医療他ー総合説明-1



1型糖尿病
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  1型糖尿病(ICD-10:E10)は、膵臓のβ細胞の破壊によるインスリンの欠乏を成因とする糖尿病である。以前は「インスリン依存型糖尿病」や「小児糖尿病」とも呼ばれていた。各種糖尿病のうち5-10%を1型が占めている

概説
  生活習慣病に分類されており、一般的に「糖尿病」と言ってイメージされる2型糖尿病とは異なり、1型糖尿病は生活習慣とは無関係の自己免疫性疾患などが原因とされ、原因は異なるが同じ糖尿病の病態を示す。膵臓にあるβ細胞は、血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンを分泌している。ところが、何らかの原因によりこのβ細胞が破壊されてしまうと、インスリンの分泌が極度に低下するか、ほとんど分泌されなくなり、糖尿病を発症する。インスリンが機能しないため血糖値が上昇し、糖尿病性昏睡などの急性のものから、糖尿病性腎症などの慢性のものまで、さまざまな合併症を引き起こし、最悪の場合死に至る。20世紀前半にインスリンが治療応用されるまでは、極度の食事制限を要する致死的疾患の一つであった。
  生活習慣病に分類されており、一般的に「糖尿病」と言ってイメージされる2型糖尿病とは異なり、1型糖尿病は生活習慣とは無関係の自己免疫性疾患などが原因とされ、原因は異なるが同じ糖尿病の病態を示す。膵臓にあるβ細胞は、血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンを分泌している。ところが、何らかの原因によりこのβ細胞が破壊されてしまうと、インスリンの分泌が極度に低下するか、ほとんど分泌されなくなり、糖尿病を発症する。インスリンが機能しないため血糖値が上昇し、糖尿病性昏睡などの急性のものから、糖尿病性腎症などの慢性のものまで、さまざまな合併症を引き起こし、最悪の場合死に至る。20世紀前半にインスリンが治療応用されるまでは、極度の食事制限を要する致死的疾患の一つであった。
  予防法は分かっていない。根治法はなく対症療法が行われる。経口血糖降下薬などの飲み薬は無効で、患者はかならず注射薬であるインスリンを常に携帯し、毎日自分で注射しなくてはならない。今日ではペン型注射器などが開発され、発症者の大半である小児でも自分で打ちやすくなった。
原因
  発症機序の詳細は不明であるが、遺伝因子と環境因子の相互作用の結果発症する自己免疫疾患と考えられており動物実験では腸内細菌叢の操作により発症および症状の進展を制御出来たとする報告がある。
発症原因やリスクに関わる研究例は
  ・自己免疫疾患の遺伝的素因(HLA-DR、DQ、PTPN22、CTLA-4など)
  ・自己抗体(ICA、抗GAD抗体、抗IA-2抗体、抗インスリン抗体など)
  ・分子模倣(コクサッキーBウイルスと抗GAD抗体の抗原であるグルタミン酸デカルボキシラーゼの相似性を根拠とする、そのほかエンテロウイルスEBウイルスがよく候補に挙げられる)
  ・乳児期の一過性の潜在性ビタミンD欠乏症が将来の発症リスクを3倍に上昇させる。
  1型糖尿病のハイリスク遺伝子を有する児に対して、早期に調整乳を曝露すると発症リスクが上昇する
  ・その一方で、1型糖尿病の一部には自己抗体が証明されず、膵臓にも炎症細胞の浸潤が証明されないものもある。これはあきらかに自己免疫性とは言えないものである。アジア、アフリカ人に多いとされるこの病型の原因についてはほとんど不明である。しかし、2型糖尿病を発症しインスリン療法による治療中に1型を発症する例もある
  予防法は分かっていない。根治法はなく対症療法が行われる。経口血糖降下薬などの飲み薬は無効で、患者はかならず注射薬であるインスリンを常に携帯し、毎日自分で注射しなくてはならない。今日ではペン型注射器などが開発され、発症者の大半である小児でも自分で打ちやすくなった。
原因
  発症機序の詳細は不明であるが、遺伝因子と環境因子の相互作用の結果発症する自己免疫疾患と考えられており[6] 動物実験では腸内細菌叢の操作により発症および症状の進展を制御出来たとする報告がある。
発症原因やリスクに関わる研究例は
  ・自己免疫疾患の遺伝的素因(HLA-DR、DQ、PTPN22、CTLA-4など)
  ・自己抗体(ICA、抗GAD抗体、抗IA-2抗体、抗インスリン抗体など)
  ・分子模倣(コクサッキーBウイルスと抗GAD抗体の抗原であるグルタミン酸デカルボキシラーゼの相似性を根拠とする、そのほかエンテロウイルスEBウイルスがよく候補に挙げられる)
  ・乳児期の一過性の潜在性ビタミンD欠乏症が将来の発症リスクを3倍に上昇させる。
  ・1型糖尿病のハイリスク遺伝子を有する児に対して、早期に調整乳を曝露すると発症リスクが上昇する
  その一方で、1型糖尿病の一部には自己抗体が証明されず、膵臓にも炎症細胞の浸潤が証明されないものもある。これはあきらかに自己免疫性とは言えないものである。アジア、アフリカ人に多いとされるこの病型の原因についてはほとんど不明である。しかし、2型糖尿病を発症しインスリン療法による治療中に1型を発症する例もある
分類
原因と発症形式による分類
  ・β細胞破壊の原因  ・自己免疫性(1A型) - 血中に自らの膵細胞を攻撃する自己抗体が認められるもの  ・特発性(1B型) - 自己抗体が認められないもの
  ・発症形式」 ・典型例(急性) ・緩徐進行性 ・劇症型
疫学
  ・発症率  日本糖尿病学会(1993)によれば(0 - 14歳)は日本では10万人に約1.5人
         田嶼ほか(1999)によれば(0 - 17歳)は日本では10万人に約2人と報告されている
  ・最近、世界的に1型糖尿病の発症率の増加が報告され、環境要因との因果関係が疑われている(IDF報告およびLancet2004 Nov 6-12:1699-700.より)
症状
  初期の自覚症状は喉の渇き、多飲・多尿、体重の減少などに過ぎない。これが進行すると、急性の合併症である糖尿病性昏睡を引き起こし、手当が遅れると死亡することもある。そのため、早期発見が非常に重要な病である。合併症には以下のようなものがある。
糖尿病性昏睡(詳細は「糖尿病性昏睡」を参照)
  糖尿病性昏睡は1型に限らず糖尿病の急性合併症であり、一時的に著しい高血糖になることによって昏睡状態となる。体調不良によって平常通りに服薬できなかった場合(いわゆるシックデイ)の時に特に起こりやすく糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)などが知られている。
慢性期合併症(詳細は「糖尿病慢性期合併症」を参照)
  有名なもので心筋梗塞などの大血管障害や、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症の三大合併症などがあげられる。また甲状腺疾患も合併しやすいため、女性は特に注意が必要である。
検査(詳細は「糖尿病の検査」を参照)
  血糖値などを測定するための血液検査や、HbA1c値を測定する検査など、幅広く検査が行われ、1型糖尿病かどうかを判断する。
診断(詳細は「糖尿病の診断」を参照)
  日本では、日本糖尿病学会1999年の診断基準を用いる。空腹時の血糖または75g経口ブドウ糖負荷試験で診断する。
ブドウ糖負荷試験の判定基準
  通常は判定を2回繰り返し、2回とも糖尿病型であれば糖尿病と診断。口渇や多飲、多尿などの典型的な症状や糖尿病性網膜症が存在する場合や、HbA1c値が6.5%以上である場合は1回だけの判定で糖尿病と診断する。空腹時血糖110-125 mg/dlをImpaired Fasting Glucose, IFGと呼び、75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値が140-199 mg/dlであるものを耐糖能異常; Impaired Glucose Tolerance, IGTと呼ぶ。
  糖尿病と診断できたら、次に1型糖尿病であるのか、2型糖尿病であるのか、二次性糖尿病であるのかなどといった成因から診断していく。手順としてはまずは1型糖尿病から疑う。基本的に1型糖尿病と2型糖尿病はまったく異なる臨床像を示すため区別は容易である。しかし、SPIDDM(slow progressive IDDM)という一見2型糖尿病を思わせる病型が存在するため、必ず一度は抗GAD抗体を測定する。また、糖尿病を誘発する疾患の有無を検索する。1型と2型では治療方法や方針が大きく変わるため、この過程は重要である。
  これらの検査を行い、総合的に1型かどうかを診断する。
治療(詳細は「糖尿病の治療」を参照)
  1980年代は2型と同じと考えられていたが、2型の主な治療法である食事療法運動療法を行っても、1型の場合は効果がほとんどない。食事療法の基本は食事制限は行わず、年齢性別に則した必要な栄養を摂取する為の療法が行われる。そのため、インスリン療法を中心に行う。インスリン療法は、強化インスリン療法とその他の治療法に分けられる。
強化インスリン療法
  強化インスリン療法とは、インスリンの頻回注射のこと、または持続皮下インスリン注入(CSII)に血糖自己測定(SMBG)を併用し、医師の指示に従い、患者自身がインスリン注射量を決められた範囲で調節しながら、良好な血糖コントロールを目指す方法である。基本的には食事をしている患者では、各食前、就寝前の一日4回血糖を測定し、各食前に超速効型インスリンを就寝前に持続型インスリンの一日4回を皮下注射にて始める。各食事前のインスリンは、個人差、条件等での差異はあるが1日の総摂取カロリー1800キロカロリーの場合、毎食6-18単位、持続型を含め一日の合計で30-50単位前後となる。
その他の治療法
  発症初期の患者などでは、速効型(または超速効型)インスリンの毎食前3回注射など強化インスリン療法に準じた注射方法でよい場合もある。また頻回のインスリン注射が困難な患者や強化インスリン療法が適応とならない患者では混合型または中間型の一日1回〜2回投与という方法もある。具体的には中間型インスリンを朝食前に1回打ちにしたり、混合型製剤を朝食前、夕食前の2回打ちにし、食後血糖を抑えるためαグルコシターゼ阻害薬を併用する等がオーソドックスといわれている。
  治療する目的は1型糖尿病の各種合併症を防ぐことである。ただし、これらの治療法をとると低血糖症などの副作用が起こる場合がある。
その他
  1型糖尿病の患者が、理由を示されずに年金支払いを打ち切られた事例があり、大阪地方裁判所2019年4月に、打ち切りは違法との判決が出ている。(ある記事報道によれば、かかる判決は、打ち切りそのものではなく、理由を示さずに打ち切ったことを違法(行政手続法)と判断したという。同記事によると、厚労省は今後、理由を示した上で、5月中旬までに、再度打ち切りを行うと表明)。判決は確定したが、厚労省が改めて年金支払いを拒否したため、原告側は2019年7月3日に再提訴に踏み切った


糖尿病
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  糖尿病英語ドイツ語ラテン語:diabetes mellitus、略称:DM)は、血糖値ヘモグロビンA1c(HbA1c)値が一定の基準を超えている状態をさす疾患である。東洋医学では消渇と呼ばれる。なお、腎臓での再吸収障害のため尿糖の出る腎性糖尿は別の現象である。

  糖尿病は高血糖そのものによる症状を起こすこともあるほか、長期にわたると血中の高濃度のグルコースがそのアルデヒド基の反応性の高さのため血管内皮のタンパク質結合する糖化反応を起こし、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、糖尿病性神経障害糖尿病性網膜症糖尿病性腎症といった三大合併症を生じる。

  また糖尿病の合併症には、アルツハイマー型認知症から歯周病など多岐にわたることが知られるようになってきた。 糖尿病患者の90%は2型であり、これは予防可能な病気である。2型糖尿病の予防や軽減には、健康的でバランスのとれた食事、適度な運動、適切な体重管理、禁煙が有効である。
  世界における成人(20歳以上80歳未満)の有病率は9%であり4億6300万人、世界のDALYの8位を占め (2.8%)、2019年は149.6万人が糖尿病により死亡した。糖尿病による死者の8割は中低所得国であり、さらにWHOは2030年には世界第7位の死因となると推定している。
  アルツハイマー型認知症は糖尿病と強い関連性があることから3型糖尿病とも呼ばれる。

概要
  血液中のグルコース濃度(血糖値、血糖)は、様々なホルモン(インスリングルカゴンコルチゾールなど)の働きによって常に一定範囲内に調節されている。いろいろな理由によってこの調節機構が破綻すると、血液中の糖分が異常に増加し、糖尿病になる。
  糖尿病は1型と2型があり、この調節機構の破綻の様式の違いを表している。1型糖尿病では膵臓β細胞が何らかの理由によって破壊されることで、血糖値を調節するホルモンの一つであるインスリンが枯渇してしまい、高血糖、糖尿病へと至る。
  一方2型糖尿病では、肥満などを原因として、膵臓のランゲルハンス島(膵島)にあるβ細胞からのインスリン分泌量が減少し、筋肉、脂肪組織へのグルコースの取り込み能が低下(インスリン抵抗性が増大)し、結果として血中のグルコースが肝臓や脂肪組織でグリコーゲンとして貯蔵されず、血中のグルコースが正常範囲を逸脱して高い血糖値(空腹時血糖≧126ミリグラム (mg)/デシリットル (dL)、HbA1c≧6.5%、経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で2時間値が200mg/dL以上など)となり、糖尿病となる(正常値:空腹時血糖60〜100mg/dL、HbA1c4.6〜6.2%、75gOGTTの2時間値が140mg/dL以下)。

  HbA1cは、1〜2か月前の血糖コントロール状態が反映される。その他にも、妊娠糖尿病があり、妊娠糖尿病は、妊娠後初めて糖尿病には至らない程度の耐糖能異常が生じたもので、胎児の過剰発育による周産期のリスクが高く、出産後に糖尿病を発症するリスクも高いため、厳格な血糖管理が行われる。また、妊娠前に糖尿病と診断されていた女性が妊娠したものを糖尿病合併妊娠という。

