日本・処理の問題-1
2023.08.24-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20230824-BXTK5P4RZVKZRMMFTCFIHVRLDA/
韓国野党、処理水放出は「第二の太平洋戦争だ」 尹政権批判の材料に
【ソウル=桜井紀雄】東京電力福島第1原発処理水の海洋放出開始に
反対するデモが24日、韓国野党や左派系団体主導で韓国各地で行われた。南部、済州島(チェジュド)の日本総領事館前では同日、最大野党「共に民主党」など野党6党が記者会見と称して「希代の海洋犯罪行為だ」と放出を非難した。
共に民主党は処理水問題を、日韓関係強化を目指し放出を事実上容認する尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権への政治的攻勢の材料に利用し、大規模なデモを連日展開していく計画だ。同党の李在明(イ・ジェミョン)代表は23日、
「日本の核汚染水放出は(太平洋沿岸諸国への侵略を意味する)第二の太平洋戦争と記録されるだろう」と党の会議で批判した。
24日には、放出に反対し、ソウルの日本大使館が入るビルに乱入した大学生16人が警察に拘束される騒動もあった。
一方、韓悳洙(ハン・ドクス)首相は24日、日本に対し「今後約30年間続く放出の過程でも透明かつ責任を持って情報を公開することを期待し、促したい」との談話を発表した。国民に向けては、放出を巡って「過度に心配する必要はないというのが世界中の専門家の共通した意見だ」と指摘。「(韓国)政府を信じ、科学を信じるよう願う」と述べた。
趙承煥(チョ・スンファン)海洋水産相は24日、国会で今回の放出開始について
「(韓国政府が)国際社会の責任ある一員として認めざるを得ない」と答弁した。
2023.08.24-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20230824-DETRCT2YEFKEPMD4CYPQDKMLPQ/
中国各地で食塩が品薄に 処理水放出で買いだめが発生、当局も沈静化に動く
【北京=三塚聖平】東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まった24日、
中国各地のスーパーなどで食塩が品薄となった。中国政府が海洋放出に関して
「食品安全」を強調していることを受け、多くの人が買いだめに走ったためだ。当局が
「買いだめは必要ない」と沈静化に動く事態となっている。
中国メディアによると、北京市や上海市、江蘇省揚州市、福建省福州市、広東省広州市など幅広い地域で食塩の買いだめが確認されている。
北京市内のスーパーを24日夜に訪れると、塩が売られている棚には商品がなく「一時的に欠品」という掲示があった。子供と一緒にスーパーに来た女性は「本当に塩が無くなっている」と困った様子だった。
中国政府は24日、海洋放出開始を受けて日本産水産物の輸入を全面的に停止すると発表した。処理水放出が「食品安全に引き起こす放射性汚染リスク」を防ぐための措置だと主張しており、海水などから製造している塩への関心が高まったものとみられる。
中国メディアによると、北京市商務局は
「北京市の食塩の備蓄は十分で、市場への供給は保障されているので買いだめをする必要はない」と表明した。国有企業の中国塩業集団は声明を出し、
中国の食塩製品のうち海塩は10%で、それ以外の井鉱塩(87%)、湖塩(3%)は「日本の核汚染の影響を受けない」と説明した。
2023.08.24-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230824/k10014172541000.html
随時更新】原発の処理水 海への放出開始 国内外の反応は
福島第一原子力発電所にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水について、東京電力は政府の方針に基づき、
基準を下回る濃度に薄めた上で、24日午後1時ごろ、海への放出を始めました。
事故の発生から12年余りを経て、懸案となってきた処理水の処分が動き出しますが、放出の完了には30年程度という長期間が見込まれ、安全性の確保と風評被害への対策が課題となります。
処理水の海洋放出 方法は?影響は?【Q&Aで詳しく】
