医療-1



2023.03.16-Yahoo!Japanニュス(テレ朝ニュース)-https://news.yahoo.co.jp/articles/c776b4456f87fae725fd99b4c93e4ea06684b0c9
「がん5年生存率」66.2% 生存率の改善傾向続く 種類別では…胃がん70.2%、乳がん91.6%

  がんと診断された人の5年生存率は、66.2パーセントだったと発表しました。

   国立がん研究センターの研究班が、2014年から2015年にがんと診断されたおよそ94万件のデータを集計したところ、5年生存率は66.2パーセントでした。 がんの種類別では、胃がんは70.2パーセント、乳がんは91.6パーセントだったということです。 今回、これまでより実態に近い推計方法で集計したため、前回とは比較できないものの生存率が改善している傾向は変わらないということです。
   研究班は「いま、がんと診断された患者は、治療の進歩や早期発見で以前より高い生存率が期待できる」と話しています。


2023.03.07-KYODO-https://nordot.app/1005620811356487680
健康保険証廃止、マイナに一本化 カードなしは資格確認書で診療
© 一般社団法人共同通信社

  政府は7日、健康保険証を廃止して「マイナ保険証」に一本化し、マイナンバーカードを持たない人は「資格確認書」で保険診療を受けてもらうとしたマイナンバー法など関連法改正案を閣議決定した。ただ確認書は有効期間最長1年の更新制とし、患者の窓口負担もマイナ保険証より重くする方針。2024年秋の実施を目指すが、カード取得の「事実上の義務化」との指摘が出ている。

  確認書は健康保険組合などが本人の求めに応じて発行する。カードはあるが保険証機能を持たせていない人も必要で、カードを紛失した人や更新手続き中の人も対象。経過措置として現行保険証を最長1年間は使える
  改正案には他にもカード取得促進策を盛り込んだ。顔つきの変化が早い1歳未満は顔写真なしで申請できるようにする。成人のカードは発行から10回目の誕生日まで有効だが、この場合は5歳の誕生日までを想定している。
  マイナンバー制度の有効活用も図る。行政機関が把握済みの住民の口座を、公金受取口座として登録する制度を設ける。
© 一般社団法人共同通信社


関西医科大学(光免疫医学研究所)-https://www.kmu.ac.jp/research/pit/commentary/index.html
光と免疫による患者にやさしいがん治療法

  光免疫療法(英:Photoimmunotherapy)とは、光に反応する薬を投与し、薬ががんに十分集まったところでがんに対してレーザー光をあてることで治療する、新しいがん治療法です。日本においては、「切除不能な局所進行又は局所 再発の頭頸部癌」に対する治療として2020年9月に承認され、現在は保険診療として治療を受けることが可能です。

   光免疫療法用の薬は、がん細胞の表面に多く出ている目印(抗原)にくっつくタンパク質(抗体)に、光に反応する物質をつけたものです。この薬を点滴投与すると徐々にがんに集まっていき、1日くらいでがん細胞に薬がたくさんくっつきます。そこにレーザー光を当てると薬が反応し、薬がたくさんくっついたがん細胞は破裂して死滅します。一方で、光免疫療法用の薬がほとんどくっつかない正常細胞は、レーザー光を当ててもダメージを受けませんまた光免疫療法用の薬自体は細胞にダメージを与えませんし、使用するレーザー光も人体に害は及ぼさないので、抗がん剤のような治療部位以外での副作用はなく、患者にやさしいがん治療法といえます。
  また光免疫療法は、直接細胞を殺傷する作用だけでなく、患者自身のがんに対する免疫を活性化することでもがん細胞を攻撃します。
  光免疫療法によりがん細胞を破壊すると、がん細胞の中からがんに特有の物質(がん抗原)が周囲にばら撒かれます。一方、がん細胞の近くにいる免疫細胞はダメージを受けていないので、周りの免疫細胞が出てきたがん抗原を取込み、壊れたがん細胞と同じ細胞に対する免疫が活性化されます。
  このがん細胞に対する免疫の活性化により、患者自身の免疫システムが、がん抗原を持っているがん細胞に対して攻撃を始め、光免疫療法では生き残ってしまったがん細胞もさらに攻撃することができます。このがん細胞を退治することができる免疫細胞が治療したがんのところから全身に循環することで、遠く離れた場所の転移がんに対しても治療効果を発揮することが期待されます。またがん細胞に対する免疫を獲得あるいは増強すると、感染症に対するワクチンの場合と同様に、同じがんが再発しないように予防する効果も期待できます。

関西医科大学附属病院光免疫療法センターで適用できるかを診察・検討し、条件に合致した患者さんに対して光免疫療法を行っています。詳しくは以下のWebサイトをご覧ください



2022.12.02-読売新聞-https://www.yomiuri.co.jp/politics/20221202-OYT1T50213/
改正感染症法が成立、公的病院に医療提供義務づけ…従わなければ勧告・指示が可能

  新たな感染症危機に備える改正感染症法などが2日の参院本会議で可決、成立した。病床や発熱外来の確保が課題となった新型コロナウイルス禍の反省から、感染症医療の提供を公的医療機関などに義務づけることが柱だ。義務化など主な規定は2024年4月に施行される。義務化対象は約1700病院、約5000診療所となる見通しだ。

  国や地方自治体、健康保険組合などが開設する「公的医療機関等」と、高度な医療を提供する「特定機能病院」、地域のかかりつけ医を支援する「地域医療支援病院」が義務化対象となる。病院数では全国約8200病院の約2割に当たる。
  都道府県知事は、新型コロナを含む「新型インフルエンザ等感染症」と、政令で定める「指定感染症」、未知の「新感染症」が流行した場合に各医療機関が担うべき医療内容をあらかじめ通知する。知事は、その他の医療機関も含め、合意によって医療提供に関する協定を結ぶ。通知や協定に従わない場合、知事は医療提供の勧告や指示をできる。
  合わせて、水際対策を強化する検疫法なども一括して改正された。改正法の付則には、新型コロナの感染症法上の分類見直しを検討するとの規定が盛り込まれた。現在、新型コロナは1~5類のうち2番目に厳格な「2類相当」で対応され、感染者への入院勧告・指示や外出自粛要請が可能だ。
  厚生労働省は、中長期的には季節性インフルエンザと同じ「5類」への引き下げも含めて検討している。ただ、引き下げる場合でも入院勧告・指示の権限や、患者が払う医療費の公費負担を継続できるよう、特例を設ける案も出ている。
  感染者の把握方法についても厚労省は、季節性インフルエンザのように一部の医療機関だけが患者情報を保健所に届け出る「定点把握」について、一部地域の患者情報で試算するなど研究を進めている。


2022.11.29-北海道新聞-https://www.hokkaido-np.co.jp/article/767450/?kjn
シラウオ生食で寄生虫か 青森で百人超が皮膚病変

  青森県は29日、寄生虫に起因してかゆみや腫れが出る「皮膚爬行症」とみられる患者が9月下旬以降、県内で約130人に上ったと明らかにした。多くの人が淡水魚のシラウオを生食しており、一部の検体からは寄生虫の一種「顎口虫」を確認。県は顎口虫が皮膚の下をはうことで起きた症状とみて、生食をしないよう注意を呼びかけている。