  「糖尿病」の名称は、血糖が高まる結果、尿中に糖が排出されることに由来する。1型糖尿病の場合、放置すると容易に急激な高血糖と生命の危険も伴う意識障害を来す糖尿病性ケトアシドーシスが起こるため、インスリン注射などにより血糖値をコントロールすることが基本的な治療目標となる。
  一方2型糖尿病においては、治療せず長期に放置すると糖尿病性神経障害糖尿病性網膜症糖尿病性腎症などの糖尿病慢性期合併症の起こる頻度が多くなるため、生活習慣の是正、経口血糖降下薬やインスリン注射により血糖値をコントロールすることで合併症を防ぐことが治療目標である。

  糖尿病は心臓病脳血管障害の発症の危険因子でもある。長期的に落ち着いている1型糖尿病においては、やはり治療目標は2型と同様のものになる。妊娠糖尿病においては、妊婦の高血糖を原因として胎児奇形妊産婦合併症の頻度が高くなる理由となるので、それを防ぐために血糖値を下げる治療をするのである。
分類
  糖尿病は、以下に挙げられているように、発症の機序(メカニズム)によって分類されている。以前は治療のやり方によって「インスリン依存型糖尿病」あるいは「インスリン非依存型糖尿病」に分類されていたことがあった。さらにそれより以前には、I型糖尿病、II型糖尿病とローマ字を使って分類されていた。しかし2010年現在ほぼ世界中すべてにおいて、以下のように病気の原因に基づく分類が用いられている。ここでは日本糖尿病学会分類基準(1999年)にしたがって分類している。
1型糖尿病(詳細は「1型糖尿病」を参照)
  1型糖尿病(いちがたとうにょうびょう、ICD-10:E10)は、膵臓ランゲルハンス島インスリンを分泌しているβ細胞が死滅する病気である。その原因は主に自分の免疫細胞が自らの膵臓を攻撃するためと考えられているが(自己免疫性)、まれに自己免疫反応の証拠のない1型糖尿病もみられる(特発性)。
  一般的に患者の多くは10代でこれを発症する。血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌が極度に低下するかほとんど分泌されなくなるため、血中の糖が異常に増加し糖尿病性ケトアシドーシスを起こす危険性が高い。そのためインスリン注射などの強力な治療を常に必要とすることがほとんどである。
2型糖尿病(詳細は「2型糖尿病」を参照)
  2型糖尿病(にがたとうにょうびょう、ICD-10:E11)は、インスリン分泌低下と感受性低下の二つを原因とする糖尿病である。欧米では感受性低下(インスリン抵抗性が高い状態)のほうが原因として強い影響をしめすが、日本では膵臓のインスリン分泌能低下も重要な原因である。少なくとも初期には、前者では太った糖尿病、後者ではやせた糖尿病となる。遺伝的因子と生活習慣がからみあって発症する生活習慣病で、日本では糖尿病全体の9割を占める。
  慢性膵炎 や膵炎の悪性腫瘍などの膵臓疾患によらず2型糖尿病が発症する原因は完全に明らかではないが、大筋を言うと、遺伝的に糖尿病になりやすい体質(遺伝因子)の人が、糖尿病になりやすいような生活習慣を送ること(環境因子)によって2型糖尿病になると考えられている。原因を遺伝と環境に分割したときに遺伝で説明できる割合(遺伝率)は、異なる研究で25%から80%と様々な値が推定されている。特に高い推定値は追跡調査期間が長い研究で得られている[14]。遺伝的な原因としては、KCNQ2PPARGKCNJ11TCF2L7などとい った遺伝子上の配列の違いによって、同じような生活習慣を送っていても、ある人は糖尿病が起こりやすく、別の人は起こりにくくなるという違いがあることがわかってきている。また、日本で欧米と比較して多く見られるインスリン分泌能低下を主要因とするやせ型糖尿病の原因遺伝子としてKCNJ15が挙げられていて、日本人において発見されたこの遺伝子上の危険因子となる配列は欧米人にはきわめてまれであると報告されている。
  慢性に高血糖が持続すると膵β細胞機能が障害されると共に、過剰な血糖をグリコーゲンに転換して蓄える筋肉肝臓、脂肪に転換して蓄える脂肪組織においてもインスリン抵抗性が生じて更なる高血糖をもたらし、これがインスリン分泌不全、インスリン抵抗性を更に増悪させ、糖尿病状態を一層悪化させる状態が糖毒性として取り上げられている。インスリン抵抗性などによって生じた高血糖状態は、膵β細胞内において、大量の活性酸素種の生成やタンパク質グルコースとの糖化反応を引き起こす。一般に糖毒性と呼ばれるこの現象は、β細胞のインスリン含量の減少やβ細胞数の減少を引き起こすと考えられる。
  さらに血中遊離脂肪酸の上昇がみられる肥満では肥大した脂肪細胞から種々のサイトカイン脂肪酸が分泌され、遊離脂肪酸が膵β細胞機能を障害すると共に、インスリン抵抗性が増強される状態が脂肪毒性として取り上げられている。
境界型糖尿病
  境界型糖尿病が2型糖尿病の前段階と考えられている。糖尿病の診断基準を満たしていないという意味では厳密には糖尿病ではなく予備軍と表記されることがある。しかし、糖尿病と同様に大血管障害、即ち心筋梗塞などを起こすリスクが高いということ、食事療法運動療法以外に経口血糖降下薬を用いた薬物療法を行うことで慢性期合併症を予防できる可能性が示唆されている。2型糖尿病と同様に生活習慣病である。
遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
  1型、2型の糖尿病は、その原因が完全に明らかにはなっていない。一方この項目に分類される疾患は、特定の遺伝子の機能異常によって糖尿病が発症している、という原因がわかっている糖尿病である。頻度は極めて稀。いずれも比較的若年(一般的に25歳以下)に発症し、1型ほど重症ではなく、強い家族内発症がみられるという特徴があるが、臨床所見は大きく異なる。
若年発症成人型糖尿病
  純粋に糖尿病のみを来すメンデル遺伝疾患で、常染色体優性遺伝を示す。内服薬による治療が奏効する場合が多い。
  MODYにはMODY1 - 6という6種類の病型が知られている。MODY1では肝細胞核転写因子 (HNF) 4αを、MODY2ではグルコキナーゼを、MODY3ではHNF1αを、MODY4ではインスリンプロモーター因子 (IPF) 1を、MODY5ではHNF1βを、MODY6ではneuroD1をコードする遺伝子にそれぞれ変異が認められる。
  ミトコンドリア遺伝子異常-そのメカニズム通り(参考: ミトコンドリアDNA)母方のみから遺伝し、難聴を伴うMIDD[26]、最重症型で脳卒中乳酸アシドーシスなどを来すMELASなど多彩な病像を呈する。
  ミトコンドリア遺伝子異常にはいくつかの変異ポイントがあるが、最多のものは3243A->G変異である。
インスリン受容体異常症
  黒色表皮腫や体毛が濃いなどの特徴的な体格がみられる。糖尿病として診断されるのはヘテロ接合型の患者であり、ホモ接合型では乳児期以降まで生存しない。膵臓のインスリン分泌能は十分であるため、血糖値を下げようと大量のインスリンが分泌され、血中のインスリン濃度が異常高値を示す。他のタイプと違いインスリン投与が無効だが、インスリン様成長因子の投与により血糖値を下げることが可能である。
インスリン自体の遺伝子異常
  報告されているが極めて稀である。インスリン投与が有効である。いずれも診断にはゲノムDNAミトコンドリアDNAを検体とした特殊な検査が必要である。
続発性糖尿病
  続発性糖尿病(ぞくはつせいとうにょうびょう、二次性糖尿病)(ICD-10:E13)は、他の疾患によって引き起こされる糖尿病である。以下に挙げたものは代表的な疾患で、ほかにも原因となる疾患は存在する。
  ・グルカゴンを異常分泌するグルカゴン産生腫瘍
  ・副腎皮質ホルモンコルチゾール他)の作用が異常増加するクッシング症候群原発性アルドステロン症
  ・副腎髄質ホルモンアドレナリン)を異常分泌する褐色細胞腫
  ・成長ホルモンを異常分泌する成長ホルモン産生腫瘍(先端巨大症
  ・肝硬変
  ・慢性膵炎ヘモクロマトーシス膵癌
  ・筋緊張性ジストロフィー
  ・薬剤性(サイアザイド利尿薬フェニトイン糖質コルチコイド(ステロイド)など)
ステロイド糖尿病(詳細は「ステロイド糖尿病」を参照)
  ステロイド糖尿病は、膠原病などでステロイドを長期に内服したことによって生じる続発性糖尿病である。ステロイド(糖質コルチコイド)作用の、肝臓の糖新生亢進作用、末梢組織のインスリン抵抗性の亢進、食欲増進作用が関わっているとされる。ステロイドを減量すれば軽快する。ステロイド糖尿病では通常の糖尿病と異なり、網膜症などの血管合併症が起こりにくいとされる。食後高血糖のパターンをとることが多く、入院中ならばインスリンやαGIといった経口剤を用いることが多い。
妊娠糖尿病(詳細は「妊娠糖尿病」を参照)
膵性糖尿病
  慢性膵炎や膵臓癌などによる膵臓機能低下によって、インスリンの分泌量が減ることで生じる糖尿病
症状
  通常糖尿病患者は自覚症状はないと考えることが多い。下記に列挙するような手足のしびれや便秘などが実はあるのだが、特別な症状と考えていないことがある。血糖値がかなり高くなってくると、口渇・多飲・多尿という明白な典型的症状が生じる。これらは血糖値が高いということをそのまま反映した症状なので、治療により血糖値が低下するとこれらの症状は収まる。血糖値がさらに高くなると、重篤な糖尿病性昏睡に陥り、意識障害、腹痛などをきたすこともある。いっぽう発症初期の血糖高値のみでこむら返りなどの特異的な神経障害がおこることがある。また発症初期に急激に血糖値が上昇した場合、体重が減少することが多い(血液中に糖分が多い一方、脂肪細胞などは糖分が枯渇した状態になるためである)。
  その他の症状は、たいてい糖尿病慢性期合併症にもとづくものである。
余命への影響
  1971年から1980年のデータで糖尿病患者と日本人一般の平均寿命を比べると男性で約10年、女性では約15年の寿命の短縮が認められた[27][28]。このメカニズムとして高血糖が生体のタンパク質を非酵素的に糖化させ、タンパク質本来の機能を損うことによって障害が発生する。この糖化による影響は、例えば血管の主要構成成分であるコラーゲン水晶体蛋白クリスタリンなど寿命の長いタンパク質ほど大きな影響を受ける。例えば白内障老化によって引き起こされるが、血糖が高い状況ではこの老化現象がより高度に進行することになる。同様のメカニズムにより動脈硬化や微小血管障害も進行する。また、糖化反応により生じたフリーラジカル等により酸化ストレスも増大させる。
  日本において1991年から2000年までの10年間の18,385症例を分析した結果からは、死因第1位は悪性新生物 34.1%(うち肝臓癌 8.6%)、第2位は血管障害(糖尿病性腎症,虚血性心疾患,脳血管障害) 26.8%、第3位は感染症 14.3%、糖尿病性昏睡 1.2%と報告されている。また、血糖コントロールの良否が死亡時年齢に影響を与え、男性で2.5歳、女性で1.6歳短命であった。更に、糖尿病患者の平均死亡時年齢は、男性68.0歳、女性71.6歳で同時代の日本人一般の平均寿命に対し、男性9.6歳、女性13.0歳短命であった。
糖尿病合併症(詳細は「糖尿病慢性期合併症」を参照)
  糖尿病合併症は3つの合併症(糖尿病性神経障害糖尿病性網膜症糖尿病性腎症)が特徴的であり、総称して細小血管障害と呼ばれる。また、高血糖を引き起こす急性合併症としては、糖尿病性ケトアシドーシス及び高浸透圧高血糖症候群がある。
糖尿病性神経障害
  3つの合併症の中で最初に出現することが多く、末梢神経障害による手足先端のしびれや感覚の低下、自律神経障害による便秘・立ちくらみ(起立性低血圧)・勃起不全などを引き起こす。また、温痛覚が鈍り他の疾患の自覚症状に乏しくなることがある。臨床的には心筋梗塞胸痛、重症虫垂炎の腹膜刺激症状、低温やけどなどが重要である。
糖尿病性網膜症
  発症すると、硝子体や網膜の出血が起きるようになり、繰り返すごとに視力が低下する。生命を脅かすことはないが、QOLの観点から重要な合併症である。また突然の失明の危険性から激しい運動療法が禁忌になるため、治療自体の妨げにもなる。
糖尿病性腎症
  3つの合併症の中で最も晩期に出現するが、最終的な寿命に大きな影響を与える合併症である。最初はごく微量のアルブミン尿のみだが、次第に明らかな尿蛋白や浮腫(むくみ)が出現し、最終的には腎不全となって血液透析が必要になる。
  心筋梗塞閉塞性動脈硬化症脳梗塞といった血管系疾患のリスクが上がるのも重大で、細小血管障害と対比して大血管障害と呼ばれる。
  他にも脂肪肝、皮膚症状(糖尿病性リポイド類壊死)、創傷治癒能力の低下、易感染性(終末像は敗血症)などの症状が起こりやすい。
アルツハイマー型認知症
  糖尿病はアルツハイマー型認知症のリスク要因となっている。インスリンの分泌を増やす糖質中心の食習慣、運動不足、内臓脂肪過多がアルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドベータの分解を妨げているとしている。アミロイドベータも分解する能力のあるインスリン分解酵素が糖質中心の食生活習慣によって血中のインスリンに集中的に作用するため、でのインスリン分解酵素の濃度が低下し、アミロイドベータの分解に手が回らずに蓄積されてしまうとしている。
悪性腫瘍
  1998年の久山町の調査では、糖尿病は悪性腫瘍死の発生のリスクを有意に増大させ、高血糖の程度を示すヘモグロビンA1cの高値の者ほど胃がんの発生率が高かった。糖尿病及び高血糖は悪性腫瘍の重要な危険因子である。糖尿病と診断されたことのある人はない人に比べ20-30%ほど、後にがんになりやすくなる傾向があり、男性では肝がん]、腎臓がん膵がん結腸がん胃がん、女性では胃がん肝がん]、卵巣がんでこの傾向が強かった。C-ペプチドは、インスリン生成の際、インスリンの前駆体であるプロインスリンから切り放された部分を指すが、男性では、C-ペプチド値が高いと大腸癌リスクが高くなる。C-ペプチドは男性の結腸癌と関連がある。血糖コントロール悪化で入院した糖尿病患者の6.85%に新規に悪性腫瘍が指摘され、一般人口の罹患率より高いと考えられる。
検査(詳細は「糖尿病の検査」を参照)
  糖尿病の診断や治療効果判定のためには血液検査のほかに様々な検査を行う。また慢性期合併症の治療目的で行われることもある。
  ・耐糖能異常検出マーカーとしてのイノシトール
  イノシトール(myo-イノシトール)はグルコースと類似の構造を持つ糖アルコールであり、ホスファチジルイノシトールを加水分解することで得られるインスリンメッセンジャーである。イノシトールは、通常糸球体より排泄され、尿細管で再吸収されるが、高血糖状態においては、グルコースと競合するため、再吸収されず尿中排泄量が増加する。その結果、体内のイノシトール量が低下し、ポリオール代謝異常によって、神経症の成因となる。
診断(詳細は「糖尿病の検査#糖尿病の診断」を参照)
  日本では、日本糖尿病学会が2010年7月より新しい診断基準を施行した。(従来の診断基準は1999年に施行されたもの)
  新基準では、血糖値だけでなくヘモグロビンA1c(HbA1c)の基準も設けられ、血糖値(空腹時血糖値、経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)の2時間後血糖値、随時血糖値)及びHbA1cの検査結果で判定を行う。