福島第一原発では、事故の直後から発生している汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む処理水が1000基余りのタンクに保管され、容量の98%にあたる134万トンに上っています。
政府は22日、関係閣僚会議で、基準を下回る濃度に薄めた上で、24日にも海への放出を開始することを決めました。これを受けて東京電力は放出に向けた準備作業を始め、大量の海水と混ぜ合わせた処理水を「立て坑」と呼ばれる設備にためた上で、トリチウムの濃度を確認していました。
分析の結果、トリチウムの濃度は1リットルあたり43から63ベクレルと、国の基準の6万ベクレルを大きく下回り、放出の基準として自主的に設けた1500ベクレルも下回っていて、想定どおり薄められていることが確認できたということです。
モニタリングを行う船を出すための気象条件にも問題はないとして、東京電力は24日午後1時3分に海への放出を始めました。
放出作業は、原発内の免震重要棟という施設にある集中監視室で、作業員が画面を操作してポンプを動かし、処理水を海水と混ぜた上で「立て坑」に流し込みます。10分後の午後1時13分には、「立て坑」から沖合1キロの放出口につながる海底トンネルに流れ込んで海に放出されたということです。また24日午後3時すぎから4時すぎにかけて原発周辺の海域で海水を採取したということで、現在、トリチウム濃度を分析していて、25日午後に結果が出るということです。
東京電力によりますと、これまでのところ、放出設備などのトラブルは報告されていないということです。最初となる今回の放出は、7800トンの処理水を海水で薄めた上で17日間の予定で連続して行うとしていて今年度全体の放出量はタンクおよそ30基分の3万1200トンを予定しているということです。
ただ、処理水が増える原因である汚染水の発生を止められていないことや、一度に大量の処理水を放出できないことから、放出期間は30年程度に及ぶ見込みで、長期にわたって安全性を確保していくことが重要な課題になります。
東電 小早川社長「風評対策や賠償 全社を挙げて」
放出が開始されたあと、東京電力の小早川智明社長は、記者団の取材に対し、「きょうから処理水の放出を開始したが、引き続き、緊張感を持って対応していく。処理水の放出は、廃炉が終わるまで長い時間がかかるので、その間、安全性を確保し、地元の人たちの信頼に応えていく必要がある。風評対策や迅速かつ適切な賠償などについて、全社を挙げて持続的に対応し、風評を生じさせない、県民の信頼を裏切らない、という強い覚悟のもと、社長である私が先頭に立って対応にあたっていく」と強調しました。
IAEA事務局長 監視と評価活動続ける方針を強調
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、放出の開始を受けて24日、声明を発表し、「IAEAの専門家は国際社会の目の役割を果たし、放出活動がIAEAの安全基準に合致していることを保証するため現地にいる」として、監視と評価活動を続ける方針を改めて強調しました。
IAEAは福島に事務所も設けていて、さらに声明では、専門家が最初に放出される水のサンプルを採取し、放出される水に含まれるトリチウムの濃度は東京電力が放出の基準として自主的に設けた1リットルあたり1500ベクレルをはるかに下回る値だと確認したと説明しています。
《国外の動き》
中国 日本の水産物輸入を全面的に停止
東京電力が処理水の放出を始めたことを受けて、
中国の税関当局は日本を原産地とする水産物の輸入を24日から全面的に停止すると発表しました。中国の税関当局は、発表の中で「福島の『核汚染水』が食品の安全に対してもたらす放射性物質による汚染のリスクを全面的に防いで中国の消費者の健康を守り、輸入食品の安全を確保する」としています。
また、税関当局は
「日本の食品の汚染リスクの確認を続け、日本から輸入される食品に対する監督管理を強化する」としていて、水産物以外の食品の輸入にも影響が及ぶおそれがあります。
中国ではすでに先月から各地の税関当局が日本産の水産物を対象に放射性物質の検査が強化されていて、先月、日本から輸入された水産物は去年の同じ月と比べて金額にしておよそ3割減ったことが明らかになっています。今回の措置で日本の水産物の中国への輸出は一切できなくなる見通しで、日本の漁業に影響が出ることは避けられず、今後の日中関係のさらなる悪化も懸念されます。
