日本研究の灯-1



2021.10.25-Wedge Infinty-https://wedge.ismedia.jp/articles/-/24598
いつか必ず訪れる台湾海峡危機 日本は覚悟と備えを持て
武居智久 (日本戦略研究フォーラム(JFSS)顧問)
(1)
  「中国が6年以内に台湾に武力を行使する危険性が高まっている」。今年3月、米国のデービッドソン前インド太平洋軍司令官がこう発言し、世界に緊張が走った。米軍内にそうした「危機感がある」ことは、紛れもない事実だろう。
  4月の日米首脳会談後の共同声明には、52年ぶりに「台湾海峡の平和と安定」が明記され、それに呼応するように欧州諸国がインド太平洋地域への関与を強めた。多くの国で「最悪の事態」が想定され、備えが進んでいる。
  国際社会がこれほど敏感に察している危機を、日本が傍観するわけにはいかない──。そんな思いから開催されたのが、日本戦略研究フォーラム(JFSS)主催の政策シミュレーション「徹底検証:台湾海峡危機 日本はいかに抑止し対処すべきか」だ。国会議員や外交・安全保障の専門家、元自衛隊幹部など総勢18人がリアルなシナリオに基づきシミュレーションを行い、その反省と教訓から政策提言を行った。
  「台湾有事となればじっくり考えている暇はない。スポーツと同様、日頃からの練習と訓練が物を言う。現状、日本では今回のようなシミュレーションはおろか『座学』さえ満足にできていない」。参加者の一人、元内閣官房副長官補・兼原信克氏の言葉が重くのしかかる。
  台湾有事とは日本有事である──。日本は戦後、米国に全てを委ねて安住してきたが、もういい加減、空想的平和主義から決別し、現実味を帯びてきた台湾有事に備えなければならない。

  東京・市ヶ谷の防衛省前にある日本戦略研究フォーラム(JFSS)は小さなシンクタンクである。しかし志は高く、かねてより民間レベルで台湾との交流を行い、5年前からは台湾軍(中華民国軍)の現役士官を研修生として受け入れ、日台間の安全保障交流の重要性を機会ある度に政治に対して提言するなど、安全保障における日台関係の緊密化に努めてきた
  昨年秋、JFSSは台湾海峡危機が高まる中で我が国が安全保障問題にリアルに取り組むために、政治と国民の意識を啓蒙することを目的に台湾海峡危機に関する政策シミュレーションを行うことを決め、プロジェクトを立ち上げた。
  その後、今年3月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同文書が10年ぶりに台湾海峡の平和と安定について中国を名指しして言及し、4月の日米首脳会談、そして6月の先進国首脳会談でも台湾海峡の平和と安定が盛り込まれたことで、日本ばかりでなく世界で台湾海峡危機への関心が高まった。これはJFSSにとって望ましい変化であった。
(2)
〝近くて遠い〟日本と台湾 初歩的交流すらままならない
  米国の戦略コミュニティーで対中政策と対台湾政策のあり方が積極的に議論される一方で、我が国では台湾海峡に関する危機感が共有されず、政府は従来の政策を基本的に変えるに至っていない。
  政策は時折エキセントリックに適用される場合があるが、1972年に我が国が台湾と断交してから約50年にわたり、各省庁で政策立案に携わる官僚の台湾訪問が制限される状況が続いている。とりわけ防衛省では初歩的な防衛交流すら禁じられてきたことで、台湾の安全保障政策に関する知見が不足するとともに、台湾そのものに対する感度が低くなっているのではないか、との懸念は尽きない。

