(その実態問題)
外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律出典:
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外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年11月28日法律第89号)は、技能実習に関し、基本理念を定め、国等の
責務を明らかにするとともに、技能実習計画の認定及び監理団体の許可の制度を設けること等により、出入国管理及び難民認定法その他の出入国に
関する法令及び労働基準法
、労働安全衛生法その他の労働に関する法令と相まって、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって
人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進することを目的とする
[1]日本
の法律である。略称は、
外国人技能実習法。
法律の趣旨および要点
技能実習制度は、開発途上地域等への技能等の移転を図り、その経済発展を担う人づくりに協力することを目的とする制度として、我が国の国際貢献に
おいて重要な役割を果たしているが、一方で、同制度に関しては、制度の趣旨を理解せず、国内の人手不足を補う安価な労働力の確保策として
使われており、その結果、労働関係法令の違反や人権侵害が生じている等の指摘があり、指摘されている問題点の改善を行い、制度の趣旨に
沿った運用の確保を図る必要がある。また、こうした制度の適正化を前提に、この制度の活用を促進するため、制度の拡充を図ることも求められている。
そこで、技能実習を実施する実習実施者やその実施を監理する監理団体に対し必要な規制を設け、管理監督体制を強化するとともに、技能実習生
の保護に係る措置等を定め、あわせて優良な実習実施者や監理団体に対してはより高度な技能実習の実施を可能とするため、本法律が制定された。
法律の要点として、
第一に、技能実習の基本理念及び関係者の責務を定めるとともに、技能実習に関し基本方針を策定。
第二に、実習実施者が、技能実習生ごとに、かつ、技能実習の段階ごとに作成する技能実習計画について、主務大臣の認定を受ける仕組みを設けた上、
修得した技能等の評価を行うこととすること等により、制度の趣旨に沿った運用の確保を図ること。
第三に、実習実施者及び監理団体が、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護について重要な役割を果たすことに鑑み、実施の届け出及び
監理団体の許可の制度を設けるとともに、これらの者に対する主務大臣の立入検査、改善命令、許可取り消し等の権限を定め、技能実習制度の
適正化を図ること。
第四に、技能実習生に対する人権侵害行為等について、禁止規定を設け、違反に対する所要の罰則を規定すること等により、技能実習生の保護を図る。
第五に、外国人技能実習機構を認可法人として新設する枠組みを設け、技能実習計画の認定及び監理団体の許可に関する事務、実習実施者及び
監理団体に対する実地検査、技能実習生に対する相談及び援助等を行わせる。
第六に、制度拡充の一環として、現在、技能実習は二段階となっていますが、新たに第三段階を設け、第二段階の目標を達成した者は、この第三段階
に進み、優良な実習実施者及び監理団体のもとで、より高度な技能実習を行うことを可能にすること。
このほか、所要の規定の整備を行う。
[3]
政府案に対して、衆議院において一部修正が行われている。
第一に、技能実習計画に記載すべき技能実習生の待遇の内容として、報酬、労働時間、休日、休暇、宿泊施設、技能実習生が負担する食費及び
居住費を明記するとともに、主務大臣が技能実習計画を認定する際の基準として、技能実習生に対する報酬の額が日本人が従事する場合の報酬
の額と同等以上であることを明記。
第二に、外国人技能実習機構の業務として、技能実習を行うことが困難となった技能実習生であって引き続き技能実習を行うことを希望するものが
技能実習を行うことができるよう、技能実習生からの相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うとともに、実習実施者、監理団体
その他関係者に対する必要な指導及び助言を行う業務を明記
第三に、施行期日を「平成28年3月31日までの間において政令で定める日」から「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」
に改めるとともに、その他所要の規定を整理。
[5]
技能実習制度
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技能実習制度および
外国人研修制度とは、1993年(平成5年)に導入され、「技能実習」や「研修」の在留資格で
日本に在留する外国人が報酬を伴う
技能実習、或いは研修を行う制度である。ただ中身について、劣悪な労働環境に置かれるなど人権上の問題が指摘されている
[1][2]。