東京電力の小早川智明社長は、記者団に対して、「詳細はまだ把握できていないが、外国からの禁輸措置で事業者に被害が発生した場合は、適切に賠償していく。中国は日本にとって非常に重要な貿易相手国なのでそうした判断が早期に撤回されるよう安全性について、しっかりと説明を尽くしていきたい」と述べました。
中国のSNSで反発の声 根拠のない投稿も拡散
処理水の海への放出をめぐっては、中国の多くのメディアが速報で伝えました。このうち、国営の中国中央テレビのリポーターは、インターネット向けの配信で、放出開始とともに福島第一原発の近くから中継し、日本国内では放出に反対の声もあるなどと伝えていました。
中国のSNSウェイボーでは放出開始をめぐる話題が一時、検索ランキングのトップにあがり「今後日本料理は食べない」とか「仕事はせずに日本に抗議する」といった日本への反発の声がみられました。なかには、「福島で放射線量が瞬時に上がった」などといった根拠のない投稿も拡散していました。一方で「刺身が本当に好きなのにどうすればいいのか」といった投稿もあり、中国で日本の水産物が食べられないことを懸念する声もあがっていました。
中国 複数の原発から福島第一上回るトリチウム放出も
福島第一原発では、トリチウムの年間の総放出量は、22兆ベクレルとなっていますが中国の原発の運転状況などをまとめた、「中国原子力エネルギー年鑑」によりますと、2021年、中国国内の原子力発電所のうち少なくとも13か所で、これを上回る量のトリチウムが放出されていたということです。
このうち、東部浙江省にある秦山原発ではおととし1年間で218兆ベクレルと、福島第一原発の年間総放出量のおよそ10倍にあたるトリチウムが放出されたということです。
ただ、中国政府は、福島第一原発の処理水は、事故で溶け落ちた核燃料を冷やすために使われたとして、「データの真実性や正確性が証明されていないうえ食品の安全や健康への長期的な影響が証明されていない」などと主張しています。
事故後の規制 一時55の国や地域に
東京電力福島第一原発の事故をきっかけにした日本からの食品の輸入停止などの規制の動きは、一時、世界の55の国や地域に及びました。これまでに48の国や地域で規制は撤廃された一方、7つの国や地域では規制が続き、このうち、中国や韓国、香港など5つの国と地域はいまも輸入停止の措置を行っています。
▼中国はすでに日本から輸入する食品に対する検査を厳しくていて、日本から輸出された水産物などが中国各地の税関当局でこれまでより長く留め置かれていることが確認されています。さらに東京電力が24日、処理水の海への放出を始めたことを受けて、中国の税関当局は原産地が日本の水産物の輸入を24日から全面的に停止すると発表しました。
日本から中国への水産物の輸出額は去年871億円にのぼります。さらに農林水産物や食品をあわせた輸出額では去年およそ2782億円にのぼり、中国は日本にとって最大の輸出先です。また、放出決定を受けて、
▼香港政府は24日から東京、福島、千葉、宮城など、10の都県からの水産物の輸入を禁止することを明らかにしました。日本から香港への水産物の輸出額は去年755億円となっているほか、農林水産物や食品をあわせた輸出額は、去年およそ2086億円で中国に次ぐ2位の輸出先です。
▼マカオ政府も東京、福島、千葉など10都県からの水産物や、肉や野菜などの輸入を禁止すると発表しています。
香港の日本料理店 日本の食品離れを懸念
福島や東京を含む10の都県からの水産物の輸入を禁止にした香港の繁華街にある日本料理店では、日本から朝、空輸した新鮮な魚を、夕方に受け取り、刺身として提供して人気を集めてきました。
この日も、愛媛産のたいが届き、料理人がさばいていました。この店では、香港政府が輸入を禁止した10都県以外から魚を仕入れて対応するとしていますが、客が産地に関係なく日本の食品を避けるようになるとして懸念を強めています。
経営者の陳強さんは「日本が処理水を放出すれば、お客さんは心配して、日本料理を食べなくなる。そうすれば売り上げが影響を受け、大変な問題になる」と話していました。店を訪れた男性は「週に2、3回は日本料理を食べていたが回数は減ると思う」と話していました。
韓国首相「過度に心配の必要ない」