一回目の判定で糖尿病と診断されるケース
  ・血糖値とHbA1cがともに糖尿病型だった場合
  ・血糖値のみが糖尿病型であり、口渇や多飲、多尿など糖尿病の典型症状や糖尿病性網膜症がみられる場合
二回目の判定で糖尿病と診断されるケース
  ・一回目では血糖値のみが糖尿病型。二回目で血糖値、HbA1cのいずれか(若しくは両方)が糖尿病型だった場合
  ・一回目ではHbA1cのみが糖尿病型。二回目で血糖値が糖尿病型だった場合
  血糖値、HbA1cのいずれかが糖尿病型だったにもかかわらず上記以外ケースで糖尿病と診断にいたらなかった場合は「糖尿病疑い」とされる。糖尿病疑いの人は3〜6か月以内の再検査が推奨され、その時点で再度判定することになる。
治療(詳細は「糖尿病の治療」を参照)
  概要としては以下のとおりである。糖尿病の治療は分類、または重症度(進行度)によって異なる。
  ・1型糖尿病においては分泌できなくなったインスリンを補う他ないため、早期から一生涯インスリン治療(各種インスリン製剤の皮下注射)を行う。
  ・2型糖尿病に対しては様々なパターンの治療が行われる。
  ・まずは食事療法運動療法が行われる。具体的には食事パターンを規則正しくし、食欲を増進させるアルコールを控え、摂取エネルギー量を体重に応じた値以下とする。糖尿病患者向けに開発された食品の利用も推奨される。これによって血糖値が正常化するならそれで問題はない。
  ・食事療法と運動療法で血糖値が正常化しない、もしくは最初から血糖値が非常に高くこれらの治療だけでは不十分と考えられるなら、経口血糖降下薬あるいはGLP-1受容体作動薬を併用する。
  ・経口血糖降下薬あるいはGLP-1受容体作動薬でも血糖値が正常化しないならインスリン自己注射を開始する。ただし、経口血糖降下剤を経由せず、当初からインスリン自己注射を行うという考え方も存在する。
  ・2型糖尿病の場合では一度インスリンを導入しても、食行動と生活習慣を改善すれば血糖値が正常化してインスリン自己注射を止めることができる場合が多いが、高血糖の影響でインスリン分泌能が失われてしまい、一生涯インスリン自己注射を続けざるを得ない場合もある。
  ・一度良好な血糖コントロールが得られてもその治療のまま一生続けられるわけではなく、生活習慣、低血糖のリスク、腎機能、肝機能、他の予後規定因子、治療継続可能性、経済性などを考えながら調整していく必要がある。
  ・高血糖が過食を原因としている場合、袖状胃切除術十二指腸スイッチといった外科手術により食欲を減退させ、肥満や2型糖尿病の治療の一環とすることもある。『糖尿病診療ガイドライン2016』 日本糖尿病学会では、歯周病との関連を説明し、必要に応じて治療するとされている日本歯周病学会もガイドラインを出している。
疫学
  国際糖尿病連合 (IDF) によると、2019年の時点で世界には約4億6300万人の糖尿病患者がいるという。患者数は急増しており、2030年には5億7800万人、2045年までに7億人に達すると予測される。糖尿病患者は世界中にいるが、先進国ほど(2型の)患者数が多い。しかしもっとも増加率の高い地域はアジアとアフリカになるとみられており、2030年までに患者数が最多になると考えられている。発展途上国の糖尿病は、都市化とライフスタイルの変化にともなって増加する傾向があり、食生活の西欧化よりも、糖質の多量摂取と運動量のバランスを欠く生活が長期間続くと発病する可能性がある。このことから糖尿病には(食事など)生活環境の変化が大きくかかわってくると考えられる。
  糖尿病は先進国において10大(あるいは5大)疾病となっており、他の国でもその影響は増加しつつある。米国を例にとると、北米における糖尿病比率は、少なくともここ20年間は増加を続けている。2005年には、米国だけでおよそ2080万人の糖尿病患者がいた。全米糖尿病協会によると、620万人の人々がまだ診断を受けておらず、糖尿病予備軍は4100万人にまで及ぶ。英国イングランドとウェールズにおいては、有病率は 6%から6.7%であり320万人の患者がいる。(「肥満#疫学」も参照)
日本の有病率(「日本の健康」も参照)
  日本国内の患者数は、この40年間で約3万人から700万人程度にまで増加しており、境界型糖尿病(糖尿病予備軍)を含めると2000万人に及ぶとも言われる。厚生労働省発表によると、2006年11月時点の調査データから、日本国内で糖尿病の疑いが強い人は推計820万人であった。
  厚生労働省の2006年の人口動態統計によれば、全国の死亡率の都道府県ワースト1位は1993年から14年連続で徳島県である(10万人当たり19.5人、ちなみに最低は愛知県で7.5人)。特定の疾患等による死亡率で10年以上継続して、同一の県が1位で最低値と3倍近い差があるのは他にあまり例を見ない(他の地域的な高率としては、精神医療の分野において、秋田県が1995年から2006年まで12年連続自殺率1位であることなどが挙げられる。秋田県の自殺率、すなわち人口10万人当たりの自殺者数は42.7人で、全国平均は23.7人である)。糖尿病は生活習慣病の一種であるため、治療型から保健指導型の予防医療への転換を図らない限り、その死亡率を劇的に下げることは難しい。徳島県は医療機関数・医師数などが全国平均よりも高い県であるため、徳島県医師会や医療機関、徳島県その他行政機関及び地域住民の糖尿病予防に対する知識と意識の低さが要因として毎年指摘されている。徳島県は2005年11月に「糖尿病緊急事態宣言」を宣言したが、2006年時点では10万人当たりの死亡率は前年の18.0人から19.5人に悪化し、2007年時点では14.2人と改善した。また徳島県では20歳以上の男性の37.2パーセントが肥満であり、全国平均の28.4パーセントを上回っている。

  なお、厚生労働省の2007年の人口動態統計(概数)によれば、徳島県はワースト1位を15年ぶりに脱し、平均14.2人(人口10万人当たり死亡率)ワースト6位になった(全国平均は11.1人)。
  2006年は、徳島県を筆頭に、2位鹿児島県(14.2人)、3位福島県(14.1人)、4位鳥取県(13.7人)、5位青森県(13.6人)がワースト5であり、逆に東京都(9.9人)の他、岐阜県(9.5人)、長崎県(9.5人)、大分県(9.5人)、宮崎県(9.3人)、滋賀県(9.1人)、埼玉県(8.9人)、奈良県(8.5人)、神奈川県(8.4人)、愛知県(7.5人)の10都県が10万人当たりの死亡率が10人を下回る。
  平成14年度に行われた厚生労働省の調査では、糖尿病が強く疑われる人の割合は、20歳以上の男性全体で12.8%であり、20歳以上の女性全体で6.5%であった。糖尿病が強く疑われ、現在治療を受けている人で合併症を併発している人の割合は、神経障害で15.6%、網膜症で13.1%、腎症で15.2%、足壊疽で1.6%であった。また、加齢と糖尿病は関連があり、糖尿病が強く疑われる男性の割合は、20歳から29歳で0%、30歳から39歳で0.8%、40歳から49歳で4.4%、50歳から59歳で14.0%、60歳から69歳で17.9%、70歳以上で21.3%であった。さらに、肥満と糖尿病は関連があり、40歳から59歳の男性で、糖尿病が強く疑われる人の割合は、ボディマス指数(BMI) 18.5から22で5.9%、BMI22から25で7.7%、BMI25から30で14.5%、BMI30以上で28.6%であった。なお、加齢を重ねていない20歳から39歳の男性ではこのような大きな差は出ていなかった。
発症リスクに関する研究
  さまざまな研究がなされている研究の一例を列挙する。
  1  糖尿病になりやすくなる環境因子としては、圧倒的な危険因子として肥満が挙げられるほか、喫煙や運動不足などがある。
  2 20歳から体重が5kg以上増加した群で糖尿病発症のリスクが上昇。
  3 コホート研究によって筋肉労働や激しいスポーツをしない人が多量の米飯を摂取することで糖尿病リスクを上昇させていることが報告されている。
  4 亜鉛の欠乏が糖尿病の発症リスクを高めるとする報告がある。
  5 「マグネシウム摂取量が関与している」との報告があり、インスリン抵抗性、慢性炎症、飲酒習慣を有する患者では摂取量の上昇が発症抑制に効果があるとされている。しかし、一方で、マグネシウム摂取量と糖尿病発症との関連なしとの報告がある。
  6 2010年のハーバード大学によるシステマティック・レビューメタ分析によると、赤肉、特にハムやソーセージの加工肉の摂取量の増加は、糖尿病と冠動脈疾患のリスクの増加に関連付けられている。2010年のハーバード大学の研究で約20万人に対するコホート調査で1日あたり白米を50グラム玄米に置き換えることで、2型糖尿病のリスクが16%低下する。また、妊娠前にファーストフードを頻繁に食べた場合、糖尿病罹患リスクが増大することが報告されている。
  7 女性ではコーラジュースなどの清涼飲料水の飲用量が多いほど糖尿病の発症リスクが高いとの報告がある。多量の清涼飲料水の摂取は、急激な血糖・インスリン濃度の上昇をもたらし、耐糖能異常インスリン抵抗性にもつながる可能性が指摘されている。ペットボトル症候群も参照。
  8 野菜果物の摂取は全体としては糖尿病発症リスクとの関連は認められないが、男性の過体重(BMI25以上)もしくは喫煙習慣のある人では野菜、特にアブラナ科の野菜を多く摂取しているグループで糖尿病リスクの若干の低下が示唆された。
  9 歯周病は、心筋梗塞バージャー病、肋間神経痛、三叉神経痛、糖尿病と密接な関係にあることが、ごく最近の研究で確認された。糖尿病ではPorphyromonas gingivalis感染が分泌を促進する腫瘍壊死因子(TNF-α)によって、糖尿病が増悪され、この糖尿病によって歯周病が増悪されるという負の連鎖が起こる。これは「歯周病菌連鎖」や「歯周病連鎖」と呼ばれている。
 10 コーヒーをよく飲む人たちでは糖尿病発症のリスクが低くなる傾向が見られた。
 11 糖や炭水化物主体の食生活を繰り返すことにより食後高血糖とインスリン分泌過多を繰り返すことによるインスリン抵抗性となり、インスリンの効きが悪くなり高血糖を維持、尿に糖が排出されることが分かっている。また食後高血糖とインスリン分泌過多を繰り返すことにより、膵臓ランゲルハンス島β細胞が少しずつ死滅し、インスリン分泌能力が低下する。
 12 果物の摂食は2型糖尿病の発症リスクを低くするが、ジュースにした場合は逆に発症リスクを高める。
 13 7時間から9時間の睡眠が望ましい。1晩の睡眠が6時間を切ると糖尿病のリスクも高まる。
世界糖尿病デー(詳細は「世界糖尿病デー」を参照)
  上述の通り、現在、糖尿病を世界の成人人口の約5〜6パーセントが抱えており、その数は増加の一途を辿っている。また糖尿病による死者数は、後天性免疫不全症候群 (AIDS) による死者数に匹敵し、糖尿病関連死亡は、AIDSのそれを超えると推計している。このような状況を踏まえ国際連合は、国際糖尿病連合 (IDF) が要請してきた「糖尿病の全世界的脅威を認知する決議」を2006年12月20日に国連総会で採択し、インスリンの発見者であるバンティング博士の誕生日である11月14日を「世界糖尿病デー」に指定した。日本でも、2007年11月14日には東京タワーや鎌倉大仏、通天閣などを「世界糖尿病デー」のシンボルカラーである青にライトアップし、糖尿病の予防、治療、療養を喚起する啓発活動が展開された。
  なお、国連が「世界○○デー」と疾患名を冠した啓発の日を設けたのは、12月1日の「世界エイズデー」に続き「世界糖尿病デー」が2つ目である。
歴史
  1674年、イギリスの臨床医学者トーマス・ウィリスはヨーロッパで当時奇病とされていた多尿症の研究をしていた。ウィリスは尿に含まれる成分を何としても知りたいと考え、患者の尿を舐めてみたところ、甘かったことが本病確認のきっかけとされている