   県によると、いずれも命に別条はない。患者の多数が、小川原湖(青森県東北町)名産のシラウオを生で食べていた。
   顎口虫の幼虫が寄生する淡水魚や動物の肉を加熱せずに食べると、幼虫が皮下組織に移動し、かゆみや腫れを引き起こすことがある。


2022.11.04-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221104/k10013880941000.html
感染症法など改正案 地域医療の強化盛り込み 衆院厚労委で可決

  地域の医療提供体制の強化策を盛り込んだ感染症法などの改正案は、衆議院厚生労働委員会で、新型コロナの感染症法上の位置づけを速やかに検討するなど、付則に修正を加えて採決され、賛成多数で可決されました。

  感染症法などの改正案は、都道府県が感染症の予防計画を策定したうえで、地域の中核となる医療機関と事前に協定を結び、病床や外来医療の確保などを義務づけるもので、4日午後に開かれた衆議院厚生労働委員会で岸田総理大臣も出席して締めくくりの質疑が行われました
  この中で、岸田総理大臣は「流行の初期段階から速やかに機能する、保健医療提供体制の構築を図ることを目的として法改正を行う。国民の命や健康を守るため、次期感染症危機に万全を期していきたい」と述べました。
  そして、新型コロナの感染症法上の位置づけについて、医療現場の負担を踏まえ、インフルエンザなど、ほかの感染症と比較した観点から検討するよう政府に求めるなど、付則に修正を加えて採決され、与野党5党などの賛成多数で可決されました。
  一方、共産党は「都道府県と協定を結んだ医療機関が指示に従わない場合にペナルティーが設けられているが、病床確保に必要なのは、ペナルティーではなく財政支援だ」などとして、反対しました。
  また、4日の委員会では、政府に対し、ウィズコロナへのさらなる移行や教育的観点から、国民がマスク着用の必要のない場面で、マスクを外す判断ができる環境づくりを進めることなどを求める付帯決議も賛成多数で可決されました。


2022.10.31-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221031/k10013876181000.html
大阪急性期・総合医療センターでシステム障害 サイバー攻撃か

  大阪 住吉区の大阪急性期・総合医療センターは「ランサムウエア」と呼ばれる身代金要求型のウイルスによるサイバー攻撃を受け、電子カルテのシステムに障害が発生して緊急以外の手術や外来診療などを停止していると発表しました。復旧のめどは立っておらず、11月1日以降もこの状況が続くとしています。

  これは31日、大阪急性期・総合医療センターが記者会見を開いて明らかにしました。病院によりますと31日午前7時ごろ、電子カルテのシステムに障害が発生し閲覧などができなくなりました。
  業者に相談して調査したところ、システム障害の原因は「ランサムウエア」と呼ばれる身代金要求型のウイルスによるサイバー攻撃を受けたためとみられるということです。

  病院のサーバーには「すべてのファイルを暗号化した。復元のためにはビットコインで支払え。金額はあなたがどれだけ早く、われわれにメールを送るかによって変わる」などという英文のメッセージが届いたということです。

  病院は31日朝から緊急以外の手術や外来診療などを停止しています。今のところ復旧のめどは立っておらず、現在は紙のカルテを作成するなどして対応していますが、11月1日以降も通常の診療ができない見通しだということです。
  大阪急性期・総合医療センターの嶋津岳士総長は「現在、原因の究明とシステムの復旧に向けて努力をしている。患者さんをはじめ、関係者の皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ありません」と話していました。
  大阪急性期・総合医療センターは36の診療科に865のベッドがある総合病院で救急やがんなどの診療で地域の拠点となっています。
「ランサムウエア」とは 医療機関で被害相次ぐ
  身代金要求型のコンピューターウイルス「ランサムウエア」企業や組織などのサーバーに保管されたデータなどを暗号化し、アクセスできなくした上、暗号化の解除を引き換えに金銭を要求するサイバー攻撃の一つです。
  侵入経路としては、不特定多数にメールを送りつけた上、添付ファイルや本文に書かれたURLでダウンロードさせる方法などがあるほか新型コロナウイルスの影響で利用が広がっている「VPN」などのリモート接続の脆弱性をねらうケースも目立っています
  医療機関が被害を受けた「ランサムウエア」によるサイバー攻撃は、国内では2018年に奈良県宇陀市の市立病院で患者の一部の診療記録が見られなくなるなどの影響が出たほか、去年は、徳島県つるぎ町の町立病院で電子カルテや会計システムのデータなどが暗号化され、およそ2か月にわたり、産科などを除いて新規患者の受け入れを停止する事態となりました。
  この病院のケースでは、バックアップ用のサーバーもウイルスに感染し、患者の検査結果やX線などの画像が参照できなくなり、処方した薬の記録も見られない状態が長期間続き、診療に大きな支障がでました。
  さらに、ことしに入ってからも1月に愛知県春日井市の病院がおよそ5万人の患者の情報が記録された電子カルテにアクセスできなくなるなどの被害が出ています。
  こうした事態を受け、厚生労働省は医療機関向けのセキュリティー対策のガイドラインを改定し、バックアップの在り方や被害に遭った時の速やかな対処など「ランサムウエア」への対策を喫緊の課題として挙げています


2022.07.30-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20220730-I7S7MTB4W5MTLMYEOYLP776R4E/
ローリスクの20~40代は「オンライン診療」で 大阪で近く運用開始
(吉国在、尾崎豪一)

  新型コロナウイルスの流行「第7波」で感染者が急増する中大阪府は重症化リスクが比較的低いとされる20~40代を対象に、外来受診を経ずにオンライン診療で確定診断から薬剤の配送までを行う運用を8月第1週にも始める。逼迫(ひっぱく)する外来の医療機関の負担を緩和し、重症化リスクの高い高齢者らの受診機会を確保する。

  具体的には、感染の疑いがある20~40代には、検査キットを使って自身で検査を行ってもらい、結果が陽性だった場合は府の窓口を通じてオンライン診療を受けてもらう陽性が確定すれば、処方箋が出され、薬局から自宅へ経口薬や解熱剤などが24時間対応で配送される-といった仕組みだ。府は体制が構築でき次第、若い世代に外来の受診を控えるよう呼びかける。