韓国のハン・ドクス首相(韓悳洙)は、東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の放出開始からおよそ30分後の午後1時半ごろ、国民に向けた談話を読み上げ、「科学的基準と国際的手続きに従って放出されるのであれば、過度に心配する必要はないというのが世界中の専門家の共通意見だ」と指摘しました。そして、「韓国政府は、関連する情報を確保して徹底的にモニタリングし、同時に水産業を守るためのさまざまな支援策を展開する。日本産水産物の輸入規制も維持していく」と述べました。さらに、「国民を最も脅かしているのは、科学に基づかない偽ニュースと政治的利益のための虚偽の扇動だ。誤った情報で国民を混乱させてはならない」と強調しました。
韓国 最大野党は強く非難 ソウルで抗議集会も
韓国の国会で過半数を占める最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表(李在明)は、党の緊急会議で、「国際社会の懸念と反対にもかかわらず、日本は人類最悪の環境災害の道を選んだ。第2次世界大戦のとき、銃と刀で太平洋を踏みにじったとすれば、いまは放射性物質で人類全体を脅かす形だ」と強く批判しました。その上で、「『核汚染水』を投棄する犯罪に免罪符を与えたユン・ソンニョル政権(尹錫悦)は、非難を避けられない。私たちは最後まで戦う」と述べました。
このほか、ソウルの中心部では、環境運動の市民団体などが集会を開き、「放射性物質の投棄は、海を汚す非文明的行動であり、直ちに中止すべきだ。日本の放出を擁護するユン政権も共犯だ」などと批判しました。
また、韓国メディアは、放出に反対する大学生ら16人がソウルにある日本大使館に入ろうとして警察に取り押さえられたと伝えています。
台湾外交部「国際的な基準に合致する放出を引き続き促す」
台湾外交部の劉永健報道官は「科学的な問題では専門家を尊重する」とした上で「日本側に対し、国際的な基準に合致する形で放出を行うよう、引き続き促していく」と述べました。
台湾の原子力委員会が福島第一原子力発電所の事故後10年間の海流のデータをもとにシミュレーションしたところ、処理水は主にアメリカ西海岸の方に向かって流れ、一部が放出のおよそ1年から2年後に台湾付近の海域に到達する見通しだということです。
そして、放出の4年後にトリチウムの濃度が最大値に達するものの、台湾の海域に自然に存在するトリチウムの濃度の平均値よりもはるかに低く、安全面の影響は無視できる程度だとしています。
ロシア外務省「完全な透明性を示し、すべての情報の提供を期待」
ロシア外務省のザハロワ報道官は24日、国営のロシア通信に対し「状況の推移を注意深く監視している。日本政府は、放出した水が環境に及ぼす影響について、完全な透明性を示し、すべての情報を提供することをわれわれは期待している」と述べました。
ロシア政府はこれまで中国とも連携しながら処理水の放出に対して懸念を示していて、ロシアの国営テレビの記者は現地からリポートを行い、「放出が始まった。国内外で抗議活動が活発に行われているにも関わらず日本側はこうした措置をとった」などと伝えています。
ロシアの衛生当局は先月、放射性物質を含む水産物がロシア国内に流通するのを防ぐためだとして、日本産の水産物や加工品について「輸入する際の検疫や流通の管理を強化するよう各地の機関に指示した」と発表しています。
フィリピン外務省「IAEAの技術的専門性を認識」一定の理解示す
フィリピン外務省は、東京電力による福島第一原子力発電所にたまる処理水の放出について、「フィリピンはこの問題については、科学的かつ事実に基づいた観点から、この地域の海洋への影響を引き続き注視していく。島しょ国家として、フィリピンは海洋環境の保護と保全に最大の優先順位を置いている」とするコメントを発表しました。
その上で、放出計画の安全性を検証してきたIAEA=国際原子力機関が、海洋放出を国際的な安全基準に合致していると結論づけたことを踏まえて、「この問題に関するIAEAの技術的専門性を認識している」とコメントし、一定の理解を示しました。
中国のねらいは?専門家「国際社会全体の信頼維持が重要」
日本政府が処理水の海への放出を開始したことを巡り、中国が反対する姿勢を示すねらいについて国際政治学や原子力政策に詳しい一橋大学の秋山信将教授は次のように話しています。
秋山教授