理念と基本枠組み
「外国人研修生」は、民営または国公営の送出し機関から送出されて来日し、日本側の受入れ機関において研修する。研修生の滞在期間は、基本的には
1年以内である。開発途上国への技術移転を確実に行うため研修計画が作成され、研修生はこれにそって研修する。その後、日本の
技能検定基礎2級
相当に合格する等、所定の要件を満たした場合には、同一機関(会社)で実践的な技術習得のために雇用関係の下で更に2年間滞在することが
可能となる。
これを技能実習といい、研修・技能実習と合わせると最長3年間の滞在期間となる。
受入れ方式は大きく二種類に分かれ、事業協同組合や商工会議所等がそのメンバーである企業等と協力して行う研修生を受入れる形態を「団体監理型」
といい、受入れ機関の合弁企業・現地法人・一定の取引先企業等から企業単独で受入れる形態を「企業単独型」という。受入れが可能な研修生数は、
原則として、受入れ企業の常勤職員20名に付き、研修生1名である。ただし、「団体監理型」では、受入れ可能な人員の枠が緩和されている。近年、
「団体監理型」による研修生の受入れが拡大しているが、問題点も多い。
技能実習制度に関する調査
日本政策金融公庫の調査によると、中小企業での外国人労働者は、賃金が安くて安価な労働法ではない。ただし技能実習生の賃金は低いものが多い
。
労働政策研究・研修機構が行った、2014年の帰国技能実習生フォローアップ調査「技能実習修了者に関する基礎的調査」では、技能実習2号を修了し、
2014年10月10日から11月30日までの間に帰国(予定を含む。)した6,274名を対象とし、技能実習生全体の99%以上を占める上位5カ国である、
中華人民共和国・
インドネシア・
タイ王国・
フィリピン・
ベトナム国籍の技能実習生を調査した。578件の回答を得、2015年3月31日時点での回答状況
は有効回答数が578 票(9.2%)。
調査対象者の属性(1) 技能実習タイプ別回答状況、技能実習タイプ別の回答者数は、「企業単独型」が9.2%、「団体監理型」が90.1%で、「団体監理型」
が多い。
来日前の技能実習生の状況
来日前の仕事(有効回答数578)来日前の仕事を尋ねたところ、「雇用されて働いていた」が83.6%で最も多く、以下、「仕事はしていなかった」(8.7%)、
「起業していた」(2.6%)などが多かった。
来日の目的、技能実習生として来日した目的を複数回答で尋ねたところ、「お金を稼ぐため」が74.2%で最も多く、以下、「技能の修得のため」(69.2%)、
「日本での生活を経験するため」(48.6%)などが多かった。技能実習の効果日本での技能実習は役立っているか、日本での技能実習が役立った
かどうかを尋ねたところ、「役に立った」という回答が98.4%、「役に立たなかった」が1.0%であった。
具体的にどのようなことが役に立ったのか具体的にどのようなことが役に立ったのか、複数回答で尋ねたところ、「修得した技能」が69.1%で最も多く、
以下、「日本での生活経験」(62.2%)、「日本語能力の修得」(60.8%)、「日本で貯めたお金」(59.4%)などとなっている。技能実習の具体的状況実習期間中
の賃金支払い状況技能実習中の賃金支払い状況を尋ねたところ、「契約どおり(又は契約より多く)支払われた」が94.1%で、「契約とは異なり
賃金は少なかった」は2.8%であった。
実習期間中禁止されていたこと、技能実習期間中に禁止されていた事項の有無を尋ねたところ、「なかった」という回答が92.2%、無回答が3.5%であった。
禁止されていた事項を見ると、「携帯電話の使用を禁止された」(3.3%)、「技能実習生だけで外出することを禁止された」(1.0%)、
「インターネットの使用を禁止された」(0.7%)などとなっている
。
龍谷大学の行ったベトナム人技能実習生に、日本のイメージを問うアンケート調査では、来日前には0%だった「あまり良くない」が、来日後には37%、
来日前に63%だった「良い」が、来日後8%にと、日本に対するイメージが悪化した、またアンケートの回答が「受け入れ先に報復されかねない」と、
多くの技能実習生が回答を断っていた
[54]。
制度の問題点
近年では、研修生の急増に比例するように、
人権蹂躙や事件が多発している。典型的な事例は、
パスポート取上げ、強制貯金、研修生の
時間外労働、
権利主張に対する強制帰国、非実務研修の未実施、保証金・違約金による身柄拘束、強制帰国を脅し文句に使って性行為を迫るような性暴力などで、
2006年には
トヨタ自動車の下請け企業23社での
最低賃金法違反、また岐阜県内の複数の縫製工場では時給300円で残業させていたことなどが
報道された。ただし、来日前の契約では研修生本人たちが進んでこの金額での労働に同意していた事実も数多く存在する
。
また、制度の趣旨と実態の乖離も指摘されている。いわゆる
3K職種など日本人労働者を確保できなかったり、
中華人民共和国などの外国製品との
価格競争にさらされている中小企業が、本来の目的である国際貢献ではなく、低賃金の労働力確保のために本制度を利用するケースが目立ち、
