日本研究の灯-1
2023.10.30-朝日新聞-https://www.asahi.com/articles/ASRBZ5GYRRBZOXIE002.html?iref=comtop_Topnews2_03
南極観測隊に初の女性隊長 1次隊から68年、来秋出発の66次隊で
(中山由美)
南極地域観測統合推進本部は30日の総会で、
66次観測隊の隊長兼夏隊長を東京大学の原田尚美教授(56)に決定した。1956年11月に1次隊が出発して以来、女性の隊長は初めて。66次隊は来秋出発する。
原田さんは、同大大気海洋研究所国際・地域連携研究センターに所属。
観測隊史上2人目の女性隊員として、33次夏隊(91~92年)で初めて南極を訪れた。
2018年11月出発の60次隊では、女性初の副隊長(兼夏隊長)を務めた。
原田さんは「
66次隊は、しらせの復路で多くの海洋観測が計画されていることから、隊長に選んでいただいたと思う。
観測も、昭和基地での輸送や設営も、全体を見渡しながら取り残す仕事がないようがんばりたい」と話す。
同日急きょ開かれた会見では「女性だとやりにくいと思う隊員もいるかもしれない。でもコミュニケーションをとって『この人だったら大丈夫』と思ってもらえるような信頼関係をつくっていきたい」と話していた。
専門は生物地球化学、古海洋学。就職した海洋研究開発機構では、海底の堆積(たいせき)物から過去の海洋環境を研究し、北極海にも赴いた。昨年6月、東大同センターに着任した。
66次隊の副隊長兼越冬隊長は、気象庁大気海洋部環境・海洋気象課南極観測事務室の藤田建(たつる)・主任技術専門官(53)に決まった。気象庁から選ばれた越冬隊長は6人目。
(中山由美)
2023.10.04-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231004/k10014214791000.html
半導体や蓄電池などの工場用地確保へ 規制緩和に向け調整 政府
経済安全保障上、重要とされる半導体や蓄電池などの工場の立地を後押ししようと、
政府は、開発が制限されている市街化調整区域でも、自治体が建設を許可できるようにするなどの規制緩和を行う方向で調整を進めていることがわかりました。
政府は、半導体や蓄電池など経済安全保障上、重要な物資を安定的に確保しようと、国内での生産体制の強化を進めていますが、工場の用地をいかに確保するかが課題の一つとなっています。
こうした中で、政府は、半導体や蓄電池など重要な物資の工場の建設にあたっては、土地利用に関する規制を緩和する方向で調整を進めていることがわかりました。具体的には、開発が規制されている「市街化調整区域」でも、自治体が建設を許可できるようにするほか、農地を転用する際に通常1年ほどかかる手続きを4か月程度に短縮することなどを検討しているということです。
4日に総理大臣官邸で開かれる投資拡大に向けたフォーラムで、岸田総理大臣が土地利用の規制緩和に取り組む意向を表明する方針で、
政府は、今月末までにまとめる新たな経済対策に盛り込む方向で調整を急ぐことにしています。
2023.08,11-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20230811-4HZ74ZHSRBOQBGCQTMEW77EKXQ/
〈独自〉東大に研究インテリジェンス組織新設 情報戦で国際競争力強化
東京大(東京都文京区)が、将来性のある研究課題の探索や研究者の確保などを念頭に情報の収集分析を行う研究インテリジェンス組織を今年度中に新設することが分かった
。情報の収集分析を専門とした大学の組織は極めて異例。研究分野における
「情報戦」での優位を国際競争力の強化につなげ、世界トップレベルの研究拠点として国内外を先導する。
東大関係者によると、新組織は藤井輝夫総長が主導して10人ほどで立ち上げ、数十人規模への拡充を目指す。兼任を含む学内の教職員や高度専門人材らで構成し、外部からの人材登用も視野に入れる。来年度予算では人件費として3千万円程度を見込む。
新組織では多様な公開情報に加え、学会をはじめとした研究者の会合に要員を派遣するなどして、国内外の研究および研究者の動向に関する最先端の情報を継続的に収集。同時に東大所属の研究者が研究している内容の把握にも努める。対象分野は理学や工学に限らず、人文、社会科学を含むすべての分野に及ぶ。