「中国が強行に反対する表向きの理由は環境汚染に対する懸念だが、中国は日本に対して海洋放出を認めないという姿勢を貫くことによって、外交的に優位な立場を取りたいという思惑があるのだろう。特定の国や地域の反発に気を使うというよりは、国際社会全体に対しての信頼を維持していくことが重要だ。科学的に安全性が証明されたからもうコミュニケーションは不要だと言うことではなく、科学的な安全性と社会的な安心の両方を獲得する必要がある。日本政府は多くの国が反対しないという姿勢に満足せず、相手の立場に立って知りたい情報を根気強く提供することが重要だ」
《国内の動き》
西村経産相「廃炉に向け大きな一歩 踏み出した」
西村経済産業大臣は、処理水の放出を始めたことについて、記者団の取材に対し、「福島第一原子力発電所の廃炉を成し遂げること、そして福島の復興を実現していくことは最重要課題だ。海洋放出が始まることで、廃炉に向けた大きな一歩を踏み出した。漁業者の皆さんの思いに寄り添いながら、データを透明性高く公表していくことで安全安心を確保し、なりわいの継続に向けた支援に全力で取り組んでいく」と述べました。
林外務相「中国側に措置の即時撤廃を求める申し入れを行った」
林外務大臣は、長野県駒ヶ根市で記者団に対し「IAEAの包括報告書には、処理水の海洋放出は国際安全基準に合致しており、人および環境への影響は無視できる程度であるという結論が示されている。中国が現行の輸入規制に加えて新たな措置を導入したことは、国際的な動きに逆行するもので極めて遺憾だ。中国側に対して、科学的根拠に基づかない措置はまったく受け入れられず措置の即時撤廃を求める申し入れを行った」と述べました。
立民 泉代表「政府は地元の理解や風評被害対策にもっと注力を」
立憲民主党の泉代表は、兵庫県尼崎市で記者団に対し「IAEA=国際原子力機関の報告書により、一定の安全性は担保されたにせよ、地元の漁協も政府の対策や取り組みが不十分だと言っており、そういう声に正面から応えてこなかった岸田政権の対応は批判されてしかるべきだ。政府は、地元の理解や風評被害対策にもっと力を入れて全国民に説明していく必要がある」と述べました。
その上で「国会での説明は当然で、私たちは予算委員会の開会を要求している。2015年に政府は福島県漁連に対し『関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない』と約束しており、岸田総理大臣がその約束を果たしたと考えているのか、問わねばならない」と述べました。
漁業者「若い漁業者の将来はどうなるんだと悲しくなる」
福島県相馬市の漁業者、四栗久光さんは原発事故の4年後に漁を再開し、おもに刺し網漁を行い、カレイやヒラメなどを水揚げしてきました。
処理水の放出に反対し続けてきたということで、午後1時すぎ、自宅のテレビで、処理水を薄めた上で海への放出が始まったことを伝えるニュースをじっと見つめていました。四栗さんは、「今までみんなで訴えてきたことが通らず放出されてしまい悔しい」と、涙を浮かべて話していました。
相馬市の漁業者は原発事故のあとは回数を制限して漁を行っていて、四栗さんの水揚げ量は今も事故が起きる前の4割ほどにとどまるということです。四栗さんは、「処理水の放出は長期間にわたり続くということで、その中でもしも問題が起きたらと思うと、若い漁業者の将来はどうなるんだと悲しくなります。早く当たり前に漁ができるようになって欲しい」と話していました。
都内の鮮魚店 福島県産の海産物 検査で問題なければ販売続ける
都内で鮮魚店など9店舗を運営する食品流通会社は、4年前から福島県産の海産物を現地から仕入れて販売していて、このうち目黒区にある店舗では23日に福島県沖で水揚げされたヒラメやタイが販売されていました。
親潮と黒潮がぶつかるプランクトンが豊富な海で育った福島県産の魚は味がよく、客からも好評だということで、この会社では福島第一原発にたまる処理水が薄められて海に放出されたあとも検査で問題がなければ販売を続けることにしています。
食品流通会社「フーディソン」の山本久美恵さんは、「今後も変わらず、基準値を下回った魚は取り扱いを続け、福島県産の魚のおいしさをお客様に伝えることで漁業者の力になっていきたい」と話していました。店舗を訪れた70代の男性は、「処理水はあまり気にしておらず福島県や太平洋沿岸の魚をこれからも買うつもりです」と話していました。
豊洲仲卸会社 風評による実害も「ケアの説明、丁寧に」