ワクチン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


  ワクチン: Vakzin: vaccine)は、感染症の予防に用いる医薬品病原体から作られた無毒化あるいは弱毒化された抗原を投与することで、体内の病原体に対する抗体産生を促し、感染症に対する免疫を獲得する。
  ワクチンは感染症予防において最も重要かつ効率的な手段であり
、世界各国でワクチンの予防接種が行われている。ワクチンはとくに抗生物質の効かないウイルス性の感染症に効果がある上、細菌性の感染症で増大している薬剤耐性菌への対策の関係上、予防医学において特に重視されている。予防は感染者の治療よりも費用対効果が高いため、ワクチンで予防できる病気はワクチンで予防することが望ましいとされており、とくにアメリカなどではこの考え方が強い。  
  感染症流行地域に入国する際には該当感染症のワクチン接種が推奨されており、特に黄熱ワクチンに関しては入国に際して接種を義務づけ、イエローカード(接種証明書)の提示を求める国家が存在する

歴史
種痘
  天然痘に一度かかった人間が免疫を獲得し、以後二度と感染しないことは古くから知られていた。このため、乾燥させて弱毒化した天然痘のかさぶたを接種して軽度の天然痘に感染させ免疫を得る方法がアジアでは行われており、18世紀にはイギリスからヨーロッパへと広がったものの[7]、軽度とは言え天然痘であるため死亡者も発生し、安全なものとは言いがたかった。
  一方、18世紀後半にはウシの病気である牛痘に感染したものは天然痘の免疫を獲得し、罹患しなくなるか軽症になることが経験的に知られるようになってきた。これを知ったイギリスの医学者、エドワード・ジェンナーは1796年、8歳の少年に牛痘の膿を植え付け、数か月後に天然痘の膿を接種してこれが事実であることを証明した。これが史上初のワクチンである天然痘ワクチンの創始となった。ジェンナーは1798年に『牛痘の原因と効果についての研究』を刊行して種痘法を広く公表し、1800年以降徐々に種痘はヨーロッパ諸国へと広がっていくこととなった。
ワクチン製造法の開発
  天然痘ワクチンの製造法は確立したものの、この手法がほかの病気に応用可能だとは考えられておらず、以後1世紀近く新種のワクチンは作られることがなかった。しかし1870年代に入ると、微生物学の発展の中でルイ・パスツールがニワトリコレラの予防法の研究を行い、この中で病原体の培養を通じてこれを弱毒化すれば、その接種によって免疫が作られることを突き止めた。この手法でパスツールは1879年にはニワトリコレラワクチンを、1881年には炭疽菌ワクチンを開発し、科学的なワクチン製造法を確立した。これによって、以後さまざまな感染症に対するワクチンが作られるようになった。
現況
  ワクチンの予防接種は多くの国で行われ、2017年時点では毎年およそ200万人から300万人の命を救っていると推定されている。ワクチン投与を柱とする感染症撲滅計画も推進されており、1958年に開始された天然痘撲滅計画では患者周辺への徹底的な種痘によって1977年に根絶に成功し、1980年に正式に根絶が確認された。完全に根絶に成功した感染症は2017年時点では天然痘のみであるが、ポリオなどいくつかの感染症でのワクチン投与による根絶計画が進行している。
  ワクチンの発明以来さまざまな病気に対するワクチンが開発されてきたものの、エイズなどのようにいまだにワクチンの存在しない病気も数多く存在する。
  2020年に世界中でパンデミックを起こした新型コロナウイルス感染症にはワクチンが存在しなかったため、製薬企業や世界各国が総力を挙げてCOVID-19ワクチンの開発を進めた。同年年末には数社がワクチンの開発に成功し、12月8日にはイギリスファイザー社のワクチンの接種が開始された。
種類
  2020年時点で接種が行われているワクチンは大きく#生ワクチン#不活化ワクチンに分かれる。一方、COVID-19ワクチンは、RNAワクチンDNAワクチンなど、従来のワクチンとは異なる様々な種類のワクチンが開発中である。

生ワクチン(詳細は「弱毒化ウイルス」を参照)
  毒性を弱めた微生物ウイルスを使用。体液性免疫/液性免疫のみならず細胞性免疫/細胞免疫も獲得できるため、不活化ワクチンに比べて獲得免疫力が強く、免疫持続期間も長い。生産コストが低い上投与回数も少なくて済み、経済性に優れるが、発見は偶発的なものに頼る部分が多いため開発しづらく、また弱っている病原体を使うため、ワクチン株の感染による副反応を発現する可能性が稀にある。免疫不全症で細胞性免疫が低下している場合は、生ワクチンを接種してはならない。
  ・BCGワクチン ・リオワクチン ・種痘天然痘)-現在は、主に軍隊用 ・麻疹ワクチン  ・風疹ワクチン ・流行性耳下腺炎ワクチン(おたふく風邪) ・麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン) ・水痘ワクチン帯状疱疹) ・黄熱ワクチン ・ロタウイルスワクチン ・毒生インフルエンザワクチン -点鼻投与型、注射針を使用しないのと、粘膜免疫ができる。 ・新三種混合ワクチン(MMRワクチン、麻疹風疹流行性耳下腺炎混合) -日本では、1988年から1993年まで実施されていた。 ・MMRVワクチン(麻疹・風疹・おたふく・水痘-帯状疱疹)
不活化ワクチン(詳細は「不活化ワクチン」を参照)
  死菌ワクチンとも呼ばれる。狭義の不活化ワクチンは化学処理などにより死んだウイルス細菌リケッチアを使用。取り扱いや効果において同様である抗原部分のみを培養したものを含めて不活化ワクチンと称されることもあり、以下その定義に含められるものを挙げる。生ワクチンより副反応が少なく安全性が高いが、液性免疫しか獲得できずその分免疫の続く期間が短いことがあり、このため複数回接種が必要なものが多い(代表例は三種混合ワクチンやインフルエンザワクチン)。免疫不全症の場合でも投与は可能である。
  2歳未満の乳幼児では、蛋白成分を含まない抗原(ハプテン)部分だけでは免疫を惹起できない。このため、肺炎球菌ワクチンなど蛋白ではない抗原を用いるワクチンでは、乳幼児に接種するに際しては別の蛋白と抗原を結合させるなどの工夫がされている。
  また、インフルエンザワクチンについては、1971年以前の全粒子ワクチン使用による副反応の(死亡あるいは脳に重篤な障害を残す)危険性が大きかったことや、それとは異なる現行の安全性の高いワクチンでも100%発症を抑えることはできないことから、接種を避けるべきとの意見も依然として存在する。
  しかしながら、ハイリスク群(高齢者や慢性疾患を持つ人など)の人がインフルエンザに罹患した場合に、肺炎等の重篤な合併症の出現や、入院、死亡などの危険性を軽減する効果が世界的にも広く認められている。これが、国際連合世界保健機関(WHO)や世界各国が、特にハイリスク群に対するインフルエンザワクチン接種を積極的に薦めている理由である。
  ・インフルエンザワクチン ・肺炎球菌ワクチン ・Hibワクチンインフルエンザ桿菌b型ワクチンの略称) ・狂犬病ワクチン ・コレラワクチン ・二種混合ワクチン(DTワクチンジフテリア破傷風混合。ジフテリア抗原のため10歳以上には1/5量投与。この量だと破傷風の有効量が不足しているため、最大限の効果を得るためには別途破傷風トキソイドをうつか、輸入TdまたはTdapにする必要がある) ・三種混合ワクチン(DPTワクチン、ジフテリア・百日咳・破傷風混合) ・不活化ポリオワクチン(IPV) ・四種混合ワクチン(DPT-IPVワクチン、ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ混合ワクチン) ・日本脳炎ワクチン ・百日咳ワクチン ・肺炎球菌ワクチン(2歳以上、2歳未満の小児用との2種がある) ・A型肝炎ウイルスワクチン ・B型肝炎ウイルスワクチンC型肝炎その他は開発中) ・ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン) ・日本未承認(日本国内で接種の場合は個人輸入取り扱い医療機関に申し込む) ・炭疽菌ワクチン ・コレラワクチン(経口4価)2年間有効。また、渡航者下痢の多くの原因とされる、病原性大腸菌139型に対しても4か月ほど有効と発表されている。 ・髄膜炎菌ワクチン(流行性髄膜炎、髄膜炎菌性髄膜炎) ・腸チフスワクチン ・ダニ媒介性脳炎ワクチン ・A型肝炎ワクチン(全2回接種型・1回接種=2週間後抗体陽転、12か月持続。1歳より接種可能) ・5歳以上用、二種混合ワクチン混合ワクチン(TD。破傷風の抗体産生能を維持したまま、ジフテリアの安全接種が可能) ・11歳以上用、ジフテリア・破傷風・百日咳混合ワクチン(Tdap。破傷風の抗体産生能を維持したまま、ジフテリアと百日咳の安全接種が可能) ・DTaP/Hib=DTP+インフルエンザ桿菌 ・DTaP/IPV/HiB=DTP+不活化ポリオ+インフルエンザ桿菌 ・HepB/Hib=B型肝炎+インフルエンザ桿菌 ・その他、混合多数。
トキソイド(「トキソイド」も参照)
  ある病原体の産生する毒素のみを予め抽出して、ホルマリンなどで処理し、毒性を抑えて抗原性のみを残したものを人体に接種し、その毒素に対する抗体を作らせるもの[25]。病原体そのものを攻撃する抗体を作らせるわけではないので、厳密にはワクチンに含めないという考え方もある。
mRNAワクチン(「RNAワクチン」も参照)
  mRNAワクチン(またはRNAワクチン)は、メッセンジャーRNA(mRNA)を含む新しい種類のワクチンである。核酸RNAを保護的脂質シェルの中に包み込むことで作られる。COVID-19パンデミックを撲滅するために、2020年からCOVID-19ワクチンとして多数のRNAワクチンの開発が進められており、アメリカ合衆国では一部のワクチンに対して緊急使用許可が出された。
接種方法
  皮下注射筋肉内注射が多いが、経口生ポリオワクチン(OPV)やロタウイルスワクチンの様に、直接に飲む(経口ワクチン)ものも存在し、またにワクチンを吹き付ける経鼻ワクチンも開発されているほか、BCGのようなスタンプ式の製品もある。強力なワクチンの場合は1回で接種を済ませられることもあるが、ほとんどのワクチンは2回以上の接種が必要となる。これは1回の接種ではそれほど得られる免疫が強くないうえ、多くの場合複数回接種では得られる免疫力が大幅に増大する、いわゆるブースター効果が起きるためである。
接種間隔
  日本では、生ワクチン接種後は27日以上あけ、不活化ワクチンの後は6日以上あけることが規定されているが、医師の判断で必要と認められた場合には、同日複数接種も可能である。同日接種を行うことによって、安全性・効果(免疫応答)が変化・相乗することはなく、また害や懸念事項も存在しないため、迅速な免疫獲得や来院回数の減少などのメリットが大きい同日接種は推奨されている。一度に接種できるワクチンの数に制限はない。また、同日接種の際、ワクチン同士は2.5センチメートル以上の間隔を開けることが求められる。現場で勝手に複数のワクチンを混合して接種することはできない。
  WHOやアメリカ疾病予防管理センターは、原則として以下のような標準を定めている。
  ・生ワクチン同士は同日、または27日以上あける。 ・生ワクチンと不活化ワクチンは、どちらが先であっても、接種間隔に規制はない。 ・不活化ワクチン同士もまた、同時でも、いつでも接種可能である。ただし、同一のワクチンには指定された間隔がある。 ・免疫グロブリンと一部の生ワクチン(グロブリン製剤に含まれる抗体に依存する)には特定の間隔が個別に存在することがある。 ・その他に、メーカーが追加のルールを指定することがあり、たとえば、経口生チフスと経口不活化コレラワクチンは8時間の間隔を開けるというルールがある。
接種部位
  ・皮下注射:上腕伸側を中心とする領域。ただし橈骨神経が走行する中央1/3は避け、下側1/3あるいは上側1/3に接種する。
  ・筋肉内注射:満4歳未満は三角筋の発達が未熟なので、大腿四頭筋外側頭中程。それ以上の年齢では、同部位よりも三角筋が選択される。なお、臀部への筋注は吸収率や免疫応答がよくないので、接種してはいけない。
  ・皮内注射:狂犬病ワクチンの変則的投与では、指定箇所がある。その他に関しても、添付文書を参照すること。
  ・1肢1本接種は、上記免疫応答理論や接種本数の制限を受けるため、受診者・海外渡航者の立場からは現実的ではない。
  日本以外で使用されているワクチンは、世界で生活されている在外日本人も東洋人も通常接種されている。日本人に外国製ワクチン(WHO認定ワクチンに限定して)と接種用法などを敬遠する医学的根拠は、何も提示されていない。
副反応(詳細は「副反応」を参照)
  弱いとはいえ病原体を接種するため、望まれない反応も起こすことがある。軽微なものとしては、投与部位の発赤・腫脹・疼痛・感冒様症状などがある。重大なものとしては無菌性髄膜炎、血小板減少性紫斑、膵炎などが知られる(詳細は個別のワクチンを参照)。
  ワクチン接種後の自己免疫疾患はまれに報告され、ウイルスなどの感染が引き金となるまれな重篤なこれらの疾患はワクチンの接種によっても起こりうる。全身性エリテマトーデス関節リウマチ炎症性ミオパチー多発性硬化症ギラン・バレー症候群などがあり、ギラン・バレー症候群では報告のあったワクチンはほかと比較して多様である。
  治験では掴めなかった低い頻度の副作用の発生が検出されるよう、迅速に情報収集がなされる。時に薬害事件へと発展し、接種中止・ワクチンの改良がおこなわれる。2014年のコホート研究のメタ解析は、ワクチンと自閉症との関連に否定的であった。
ワクチン開発
  ワクチン開発は、まず病原の培養や不活化・弱毒化などの基礎研究を行った後、動物による非臨床試験をおこない、その後3段階に分けて臨床試験を行う。試験終了後に国による承認審査が行われ、承認されれば生産体制を整え、販売が始まる[42]。この承認審査は各国ごとに行われ、ある国で承認されたワクチンでも他国で使用する場合には当該国での審査が改めて必要となる。ただし、ある国で感染症が流行し有効なワクチンが存在しない時は、緊急対策として他国からワクチンを輸入し審査なしで使用することが認められる場合がある。ワクチン開発の際重視される条件は、感染症予防・重症化阻止の効果、副反応などを最小限に抑えた安全性、そして開発・生産・接種コストを中心とする経済性の3点であり、これらのうち一つでも顕著に問題が存在した場合は実用化はなされない。こうした厳しい条件を満たす必要があるため、ワクチン開発にかかる期間は非常に長く、最短でも10年近くは必要となる。