研修生の中にも技能修得ではなく「出稼ぎ」として来日する者がいる
[57]。
このほか、
1997年(
平成9年)、技能実習期間を1年から2年に延長するときの国会論議を契機に
KSD中小企業経営者福祉事業団(当時)と自民党議員
の贈収賄事件が発生した(
KSD事件)。
日立製作所とグループ会社10社の計11社12事業で
技能実習適正化法違反があるとして
外国人技能実習機構が改善勧告した。2018年4月~9月
実地検査をしたところ実習生に必須業務と異なる作業をさせていたり、給与が最低賃金を下回っていた
[58]。
批判
日本弁護士連合会は
2011年4月実習制度の早急な廃止を求める意見書を政府に提出するなどしている
。
愛知県弁護士会は抜本的改正を求める意見書を提出している
[74]。
外国人研修生問題弁護士連絡会は法改正に対する意見書を提出している
[75]。
外国人技能実習生問題弁護士連絡会(共同代表
指宿昭一)は
2017年1月27日「技能実習法に対する声明」を提出している
[76] 。
日本労働組合総連合会はその制度の本旨に合致する形で運用され、権利保護が適切にはかられるよう対応をはかるよう求めた
[77]。
日本国家公務員労働組合連合会は技能実習制度の抜本見直しと外国人労働政策の転換を求める意見書を政府に提出している
[78]。
全国労働組合総連合は
2016年7月28日、東京都霞ヶ関の厚生労働記者会で記者会見を開き、「外国人技能実習制度に関する提言」を発表した
技能実習生として来日しても、非熟練労働に従事しており日本にまで来る意味が薄い、気候風土や文化の違いなどで技術の転用が難しい、需要が無いか
既に供給過剰な技術である、など開発途上国等の経済発展に役立つとは言い難い事もある。
送り出し国の
中華人民共和国では、
裁縫業など安い労働力を武器にした労働集約型産業が限界を迎え、工場が
カンボジアなど
アジアの国々へ次々と
移転。工場用地の賃貸や誘致の紹介業など、
第三次産業に向かう経営者も現れるなど、
地場産業の
空洞化に直面している
[84][85]。送り出し国の
バングラデシュにある縫製工場では
2012年頃から
ドイツ製の機械を導入し手作業を減らし、
2017年には従業員がたまに機械を掃除し、
デザインの
プログラムを入力するだけで海外向け商品を生産できるようにするなど
ロボット化が進んでいる
[86]。人件費の安い発展途上国にシェアを取られたり
デフレーションや
不当廉売により人件費が抑圧された日本において技能実習生が低賃金労働力として機能していた面もあるが、発展途上国の
賃金上昇と円安に加え発展途上国同士の人材獲得競争や
ファクトリーオートメーションにより日本に実習しに行く意義は薄れつつある
。
実習には
転職の自由が無い、割増賃金の不払いや賃金が
最低賃金を下回るなど賃金不払い、
保証金の支払い、住環境の不備や高額な家賃や
家具家電レンタル料、
人権蹂躙が絶えず
[90]、
過労死を疑われる
突然死や
失踪も相次いでいる
。
技能実習生(1号)の行方不明者は、管理団体・実習実施機関がJITCOに報告する仕組みになっていないので把握できない
。
現行制度では
公益財団法人国際研修協力機構が国の委託事業として巡回指導を実施するが、法的拘束力が無く実効性が無
。
厚生労働省は、2017年度の監督指導を行った5,699事業所の内4,266事業所に労働基準関係法令違反を確認と発表4年連続で過去最多を記録した
。
法定労働時間超過1,566事業所、
労働安全衛生法違反1176件、
時間外労働の
割増賃金不払い945事業所(以上複数法令違反事業所を含む)。
法令違反悪質として
労働基準監督署が
送検したのは34件、法令違反として労基署に実習生が申し立てたケース125件
。
送検事案には、経営者らが逮捕される事案までも発生している
[129]。
法務省によると、2017年に「不正行為」を通知した機関は213機関で企業単独型による受け入れ3機関、団体監理型による受入れ209期間、類型別の
合計件数は299件。賃金の不払いが139件(46.5%)と最も多く、次いで,「不正行為」を隠蔽する目的での偽変造文書等を行使又は提出、講習や
技能実習を計画どおりに行わないことに関する「不正行為」73件(24.4%
)
法務省によると2018年6月時点で全国に約28万6000人外国人技能実習生がいる。
ベトナムなど12カ国では送り出し機関は認可制だが、
中国では認可が
必要なく、多額の手数料を取る業者が問題となっている。日本の
監理団体は国の許可制、営利目的でなく各企業に適正な実施を指導する
[143]。
法務省集計では2010年~2017年に174人が日本で死亡。事故、病気、自殺のほか死亡の経緯が不明の案件もある。技能実習生ら支援に向け厚生労働省
と法務省は2017年に認可法人「外国人技能実習機構」を設立。東京本部と全国事務所計14ヶ所で実習生や会社からの相談に応じている。
中国語、
ベトナム語など9ヵ国語対応。2018年12月までに約2200件の相談が寄せられた。同機構は会社と実習生をつなぐ監理団体の検査や指導
も行い、法令違反が認められれば国が業務停止を命じる
[144]。