東京・江東区の豊洲市場から20あまりの国や地域に水産物を輸出している仲卸会社は、ウニやキンメダイ、ノドグロといった高級品を香港やマカオに輸出しています。しかし、処理水の放出を前にした23日、20年近く取り引きしている香港の飲食チェーンから、24日に予定していた出荷をとりやめて欲しいと連絡が入ったということです。香港政府は東京や福島など10の都県の水産物について、24日から輸入を禁止するとしています。
取引先からは現地の輸入規制の運用に不透明な部分があり、規制の対象となっていない地域の水産物も含めて、確実に入荷できる見通しが立たないと伝えられたということです。この仲卸会社はおよそ500万円分の水産物をすでに仕入れていたことから急きょ、代わりの出荷先を探すなどの対応に追われ、仕入れ値を下回る価格での取り引きを余儀なくされたということです。
仲卸会社「山治」の山崎康弘社長は「風評による実害がまさかきょうのきょう、出るとは思っておらず困っている。処理水の放出についての政府の説明には納得していたが、実際に実害が出た以上、理解とは別の問題だ。仕入れの支払いも迫っているので、東京電力や政府には、実害をどうケアするのか、丁寧に説明してもらいたい」と話しています。
全漁連 「風評被害すでに発生 速やかな対応を」
処理水の海への放出が始まったことを受けて、全漁連=全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長はコメントを発表しました。
坂本会長は「我々が処理水の海洋放出に反対であることはいささかも変わりはない。国が全責任を持って放出を判断したとはいえ、今、この瞬間を目の当たりにし、全国の漁業者の不安な思いは増している。我々、漁業者は安心して漁業を継続することが唯一の望みだ」としています。
そのうえで、「国には安全性の確保や消費者の安心を得ていく取り組みなどを通じて『漁業者に寄り添い、必要な対策を取り続けることをたとえ今後数十年にわたろうとも、全責任を持って対応する』との岸田総理大臣の約束を確実に履行して頂きたい。加えて、現在、すでに発生している風評被害への可及的速かな対応を強く求める」としています。
風評問題 専門家「買ってくれると自信をもって生産を続けて」
風評の問題に詳しい筑波大学の五十嵐泰正教授は、風評被害を抑えるためのポイントとして、「風評被害は、起こると思うと現実に起こってしまうという性質を持っている。流通業者が『消費者や小売業者が買わなくなる』と思えば、萎縮してしまってその産地の水産物が流通のルートに乗ってこなくなる。消費者の間では、処理水やトリチウムに関しては大分浸透してきた部分もあるので、科学的な判断で冷静に購買行動を続けてもらいたい」と話しています。
また、漁業者など生産者側に対しては「消費者が買ってくれないかもしれないと思って生産量を下げると、加速度的に流通構造の中から閉め出されてしまう。よいものを検査して出すのであれば消費者は買ってくれると、自信をもって生産を続けてほしいし、国もそれをしっかり守っていく姿勢を示し続けてほしい」と話していました。
その上で、国の情報発信については「科学的な安全性を示す上で、事実を伝えることに加えてもう一つ大事なのは発信する主体が信頼されているかどうかだ。政府への信頼感がなければ、どんなに正しい情報でも伝わらなくなってしまう。信頼醸成に正解はなく、丁寧に理解を求めていくしかない」と指摘しました。
福島 内堀知事 「日本全体の問題 国が前面に立って」
処理水の放出が始まったことを受けて、福島県の内堀雅雄知事はコメントを発表しました。この中で内堀知事は、まず東京電力に対して「処理水の取扱いは、長期間にわたる取組が必要で、安全性の確保が大前提だ。東京電力は、『廃炉と汚染水・処理水対策の実施者である』という意識を常に持ち、安全や安心が確実に担保される体制を構築するなど、万全な対策を徹底的に講じるよう求める」としています。
その上で、国に対しては「処理水の問題は、福島県だけではなく、日本全体の問題であり国が前面に立ち、関係省庁がしっかりと連携し、政府一丸となって万全な対策を徹底的に講じ、最後まで全責任を全うすること」などと求めています。
宮城 村井知事「安全安心であること分かってもらえるように」
宮城県の村井知事は、記者会見で「IAEAが科学的に問題ないことはしっかりと立証しているが、安心につながっていないことが風評の引き金になる。安全ということが、安心であるということを国民や諸外国に分かってもらえるように、東京電力だけでなく、政府を挙げてしっかりと説明責任を果たしてもらいたい」と述べました。