  ワクチン開発には多額の資金と期間がかかるうえに、多数の人々に接種を行う関係上巨大な生産力も必要となるため、資本力に優れた大企業が開発・供給を主導する傾向にあり、寡占化が進んでいる。2019年にはイギリスのグラクソ・スミスクライン、アメリカのメルク、アメリカのファイザー、そしてフランスのサノフィの4大企業でワクチン市場の79%のシェアを占めている。これにスイスノバルティスを加えた5社は5大ワクチンメーカーと呼ばれる。ワクチン市場は巨大であり、2018年には3兆9500億円の市場規模を持っている上、さらに急速な拡大が見込まれている。
  新たな感染症に対するワクチン開発は、多額の投資と時間を要するため、流行が収束して関心が低下すると資金が滞り中断を余儀なくされることがある。グラクソ・スミスクラインの例では、エボラ出血熱に対応するワクチン開発を長らく行ってきたが、臨床試験の最終段階の時点で流行が広がっていたのは最貧国のコンゴ民主共和国であり、金銭的リターンが事実上見込めないとして開発継続を断念。ワクチン候補を2019年までにアメリカの非営利機関に昨年譲渡した。
日本のワクチン事情(「ワクチン忌避」および「集団免疫」を参照)
  日本では1849年にオットー・ゴットリープ・モーニッケが天然痘の痘苗を輸入し、以後本格的に種痘が全国に広まった。1909年には種痘法が施行され、1948年には予防接種法が制定されて、天然痘以外の感染症でも予防接種が義務化された。

  1964年(昭和39年)に始まった、インフルエンザワクチンの被害を訴える訴訟は、1980年代まで長く続き報道された。続く予防接種による訴訟によって、1976年(昭和51年)に予防接種法が改正され、救済制度が設立された。裁判は長期化し、その結果は国の敗訴・和解となり、「予防接種は効果の少ない一方で、副反応が多発するこわいもの」という誤った認識が国民だけでなく医療関係者にも定着。1994年には強制予防接種が緩和され、定期ワクチン接種は義務から勧奨にとどめられることになった。ただし定期接種は国策として行われるものであるため費用助成が行われており、ほとんどの場合無料である。
  日本は、1980年代まで世界に先駆けてワクチン開発を行っていたが、副作用による訴訟が相次ぎ、厚生省とメーカーが開発・接種に消極的になり、新たなワクチンの大規模な開発はほぼ行われなくなった。1990年代以降、海外で続々と開発されたワクチンが日本ではほとんど認可されず、「ワクチン・ギャップ」と称されるほど他国に比べワクチン開発が遅れた状況となった。この状況は2007年以降ワクチンの認可が急速に進められたことでやや解消されつつある。

  2000年代に入っても、日本脳炎ワクチン接種後の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)発症、Hibワクチンと小児用肺炎球菌ワクチン同時接種後の死亡、子宮頸がんを予防するHPVワクチンの接種勧奨差し控え等の事例があり、マスコミがワクチンの負の面を強調する報道をしたこともあり、国民の不安は増大した。
  日本で予防接種が徹底されないために、2007年にはカナダに修学旅行に行った生徒が、現地では根絶されている麻疹に感染したため、ホテルから外出禁止となり、修学旅行が打ち切りになり帰国することが報道された。ただしこれにより麻疹ワクチンの接種は徹底されるようになり、2015年にはWHOが日本を麻疹排除国に認定した。小児用のHibワクチンは、先進国に大幅に遅れて認可されたが、当時アジアで認可されていないのは、北朝鮮と日本だけであった。
  日本の主な製造メーカーを挙げる。 ・第一三共バイオテック(旧北里研究所) ・KMバイオロジクス(旧:化学及血清療法研究所) ・大阪大学微生物病研究所(微研) ・デンカ(旧デンカ生研) ・武田薬品工業 ・サノフィ・アベンティス ・インフルエンザワクチンは、北里研究所・デンカ生研・KMバイオロジクス・竅留隻句洲・阪大微生物病研究会である。今後、武田薬品工業・第一三共が開発しようとしている。

  2010年6月、新型インフルエンザ(A/H1N1)のパンデミックを受け、専門家による対策総括会議で、ワクチン製造業者の支援や生産体制の強化が提言された。国家の安全保障という観点からも、国内のワクチン生産体制の強化が求められた。しかし、実際には事業仕分けなどにより政府の資金的支援がうまく行われなかった。
  日本で流布するワクチン有害説について、「語句説明」「理論の論理性」「理論の体系性」「理論の普遍性」「データの再現性」「データの客観性」「データ収集の理論的妥当性」「理論によるデータ予測性」「社会での公共性」「議論の歴史性」「社会への応用性」の10項目からなる「科学性評定の10条件」に基づくと、理論の適応範囲に大きな問題を抱えており、データの面からもこれを支持できる有力な根拠はなく、典型的な疑似科学的言説であると結論づけられている。
ワクチン忌避・反ワクチン(詳細は「ワクチン忌避」を参照)
  ワクチンの危険性やワクチンへの不安をもとにワクチンを忌避する「ワクチン忌避」や、反ワクチン運動がこれまでに多くの国で起こってきた。
  ノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンの2015年の言によれば、人々は巷で流行する疾病で死ぬよりもワクチンの副作用で死ぬことを恐れる場合があるのだという。もしワクチン接種後に子供が死んでしまったら、子供にワクチンを受けさせたことがその親にとって多大なトラウマになってしまうというのである。カーネマンの著書で2つの思考プロセスに言及している。
  1つ目は、何か感情を揺さぶるような出来事が起きた時に働くような自動的で即座の思考プロセスである。2つ目は、おちついた意識的労力をともなう思考プロセスである。ワクチン接種の損得を考える時には一般的に2番目の思考プロセスが使われるが、ワクチンの副作用で子供を危険に晒すといった恐怖が1番目の思考法を促してしまうわけである。統計的データよりも感情を揺さぶるような個々のケースに我々は強く反応しがちなのだとカーネマンは述べる。

  ノーベル医学生理学賞リュック・モンタニエは、エイズウイルスの発見で受賞した人物だが、2018年にもワクチンの過信は危険だと訴え、アルミニウム塩(チメロサールアジュバント)の使用に脳や健康に影響を与える可能性があるため、これをカルシウム塩などに変える必要性や、ワクチンに関する研究の必要性を訴えた。例えば乳酸菌を用いた経口のワクチンが開発中である。
  2017年にはイタリアで、子供が予防接種を受けるかどうかには自己決定権があるとするFreevaxという運動が開催され、数千人が集い厚生労働大臣に抗議を訴えた。イタリアではワクチンの副作用の噂による接種拒否で、麻疹患者が3倍に急増したことを受け、2017年5月から国立保育園・小学校に入る6歳以下の児童に12種類のワクチンを義務付け、未接種児童の保護者に罰金を科している


医療事故
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  医療事故(英: medical error)は、一般に医療に関する事故をいう。

定義医療法に基づく定義(「医療事故調査#対象となる医療事故」も参照)
  医療法により新たに定義された「医療事故」は,「提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの(6条の10)」とである。通常の用語と概念をことにしている。
  すべての病院、診療所、助産所の管理者は、該当する事故が発生した場合は、滞りなく医療事故調査・支援センターに報告しなければならない
厚生労働省による定義
  厚生労働省リスクマネージメントスタンダードマニュアル作成委員会によると、次のように定義されている。なお、医療過誤は医療事故の一類型とされている
医療事故の大規模調査
アメリカ合衆国
  アメリカ合衆国においては、これまで医療事故による死亡率が正しく議論されてこなかったという批判を受け、医療事故による死亡が(最も多く見積もれば)米国の死因の一位になった試算と共に、個人の断罪に終わることなく再発防止を主眼に置いたシステムを構築するよう提言が出されている。2006年の報告では、毎年150万人が医療ミスの影響を受け、40万人が薬害を受け、薬剤関連障害は8億8700万ドルの余剰医療費を必要としたと報告している。また、誤診の数トップ5は感染症、腫瘍心筋梗塞肺塞栓症心血管疾患と報告されている。
日本
  こうした米国の動きおよび前記のような事案がマスコミを賑わした事を受け、日本でも2001年度より厚生労働省が全国の病院から医療事故の情報を収集している。
  そのため2014年、医療法施行規則一部改正にて、特定の医療機関には事故情報の報告が義務づけられた。同規則において事故情報の提出義務があるのは 国立病院、大学付属病院、特定機能病院のみであるが、その他の医療機関においても、登録分析機関に参加登録申請をすることにより、義務機関と同様の報告をすることが可能である。2013年12月31日現在では報告義務対象医療機関以外にも691の医療機関が参加登録申請をしている
  その後、2015年10月1日より改正医療法が施行され医療事故調査制度が実施されるに伴い,全ての医療機関において「医療事故」該当性のある死亡又は死産に対し,院内事故調査が義務づけられた。

救済制度(「医療訴訟」も参照)
  ・名古屋弁護士会所属の弁護士の加藤良夫(南山大学法科大学院教授)などが中心になって、医療事故被害者を救済する制度(無過失補償制度)が提唱された。医療事故の無過失補償制度は、スウェーデンやフィンランド、ニュージーランドなどの国において、既に実施されている。
  ・日本では2009年より産科医療補償制度が開始され、同制度に加入している分娩機関の場合には補償が受けられるようになった。
  ・医療事故のうち医薬品が関係する場合は、2002年に制定された医薬品副作用被害救済制度で救済制度が設けられている。

医療事故が疑われたが、事故ではなかったとされたケース
  ・1999年7月…杏林大病院割りばし死事件
    7歳の男児が綿菓子の割り箸を咥えたまま転倒し、喉に刺さって折れた。男児は割り箸を自力で引き抜いた後病院に搬送された。医師は傷口を確認して軽傷と判断し、また男児の意識にも問題なかったため処置後帰宅させたが、翌日死亡。司法解剖の結果、喉の奥に割り箸の破片が刺さっており、脳まで達していたことが判明した。医師が業務上過失致死容疑で書類送検されたが、9年に渡る裁判の結果、予見は困難であり救命は不可能だっとして刑事・民事とも医師と病院の責任は否定され、無罪が確定した。しかしこの訴訟と一連の報道により医療崩壊が大きく進行したとされる。

事故事例の一覧
  事故は戦前、戦後、近年にいたるまで毎年起きている・・・詳しくは医療事故PHで・・・


川崎病
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  川崎病(英: Kawasaki disease, KD)は、川崎富作によって発見された主に乳幼児がかかる発熱性疾患。突然の高熱が数日続き、目や唇の充血、身体の発疹、手足の発赤(=赤くなること)、首リンパ節の腫脹など様々な症状を惹き起こす小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(英: MucoCutaneous Lymph-node Syndrome, MCLS)とも言われるが、世界的に「川崎病 (KD)」と呼ばれるのが一般的である。