近年、世界最高水準の研究力を維持するためには、各分野の専門家が集まって新たな研究領域を開拓したり、新たな研究の萌芽(ほうが)を見いだしたりする必要性が指摘されている。東大は、低迷する国内の研究活動を活性化させるため、政府が立ち上げた「国際卓越研究大学」への認定を見据えながら、研究分野のグローバルな動向を把握。同時に、他大学などに先行して、将来有望な研究者や学生らの確保を目指す。
藤井総長は新組織の在り方について
「(動向などを)かなり突っ込んで見ることができる組織が作れればいい。目利き的な人が補っていくと思う」と話す。分析結果は、東大における学生の教育や他大学との連携に加え、東大の研究者が研究の方向性を考えるためにも活用される見通し。
■インテリジェンス 国家安全保障をはじめとした意思決定を支援するために情報を収集、分析する仕組みや、その結果として得られた情勢評価などの知識。情勢評価の柱としては、事実確認や背景分析、将来予測が挙げられる。
国家安全保障に関わるインテリジェンス組織としては、内閣情報調査室や米国のCIA(中央情報局)などが知られる。
2023.04.04-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/lnews/mito/20230404/1070020494.html
筑波大学など10校「国際卓越研究大学」申請
国が公募していた10兆円規模の基金を活用し世界トップレベルの研究力などが期待される大学を支援する「国際卓越研究大学」について、
筑波大学など10校が申請し、文部科学省は、ことし秋にかけて段階的に絞り込むことにしています。
「国際卓越研究大学」は、
大学の研究レベルを高め、技術革新を生み出すことで社会の課題解決につなげようと、国が10兆円規模の基金を活用して支援する大学で、文部科学省は今後、数校を認定する計画です。
公募の結果、
茨城県つくば市にある筑波大学のほか、早稲田大学、東京工業大学と東京医科歯科大学が統合を目指している「仮称・東京科学大学」、名古屋大学、京都大学、東京大学、東京理科大学、九州大学、東北大学、大阪大学の合わせて10校から申請があったということです。
文部科学省は、これまでの実績のほか、将来のビジョンも加味して大学を認定する方針で、最長25年にわたる大学の目標や計画についても重視するとしています。審査は、海外の研究力が高い大学の学長経験者などからなるメンバー10人でつくる有識者会議の場で行われ、ことしの秋にかけて段階的に絞り込むことにしています。
また
「国際卓越研究大学」に認定された大学への支援は、来年度から始める予定です。
永岡文部科学大臣は4日の閣議後の会見で「
世界最高水準の大学実現に向けた挑戦的な計画になっているか、しっかりと確認したい」と話していました。
2022.07.27-高知新聞-https://www.kochinews.co.jp/article/detail/581650
【鉄道存廃協議】住民巻き込む議論を-
高知のニュース 社説
利用実績が乏しい地方鉄道を巡って、存廃を含めた在り方を協議する新たなルールが示された。
利用実績で一定条件を満たさない区間を対象に、
国の主導で事業者と自治体の地域協議会を設けるよう、国土交通省の有識者検討会が提言した。協議会はバスへの転換などを検討し、
3年以内に結論を出す。「
廃線ありきではない」としている。
国交省は2023年度から対象地域での協議入りを目指すという。
提言の背景にあるのは、
人口減少や新型コロナウイルス禍による利用低迷で、
鉄道事業者の経営が悪化していることだ。
JR四国や北海道はもともと、国鉄民営化当時から経営構造が厳しく、基金運用益など国の支援で成り立っているのが実情だ。
一方、ドル箱路線や新幹線、不動産事業など収益力があるJR東日本、東海、西日本の大手各社も22年3月期まで2期連続赤字となった。都市部の収益で赤字ローカル線を支える構図が崩れつつあり、提言につながったとみられる。
JR四国や北海道と大手には売上高で数十倍の開きがあり、経営条件が異なる中での一律的な扱いには違和感が残る。ただ、地方の反発も予想される中で出した提言は、取り巻く状況の深刻さを物語る。重く受け止めなければなるまい。
提言は、国が協議の音頭を取る形とした。自治体側は廃線を提案されることを懸念し、鉄道会社との協議に消極的になることが多いためだ。
一方、鉄道は地域の生活や観光に直結する。交通ネットワークの一部でもあり1区間、1地域のみで価値を測ることもできない。自治体が及び腰になるのもやむを得ない。