  現状では、検査キットで陽性が判明したとしても、公的に陽性の認定を受けるには医師による確定診断が必要なため、改めて医療機関の外来を受診しなければならない。確定診断がなければ、医療費の公費負担や、証明書の発行などは受けられない。このため、発熱外来のある医療機関に患者が集中している。
  外来でコロナ感染疑いのある患者を診療する際は、通常一般診療とは別の待機場所を準備するなど感染拡大を防ぐ対策が必要だが、オンライン診療であれば不要なため、医療機関側の負担は軽い。吉村洋文知事はオンライン診療での対応にまわる20~40代の患者は、1日当たり数千人に上ると予想しており、府は今後、広く府内の医療機関に協力を呼びかける。
  吉村氏は「医療機関は逼迫している。外来に対応する医療機関は高齢者などリスクの高い方を優先し、若くてリスクの低い層向けに別ルートを確保する必要がある」と話している。
パンクする発熱外来、「かつてない厳しさ」
  医療現場は深刻な状況だ。患者が殺到し、後から来た人の受診を断らざるを得ない医療機関も少なくない。
  「発熱外来はどこもかしこもパンクしている」
  大阪市生野区の診療所「葛西(かっさい)医院」の小林正宜(まさのり)院長はこう漏らす。
  同院では午前9時の開院とともに即座にその日の予約が全て埋まってしまい、以降は受診を断るケースが増えているという。小林院長は「発熱外来で診断を受けないことには治療が受けられない。こういうときこそ、診てもらえない患者を何とか減らしたいのだが…」と悔しさをにじませる。
  府によると、医療機関によっては1日200人を超える患者が集中。1日の検査件数は、27日に過去最多の4万5747件に上り、府の検査能力も既に限界に達しつつある。1週間の陽性率は5割を超え、検査を求める人が減少する兆しは見えない。
  こうした状況を受けて府は27日に医療非常事態宣言を出し、重症化リスクの高い層への対策を強化した。だが、すでにリスクの高い患者の治療ができなかったり、入院につなげられなかったりする恐れが出ているという。

  大阪府医師会の茂松茂人会長は「現在、医療はかつてない厳しさにある」とした上で、リスクの低い20~40代にオンライン診療にまわってもらう今回の府の取り組みについて「医療資源は限られており、診察する対象に優先順位をつけることは意義がある取り組みだ」と評価した。(吉国在、尾崎豪一)


2022.07.21-Yahoo!Japanニュース(読売新聞)-https://news.yahoo.co.jp/articles/848022d8edc6f30635f61a4eba5efaa862112f09
慈恵病院で3例目の内密出産…20代女性「誰にも知られずに」と相談

  熊本市の慈恵病院は21日、病院以外に身元を明かさず出産できる独自の仕組み内密出産で、熊本県外の20歳代女性が6月に出産したことを明らかにした。昨年12月と今年4月に続き、3例目となる。

  同病院によると、女性からメールで「誰にも知られずに出産したい」と相談があり、同病院で仮名で出産。母子ともに健康で、子どもは県内の乳児院で保護されている。
  女性は同病院に、マイナンバーカードと運転免許証のコピーを預け、特別養子縁組を希望する書面も作成したという。今回の出産について、市子ども政策課は「子どもの戸籍について、法務局に相談しながら対応を進め、安心して暮らせる環境を検討していきたい」としている。


2022.07.20-JIJI KOM-https://www.jiji.com/jc/article?k=2022072000944&g=soc
塩野義コロナ薬、継続審議に 有効性の推定「判断できず」―厚労省

  厚生労働省は20日、薬事・食品衛生審議会の薬事分科会と専門部会の合同会議を開き、塩野義製薬が開発する新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」について承認可否を審議した。国産初のコロナ飲み薬として注目されていたが、「提出されているデータからは有効性が推定されるとは判断できない」と結論付けた。11月に提出予定の最終段階の臨床試験(治験)の結果などを待ち、改めて審議する見通し。

  合同会議では、審査を行う医薬品医療機器総合機構(PMDA)が報告書を提出した。ゾコーバの服用で「ウイルス量の減少傾向が認められたことは否定しない」としたが、最終段階の治験を踏まえて再検討が必要との見解を示した。また、同薬と併用できない既存薬があるほか、妊婦には投与できないと指摘。現時点では「重症化リスクがあり、他の治療薬が使用できない場合に限ることが妥当」としていた。
  会議では、委員から「臨床現場で使いにくい」「最終治験まで待ってもよいのでは」などの意見が出た。
  6月の専門部会でも「さらに慎重に議論を重ねる必要がある」として結論が持ち越されていた。


2022.04.09-mTV-https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4376
ナノマシンを理解するため重要な3つのポイント
ナノテクノロジーでがんに挑む(7)ナノマシンの実用化に向けて

  がん治療での実用が大いに期待されているナノマシン。重要なポイントは「細胞レベルのデリバリー」や「スマート機能」など、3つほど挙げられるが、一方で気になるのは人体へのリスク、つまり安全性についてだ。そのあたりはどうなっているのか。実用化までどの程度の時間がかかるのかなどとともに伺った。(全8話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:16
収録日:2021/05/12
追加日:2022/04/09
ジャンル: ≪全文≫
●ナノマシンによるがん治療の特徴とイメージ
― ありがとうございます。いくつか質問させていただいて良いでしょうか。
  片岡 どうぞ
― まず一つ目は、今回のナノマシンによる治療のイメージについてです。例えばこれまでの抗がん剤治療のイメージは、体全体に絨毯爆撃のように薬をばらまき、その中の一部ががんに届くようなイメージでした。今回は、ピンポイントで患部のがんにダイレクトに届けるという工夫がなされているというイメージが近いでしょうか。そのあたり、どのようなイメージが正しいでしょうか。
  片岡 そうですね。抗がん剤の場合は、体に入れるといろいろなところに行きます。今は分子標的薬とか、いろいろなものが開発されていますが、そういうものが完全にがん以外の組織で何も悪さをしないかというと、そういうわけではありません。あるいは、血中に入れたときになかなか溶けないとか、肝臓や腎臓で失われてしまうという問題が起こります。これは専門用語で「アドメ(ADME)」といいます。
 いってみれば、ナノマシンは体の中の薬の分布を工学的に制御する技術です。ですから、ピンポイントというとちょっと語弊があり、本当にそこにしか行かないわけではありません。他のところにも行きますが、できるだけがんのところに行かせる割合を増やすというのが一つ目の重要なポイントです。
  二つ目ですが、特に核酸医薬のメッセンジャーRNA(mRNA)の場合は、がんの組織に行っても、がん細胞の中には入っていけません。だから、それを確実に細胞レベルで細胞質に届ける「細胞レベルのデリバリー」が二つ目に重要なポイントです。ですから、まずこういうものを使って、全身の薬の分布を制御します。それから、薬によってはそもそも細胞に入れないものがあるので、それを細胞質に送り届けて機能させるのです。
  三つ目ですが、こういうものを「スマート機能」といいます。何となくそこに行って何となく薬を出すのではなく、pHが変わる、光が当たる、あるいは超音波が当たるなどの外部からのエネルギーや、内部の化学物質の濃度変化に応答して薬を出したり、止めたりする機能を持たせることができるのです。
●ナノマシンのリスクと安全性
― ありがとうございます。非常に素人の質問になってしまいますが、実際に患者として受ける場合に心配になってくるのは、こういうナノマシンを体に入れて、実際に何も害が起きないかどうかということです。講義の中でも、何もしないと血栓ができてしまうものが、いろいろな工夫で血栓もできず、サラサラ流れる画像を見せていただきました。リスクとして考えられるものには、どのようなものがあるのでしょうか。
  片岡 それはおっしゃる通りで、ナノマシンというか、高分子ミセルそのものが毒性を引き起こすのは当然良くないことです。大事なことですが、これは自動解放・自己組織化で作っているので、例えば薬が出てしまうと、ばらけてしまいます。ばらけてしまうと、1個1個のポリマーは主要な部分がアミノ酸でできているので、まず分解してしまいます。分解しなくても、ポリマーの分子量は1万ぐらいですから、腎臓から抜けていきます。そのため、ナノマシンや高分子ミセルを作る素材の選択はすごく重要で、体に優しい素材を使います。そして、用が済んだら構造がばらける工夫をしています。
― つまり、人体に害になる可能性をかなり減らしているということでしょうか。
  片岡 今、抗がん剤を搭載したミセルは臨床試験に入っていますが、ポリマーが原因と考えられる副作用は特に出ていません。
●迅速な実用化に向けて適切な臨床試験を設計する
― それは実際に医療を受ける側としては非常に心強いお話です。今ちょうど臨床試験も行われているということですが、実際にこういう医療が一般化する、普通の方々が受けられるようになるのはいつになるのでしょうか。
  片岡 よく聞かれるのですが、この臨床試験がいつ終わる予定なのかを正確に答えるのはなかなか難しいのです。臨床試験は、スケートでいうと規定問題のようなものです。決まったルールに従って、がんの種類とか患者さんの状態も全部決められていて、そこで統計的に有意な差をきちんと出して、承認を受けるプロセスになります。最初の臨床試験の設計が完璧でないと、やり直す必要が出てきます。それで足踏みしてしまいます。