  かつて司馬遼太郎は台湾を「矛盾が幾重にも重なっている島」と書き、また「多くの人々が台湾の持つ苦悩についての知識をさほどに持っていない」と述べたことがある。数百年間にわたって外部からの侵入者が島を支配する歴史が終わり、台湾出身の李登輝総統による台湾人のための政治が始まったばかりの頃であった。李総統は司馬との対談の中で「台湾のために何もできない悲哀がかつてありました」と過去形で語っている。困難ではあるが今は希望がある、そういう感慨が過去形の中に含まれていたと思われる。
  台湾は88年から民主化を足早に進め、すでに西側の基準から言っても申し分のない民主共和制の〝国家〟であり、大陸中国とは全く違う政治体制の国となっている。脊梁(せきりょう)山脈が南北に走る九州の8割ほどの小ぶりの島に九州の人口の倍近い約2300万人が住み、国民一人あたりの購買力平価は日本より高く、世界の6割以上の半導体を生産するデジタル工業国である。
  しかし、今後の台湾が台湾人ばかりの島となり、今後どのように経済的に繁栄しても、彼らには進む道を自ら選ぶ自由は限られている。世界はひたすら台湾海峡の現状を維持することを望み、台湾の独立を認める気配はない。台湾の安全保障は台湾人やその指導者の意思ではなく、台湾を守るという米国の暗黙のコミットメントの上に成り立っていると主張する米専門家もいる。他方で北京は、台湾と外交関係のある国々を経済力で威し、ひとつまたひとつと台湾から引き剥がしている。
  世論調査によれば、台湾の大半の人は現状維持を望んでおり独立は望んでいない。しかしそれは中国との統一を望むことと同義ではない。李総統の言った「台湾のために何もできない悲哀」はまだ基本的に続いているのではないか。
  今回の政策シミュレーションに向けてシナリオを作成するために文献を読み漁るうちに、台湾独立を標榜してきた民進党主席でありながら、現状維持を唱道せざるを得ない蔡英文総統や台湾の人々の解決しようのない閉塞感を知り、胸が締め付けられた。台湾海峡危機に対する我が国の安全保障を考える目的で始めたシミュレーションだったが、我々にとって台湾政策の根本的なあり方を考える良い機会となった。
(3)
バーチャルからリアルな危機へ シミュレーションを行う意義
   いかなる形にせよ台湾海峡の平和が損なわれる事態は必ず我が国に波及する。かかる事態が生起したとき安全保障、経済安全保障、国民生活にいかなる影響を及ぼすのか。その影響を最小限に抑えるためには平素からどのような備えが必要か。シナリオをデザインするにあたって、我が国が抱える課題を可能な限り「見える化」できるようにするため、95年の第3次台湾海峡危機を参考にし、事態の烈度と規模を変えた

  4種類のシナリオ──グレーゾーン事態が長期間継続する事態、台湾全島が物理的かつ通信情報的に隔離される事態、中国が十分な準備を整えて全面的に武力侵攻する事態、そして中台紛争の終戦工作──を作成した。
  最も重視した点は、2015年の平和安全法制が台湾海峡危機に関連する事態にどのように機能するか、また関連する制度や計画に欠落などがないかを検証することだ。安倍晋三政権によって我が国の安全保障政策はバーチャルからリアルの世界に入った。
  国家安全保障戦略や平和安全法制は安全保障上の事態に対応できる法制を整え、米軍の武器等防護(自衛隊法第95条の2)などすでに実施に移されている項目がある。その一方で、先島諸島や南西諸島の広域国民保護、台湾からの邦人救出と輸送など、実効化措置が十分ではない項目が少なからず残されている。すべての国家機能を安全保障上の事態に効率的に使用するための事態認定は、政府として演習されていない。したがって、今回のシミュレーションは既存の政策を検証し問題点や改善点を見つけ出す形式とした。
  シミュレーション当日は、退官して間もない官僚と自衛隊の将官、現職国会議員など、それぞれの分野で経験豊かなプレイヤーが役割に徹して活発に議論を重ねた結果、台湾海峡危機に関する我が国の安全保障政策について多くの課題を浮き彫りにすることができた。細部はJFSSの報告書に譲るが、特に次の三つの点を強調したい。
第一は、安全保障法制や防衛諸計画に関係者が継続して習熟する必要性である。
  プレイヤーには安全保障政策に造詣の深い人々が参加したが、それでも事態認定に逡巡する場面があった。どのように優れた法律であったとしても運用する者が必要な知識と経験を欠いていれば十分に使いこなすことはできない。それ以上に、法律が目指した精神的で哲学的な部分を知らなければ、法律の文面に拘泥するあまり本質を見失ってしまう危険がある。危機管理に関わる閣僚と官僚が政策シミュレーションなどによって安全保障法制の細部にわたって習熟しておくことは危機管理として重要である。
第二は、台湾海峡危機の抑止や対処には国民のコンセンサスが必要なことである。
  我が国の経済界には、中国との関係を平和的に維持することに対する強い要望がある。しかし、日本の平和と安全が脅かされた場合に、経済界を含めた国民全体のコンセンサスが働けば、政府が束縛なく意思決定できるばかりか、事態をエスカレートさせない抑止力になる。経済界や国民に安全保障政策を理解してもらうため、必要な施策化が急がれる。
第三は、経済界が台湾海峡危機に正面から取り組まなければならない、ということである。
  中国には約1万3600社の日系企業が進出している。在住者約11万人の多くはビジネスマンと家族だ。言うまでもなく、全企業と日本人は中国政府の監視下に置かれ、日中間で政治的な緊張が高まればいつでもハラスメント対象となる。経済界には台湾海峡危機への備えと覚悟が不可欠である。
(4)
露呈した日本の準備不足 台湾の戦略的価値を認識せよ
  米国では中国が台湾に全面的に武力侵攻する蓋然性は高くないとの見方が強い。しかし、習近平国家主席が任期中での統一を示唆する発言を強め、国際約束を反故にして香港に国家安全維持法を適用し、西側の批判を無視して新疆ウイグル自治区の民族浄化を進めてきた事実からも、習氏の発言をレトリック(巧みな弁術論)だと片付けるべきではない。また、中国の台湾侵攻の判断が、「実際の勝利の可能性」よりも「中国指導部が考える勝利の可能性」に対する認識が重要になるという見方は少数ではなくなっている。
  台湾が中国の手に落ちれば中国は世界の半導体生産の6割を手にし、世界経済を支配する。戦略ミサイル原子力潜水艦がバシー海峡を自由に通航できるようになれば、世界の戦略核バランスは大きく崩れる。我が国は台湾の戦略的価値を改めて認識すべきだ。
  何よりも今回の政策シミュレーションが我が国の台湾海峡危機への準備不足を浮き彫りにしたことは大きな成果であった。
武居智久 (日本戦略研究フォーラム(JFSS)顧問)