今回示された条件でJR四国管内では、予土線の若井―北宇和島など4区間が該当した。
現時点では協議会の参加が強制かどうか不明だが、義務でなければ、地元にとって参加の諾否が、まず大きな判断になる。地元の責任をどう果たすか問われる。
予土線を巡っては、これまでも存廃論議が取りざたされ、県内の首長らは、国が国鉄民営化を進めた歴史から「路線維持は国の責任」と強調してきた。その主張を貫くのか、時代の変化に合わせて軟化させる余地があるのか、整理も必要だ。
協議入りすれば、代替案でバス利用が挙がる。バスは運行コストが抑えられ、停車する場所、本数も増やすことができる。一方で所要時間がかかるなどの長短がある。
情緒や歴史、地域の誇りなども含めて「鉄道」にこだわるのか。実務的な移動手段があれば構わないのか。それらを考える前提として、地域がどうありたいのか、負担はどこまでできるのかといった議論が重要だ。「拙速な結論」と言われないためには、住民を巻き込み、納得するまで話し合う作業が欠かせない。
今回の提言は第三セクター鉄道は対象外とした。総じてJRより経営環境が厳しい三セク鉄道の在り方も同時に考えていく必要がある。
高知のニュース 社説
2021.10.25-Wedge Infinty-https://wedge.ismedia.jp/articles/-/24598
いつか必ず訪れる台湾海峡危機 日本は覚悟と備えを持て
武居智久 (日本戦略研究フォーラム(JFSS)顧問)
(1)
「
中国が6年以内に台湾に武力を行使する危険性が高まっている」。今年3月、米国のデービッドソン前インド太平洋軍司令官がこう発言し、世界に緊張が走った。米軍内にそうした「危機感がある」ことは、紛れもない事実だろう。
4月の日米首脳会談後の共同声明には、52年ぶりに「
台湾海峡の平和と安定」が明記され、それに呼応するように欧州諸国がインド太平洋地域への関与を強めた。多くの国で「最悪の事態」が想定され、備えが進んでいる。
国際社会がこれほど敏感に察している危機を、日本が傍観するわけにはいかない──。そんな思いから開催されたのが、
日本戦略研究フォーラム(JFSS)主催の政策シミュレーション「
徹底検証:台湾海峡危機 日本はいかに抑止し対処すべきか」だ。国会議員や外交・安全保障の専門家、元自衛隊幹部など総勢18人がリアルなシナリオに基づきシミュレーションを行い、その反省と教訓から政策提言を行った。
「
台湾有事となればじっくり考えている暇はない。スポーツと同様、日頃からの練習と訓練が物を言う。現状、日本では今回のようなシミュレーションはおろか『座学』さえ満足にできていない」。参加者の一人、元内閣官房副長官補・兼原信克氏の言葉が重くのしかかる。
台湾有事とは日本有事である──。日本は戦後、米国に全てを委ねて安住してきたが、もういい加減、空想的平和主義から決別し、現実味を帯びてきた台湾有事に備えなければならない。
東京・市ヶ谷の防衛省前にある日本戦略研究フォーラム(JFSS)は小さなシンクタンクである。しかし志は高く、かねてより民間レベルで台湾との交流を行い、5年前からは台湾軍(中華民国軍)の現役士官を研修生として受け入れ、日台間の安全保障交流の重要性を機会ある度に政治に対して提言するなど、安全保障における
日台関係の緊密化に努めてきた。
昨年秋、JFSSは
台湾海峡危機が高まる中で我が国が安全保障問題にリアルに取り組むために、政治と国民の意識を啓蒙することを目的に
台湾海峡危機に関する政策シミュレーションを行うことを決め、プロジェクトを立ち上げた。
その後、今年3月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同文書が10年ぶりに台湾海峡の平和と安定について中国を名指しして言及し、4月の日米首脳会談、そして6月の先進国首脳会談でも台湾海峡の平和と安定が盛り込まれたことで、日本ばかりでなく世界で
台湾海峡危機への関心が高まった。これはJFSSにとって望ましい変化であった。
(2)
〝近くて遠い〟日本と台湾 初歩的交流すらままならない
米国の戦略コミュニティーで対中政策と対台湾政策のあり方が積極的に議論される一方で、我が国では台湾海峡に関する危機感が共有されず、政府は従来の政策を基本的に変えるに至っていない。
