売し、内外価格差を利用して利益を得るというビジネスを目的としている。そして利益を最大化するには端末を大量調達する必要があることから、多数の人員を集めてショップに開店前から並ばせ、値引き対象のスマートフォンを早々に買い占めてしまうことで問題を深刻化させている訳だ。
  こうした転売ヤー問題の深刻化を受けて携帯各社だけでなく行政も問題対処に乗り出すようになり、競争ルールの検証に関するWGの第32回会合では転売ヤー問題に関する具体的な議論もなされていたようだ。ただここまで端末購入の障壁が低くなってしまっている現状、事業者側が本質的な対処を打ち出すのはなかなか難しく、冒頭のNTTドコモの事例に関しても、早速書いた名前を消す方法などがネット上で出回っている状況だ。

  転売問題の深刻化は携帯各社の端末大幅値引きが契機となっただけに、「携帯電話会社の大幅値引きを止めさせれば問題は解決するのでは」という意見もよくみかける。だがそもそも今の日本は急速な円安が進んだことで、諸外国から比べるとスマートフォンを非常に安い値段で買える環境となっている。たとえ大幅値引きを止めたとしても、内外価格差によって利益を得る国際的な転売ヤーが姿を消すとは考えにくく、解決にはより本質的な対処が求められるだろう。
  そもそも現在の市場環境を作り上げたのは先の法改正にある訳で、理想的な競争環境を追及するあまり、転売などのリスクを軽視して乗り換え障壁を大幅に引き下げ、転売ヤーが活動しやすい環境を作り上げてしまった行政側の判断にも問題があったのではないだろうか。現実を直視し本質的な転売防止に踏み切るには、一定の規制を緩和し端末と回線のセット販売を復活させるなど、かなり踏み込んだ策が求められるのではないかと筆者は考える。





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