病名の由来と発見
  病名は小児科医・川崎富作によって発見されたことに由来する
  神奈川県川崎市川崎医科大学など上記以外の「川崎」を称する事物とは関係がない。かつて川崎市海岸部の工業地帯大気汚染による公害川崎公害)が問題化し、気管支喘息が多くみられた当時は地域特有の公害病と誤解される例も多かった
  1961年(昭和36年)に日本赤十字社中央病院(後の日本赤十字社医療センター)に勤務していた川崎富作が、初めての患者に出会い、さらに同様の症状の患者を診療したことをきっかけに、従来の症例に当てはまらない新しい病気であることを確信した。川崎は1967年に日本語論文、1974年に英語論文を発表。当初は一介の小児科医の報告ととられ受け入れられなかったが、アメリカ合衆国で同様の症例が出現したことで、新しい病気として認知されるようになった
症状
初期は急性熱性疾患(急性期)として全身の血管壁に炎症が起き、多くは1-2週間で症状が治まるが、1ヶ月程度に長引くこともあり、炎症が強い時は脇や足の付け根の血管にが出来る場合もある。心臓の血管での炎症により、冠動脈の起始部近くと左冠動脈の左前下行枝と左回旋枝の分岐付近に瘤が出来やすい。急性期の血管炎による瘤の半数は、2年以内に退縮(リグレッション)するが、冠動脈瘤などの後遺症を残す事がある。
主要症状は以下の6つである。
   1)5日以上続く原因不明の発熱(ただし治療により5日未満で解熱した場合も含む)
   2)両側眼球結膜充血
   3)四肢の末端が赤くなり堅く腫れる(手足の硬性浮腫、膜様落屑)
   4)皮膚の不定型発疹
   5)口唇が赤く爛れる、いちご舌(=が真っ赤になる)、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤(※「びまん性」とは病変が比較的均等に広がっている状態であることを意味する医学用語)
   6)有痛性の非化膿性頸部リンパ節腫脹
以上6つの主要症状のうち5つ以上を満たすものを本症と診断するが、5つに満たない非典型例も多い。発熱、発赤、リンパ節腫脹などは乳幼児期のウイルス感染症でも極一般的に認める症状であり、確定診断には困難を伴う。主要症状には含まれていないが、乾癬様皮疹、麻痺性イレウス低アルブミン血症BCG接種部位の発赤・痂皮形成などは留意すべき所見とされる
疫学
特徴
欧米に比べると日本をはじめとするアジアの国々に多い。男女比は女児よりも男児に多い傾向がある。好発年齢は4歳以下で特に1歳前後に多い。冠動脈径 8mm以上(通常 2mm以下)が約0.5%発生し、死亡率は約 0.05%程度。年齢により症状は異なる。
患者数
日本では、1980年代後半から90年代において年間およそ6,000人が発症している。1999年は約7,000人、2000年には8,000人と増加傾向にある。日本では1982年に16,000人、1986年に13,000人の流行があった。2000年以降も患者の発生は続き、2004年には患者数10,000人を超え、2008年の患者数は11,756人が報告されている。また、2008年は、10万人当たりの罹患率(0-4歳児)も上昇傾向で、218.6人と史上最高を記録している。
原因
川崎病の病因は不明で、感染症なのか自己免疫疾患なのかは、はっきり特定されておらず、感染症説、スーパー抗原説、自己抗原説、RNAウイルス説など、様々な仮説がある。ただ発病は夏と冬に多く、地域流行性があることから、何らかの感染が引き金となって起こる可能性が示唆されている。
 1979年、カンジダ
 1990年、A群溶連菌
 2005年、仮性結核菌による菌血症の幼児患者が川崎病類似症状を呈し、播種性血管内凝固(DIC)を合併した
 2009年:順天堂大学のグループが患者の体内で大量に増えたブドウ球菌桿菌といった複数の細菌の感染によって引き起こされる可能性が高いという研究結果を発表し、これらの細菌を抑える抗菌薬ST合剤)を投与することで、症状が回復した症例も得られた結果を発表した。
 2011年:症例数の変動と、中央アジアで発生し東方に移動し北太平洋を横断するジェット気流の循環の強弱が、似た変動を示すことが明らかとなった
 2014年:国際研究チームによって、中国東北部からの風が関与しているという研究成果がまとめられた。この風にはカンジダ類が多く含まれている事が判明している
 2014年、国際研究チームによって、中国北東部の穀倉地帯から来る風に乗って運ばれる毒素が、日本で川崎病の原因になっている、との推定が発表された。中国で行われた農業改革で農業生産が高まった時期と川崎病の流行ピークが合致していると判明
  具体的に言うと、自治医科大学公衆衛生学教室の《川崎病全国調査からみた川崎病疫学の特徴とその変遷》にある罹患率推移グラフには過去3回の全国規模の川崎病流行のピーク(1979年、1982年、1986年)が現れているが(グラフは出典掲載のものを参照のこと)、そのころに中国の農村で何が起きたか調べると、1979年には中国政府が農産物買付価格を18年ぶりに大幅に引き上げ生産刺激策を取り、川崎病の最も大きなピークの1982年の元日には「個別農家への請負制」を認める中国共産党中央の文書が発表され、集団営農の人民公社制度が一気に解体、3番目のピークの1986年にかけて「農産物と副産物の統一買付けと割当買付け制度廃止」など農業生産の自由化が続々と打ち出された
  その後、川崎病はピーク状の(とがった)変動は見られなくなるものの、小児人口10万人当たり罹患率は右肩あがりに上がって過去のピークをむしろ越えてしまうような悲惨な状況になったが、この時期、中国共産党が2004年から2008年にかけて再び農業刺激策を毎年打ち出し農民収入増加促進や農業インフラ整備などで農村に農業生産を呼び戻していたのである
  川崎病の流行推移は中国の農業生産とリンクしている、と考えてよさそうなのである。研究の筆頭著者でバルセロナにあるカタロニア気候科学研究所の気候科学者、ザビエル・ロドー(Xavier Rodo)氏は「これら病原となる粒子の生成が、農薬または化学肥料によるものなのか正確に突き止めるため、より焦点を絞った調査が必要になるだろう」と言い、「(中国の)農業がこの病気に重要な関係を持つことは間違いない」と同氏は述べた。
  2016年:理化学研究所のグループは、川崎病への罹患率と関連するいくつかの一塩基多型を発見してきた。2016年には、これらの一塩基多型の中でも、特に日本人に高頻度で見られるものが発見されている
  以上のような感染や何らかのきっかけにより、全身の血管、中小動脈への自己免疫が誘発される。病理組織上は血管壁に、好中球や、マクロファージリンパ球を認める。これら炎症細胞が血管壁を破壊することにより、冠動脈の拡張、四肢末端の浮腫が引き起こされると考えられている。
予防
原因がはっきりしていないため、決定的な予防法や検査法は確立されていない。
治療
主な治療法
  川崎病治療の目的は、急性期の炎症反応を可能な限り早期に終息させることで、冠動脈瘤の形成を予防することである。初期治療としては免疫グロブリンプレドニゾロンアスピリンを併用される。この併用療法により48時間以内に解熱しない、または2週間以内に再燃が見られる場合を不応例とする。
  不応例には、免疫グロブリンとシクロスポリンあるいはインフリキシマブの併用投与を行うか、ステロイドパルス療法が有用な例も報告されている。また冠動脈が拡張を来していないか、心エコーによりフォローする必要がある。冠動脈病変が好発する第10病日で行い、異常が認められない場合には発病後6週で再検する(実際は各施設により心エコーを行う時期はまちまちと思われる)。冠動脈病変が認められない場合、その時点でアスピリンを中止する。
  5日以上持続する発熱が診断基準の1つとなっているものの、他の診断項目から明らかに川崎病と医師によって診断される場合には、発熱5日まで治療開始を待つ必要はない。遅くとも、発症7日以内に治療開始することが望ましいとされる。
予後と後遺症
  冠動脈障害がない場合も成人後の遠隔期での心疾患リスクのコントロールに留意する必要がある。発症から1-3週間後ぐらいに10-20%の頻度で冠動脈に動脈瘤が認められ、まれに心筋梗塞により突然死に至ることがある。冠動脈瘤の約半数は、1-2年程度で退縮(リグレッション)するが、残りの半数は退縮せず残る。冠動脈障害が治った場合でも、冠動脈の状態は成長と共に変化し心臓障害のリスクが高くなる。従って、定期的な検査が必要になる。巨大な瘤を発生した患者では、15年で約70%は冠動脈に狭窄や閉塞が見つかるが、60%程度は無症状で無症候性心筋梗塞と呼ばれる。
  免疫グロブリン静注療法によって冠動脈瘤の頻度が低下していることが明らかになっている一方、依然として巨大冠状動脈瘤の頻度には大きな変化がなく、未だにより有効な治療法に向けて研究が進められている。
  冠動脈障害(狭窄)により血行が十分に確保されない(心筋虚血)場合は、血行再建術外科手術)により治療を行う。具体的には、カテーテルによる経皮的冠動脈形成術(PTCA)と冠動脈バイパス術(CABG)で、発症後2年以内に行うと治療効果が高い。一方、発症から10数年経過し、血管壁が厚く血管内部で石灰化している場合は、ロータブレーターにより内壁を削る。しかし、カテーテルやロータブレーターで治療では再び狭窄が進行することがある。根本治療は冠動脈バイパス手術で、心臓への血行が回復すると運動制限は無くなる。
心筋虚血がない場合は運動制限を行う必要はない。


オストメイト
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オストメイト(Ostomate)とは、癌や事故などにより消化管や尿管が損なわれたため、腹部などに排泄のための開口部(ストーマ(人工肛門・人工膀胱))を造設した人のことをいう。単に人工肛門保有者・人工膀胱保有者とも呼ぶ

タイプ
以下の3つに大別される人工肛門保有者はコロストメイト及びイレオストメイト、人工膀胱保有者はウロストメイトと同義である。
 ・コロストメイト - 結腸ストーマ(コロストミー Colostomy)保有者・:イレオストメイト - 回腸ストーマ(イレオストミー Ileostomy)保有者・ウロストメイト - 尿路ストーマ(ウロストミー Urostomy)保有者
生活
  オストメイトであることを理由とした、特別な食事制限等は必要とされない。ストーマの形状によって適切な装具を選択し、周辺のスキンケアや定期的な装具交換が必要とされる。装具を装着している状態であれば公衆浴場でも問題なく入浴可能であるが、オストメイトであることを理由として公衆浴場への入浴が拒否される事例も発生している
  排泄物の処理時には、ストーマ装具の交換や周辺皮膚の洗浄等が必要となるため、通常のトイレでは排泄処理が困難である。このため多機能トイレや、オストメイト対応を謳うトイレが必要である
  オストメイトは自己管理可能であるため、通常の状態では特別な手助けは必要ない。一方、災害発生時には消耗品であるストーマ装具や洗浄用の水道水が入手困難になることもあることから、災害時の備えや支援が重要とされる。
オストメイトをサポートする社会福祉制度
  ・主な社会福祉制度は身体障害者手帳障害年金である。そのほか医療費控除障害者控除などもある。詳しくは、各市区町村の福祉事務所や年金窓口、勤務されている事業所管轄の年金事務所、税務署などに問い合わせのこと。
  ・身体障害者手帳:身体障害者福祉法による障害等級に該当する場合、身体障害者手帳を取得することができる。手帳があると日常生活用具(ストーマ用装具)の給付、税の減免、鉄道・航空運賃の割引などを受けることが出来る。
  ・障害年金:障害年金を受給できる場合がある(身体障害者手帳の取得とは無関係)。
身体障害者手帳の申請と交付
  ・対象:永久造設のストーマに限る。
  ・申請時期:ストーマのタイプに関わらず、ストーマ造設後すぐに申請ができる。
  ・等級:オストメイトの場合障害程度の等級は通常4級。複数の障害がある場合、3級や1級が認定されることがある。
  ・交付手続き:市区町村の福祉事務所で申請用紙、用紙をもらい、病院で診断書を作成してもらい、福祉事務所で申請し、障害程度の認定審査をうけ認定されると、身体障害者手帳が交付される。
  ・手帳の利用:身体障害者手帳の取得によって、日常生活用具の交付、JR旅客運賃や国内航空運賃など各種交通機関の割引、有料道路割引券交付、公園・美術館など各種公共施設利用料の割引・無料化などの、各種サービスが受けることができる。
  ・日常生活用具(ストーマ用装具)の給付申請:身体障害者手帳が交付されると、使用する日常生活用具(ストーマ用装具)の給付を申請できる。
  ・対象:身体障害者手帳の交付者
  ・種類:ストーマ用装具(蓄便袋・蓄尿袋(パウチ)など)
  ・給付額:居住する各市区町村によって異なる。
  ・申請手続き:市区町村の福祉事務所に問い合わせのこと。
障害年金
  ・障害年金には、障害基礎年金障害厚生年金がある。
  ・障害の程度(等級)や身体障害者手帳の等級と年金額は無関係である。
  ・障害年金以外に他の年金(例:老齢年金遺族年金)を受ける権利があるときは、それらの組み合わせや年齢によって併給できる場合と、いずれか一方のみを選択しなければならない場合がある。
  ・障害基礎年金(1級、2級):国民年金加入者の場合。年金額:1級990,100円 2級:792,100円(2006年度金額)。人工肛門または人工膀胱造設の手術をしただけでは通常支給されない。人工肛門と人工膀胱の両方を造設した人など障害の程度の重い人が支給の対象となる。
  ・障害厚生年金(1級、2級、3級):厚生年金加入者の場合。年金額は、加入中の給与(平均標準報酬月額)や勤続年数によって算出される。最低補償額は、3級で年額594,200円(2006年度金額)。1級または2級に該当する場合は、障害基礎年金や配偶者加給年金(要件あり)が更に支給される。オストメイト(人工肛門または人工膀胱を造設した人)は通常3級として認定され、年金が支給される。
  ・詳しくは、各市区町村の福祉事務所や年金窓口、勤務している事業所管轄の年金事務所などに問い合わせのこと。
医療費控除
  ・自費で購入したストーマ装具の費用や他の医療費との総額のうち、年間10万円を超える分は医療費控除の対象となる(問い合わせ・受付窓口:税務署)。
障害者控除(所得控除)
  ・障害者自身または控除対象配偶者や扶養家族が所得税法上の障害者に当てはまる場合には所得控除を受けることができる。控除できる金額は通常障害者1人ごとに27万円である。(問い合わせ・受付窓口:税務署)。