政策は時折エキセントリックに適用される場合があるが、1972年に我が国が台湾と断交してから約50年にわたり、各省庁で政策立案に携わる官僚の台湾訪問が制限される状況が続いている。とりわけ防衛省では初歩的な防衛交流すら禁じられてきたことで、台湾の安全保障政策に関する知見が不足するとともに、台湾そのものに対する感度が低くなっているのではないか、との懸念は尽きない。
かつて司馬遼太郎は台湾を「矛盾が幾重にも重なっている島」と書き、また「多くの人々が台湾の持つ苦悩についての知識をさほどに持っていない」と述べたことがある。数百年間にわたって外部からの侵入者が島を支配する歴史が終わり、台湾出身の李登輝総統による台湾人のための政治が始まったばかりの頃であった。李総統は司馬との対談の中で「台湾のために何もできない悲哀がかつてありました」と過去形で語っている。困難ではあるが今は希望がある、そういう感慨が過去形の中に含まれていたと思われる。
台湾は88年から民主化を足早に進め、すでに西側の基準から言っても申し分のない民主共和制の〝国家〟であり、大陸中国とは全く違う政治体制の国となっている。脊梁(せきりょう)山脈が南北に走る九州の8割ほどの小ぶりの島に九州の人口の倍近い約2300万人が住み、国民一人あたりの購買力平価は日本より高く、世界の6割以上の半導体を生産するデジタル工業国である。
しかし、今後の台湾が台湾人ばかりの島となり、今後どのように経済的に繁栄しても、彼らには進む道を自ら選ぶ自由は限られている。世界はひたすら台湾海峡の現状を維持することを望み、台湾の独立を認める気配はない。台湾の安全保障は台湾人やその指導者の意思ではなく、台湾を守るという米国の暗黙のコミットメントの上に成り立っていると主張する米専門家もいる。他方で北京は、台湾と外交関係のある国々を経済力で威し、ひとつまたひとつと台湾から引き剥がしている。
世論調査によれば、台湾の大半の人は現状維持を望んでおり独立は望んでいない。しかしそれは中国との統一を望むことと同義ではない。李総統の言った「台湾のために何もできない悲哀」はまだ基本的に続いているのではないか。
今回の政策シミュレーションに向けてシナリオを作成するために文献を読み漁るうちに、台湾独立を標榜してきた民進党主席でありながら、現状維持を唱道せざるを得ない蔡英文総統や台湾の人々の解決しようのない閉塞感を知り、胸が締め付けられた。台湾海峡危機に対する我が国の安全保障を考える目的で始めたシミュレーションだったが、我々にとって台湾政策の根本的なあり方を考える良い機会となった。
(3)
バーチャルからリアルな危機へ シミュレーションを行う意義
いかなる形にせよ台湾海峡の平和が損なわれる事態は必ず我が国に波及する。かかる事態が生起したとき安全保障、経済安全保障、国民生活にいかなる影響を及ぼすのか。その影響を最小限に抑えるためには平素からどのような備えが必要か。シナリオをデザインするにあたって、我が国が抱える課題を可能な限り「見える化」できるようにするため、95年の第3次台湾海峡危機を参考にし、事態の烈度と規模を変えた
4種類のシナリオ──
①グレーゾーン事態が長期間継続する事態、
②台湾全島が物理的かつ通信情報的に隔離される事態、
③中国が十分な準備を整えて全面的に武力侵攻する事態、そして
④中台紛争の終戦工作──を作成した。
最も重視した点は、
2015年の平和安全法制が台湾海峡危機に関連する事態にどのように機能するか、また関連する制度や計画に欠落などがないかを検証することだ。安倍晋三政権によって我が国の安全保障政策はバーチャルからリアルの世界に入った。
国家安全保障戦略や平和安全法制は安全保障上の事態に対応できる法制を整え、米軍の武器等防護(自衛隊法第95条の2)などすでに実施に移されている項目がある。その一方で、先島諸島や南西諸島の広域国民保護、台湾からの邦人救出と輸送など、実効化措置が十分ではない項目が少なからず残されている。すべての国家機能を安全保障上の事態に効率的に使用するための事態認定は、政府として演習されていない。したがって、今回のシミュレーションは既存の政策を検証し問題点や改善点を見つけ出す形式とした。
シミュレーション当日は、退官して間もない官僚と自衛隊の将官、現職国会議員など、それぞれの分野で経験豊かなプレイヤーが役割に徹して活発に議論を重ねた結果、台湾海峡危機に関する我が国の安全保障政策について多くの課題を浮き彫りにすることができた。細部はJFSSの報告書に譲るが、特に次の三つの点を強調したい。
第一は、安全保障法制や防衛諸計画に関係者が継続して習熟する必要性である。