ナノマシン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


  ナノマシン (英語: nanomachine) は、0.1 - 100 nmサイズの機械装置を意味する概念。ナノ (nano) とは10−9を意味するSI接頭語であるため、原義では細菌細胞よりもひとまわり小さいウイルス (10 - 100 nm) サイズの機械といえる。広義ではもう少し大きなサイズの、目に見えない程度の微生物サイズの機械装置も含む。ナノ・マシンは機械的動作を重視しているが、微小な回路形成など機械的動作を含まないより一般的な技術をナノテクノロジーと呼ぶ。語としては、マイクロマシンに対してMEMSがあるが、ナノマシンに対してはNEMSがある。
概要
  この程度のサイズになると、切削加工などで部品を製造することは不可能になる。現状ではリソグラフィー技術を用いて製造し、歯車からモーター程度の機械的部品の試作に成功している。機械部品の形状を備えた有機分子の設計が必要だと考えられている。
  フィクションの中には、ナノマシンの事を「無から有を作り出す便利な小道具」として登場させるものもあるが、現実のナノマシンは、エネルギー保存の法則を破るものではない。また元素の変成も困難であるため、必要な材料元素は用意する必要がある。
ナノマシンの歴史
  ナノマシンの概念を最初に取り上げたのは米国の物理学者リチャード・ファインマンである。彼は、1959年カリフォルニア工科大学において「原子レベルには発展の余地がある (There's Plenty of Room at the Bottom)」と題する講演を行った。ファインマンの考え方は、一般的な工具一式を用いて、1/4サイズの工具一式を作り、加工した工具を使って1/16サイズの工具を作り、という作業を分子レベルに至るまで続けるというものであり、トップダウン的といえる。ファインマンは、ブリタニカ百科事典全巻を針の先に収めることや、原子の並べ替えなどを目標に挙げていた。
  だが、現在ではファインマンの手法はそのままの形で用いることができないことが分かっている。なぜなら、ナノサイズとなると、通常の機械装置で重要な働きを示す重力摩擦力の影響が薄れる一方、表面張力ファンデルワールス力、さらに量子力学的効果などが発生するため、同じ縮尺の機械では動作しなくなるからである。そのため、ナノマシンの開発にはナノサイズを対象とする新しい機械工学自体をまず開発しなければならない。
  1974年にナノテクノロジーという造語を作ったのは、東京理科大学谷口紀男である。谷口はナノメートル・サイズの機械部品について論じた。
  1980年代に入り、キム・エリック・ドレクスラーがナノマシンの概念を拡張した。1986年の著書「Engines of Creation: The Coming Era of Nanotechnology」(邦訳: 創造する機械 - ナノテクノロジー)では、「石炭ダイヤモンドシリコン)とコンピュータ・チップ、ガンと正常組織の違いは原子の配列だけであり、配列の違いが価値を生む」として、ナノマシンによるバラ色の未来を描いた。ドレクスラーのナノマシンでは部品の形状を取った単一の分子の組み合わせを想定している。
  2000年1月には、ビル・クリントン米大統領が国家的なナノ・テクノロジープロジェクトの立ち上げを提唱。ファインマンの講演を発展し、米国議会図書館の蔵書を角砂糖1個分の容積に収めること、分子機械によるガン細胞の検出などを目標とした。
ナノマシンの危険性
ウイルス化
  ナノマシンには固有の危険性がある。特に自己増殖するナノマシンについては懸念がある。自己増殖するナノマシンは、工場であらかじめナノマシンを製造するよりも安上がりであるため、度々取り上げられる。しかし、人体に導入する事を目的とした自己増殖ナノマシンの製作は、人工ウイルス、もしくは細胞によって増殖するわけではないがそれに近い存在を創造することである。
  ナノマシンや人工ウイルスが要人暗殺等のテロに使用される懸念も高まりつつある。もしナノマシンが重大犯罪に使用された場合、ナノマシンはこれまでの検死方法では検出不可能である。また、ナノマシンは犯行後体外に排泄されるようにプログラムすると予想され、凶器であるナノマシンは肉眼で確認できず、確認には高価な電子顕微鏡が必要なため(通常の病原体やウイルスと異なり、血液検査で判明しづらい場合も想定される)事件として立件することも非常に困難になってくる。
グレイ・グー(暴走による無限増殖)(詳細は「グレイグー」を参照)
  炭素 (C) やケイ素 (Si) を主要な素材として、自己複製するナノマシンがあるとした場合、もしそれらが、自己複製時のプログラム・エラーなどにより暴走した場合、普遍的に存在する炭素やケイ素からなる物質(無論これらには大気や生物、人工建造物も含まれる)を素材化しての増殖が止まらなくなる可能性がある。ナノマシンは幾何級数的に個体数を増やすため、数時間のうちに地球全体がナノマシンの塊である「グレイ・グー (Grey goo)」に変化してしまうとされている。これらは悪用されれば従来の生物兵器よりも効果のある兵器となりうる。
  しかし、グレイ・グーの可能性については疑問を唱える科学者もいる。もし化学的に地球上の全ての生き物を分解することができるのなら、自然のナノマシンとも言えるバクテリアが40億年の進化の過程でなぜそのような現象を起こしてグリーン・グー(Green goo)をつくり出さなかったのか、などということがよく言われる。
  また、グレイ・グーを完全に否定する科学者もいる。1996年ノーベル化学賞を受けたハロルド・クロトーは、チャールズ3世(当時皇太子)が表明したグレイ・グーへの懸念に対して「まったく現実とかけ離れている」と批判したと伝えられる。グレイ・グーの概念を提唱したドレクスラー自身、2004年にイギリスBBCへのインタビューに答えてグレイ・グーは実際にはありそうもないことだと述べている。
  ナノマシンはフィクションにおいては質量保存法則やエネルギー保存法則を無視した活動を描写されているが、現実にはナノマシンが活動するためのエネルギーはどこからどうやって供給されるのかという問題があり、ナノマシンを構成する元素の一部が不足したら増殖できなくなるという問題はリンが不足すると細菌が増殖できなくなる問題と全く同じである。エネルギーと材料の制約からナノマシンが無限に増殖することは現実に起こりえない。それどころか、分子の分解結合に大きなエネルギーを必要とする金属などでナノマシンが作られた場合、自己増殖を行うには細菌の増殖よりも大きなエネルギーが必要になり、ナノマシンは高エネルギーが外部から供給されるような特殊環境でしか増殖も活動も出来ない可能性すらある。
ガン治療への応用
  2014年4月東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻の片岡一則教授らの研究グループは新規デリバリーシステムの、光に反応して目的の遺伝子をガンへ届ける光応答性ナノマシンの構築が成功したと発表した。ガン細胞などの標的細胞に特定の遺伝子を導入するためには細胞に遺伝子を正確に送達するデリバリーシステムが必要だが、従来のウイルスベクター遺伝子導入試薬では困難であるとともに安全性に問題があったが、三層構造の高分子ミセルを使用した光応答性ナノマシンでは、マウスの実験で固形ガンへの光選択的遺伝子導入に世界で初めて成功した。ナノマシンは細胞に取り込まれると膜に取り囲まれるが、膜内の酸性環境を検知すると光に反応し不安定化させる薬剤を放出するため、光が照射された細胞の核に選択的に遺伝子が届けられる。このナノマシンは、従来の遺伝子導入技術と比較し飛躍的に選択制と安全性に優れる特長を持つために全身投与が可能であり、ガンのほかにも動脈硬化などのこれまでは治療が困難であった病に対する遺伝子治療が可能となる可能性がある。
フィクションにおけるナノマシン
  ハードSFとして、ナノマシンの科学的な描写と社会や人をテーマとした作品もあるが[3][4]、スペースオペラにおけるワープのような単なる便利な、いわゆる「SFガジェット」の場合もある。
  以下は主な作品での使用例である。
  ・『美少女戦士セーラームーン』 - セーラーマーキュリーに対してビリユイが攻撃に応用した。
  ・『∀ガンダム』 - 敵味方双方の勢力が"月光蝶"と云う鉱物・人工物を破壊するナノマシンを持つ。
  ・『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』 - ルパンたちが潜入した島内の防御システムとして登場。その正体は金を原子レベルで変化させたものであった。
  ・『からくりサーカス』 - ゾナハ病の病原体として少し体格が大きいが1 mm程度のオートマタが登場するが、実質はナノマシンと同列の存在である。  ・『虐殺器官』 - 犯罪者の拘束、連行、そして拷問や医療に至るまで、ナノマシンによる人体への干渉が可能な技術が普及しているとしている。
  ・『楽園追放 -Expelled from Paradise-』 - ナノマシン技術の暴走で地上文明が崩壊してしまった「ナノハザード」により、廃墟と化した地球を描く。
  ・『機動戦士ガンダム00』では宇宙での活動を行う上で人体の負担を軽減するためにナノマシン投薬を行うという設定がある。
  ・『青空にとおく酒浸り』 - 事故で納豆菌を改造したNM(ナノマシン)に感染したキャラクターが登場する。
  ・『銃夢』 - サイボーグ化時に生体神経と機械の接続にナノマシン接着剤が使用されるという設定。ナノマシンで構成された戦闘用ボディも登場する。
  ・『銃夢 LastOrder』 - ナノマシンの暴走を防ぎ制御する「業子力学」が登場する。大気中に散布されたナノマシンにより周囲の物質から自己再生を行えるキャラクターが登場。劇中では水星でグレイ・グーが発生し、まるごとナノマシンの塊と成り果てた事件が起きている。
  ・『砲神エグザクソン』 - 医療用ナノマシンや主人公が装着する戦闘服の生成、ナノマシンの塊であるアンドロイドなどが登場する。
  ・『ふたば君チェンジ♡』 - 主人公の一族の本拠となる島の修復システムとして海水から物質を抽出して自己修復を行っている。
  ・『攻殻機動隊』 - 作中の重要な設定である電脳化の手術にナノマシンを用いるという設定がある。  ・『ターミネーター:新起動/ジェニシス』 - 劇中に登場する粒子金属ターミネーターT-3000型はナノマシンを分子次元にまで小型化したナノボット。
  ・『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』 - 主だった少年兵たちに不法移植されているロストテクノロジー「阿頼耶識システム」の一部分にナノマシンが用いられている。
  ・『バルドスカイ』 - 食料品から医療・一般生活物資や軍事兵器に至るまでナノマシンが普及した近未来において、かつて未完成品の不正流出と増殖により大惨劇「灰色のクリスマス」を引き起こした環境浄化用複合型ナノマシン「アセンブラ」を巡るストレスドラマが作品の中核を担っている。
  ・『アベンジャーズ インフィニティウォー』- 劇中に登場するアイアンマン (マーク50) とアイアンスパイダーはスーツがナノロボットで形成されていた。アイアンマンマーク50はスポーツウェアの胸部についている二ヶ所のひもを引くことによってそれを体へ密着させ変身するときに干渉を防ぎ、胸の中心部に付けているアークリアクターを2回タップするとその中に収納されていたナノロボットが出てきてパワードスーツを形成するようになっている。またナノロボットはスーツを形成する分以外の分も収納されており、様々なナノウェポンを形成することが可能である。そして、アイアンスパイダーは窒息していたスパイダーマンにアイアンスパイダースーツが収納されている小型ロケットから分離して発車されたナノロボットがスパイダーマンに接触した際にアイアンスパイダーに変身した。※アイアンスパイダースーツはスパイダーマンホームカミングにて初登場したがナノテクでスーツを装着するシーンはなかった。
  ・『仮面ライダー THE NEXT』 - 仮面ライダーV3をはじめとする劇中に登場するショッカーの次世代改造人間は「ナノロボット」と呼ばれるナノマシンを用いて改造されたという設定である。これによって改造されるとリジェクションと呼ばれる改造人間特有の拒絶反応かつ禁断症状が起きない、小さな傷なら短時間で治癒する、ショッカーへの忠誠心がより強くなるなど、あらゆる面で旧世代の改造人間よりも発達した技術であるがその一方でナノロボットは細菌兵器としての側面も持っており、改造に成功する確率は非常に低く不適合となった人物は死に至る。
  ・『救命戦士ナノセイバー』 - 作中でナノマシンを用いた治療法が開発され、この治療法を行う少年少女たちの医師で構成された医療チームが「ナノセイバー」である。
  ・『機動戦艦ナデシコ』 ー 体内にナノマシンを打ち込むことで機械とリンクし、操縦者の意思で機械を動かす「イメージフィードバックシステム (IFS)」が存在する。  ・『無人惑星サヴァイヴ』 - 謎の惑星に漂流した作中の主要メンバーの一人、ルナの身体の中に、1000年前に存在した文明の技術によって作られたナノマシンが入り、その力でたびたび窮地を脱する。遠隔地の人物と会話するテレパシーのような機能や、血豆や軽い切り傷などは一晩休めばキレイに治してしまう、といった描写がなされている。
  ・『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』 ー 劇中に登場する闇サイト『シンクネット』の信者が使用するアバターにAIが搭載されたナノマシンが使われている。