狂犬病
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  狂犬病(英語: rabies)は、ラブドウイルス科リッサウイルス属の狂犬病ウイルス (Rabies virus) を病原体とするウイルス性の人獣共通感染症である水などを恐れるようになる特徴的な症状があるため、恐水病または恐水症 (英: hydrophobia) と呼ばれることもある(実際は水だけに限らず、音や風も水と同様に感覚器に刺激を与えて痙攣等を起こす)。
概要
  狂犬病は、毎年世界中で約5万人の死者を出しているウイルス感染症であり、一度発症するとほぼ100%死に至る。狂犬病による死者の95%以上はアフリカアジアで発生している。感染した動物に噛まれた人の40%は、15歳未満の子供であった。ただし、狂犬病はワクチンによって予防できる疾患でもあり、ヒトからヒトへの伝播がなく、大流行に繋がる恐れもないことから、感染症対策の優先度は低くなる傾向がある(言い換えれば、非常に危険な感染症ではあるが、伝染病ではない)。
  日本では、感染症法に基づく四類感染症に指定されており(感染症法6条5項5号参照)、イヌの狂犬病については狂犬病予防法の適用を受け(狂犬病予防法2条参照)、ウシウマなどの狂犬病については、家畜伝染病として家畜伝染病予防法の適用を受ける(家畜伝染病予防法2条及び家畜伝染病予防法施行令1条参照)。
  日本では、咬傷事故を起こした動物は、狂犬病感染の有無を確認するため、捕獲後2週間の係留観察が義務付けられている。係留観察中の動物が発症した場合は直ちに殺処分し、感染動物の組織から蛍光抗体法で、狂犬病ウイルス抗原の検出を行う。
症状(ヒト)
  潜伏期間は、咬傷の部位によって大きく異なる。咬傷から侵入した狂犬病ウイルスは、神経系を介して脳神経組織に到達し発病するが、その感染の速さは、日に数ミリから数十ミリと言われている。したがって顔を噛まれるよりも、足先を噛まれる方が、咬傷後の処置の日数が稼げることとなる。脳組織に近い傷ほど潜伏期間は短く、2週間程度。遠位部では数か月以上、2年という記録もある
  前駆期には風邪に似た症状のほか、咬傷部位皮膚の咬傷部は治癒しているのに「痒み」や「チカチカ」などの違和感、熱感などがみられる。急性期には不安感、恐水症状(水などの液体の嚥下によって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを感じるため、水を極端に恐れるようになる症状)、恐風症(風の動きに過敏に反応し避けるような仕草を示す症状)、興奮性麻痺、精神錯乱などの神経症状が現れるが、脳細胞は破壊されていないので意識は明瞭とされている。腱反射、瞳孔反射の亢進(日光に過敏に反応するため、これを避けるようになる)もみられる。その2日から7日後には脳神経や全身の筋肉が麻痺を起こし、昏睡期に至り、呼吸障害によって死亡する。
  典型的な恐水症状や脳炎症状がなく、最初から麻痺状態に移行する場合もある。その場合、ウイルス性脳炎ギラン・バレー症候群などの神経疾患との鑑別に苦慮するなど診断が困難を極める。恐水症状は、喉が渇いていても水に恐怖を感じてしまう為、苦しむ動物人間は多い
原因
  一般には感染した動物の咬み傷などから唾液と共にウイルスが伝染する場合が多く、傷口や目・唇など粘膜部を舐められた場合も危険性が高く、感染コウモリが住む洞窟内での飛沫感染もある。狂犬病ウイルスはヒトを含む全ての哺乳類に感染し、昔は感染源のほとんどがイヌであった。近年ネコやコウモリ、サルやアライグマなど、イヌ以外の野生動物が感染源として増加している。 通常、ヒトからヒトへ感染することはないが、角膜移植や臓器移植によるレシピエント(移植患者)への感染例がある
診断
  診断法は「蛍光抗体 (FA) 法」によるウイルス抗原の検出、「RT‐PCR法」によるウイルス遺伝子の検出、ウイルス分離、血清反応、ELISA による抗体価の測定などにより行われるが、感染初期の生前診断は困難。
予後
  試験的な治療法の成功症例を除くと、ワクチン接種を受けずに発病した場合は、ほぼ確実に死亡へ至り確立した治療法はなく、予後は非常に悪い。
  2004年10月以前までで、記録に残っている生存者はわずか5人のみで、いずれも発病する前に狂犬病ワクチン接種を受けていた。2004年10月、アメリカ合衆国ウィスコンシン州において15歳の少女が狂犬病の発病後に回復した症例がある]。これは発病後に回復した6番目の症例であり、ワクチン接種無しで回復した最初の生存例でもある
  この際に行われた治療は、ミルウォーキー・プロトコル (Milwaukee protocol) と呼ばれ、実際に数人が生存しており、治療法として期待されているが、回復に至らず死亡した事例も多く(これを用いても生存率は1割程である)、生存したとしても麻痺などの後遺症が残るのが現状であり、研究途上である。
  近年では、この治療法により10歳のアメリカ人少女、2008年10月、ブラジルペルナンブーコ州の16歳の少年が歩行困難と発語困難により依然として治療を続けているものの回復に至った事例がある。2018年1月9日ブラジルアマゾナス州バルセロス市在住の14歳の少年が同治療により狂犬病から生還した。
  狂犬病は『最も致死率が高い病気』として、後天性免疫不全症候群(エイズ)と共に、ギネス世界記録に記録されている。ただし、エイズは現在では(HIVに感染しても)HAART療法で発症および疾患の進行を遅らせることが可能であり、HIV感染からエイズ発症までの潜伏期間は数年〜10年程度と非常に長い。
予防

  上述の通り、発症後の治療法は存在しない。感染前(曝露前)であれば、ワクチン接種によって、予防が可能である。これはヒト以外の哺乳類でも同様であり、そのため日本では狂犬病予防法によって、飼い犬の市町村への登録及び毎年1回の狂犬病ワクチンの予防接種が義務付けられている。
  ヒトについては発生国への渡航前の狂犬病ワクチン接種、及び発病前(世界で感染の疑いがある動物に咬まれて帰国した際など)の治療、および抗ウイルス抗体(抗狂犬病免疫グロブリン製剤)の投与により、発症阻止が図られる。日本では2019年現在、抗狂犬病免疫グロブリン製剤が承認されていないので、ワクチン接種は、渡航医学で輸入ワクチンを取り扱うトラベルクリニック・病院にて、医師の自由診療で受ける必要がある。
  アメリカ疾病予防管理センターでは、狂犬病が発生している地域へ渡航する人のうち、獣医師、野生動物保護の従事者、獣医学科の学生、適切な医療をすぐに受けることが難しい地域を訪れる者については、狂犬病ワクチンの曝露前(事前)接種を勧めているが、その他の旅行者、長期滞在者については狂犬病ワクチンの接種を勧めていない。
  日本在住者が海外へ行った際の最良の予防法は、日本におけるのと同じ感覚で、現地のイヌ・ネコの動物に接せず、手を出さないようにすることである。
  研究目的における病原体の取り扱いは、バイオセーフティーレベル2あるいは3レベルの実験室が要求され、万一に備えて、研究者はワクチンを接種する配慮が必要である。狂犬病ワクチン(詳細は「狂犬病ワクチン」を参照)

  1885年ルイ・パスツールによって弱毒狂犬病ワクチンが開発された[17]。これは狂犬病を発病したウサギ脊髄を摘出し、石炭酸に浸してウイルスを不活化するというものであった。パスツールは狂犬病の予防ワクチンだけでなく、すでに感染した患者にワクチンを投与することで、早期なら発病の防止が可能であることも発見している。
  狂犬病のワクチンとしては、動物の脳を用いて狂犬病ウイルスを培養して作成した動物脳由来ワクチンと、培養組織を用いて狂犬病ウイルスを培養して作成した組織培養ワクチン (PCECV) とがある。いずれのワクチンも、狂犬病ウイルスを不活化して作製した不活化ワクチンである。3回のワクチン接種で、咬傷後の免疫グロブリンは不要である。
  動物脳由来ワクチンとしては、ヤギ脳由来のセンプル型のワクチンと、乳のみマウス脳由来のフェンザリダ型のワクチンがある。組織培養ワクチンは、ドイツと日本で製造されているニワトリ胚細胞のワクチン (PCEC: purified chick embryo cell vaccine) のほかに、フランスのヒト二倍体細胞ワクチンVERO細胞ワクチン (PVRV: purified Vero cell rabies vaccine) がある。
  世界保健機関は、抗体獲得が不十分なことから、動物脳由来ワクチンの接種を推奨していない。
曝露前接種
日本
  流行地への立ち入りを予定する者は、基礎免疫をつけておくのが望ましいが、任意接種であり自由診療となる。狂犬病ワクチンはLEP-Flury株をさらに弱毒化した化血研製HEP-Flury株が用いられる。曝露前接種は、初回接種を0日とすると0-28-180の3回接種となる。抗体陽転は2回接種後の2週後であるため、初回接種から6週目となる。一部の報告によると、3ヶ月を経過してから抗体価の減弱化がはじまるともある。世界保健機関の推奨方法とは異なる、日本独自の接種間隔である。追加接種は不要であるが、動物を扱うハイリスク職業者の場合は、2〜5年おきに追加接種する。
世界
  欧米の狂犬病ワクチンは、前記のように多種多様であるが、組織培養ワクチンが一般的に使用される。曝露前接種は、初回接種を0日とすると、0-7-28の3回接種となる。緊急接種の場合、28日目の代わりに21日目となる。抗体陽転はいずれの場合も、初回接種から4週目となる。また乳幼児では、初回接種後2週間後に抗体陽転したと製造メーカーは発表している。
  いずれにせよ3回目の緊急接種を行うと、21日目に完了するため、渡航前には有用である。曝露後接種も、日本産は5回目あたりで抗体陽転が認められたところ、世界の組織培養ワクチンは、およそ14日目に抗体価がWHOの安全基準である0.5 IU/mlを上回っている。追加接種は不要であるが、動物を扱うハイリスク職業者の場合は、2〜5年おきに追加接種する。
  WHOの推奨する曝露前接種方法は、0、7、28(または21)である。日本製品でこの方法を適用することは、未承認ワクチンを使用するのと同等である。欧米の狂犬病ワクチンは日本未承認であるため、医師の個人輸入を取り扱っている医療機関にて申し込むことにより接種可能である。
治療
  狂犬病にかかった可能性のある場合、速やかに医療もしくは獣医療の専門機関に「いつ、どこで、どの個体に咬まれたか」を伝える。ウイルスは唾液腺や神経で増殖するが、唾液へのウイルス排出は潜伏期を経て、発病する3 - 5日前とされている(過去に一例だけ、13日前から唾液にウイルス排出した記録もある)。
  一見狂犬病でないような動物に咬まれても、狂犬病にかかるリスクは存在するため、咬まれた地域(旅行した国、場所)と、咬まれてからどれほど日数がたっているのか、また咬んだ個体を繋留して一週間経過観察し、狂犬病を発症するか否かを確かめる必要性がある。
  発症すれば確実に死亡するので、感染の可能性がある場合には、必ず次のような対処が必要である。
  咬傷を受けたら、まず傷口を石鹸水でよく洗い、オキシドール消毒用エタノール消毒する。狂犬病ウイルスは弱いウイルスなので、これで大半は不活化する。
  すぐに狂犬病ワクチン接種を開始する(曝露後接種 Post-exposure immunization)。
曝露後ワクチン接種での治療日程は、3回の曝露前ワクチン接種(過去の旅行前などの狂犬病予防注射)を行っていない場合と、行っている場合とに分けられる。
    行っていない場合や3回のワクチン接種が終わってない場合、免疫グロブリンの投与とワクチン接種を行う。欧米製のワクチンでは5回接種(当日及び3、7、14、28日後)を行うが、日本製のワクチンでは6回接種(当日及び3、7、14、30、90日後)を行う。
    3回のワクチン接種を完了している場合、免疫グロブリンは不要で、米国では曝露前ワクチン接種の時期と関係なく、曝露後ワクチン接種は2回(当日、3日後)。日本では、曝露前ワクチン接種が1年以内であれば2回(当日、3日後)、1 - 5年前であれば3回(当日、3、7日後)、5年以上前であれば曝露前ワクチン接種を行わなかったときと同様に6回(欧米製のワクチンの場合は5回)となっている。
  WHOでは、初回接種時に狂犬病免疫グロブリンを併用することを推奨しているが、日本では未認可のため入手不可能で、世界でも入手困難であるため、曝露後ワクチン接種のみで処置している。ワクチン接種でいずれにしても大事なことは、噛まれたらまず直ちに洗浄し消毒液で消毒し、直ちに医療機関に行って狂犬病ワクチン接種の処置することである。
曝露後接種
  感染の機会があった場合、その発症を予防するためにも狂犬病ワクチンが使用される。
  WHOでは0日、3日、7日、14日、28日(必要に応じて90日)の5回(6回)、各1ml筋肉注射を推奨している。その他、0日に2ml(1ml、両腕)、7日に1ml、14日に1mlの筋肉注射でワクチン接種する方法(エッセン法または変則的なザグレブ法、2-1-1法)がある。0.2mlという少量を4回、皮内に接種する方式(タイ赤十字方式、2-2-2-0-2法)もある。
  欧米の狂犬病ワクチンは、世界でも非常に高価であるため、WHO標準方式は受け入れられていない。そのためザグレブ法やタイ赤十字方式も推奨されている。
疫学
  南極を除く全ての大陸で感染が確認されている。流行地域はアジア、南米、アフリカで、全世界では毎年50,000人以上が死亡している。
  日本の厚生労働大臣が指定する狂犬病清浄地域は、日本、英国グレート・ブリテン島及び北アイルランドに限る)・アイルランドアイスランドノルウェースウェーデンハワイグァムフィジーオーストラリアニュージーランドと非常に少ない。フィジーについては、2011年現在、狂犬病は発生していないものの、輸入検疫制度が十分でないとの懸念がある。
インド
  インドは約30,000人 と世界で最も狂犬病による死者が多く、ワクチンによる治療を受ける人も年間で100万人に上る。インド国内での動物咬傷事故の90%以上はイヌ(その大部分は野犬)によるもので、主なウイルス保有宿主もイヌだが、サル、ウシ、ウマ、ネコ、ヤギ、ネズミ、ウサギなどからもウイルスが分離されている。
台湾
  2013年、台湾中部の野生シナイタチアナグマが、狂犬病に感染していたことを確認した
中国
  中華人民共和国では、ペット、食用犬などで1億5000万匹の犬が飼われているがそのほとんどが未登録犬で、さらにその数倍の野犬が生息している。近年の経済発展に伴いペットを飼う人が増えて飼犬も増加したが、狂犬病予防接種の実施率は0.5%と防疫効果がまったく期待できない低水準であり、室内犬を除いては放し飼いが一般的である。それに伴って毎年約3000人(中国衛生部によると2006年は3207人)が狂犬病により死亡するなど、特に都市部での狂犬病被害が激増しており、2005年には国内伝染病による死者数の20%を占めた。
  中国政府は2008年北京オリンピックに向けて撲滅に躍起になっていた経緯があり、2006年7月、雲南省牟定県では蔓延する狂犬病の対策として予防接種済み犬を含む全ての愛玩・食用・野生犬、約5万匹を殺処分をする政策を取った(軍用犬警察犬を除く)。処分の補償金はわずか5で、処分の方法もほとんどが撲殺であり、飼い主の目の前で処分したり飼い主自ら処分したりするよう命令し、従わない場合は処罰するなど強権的な措置に全世界から非難が殺到した。