プレイヤーには安全保障政策に造詣の深い人々が参加したが、それでも事態認定に逡巡する場面があった。どのように優れた法律であったとしても運用する者が必要な知識と経験を欠いていれば十分に使いこなすことはできない。それ以上に、法律が目指した精神的で哲学的な部分を知らなければ、法律の文面に拘泥するあまり本質を見失ってしまう危険がある。危機管理に関わる閣僚と官僚が政策シミュレーションなどによって安全保障法制の細部にわたって習熟しておくことは危機管理として重要である。
第二は、台湾海峡危機の抑止や対処には国民のコンセンサスが必要なことである。
我が国の経済界には、中国との関係を平和的に維持することに対する強い要望がある。しかし、日本の平和と安全が脅かされた場合に、経済界を含めた国民全体のコンセンサスが働けば、政府が束縛なく意思決定できるばかりか、事態をエスカレートさせない抑止力になる。経済界や国民に安全保障政策を理解してもらうため、必要な施策化が急がれる。
第三は、経済界が台湾海峡危機に正面から取り組まなければならない、ということである。
中国には約1万3600社の日系企業が進出している。在住者約11万人の多くはビジネスマンと家族だ。言うまでもなく、全企業と日本人は中国政府の監視下に置かれ、日中間で政治的な緊張が高まればいつでもハラスメント対象となる。経済界には台湾海峡危機への備えと覚悟が不可欠である。
(4)
露呈した日本の準備不足 台湾の戦略的価値を認識せよ
米国では中国が台湾に全面的に武力侵攻する蓋然性は高くないとの見方が強い。しかし、習近平国家主席が任期中での統一を示唆する発言を強め、国際約束を反故にして香港に国家安全維持法を適用し、西側の批判を無視して新疆ウイグル自治区の民族浄化を進めてきた事実からも、習氏の発言をレトリック(巧みな弁術論)だと片付けるべきではない。また、中国の台湾侵攻の判断が、「実際の勝利の可能性」よりも「中国指導部が考える勝利の可能性」に対する認識が重要になるという見方は少数ではなくなっている。
台湾が中国の手に落ちれば中国は世界の半導体生産の6割を手にし、世界経済を支配する。戦略ミサイル原子力潜水艦がバシー海峡を自由に通航できるようになれば、世界の戦略核バランスは大きく崩れる。我が国は台湾の戦略的価値を改めて認識すべきだ。
何よりも今回の政策シミュレーションが我が国の台湾海峡危機への準備不足を浮き彫りにしたことは大きな成果であった。
武居智久 (日本戦略研究フォーラム(JFSS)顧問)
2021.02.01-enago academy-https://www.enago.jp/academy/japanese-researcher-look-out-in-2021/
2021年 日本の科学技術の発展をかけて声を挙げよう
日本が「科学技術立国」と言われていたのはいつの日か――近年は、
論文発表数では中国に遅れをとり、世界大学ランキングでは日本の大学の存在感が薄れていると指摘されるなど、
日本の基礎研究力の低下が問題視されています。管総理は、社会のデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)を政権の最重要課題としていますが、その基礎となるのは科学技術力です。2021年、日本の科学技術はどうなっていくのでしょうか。
日本の科学技術の現状
日本は世界トップクラスの科学技術力を誇ってきました。
2000年以降、17年間で17人のノーベル賞受賞者を輩出してきた実績もあります。しかし、2000年代に入ると国の研究開発力を示す指標の一つとされる論文発表数は減少に転じ、論文数およびトップ10%補正論文数(被引用数が上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の10分の1となるように補正を加えた論文の数)の世界ランクもほとんどの分野において低下傾向を示すに至っています。
文部科学省科学技術・学術政策研究所がまとめた「
科学技術指標2020」には、自然科学分野の論文本数(2016~18年の年平均)で中国が米国を抜き、初の首位となったことが記されています。日本は前回(2010年)調査から順位を下げて4位となっています。
2018年の
worldbank.org調査データに基づく分析よると、科学技術論文誌に掲載された日本の論文数は、98,793本。このときの世界順位は、中国、アメリカ、インド、ドイツに次ぐ5位。日本の論文発表数が横ばいなのに対し、