2021.02.01-enago academy-https://www.enago.jp/academy/japanese-researcher-look-out-in-2021/
2021年 日本の科学技術の発展をかけて声を挙げよう

  日本が「科学技術立国」と言われていたのはいつの日か――近年は、論文発表数では中国に遅れをとり、世界大学ランキングでは日本の大学の存在感が薄れていると指摘されるなど、日本の基礎研究力の低下が問題視されています。管総理は、社会のデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)を政権の最重要課題としていますが、その基礎となるのは科学技術力です。2021年、日本の科学技術はどうなっていくのでしょうか。
日本の科学技術の現状
  日本は世界トップクラスの科学技術力を誇ってきました。
  2000年以降、17年間で17人のノーベル賞受賞者を輩出してきた実績もあります。しかし、2000年代に入ると国の研究開発力を示す指標の一つとされる論文発表数は減少に転じ、論文数およびトップ10%補正論文数(被引用数が上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の10分の1となるように補正を加えた論文の数)の世界ランクもほとんどの分野において低下傾向を示すに至っています。
  文部科学省科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2020」には、自然科学分野の論文本数(2016~18年の年平均)で中国が米国を抜き、初の首位となったことが記されています。日本は前回(2010年)調査から順位を下げて4位となっています。
  2018年のworldbank.org調査データに基づく分析よると、科学技術論文誌に掲載された日本の論文数は、98,793本。このときの世界順位は、中国、アメリカ、インド、ドイツに次ぐ5位。日本の論文発表数が横ばいなのに対し、中国、インドといった国の発表数が相対的に増加していることで順位を下げた結果となっています。

  2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大で、働き方および医療管理の両面で社会のIT化の必要性が急拡大しました。
  この傾向は2021年も継続し、loTやAIの発展にともなう大きな変革が進むと考えられます。また、地球規模の温暖化対策として、エネルギーおよび産業構造における新しいイノベーションも不可欠と言われています。
  社会に役立つ科学、社会のための科学の発展への期待が高まっている裏で、先述の論文数の順位の低下だけでなく、科学技術研究に従事する研究者や学生の数の減少が懸念されています。日本の科学技術研究は、厳しい状況に置かれているのです。
日本が直面している問題
  日本の科学界が直面している問題を3つあげてみます。
若手研究者の研究環境整備と人材の育成:
  世界的なパンデミックのように一国だけでは解決できない問題が起こる時代、各国が科学技術研究で鎬(しのぎ)を削るのではなく「競争から共生へ」の移行が必要とされています。
  科学技術やイノベーションを発展させるには新たな価値を生み出す人材の育成が必須です。これは世界的な共通課題でもあり、アメリカをはじめとした海外でも博士課程に進む人口が減少している上、コロナによる渡航禁止処置が取られていることで研究者の国際的流動が制限されています。