ランサムウェア(Ransomware)
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  ランサムウェア英語: ransomware)とは、マルウェアの一種である。これに感染したコンピュータは、利用者のシステムへのアクセスを制限する。この制限を解除するため、マルウェアの作者が被害者に身代金(ransom、ランサム)を支払うよう要求する。数種類のランサムウェアは、システムのハードディスクドライブを暗号化し(暗号化ウイルス恐喝)、他の幾種類かは単純にシステムを使用不能にして、利用者が身代金を支払うように促すメッセージを表示する(スケアウェア)。個人情報をネット上に開示するという脅迫をともなうケースも多くみられる。
  こうしたプログラムは、当初ロシアで有名だったが、ランサムウェアによる被害は世界的に増大してきた。2013年6月、セキュリティソフトウェア企業のマカフィーは、2013年の第1四半期において25万個以上におよぶランサムウェアのサンプルを収集したと発表した。この数は、2012年第1四半期で得られた数の2倍以上である。サイバー犯罪は金になる市場だということが周知されるにつれて、ランサムウェアのビジネスへの移行が激化し、法秩序に一層大きな課題を提示している。
動作
  ランサムウェアは、典型的にはトロイの木馬として増殖する。例えば、ダウンロードされたファイルか、ネットワークサービスの脆弱性を突いてシステムに入りこむ。
  その後、プログラムはペイロード(本体プログラム)を実行しようとする。一例としては、ハードディスクドライブの個人的なファイルを暗号化し始める。