中国、インドといった国の発表数が相対的に増加していることで順位を下げた結果となっています。
2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大で、働き方および医療管理の両面で社会のIT化の必要性が急拡大しました。
この傾向は2021年も継続し、loTやAIの発展にともなう大きな変革が進むと考えられます。また、地球規模の温暖化対策として、エネルギーおよび産業構造における新しいイノベーションも不可欠と言われています。
社会に役立つ科学、社会のための科学の発展への期待が高まっている裏で、先述の論文数の順位の低下だけでなく、科学技術研究に従事する研究者や学生の数の減少が懸念されています。日本の科学技術研究は、厳しい状況に置かれているのです。
日本が直面している問題
日本の科学界が直面している問題を3つあげてみます。
若手研究者の研究環境整備と人材の育成:
世界的なパンデミックのように一国だけでは解決できない問題が起こる時代、各国が科学技術研究で鎬(しのぎ)を削るのではなく「
競争から共生へ」の移行が必要とされています。
科学技術やイノベーションを発展させるには新たな価値を生み出す人材の育成が必須です。これは世界的な共通課題でもあり、アメリカをはじめとした海外でも博士課程に進む人口が減少している上、コロナによる渡航禁止処置が取られていることで研究者の国際的流動が制限されています。
日本では、急速な高齢化の進行により大学・大学院に進む人口が減少していることに加え、
修士から博士課程に進学して博士号を取得する割合が少ないこと、
先進国と比べて少ない博士号取得者がその技能を活かせる職に就きにくいことなどが問題視されています。
大学でも人件費の圧迫により、雇用機会獲得の競争が激しくなっているだけでなく、安定雇用される常勤の教職員枠が減少し、任期付きで雇用される不安定な若手研究者が増加しています。さらに昨年からのCOVID-19の影響で修学に支障をきたすおそれのある学生も増えているので、
経済的理由で修学・進学を断念することのないように支援することも必要です。研究者の雇用を守り、研究に従事できる環境を整えていくことが不可欠です。
研究論文数の低下:
科学技術白書にも、論文数をはじめとしたいくつかの指標において日本の科学技術の力が相対的に低下していることが示されています。
論文の数、質の両観点から国際的な地位の低下、国際共著論文数の伸び悩み等において、諸外国に比べ相対的に低下していることが課題となっています。
特に、
注目度の高い論文の発表数において順位の低さが顕著であること、
国際的に注目を集める研究領域への日本の参画状況が低下傾向にあることが指摘されています。
実際、世界でパテントファミリー(2か国以上への特許出願)における国際協力関係が強まっている中、
日本は国際共同しているパテントファミリーの割合が他の主要国と比較して最も低い状況です。このことは国際共著の数が他国と比べると低いことにも表れています。「
科学技術指標2020」によれば、2018年の日本の
国際共著論文数は29,047本(国内論文数は53,680本)ですが、アメリカは174,288本(国内209,218本)、中国は106,985本(国内290,580本)と圧倒的な数の差が出ています。
国外の研究者あるいは研究機関とも協業できるクリエイティブな人材を増やしていくことが重要という点では先の人材育成の必要性にもつながっています。また、
近年にはヨーロッパを中心に研究成果を広く利用可能にしようとするオープンサイエンスに向けた動きが加速しています。
この流れを受け、
日本でも内閣府がオープンサイエンスに関する検討を行い、公的研究資金による研究成果のうち、論文と研究データは原則公開とすべきとの方針が示されました。
しかし、2020年5月に公開された「
研究データ公開と論⽂のオープンアクセスに関する実態調査2018」によると、調査時点では研究者のデータ公開に対する懸念は依然として高く、データを公開するための資源の不足感も強いことが浮き彫りになっています。
研究資金の分配:
総務省の科学技術研究調査によると2019年度の科学技術研究費の総額は、19兆5757億円と過去最高となっていました。しかし、ここでもアメリカと中国の研究費とは
圧倒的な差があり、中国の半分にも満たない状況です。しかも、この