  中華人民共和国衛生部の統計によれば、2006年9月の1カ月間で、中国では319人が狂犬病を発病して死亡した。同年1月から9月にかけての死者も2200人を超え、5月から9月にかけては中国における感染症死亡者数の第1位となって大流行した。2007年上半期(1 - 6月)の統計でも発症者が1395人、死者が1136人と状況は変わっていない。
  2008年の四川大地震によって多くの飼犬が野犬化しており、噛傷被害を受けた被災者も増加しているが、ワクチンが無く、傷を洗って消毒するだけで帰している状況のために今後狂犬病の被害が拡大する可能性があるとの見方もあり青川県では地震によって野犬化した犬の殺処分を行うことが決定された
  2008年1月、すべての犬に狂犬病予防接種を義務づけた。2008年の狂犬病による死者は2478人。
フィリピン
  2019年2月、休暇で訪れていたフィリピンで、24歳のノルウェー人女性が助けた子犬にかまれ、狂犬病により5月に亡くなった。遺族によると、被害者と友人らのグループは誰も狂犬病の予防ワクチンを接種していなかった。
北米
  米国では狂犬病に関わる公衆衛生コスト(診断、予防、コントロール)は年間$2.45-5.1億ドルに上る。人への感染は年間数名だが、スカンク、コウモリ、アライグマ、キツネなどの野生動物で毎年6,000 - 8,000件、ネコで200 - 300件、イヌで20 - 30件の狂犬病報告がある。ニューヨーク州では2015年1月から6月までの6ヶ月間で148匹の狂犬病に感染した動物が確認されており、2006年8月には人を噛んだネコから狂犬病ウイルスが検出されたとしてニューヨーク市保健精神衛生局が注意喚起情報を発した。
  狂犬病で亡くなった著名人に、アメリカ合衆国の女優だったエイダ・クレア(1874年、39歳で逝去)がいる。
日本における対処
  現在の日本においては狂犬病予防法により、予防、感染発生時の対処、蔓延防止の手段などが定められている。
予防措置
  狂犬病予防法はイヌに適用されるほか(狂犬病予防法2条1項1号)、狂犬病を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定める動物にも適用される(狂犬病予防法2条1項2号)。政令ではネコ、アライグマ、キツネ、スカンクにも狂犬病予防法を適用することとしている(狂犬病予防法施行令1条)。
  発病後の治療法が存在しない以上、狂犬病は感染の予防そのものが最も重要な病気である。そのため、日本国内でイヌ等への感染が獣医師によって確認された場合には狂犬病予防法第8条、9条により、患畜の速やかな届出と隔離が義務づけられている。狂犬病は人獣共通感染症であることから、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)で四類感染症に指定されている(感染症法6条5項5号)。ウシなど法律・政令で定められた特定の動物の狂犬病については家畜伝染病として家畜伝染病予防法の適用を受ける。家畜伝染病予防法では、ウシ、ウマヒツジ(綿羊)、ヤギブタが指定されており(家畜伝染病予防法2条)、家畜伝染病予防法施行令で、水牛シカイノシシが追加されている(家畜伝染病予防法施行令1条)。
感染発見後
  隔離されたイヌ等は、狂犬病予防法第11条により、狂犬病予防員首長が任命した獣医師)の許可を受けなければ殺してはならないが、狂暴化するなど人命への危険や隔離が困難であるなど緊急やむを得ないときは殺すことを妨げないとされている。蔓延を防止するため予防員による発生区域での一斉検診および予防接種(同13条)が行われたり、イヌ等について移動制限がかけられたりする場合もある(同15条)。これら狂犬病の撲滅および蔓延の防止にかかわる条項違反については、罰則が定められている。
これらの動物が狂犬病に感染した場合には、患畜として家畜伝染病予防法第17条に基づき殺処分命令が出されることとなる。命令が発せられた場合には当該患畜の所有者・管理者はこれを受け入れ、速やかに処分を実施しなければならない。この家畜伝染病予防法に基づく殺処分命令の権限は都道府県知事が持つ。
日本の狂犬病
  国内での感染が確認されなくなって以降、日本で狂犬病が発症した事例は4件でともに日本国外での感染である。
  ・1970年ネパールを旅行中の日本人旅行者が現地で犬に咬まれ、帰国後に発病・死亡した事例。
2006年11月に京都市在住の男性1人がフィリピン滞在中に犬に噛まれたことが原因で帰国後に狂犬病を発症し、死亡した事例。京都での感染事例では、医療機関受診時点で既に脳炎症状を発症しており、病歴の正しい聴取が困難だった可能性が報告されている。
 ・2006年12月に横浜市(2年前からフィリピン滞在)の60代の男性1人がフィリピン滞在中に犬に噛まれたことが原因で帰国後に狂犬病を発症し、死亡した事例。
 ・2020年5月に豊橋市の医療機関を受診した静岡市在住の外国籍の30代男性が発症し、死亡した事例。日本入国前の2019年9月にフィリピンで左足首を犬に噛まれていた。
日本への再侵入の危険性
  犬に限らず狂犬病に感染している動物がペットとして海外から日本へ持ち込まれる可能性は常にある。また、狂犬病以外の人獣共通感染症に感染した動物がペットとして日本に輸入される可能性もあり、近年の愛玩動物の輸入増加とともに問題視されている。平成24年度の日本国内イヌの登録数は、678万5959匹、注射頭数は491万4347匹、ワクチン接種率は72.4%とされているが、実際には接種が行われていない事例が存在していると報道されている。
  厚生労働省は、輸入動物を原因とする人畜共通感染症の発生を防ぐため、2005年9月1日から「動物の輸入届出制度」を導入した。一方、狂犬病行政の問題としては、日本では犬以外のペット(特に狂犬病ワクチンの適用対象となっている猫)に対する狂犬病などの予防注射が、法で義務化されていない事が挙げられる。
  さらに、平時の野犬や野生動物の狂犬病ウイルス(または抗体)保有状況調査に至っては、ほぼ皆無と言えるほど貧弱なことなども再侵入監視上の問題として指摘されている[要出典]が、農水省環境省厚労省の3省連携が障壁となっており、改善されていないと述べる識者もいる。
  海外の事例として、2003年にボリビアにおいて狂犬病に感染した状態で、ペルーから輸入されたハムスターが人を噛む事故が発生している。2003年に日本に輸入されたハムスターだけでも約50万匹に上っている。狂犬病流行地ロシアとの貿易が多い北海道では、ロシア船から不法上陸した犬の存在が確認されており、危険視されている
歴史的背景
  記録が残る最初の流行は、江戸時代の1732年(享保17年)に長崎で発生した狂犬病が九州、山陽道、東海道、本州東部、東北と日本全国に伝播していったことによる。東北最北端の下北半島まで狂犬病が到着したのが1761年宝暦11年)のことである。
 ・1873年(明治6年)に長野県で流行したのを最後にしばらく狂犬病被害は途絶えたが、1886年(明治19年)頃から再び狂犬病被害が発生するようになった。1892年(明治25年)には獣疫豫防法が制定され、狂犬病が法定伝染病に指定されるとともに狂犬の処分に関する費用の国庫負担と飼い主への手当金交付が定められた[48]。しかし1906年(明治39年)頃から徐々に全国規模に広がり、特に関東大震災があった1923年(大正12年)から1925年(大正14年)にかけての3年間に大流行し、全国で9,000頭以上の犬の感染が確認された。
 ・1922年(大正11年)には狂犬病になりやすい浮浪犬を駆除すべく家畜傳染病豫防法が制定され、地方長官は公共の場その他を徘徊する犬について抑留し、所有者が判明した場合は通知して引き渡すが、所有者不明の場合は3日間の公示の上、引き渡し請求がなければ処分できるとした。また全国的な狂犬病予防週間によって野犬の大掃蕩・不用犬の買上げ・新聞による狂犬病の知識の周知徹底運動が推進された結果、1928年(昭和3年)から狂犬病は激減した。しかし大戦末の1944年(昭和19年)から戦後にかけての社会的混乱期に再び大流行しはじめた。

 ・戦後混乱期には牛、馬、羊、豚など、野犬のみならず家畜にまで狂犬病が拡大した。この危機的状況に対して占領軍は日本政府に狂犬病単独の法律の制定を命じた。
 ・1947年3月に伝染病予防法に基づく狂犬病の患者届出が開始。
 ・1950年(昭和25年)に狂犬病予防法を制定させた。同法の施行により、飼い犬の登録とワクチン接種の義務化、徹底した野犬の駆除によって1956年(昭和31年)犬、ヒトの感染報告と1957年のネコ感染報告 後は、狂犬病の発生は確認されていない。ただし、犬による咬傷事故が届出だけで毎年6,000件以上報告される現状で、犬への狂犬病ワクチンの接種率は近年低下しており、厚生労働省の調査による2007年度の登録頭数は約674万頭、接種率75.6% だが、同年のペットフード工業会の全国調査による犬の飼育頭数は約1,252万2,000頭であり、これから割り出される未登録犬も含めた予防注射実施率は約40%と、流行を防ぐために必要とされるWHOガイドラインの70%を遥かに下回っている。
  国内で感染する可能性がなくなったわけではない。接種しなかった場合は狂犬病予防法により罰金刑などが科される可能性がある。


利益相反行為
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


利益相反行為 (りえきそうはんこうい)とは、ある行為により、一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為。他人の利益を図るべき立場にありながら、自己の利益を図る行為が典型的な例であり、利益を図るべき他人に対する義務違反になる場合が多い。略語としてCOI(conflict of interestの略)が用いられることもある

利益相反とは、政治家、企業経営者、弁護士、医療関係者、研究者などのように、信任を得て職務を行う地位にある人物が、その立場上追求すべき利益・目的(利害関心)と、その人物が他にも有している立場や個人としての利益(利害関心)とが、競合ないしは相反している状態をいう
  このように利益が衝突している場合、地位が要求する義務を果たすのは難しくなる。利益相反は、そこから非倫理的もしくは不適切な行為が行われなくても存在する。利益相反は、本人やその地位に対する信頼を損なう不適切な様相を引き起こすことがある。一定の利益相反行為は違法なものとして扱われ、法令上、規制対象となる。また、法令上は規制対象となっていない場合でも、倫理上の問題となる場合があり得る。

日本の民法における利益相反行為の規制
代理人の利益相反行為
民法第108条(自己契約・双方代理)
同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。(自己契約双方代理を参照のこと。)
親権者・後見人の利益相反行為
民法第826条 (利益相反行為)
1 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
民法第860条 (利益相反行為)
第826条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
  たとえば、法定代理人(親権者、成年後見人など)と制限行為能力者との間で利益の相反する行為について、その法定代理人には代理権はなく、その行為をなすにあたっては、家庭裁判所に対して特別代理人、臨時保佐人など第三者の選任を請求をしなければならない。これをせずに代理人が直接行った利益相反行為は、無権代理となる。ただし、後見監督人などの第三者がいる場合はこれを要しない。
  利益相反行為の場合、その法定代理人が正常な判断からではなく自己の利益の絡んだ判断をしてしまう恐れがあるので、第三者が公平な判断をするべきだからである。
  利益相反行為の有無についての判断基準として、判例は外形説を採る。これは、行為の外形のみを客観的に判断し、「制限行為能力者の財産を減少させて法定代理人または第三者の財産を増加させる行為」を一般的に利益相反行為として扱うものである。しかしこの判断基準を用いると、「増加した法定代理人の財産が結果的に制限行為能力者のために使われる場合(具体的には、子どものお年玉を親が取り上げ、親名義で預金した後、その子どもの学費として使う場合などが挙げられる。)」も利益相反行為として扱われるため、学説からは批判もある。
  なお、外形説によって利益相反行為と認められなかった行為においても、当該行為が制限行為能力者の利益を無視して法定代理人または第三者の利益を図ることのみを目的として行われた場合など、法定代理人に代理権を与えた法の趣旨に反すると認められるような特段の事情がある場合には、当該行為は代理権濫用として、その効果は本人(制限行為能力者)には帰属しない。
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