  より巧妙なランサムウェアは、ランダムな共通鍵と固定の公開鍵によるハイブリッド暗号で被害者のファイルを暗号化するものがある。そのマルウェアの作者は、秘密の復号鍵を知っている唯一の人物である。
  いくつかのランサムウェアのペイロードは、暗号化を行わない。その場合、ペイロードは単純にシステムの相互作用を制限するアプリケーションとなっている。典型的にはウィンドウズシェルの設定によるものや、マスターブートレコードパーティションテーブル(修復されるまでOSの起動を妨害する。)を変更するものがある。
  ランサムウェアは、システムの利用者から金銭を奪い取るためにスケアウェアの要素を利用する。そのペイロードは、企業や警察を称する者から発せられた通知を表示する。通知内容は、システムが違法な活動に使用されていたとか、システムからポルノグラフィまたは海賊版ソフトウェアやメディアのような違法なコンテンツが見つかったとかいうような、虚偽の主張をするものである。
  いくつかのランサムウェアのペイロードには、Windows XPマイクロソフトライセンス認証の通知を模倣して、コンピュータのWindowsが偽造された、または再アクティベーションが必要である、と虚偽の主張をするものがある。これらは、ランサムウェアを除去するために、ファイルを復号するプログラムを供給するか、ペイロードが行った変更を元に戻す解除コードを送るよう利用者に要求する。
  この過程で、利用者はマルウェアの作者に金銭を払うように促される。支払い方法には、しばしば、銀行振込ビットコイン、有料テキストメッセージ、またはUkashPaysafecardのようなオンライン決済金券サービスが用いられる。
歴史
暗号化ランサムウェア
  初めて存在が知られたランサムウェアは、1989年にジョセフ・ポップによって作られた「AIDS Trojan」というトロイの木馬(「PC Cyborg」という名称でも知られている)である。そのペイロードは、ソフトウェアの特定部分を使用するライセンスの有効期限が切れていると主張し、ハードディスクドライブのファイル名を暗号化し、制限を解除するには「PC Cyborg Corporation」に189米ドルを支払う必要があると利用者に主張する。ポップは自身の行為を裁判で精神異常であると宣告されたが、彼はマルウェアで上げた利益をエイズの研究資金に使うと約束した。このような攻撃に公開鍵暗号を用いる概念は、1996年にアダム・L・ヤングとモチ・ユングによって紹介された。
  AIDS Trojanは共通鍵暗号だけを使用していてプログラムから鍵が取り出せたために効果的ではなかったので、RSA暗号TEA暗号を使ったMacintosh SE/30向けの概念証明型ウイルスが作成された。ヤングとユングは、この顕在的な攻撃を「暗号化ウイルス恐喝 (cryptoviral extortion)」と呼んだ。また、これは「暗号ウイルス学英語版」と呼ばれる分野における、顕在的と潜在的な攻撃の両方を含むクラスの攻撃のひとつであると言及した。
  猛威を振るったランサムウェアの例は、2005年5月に顕著になった。 2006年中頃には、Gpcode、TROJ.RANSOM.A、ArchiveusKrotten、Cryzip、MayArchiveなどのプログラムが、より巧妙なRSA暗号を活用し、鍵の長さを増やし続けた。2006年6月に検出されたGpcode.AGは、660ビットのRSA公開鍵で暗号化を行った。
  2008年6月には、Gpcode.AKとして知られる変種が検出された。1,024ビットのRSA鍵を用い、それは分散コンピューティングの力を借りなければ、計算時間の面から見て打破し得ないほど長い鍵だと考えられている。
  2014年にはNASを標的としたランサムウェア「SynoLocker」が確認され、古い版のまま更新されていないSynology製NASのOS「Synology DSM」に攻撃が広がっているとして、エフセキュア社が注意を喚起している。
  また、日本では0Chiakiという人物が開発したとされるTorLockerの亜種KRSWLocker(通称カランサムウェア)が発見され「新経済サミット2015」において紹介された。
非暗号化ランサムウェア
  2010年8月に、ロシア当局はWinLockとして知られるランサムウェアワームに接続した10名を逮捕した。前述したGpcodeとは異なり、WinLockは暗号化を行わない。その代わり、単にポルノ画像を表示してシステムへのアクセスを制限する。それから制限を解除するコードを受け取るため、利用者に有料SMS(およそ10米ドル)を送るかどうか尋ねる。この詐欺は、ロシアと周辺諸国に多数発生した。犯行グループは、1600万米ドルを稼いだと報じられている。
  2011年には、利用者に「詐欺の被害者」となったので、Windowsを再活性化する必要があると通知する、マイクロソフトライセンス認証を模倣するランサムウェアワームが発生した。このプログラムはオンラインでの活性化を提示するがそれは不可能であり、利用者に数字6桁のコードを知るため、6種類提示される国際電話番号のうち、1種へ電話するよう要求する。このマルウェアは通話が無料であると主張するが、国際電話料金が高額な国の不正なオペレータを経由し、巨額の長距離電話料金を発生させる。
  2013年2月には、Stamp.EKエクスプロイトキットに基づいたランサムウェアワームが発生した。このマルウェアはプロジェクトホスティングサービスのSourceForgeGitHubを通じて配布され、有名人の「偽のヌード写真」を提供すると主張する。2013年7月には、OS Xに特化したランサムウェアワームが発生した。これは、利用者がポルノグラフィをダウンロードしたと告発するウェブページを表示する。ウィンドウズベースの類似品と違い、コンピュータの動作全体は阻害しないが、単に普通の方法でページを閉じるのを諦めさせるため、ウェブブラウザの動作を利用する
  2013年7月には、バージニア州出身の21歳の男性がランサムウェアを受け取った後に警察へ出頭した。彼は児童ポルノを所持していると告発する、偽のFBIからの警告を受けていた。捜査の後に、本当に彼のコンピュータから未成年の女性の写真と、彼女たちと不適切なやりとりをしたことが発見され、彼は児童ポルノの所持と児童性的虐待の罪で告発された。
攻撃対象の移り変わり
  ランサムウェアが登場した初期では、攻撃の対象は一般ユーザーだった。しかし、2015年ごろからは多くの身代金を得ることを期待できる大企業を対象とするようになった。2017年に蔓延したWannaCryは、さらに多くの民間企業と公的機関を攻撃し、国家に対する脅威と呼べるほどの存在となった
二重恐喝
  2019年後半から二重恐喝(英語:Double-Extortion Ransomware Attack)と呼ばれる方法が見られるようになった。これは、暗号化と共に情報の公開も恐喝する手法である。個人情報を保護するEU一般データ保護規則(GDPR)の制裁金よりは安いとして、個人情報流出に対する企業へのペナルティを利用している様子も見られる。
分業( RaaS )
  開発だけを行い攻撃は技術力のない依頼主や攻撃したい人間に販売することで利益を上げる手法 RaaS( Ransomware as a Service、サービスとしてのランサムウェア)が見られるようになった。
2021年
  2021年、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が毎年公表している「情報セキュリティ10大脅威」の組織部門において、ランサムウェアによる被害が1位となった。サイバーセキュリティ会社CrowdStrikeが行っている「2020年度版グローバルセキュリティ意識調査」においても、最初の話題として出てくるほどで、日本の組織の半数以上(52%)がランサムウェアの被害にあったと回答するなど、ランサムウェア攻撃の被害と件数が増加していることが示唆されている。
顕著な例
Reveton
  2012年、Revetonの名で知られる有名なランサムウェアが拡散し始めた。Citadelトロイをベースとし(それ自身はZeusを基にしている)、そのペイロードは警察を自称した警告を表示し(このことから「警察トロイ」のニックネームが付いた)、海賊版ソフトや児童ポルノをダウンロードしたなどの違法行為にコンピュータが使われたと主張する。このプログラムの発する警告は、利用者にシステムロックを解除するにはUkashPaysafecardなどの匿名プリペイドキャッシュサービスによる金券を使い、罰金を払う必要があると通知するものである。コンピュータが警察に探知されているという錯覚を強めるために、スクリーンにIPアドレスも表示し、利用者に記録されているという錯覚を与えるためにコンピュータのWebカメラの映像をいくつか表示する。