研究費の内容を見ると競争的資金(プロジェクト型予算)の比重が増えている一方で、運営費交付金という研究環境を支える資金が減少していることが、研究環境に悪影響を及ぼしているとされています。
政府が拠出する研究費は増えていても研究者の自由な研究を支える研究費が減少しているという状況となっているのです。
今後の課題と科学技術基本計画
論文発表数は、研究費つまり投資額と比例すると言われるほど、科学技術やイノベーションを発展させるためには安定した研究投資が必要です。
高齢化にともなう社会保障費やコロナ対策費などの増加により研究資金の確保が難しくなることは予想されますが、
世界に競合できる技術を開発し、社会に役立つ科学を発展させるためには財源の見直しも必要となるでしょう。
科学技術白書には
「研究成果を効率的に最⼤化する仕組みを検討することが望まれる。また、⽇本の研究者によるオープンサイエンスの実施と認識が今後どのように変化していくのかを継続的に調査する(概要より抜粋)」と書かれています。実質的には、2020年8月 後半には内閣府の総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会において「
科学技術・イノベーション基本計画の検討の方向性(案)」がまとめられ、これをもとに今年度から始まる「
第6期科学技術・イノベーション基本計画」の策定に向けた検討が進められています。
「ウィズ・コロナ」の世界でどのように日本の科学技術力を高めていくか。科学技術研究の推進、新たなイノベーションの創出に向け、制度の見直しや問題の解決、産学連携強化など、山積する課題への対策が急がれます。
なお、
科学技術・イノベーション基本法に基づく政策を総合的かつ計画的に推進するための「
第6期科学技術・イノベーション基本計画」
答申素案についての意見募集が行われています。
令和3年度からの基本計画の取りまとめに意見できる機会です。答申は3月の予定、意見提出は1月20日から2月10日までとなっていますので日本の科学技術の発展をかけて声を挙げてみませんか。詳細は
こちら <https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20210120.html>
2005.06.30-日本共産党(しんぶん赤旗)-https://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-06-30/05063012faq_0.html
ネオナチとは何ですか?
〈問い〉 靖国問題とかかわって、日本における「ネオナチ」的存在といわれますが、
そもそもネオナチとはどういうものですか?(広島・一読者)
〈答え〉 ドイツでは1933年~1945年にかけてナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)が独裁を敷き、ユダヤ人大量虐殺や侵略戦争を推し進めました。この歴史を正当化する勢力が
ネオ(新)ナチです。
「社会主義」を党名に掲げたのは国民の味方であることを装うためでした。総選挙で第一党になり、33年1月に党首のヒトラーが首相に就任すると、共産党や社会民主党議員の議席をはく奪して、独裁権力を握りました。39年にはポーランドに侵攻し、第2次世界大戦を始めました。アウシュビッツなどの強制収容所で殺されたユダヤ人は約600万人とみられています。
戦後ドイツはナチスの行為を反省しました。
西独の憲法として制定された基本法(90年の東西統一後はドイツ全体の憲法)は「欧州の一員」「世界平和」「人間の尊厳」を掲げ、侵略戦争を違法とし、この秩序を破壊しようとする団体の結成や宣伝活動は法で禁止されました。
西独で元ナチス幹部を中心に「帝国の再興」を目指して結成された「社会主義帝国党」は52年に憲法裁判所の判決で禁止されました。
ネオナチや極右政党などを監視している役所、憲法擁護庁の04年版報告によると、ネオナチは87団体、3800人、極右政党は3党(共和党、ドイツ国民連合、国家民主党)、2万3800人、極右組織全体では168団体、4万1900人です。
同庁は、ナチスの思想を公然と掲げるネオナチと一応合法政党である極右政党を区別していますが、人種差別、ナチスの犯罪の正当化という点は共通しているとしています。
例えば国家民主党はナチスの体制を意味する「民族共同体」の復興を方針にし、「ナチズムは民族のアイデンティティーを実現した」(フォークト党首)などと主張しています。(俊)