  日本では、急速な高齢化の進行により大学・大学院に進む人口が減少していることに加え、修士から博士課程に進学して博士号を取得する割合が少ないこと、先進国と比べて少ない博士号取得者がその技能を活かせる職に就きにくいことなどが問題視されています。
  大学でも人件費の圧迫により、雇用機会獲得の競争が激しくなっているだけでなく、安定雇用される常勤の教職員枠が減少し、任期付きで雇用される不安定な若手研究者が増加しています。さらに昨年からのCOVID-19の影響で修学に支障をきたすおそれのある学生も増えているので、経済的理由で修学・進学を断念することのないように支援することも必要です。研究者の雇用を守り、研究に従事できる環境を整えていくことが不可欠です。
研究論文数の低下:
  科学技術白書にも、論文数をはじめとしたいくつかの指標において日本の科学技術の力が相対的に低下していることが示されています。
  論文の数、質の両観点から国際的な地位の低下、国際共著論文数の伸び悩み等において、諸外国に比べ相対的に低下していることが課題となっています。
  特に、注目度の高い論文の発表数において順位の低さが顕著であること、国際的に注目を集める研究領域への日本の参画状況が低下傾向にあることが指摘されています。
  実際、世界でパテントファミリー(2か国以上への特許出願)における国際協力関係が強まっている中、日本は国際共同しているパテントファミリーの割合が他の主要国と比較して最も低い状況です。このことは国際共著の数が他国と比べると低いことにも表れています。「科学技術指標2020」によれば、2018年の日本の国際共著論文数は29,047本(国内論文数は53,680本)ですが、アメリカは174,288本(国内209,218本)、中国は106,985本(国内290,580本)と圧倒的な数の差が出ています
  国外の研究者あるいは研究機関とも協業できるクリエイティブな人材を増やしていくことが重要という点では先の人材育成の必要性にもつながっています。また、近年にはヨーロッパを中心に研究成果を広く利用可能にしようとするオープンサイエンスに向けた動きが加速しています。
  この流れを受け、日本でも内閣府がオープンサイエンスに関する検討を行い、公的研究資金による研究成果のうち、論文と研究データは原則公開とすべきとの方針が示されました
  しかし、2020年5月に公開された「研究データ公開と論⽂のオープンアクセスに関する実態調査2018」によると、調査時点では研究者のデータ公開に対する懸念は依然として高く、データを公開するための資源の不足感も強いことが浮き彫りになっています。
研究資金の分配:
  総務省の科学技術研究調査によると2019年度の科学技術研究費の総額は、19兆5757億円と過去最高となっていました。しかし、ここでもアメリカと中国の研究費とは圧倒的な差があり、中国の半分にも満たない状況です。しかも、この研究費の内容を見ると競争的資金(プロジェクト型予算)の比重が増えている一方で、運営費交付金という研究環境を支える資金が減少していることが、研究環境に悪影響を及ぼしているとされています。
  政府が拠出する研究費は増えていても研究者の自由な研究を支える研究費が減少しているという状況となっているのです。
今後の課題と科学技術基本計画
  論文発表数は、研究費つまり投資額と比例すると言われるほど、科学技術やイノベーションを発展させるためには安定した研究投資が必要です。
  高齢化にともなう社会保障費やコロナ対策費などの増加により研究資金の確保が難しくなることは予想されますが、世界に競合できる技術を開発し、社会に役立つ科学を発展させるためには財源の見直しも必要となるでしょう。
  科学技術白書には「研究成果を効率的に最⼤化する仕組みを検討することが望まれる。また、⽇本の研究者によるオープンサイエンスの実施と認識が今後どのように変化していくのかを継続的に調査する(概要より抜粋)」と書かれています。実質的には、2020年8月  後半には内閣府の総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会において「科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)」がまとめられ、これをもとに今年度から始まる「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の策定に向けた検討が進められています。
  「ウィズ・コロナ」の世界でどのように日本の科学技術力を高めていくか。科学技術研究の推進、新たなイノベーションの創出に向け、制度の見直しや問題の解決、産学連携強化など、山積する課題への対策が急がれます。
  なお、科学技術・イノベーション基本法に基づく政策を総合的かつ計画的に推進するための「第6期科学技術・イノベーション基本計画答申素案についての意見募集が行われています。
  令和3年度からの基本計画の取りまとめに意見できる機会です。答申は3月の予定、意見提出は1月20日から2月10日までとなっていますので日本の科学技術の発展をかけて声を挙げてみませんか。詳細はこちら <https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20210120.html>







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