  Revetonは当初、2012年初期に多数のヨーロッパ諸国で拡散した。変種は利用者の居住国に基づいて、異なる警察組織のロゴをつけたテンプレートで地域化されていた。例えば、イギリスで使われた変種はロンドン警視庁著作権管理団体PRS for Music(特に違法な音楽をダウンロードしたと利用者を告発した)、Police National E-Crime Unitのような組織の標記を用いた。ロンドン警視庁は、一般人にこのマルウェアに関して注意を促す声明を出し、調査の一環でコンピュータをロックすることはないことを明確にした。当局は、児童ポルノをダウンロードまたはアップロードしているという容疑があるとき、その容疑者が逃げたり証拠を処分したりする時間を与えるような警告をすることはない。
  2012年5月には、トレンドマイクロの研究者がアメリカカナダ向けの変種のテンプレートを発見した。それは、変種の作者が北米の利用者を標的とする計画のおそれについて示唆していた。2012年8月には、新しいRevetonの変種がアメリカで拡散し始めた。これはGreen Dot Corporationカードを使って200米ドルの罰金を払う必要があると主張するものである。
CryptoLocker(詳細は「CryptoLocker」を参照)
  2013年に、暗号化ランサムウェアは「CryptoLocker」として知られるワームと共に再出現した。CryptoLockerは悪意あるEメールの添付ファイルか、ドライブバイダウンロードによって配布される。
  最初はC&Cサーバに接続を試み、その後2,048ビットのRSA公開鍵と秘密鍵のペアを生成し、その鍵をサーバにアップロードする。その時、このマルウェアは、利用者が2,048ビットのRSA鍵でアクセスできるすべてのローカルまたはネットワークストレージドライブにあるデータを暗号化しようとし、標的となるファイルをホワイトリストまたは拡張子で検出する。公開鍵がコンピュータに保存されたとき、秘密鍵はC&Cサーバに保存される。
  CryptoLockerは、利用者が鍵を取り戻してファイルを復号するには、MoneyPakカードかビットコインを使って支払いをするよう要求し、3日以内に支払いがなければ秘密鍵を削除すると脅す。極めて大きなサイズの鍵が使われているために、アナリストはCryptoLockerに侵されたコンピュータを修復することはきわめて難しいと考えている。
  2014年6月2日にアメリカ合衆国司法省によって正式に公表されたように、CryptoLockerは、Gameover ZeuSボットネットの差し押さえによって隔離された。
CryptoLocker.FとTorrentLocker
  2014年9月、新種のランサムウェアがオーストラリアを襲った。 (「CryptoLocker」という名前を冠しているが、オリジナル版とは関係がない。) 「CryptoLocker.F」の命名は、シマンテックによるものである。 オーストラリア郵便公社からの宅配便の不在票を偽った電子メールによって広がった。 利用者に、あるWebサイトを閲覧させて、CAPTCHAコードを入力させる。 被害者には著名なところではオーストラリア放送協会が含まれていた。
  この時期、別のトロイの木馬「TorrentLocker」は、同一の暗号鍵を全てのコンピュータに使っていたという設計上の欠陥のために対処できたが、後にこの欠陥は解消されてしまった。
Cryptowall
  2014年に、Cryptowallの最初の版 (1.0) が出現した。 Windowsコンピュータを標的としている。 2014年9月、広告配信ネットワークを悪用するキャンペーンの一環で配られてしまった。 信頼できるソフトウェアを装うためにデジタル署名が付されている。 Cryptowall 3.0は、電子メール添付ファイルの一部にJavaScriptで書かれたペイロードを利用しており、これはJPEG画像ファイルを装った実行ファイルをダウンロードする(ドライブバイダウンロード)。 検知を避けながらサーバと通信するために、explorer.exeとsvchost.exeの新しいインスタンスを生成する。 ファイルを暗号化する際に、ボリューム中のシャドウコピーを削除し、パスワードとビットコインのウォレットを盗むスパイウェアをインストールする。
  2015年11月に登場したCryptowall 4.0においては、セキュリティソフトウェアに検出されにくくする機能が大幅に強化されたほか、ファイルの内容だけでなくファイル名まで暗号化するようになった。
KRSWLocker(詳細は「KRSWLocker」を参照)・・・2014年に発見された、初めて日本のユーザーを標的としたランサムウェア
Petya(詳細は「Petya」を参照)・・・2016年3月に初確認されたランサムウェア。
KeRanger
  2016年3月に出現したKeRangerは、macOS オペレーティングシステム上の最初のマルウェアかつランサムウェアである。これはMacユーザのファイルを暗号化し、次に、そのファイルを復号するためにビットコインを要求する。実行ファイルは、リッチテキストファイル(.rtf)に偽装した .dmg 中にある。このマルウェアは3日間休眠した後、ファイルを暗号化し始め、どのようにファイルを復号するかについて指示するテキスト文書を加える。このマルウェアは、暗号化するために2048 bitのRSA公開鍵を使う。実際には、Linuxの「Linux.Encoder.1」のコピーである。
RSA4096
WannaCry(詳細は「WannaCry」を参照)
  2017年5月13日に出現した WannaCry/Wcry(泣きたくなる)という、世界中で猛威をふるっている、新種のランサムウェア亜種である。このコンピュータウイルスに感染すると、自分のパーソナルコンピュータMicrosoft Windows)や、サーバに置いた大事なファイルが勝手に暗号化され、ユーザーがファイルを開けなくなる。
GoldenEye
  2017年6月、ウクライナを中心に世界各地に拡大した。ウクライナの国営電力会社やウクライナの首都キーウの国際空港に感染。チョルノーヴィリ原子力発電所の周辺でも、ウィンドウズ・システムを使う放射線センサーが作動しなくなったため、手動に切り替えた。
REvil(詳細は「REvil」を参照)
  2019年4月に初確認されたランサムウェアを配布するサービスを行っているRaaS(サービスとしてのランサムウェア)のグループ。 JBSやKaseyaを攻撃した。
Conti(詳細は「Conti」を参照)・・・2020年5月に初確認された医療機関なども標的にするランサムウェア。
DarkSide(詳細は「ダークサイド (ハッカー集団)」を参照)
  2020年8月に初確認された東欧を拠点とするサイバー犯罪を行う個人ないしはグループ。被害者の使用しているプログラムをランサムウェアを使用して暗号化して身代金を要求する恐喝を行う。アメリカ南東部にガソリンやジェット燃料を輸送し、東海岸が使用する燃料の45%を支えるパイプライン輸送を管理する会社コロニアル・パイプラインのシステムがハッキングされた事件(コロニアル・パイプラインへのサイバー攻撃)に関与している。即座に身代金が支払われ復号プログラムが渡された。しかし、そのプログラムでは正常に機能せず、政府やセキュリティー会社などの協力で回復するまで業務に支障をきたす状態が続いた。結果として、6日間におよぶ業務停止となり、アメリカ東海岸では燃料不足問題が発生し、燃料価格が高騰した。各州が緊急事態宣言を発令、アメリカ大統領による非常事態宣言が出された。
緩和策
  他の形態のマルウェアと同様に、セキュリティソフトウェアがランサムウェアのペイロードを検知できない懸念がある。 特にペイロードが暗号化されている場合や新種のマルウェアの場合、検知が難しい。 また、ネットワーク越しのストレージ(ネットワークドライブ)中のデータも暗号化されてしまう懸念がある。
  例えランサムウェアに乗っ取られても、物理的に遮断されたストレージデバイス(例:取り外し可能な補助記憶装置)に、コンピュータデータのバックアップを保存して、乗っ取られたコンピュータを完全初期化することによって、少なくともバックアップ時点の状態には復元することができる。


遺伝子治療
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  遺伝子治療とは、異常な遺伝子を持っているため機能不全に陥っている細胞の欠陥を修復・修正することで病気を治療する手法である。代表的なものでは、治療用の遺伝子情報を組み込んだレトロウイルスを異常な遺伝子を持つ細胞内に浸入させる手法がとられているが、成功例は少なく、より画期的なDNA導入法が期待される。ベクターを注射、吸入、塗布などで患部で組織に注入するか、患者自身の血球などを一度取り出して体外でベクターを作用させてから患者に戻す方法などがある。
  具体例として、1990年にアメリカ合衆国においてアデノシンデアミナーゼ欠損症による重度免疫不全患者に対する初の遺伝子治療に成功し、日本でも1995年に北海道で同様の成果が得られた。2020年代においては、ゲノム編集による治療が臨床試験の初期段階を迎えている。
課題
  遺伝子治療の研究として1990年代に臨床試験が開始されたものの、次のような課題により盛衰を繰返した。
  ・送達の問題 - DNAの帯電した分子に細胞膜核膜を通過させるのが困難。ベクターとしてウイルスを使うことになるが制御が困難。
  ・機能の問題 - DNAを標的細胞に入れたとしても、機能として発現させるのが困難。タンパク質へと転写・翻訳される見込みが薄い。
  ・免疫反応の問題 - ウイルスが異物として免疫系からみなされることになるので、長期のウイルス投与になるほど困難。
  1999年には死亡事故が起こり、また白血病を患うことになった患者も存在する。このような事情により、ES細胞iPS細胞を中心とした幹細胞治療へと、研究の方向性は広がっていった。
  2010年代に入ると、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALENCRISPR/Cas9を中心としたゲノム編集と呼ばれる高効率の遺伝子改変技術が登場することになった。2015年にはCRISPR/Cas9を用いた界で初めてヒト受精卵の遺伝子操作が中華人民共和国で行われ、国際的な波紋を起こした。これにより2015年時点、ヒトの受精卵に対するゲノム編集技術倫理的規制が新たな課題となっている


ゲノム
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  ゲノム: Genom: genome, ジーノーム)とは、「遺伝情報の全体・総体」を意味するドイツ語由来の語彙であり、より具体的・限定的な意味・用法としては、現在、大きく分けて以下の2つがある。古典的遺伝学の立場からは、二倍体生物におけるゲノムは生殖細胞に含まれる染色体もしくは遺伝子全体を指し、このため体細胞には2組のゲノムが存在すると考える。原核生物細胞内小器官ウイルス等の一倍体生物においては、DNA(一部のウイルスウイロイドではRNA)上の全遺伝情報を指す。分子生物学の立場からは、すべての生物を一元的に扱いたいという考えに基づき、ゲノムはある生物のもつ全ての核酸上の遺伝情報としている。ただし、真核生物の場合は細胞小器官(ミトコンドリア、葉緑体など)が持つゲノムは独立に扱われる(ヒトゲノムにヒトミトコンドリアのゲノムは含まれない)。
  ゲノムは、タンパク質をコードするコーディング領域と、それ以外のノンコーディング領域に大別される。ゲノム解読当初、ノンコーディング領域はその一部が遺伝子発現調節等に関与することが知られていたが、大部分は意味をもたないものと考えられ、ジャンクDNAとも呼ばれていた。2020年現在、遺伝子発現調節のほか、RNA遺伝子が生体機能に必須の情報がこの領域に多く含まれることが明らかにされた。
定義
  古典遺伝学では、「ある生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報」として定義される。遺伝子「gene」と、染色体「chromosome」あるいはgene(遺伝子(ジーン)の)+ -ome(総体(オーム))= genome (ジーノーム)をあわせた造語であり、1920年にドイツのハンブルク大学の植物学者ハンス・ヴィンクラーにより造られた。
  H. Winkler によるはじめの定義では「配偶子生殖細胞)が持つ染色体セット」を意味したが、1930年に木原均によって「生物をその生物たらしめるのに必須な最小限の染色体セット」として定義し直された。木原は、コムギ染色体の倍数性の観察に基づき、このゲノム説を提唱した。どちらの定義でも、生殖細胞に含まれる全染色体(もしくはその遺伝情報)を表し、N倍体生物体細胞にはN組のゲノムが存在すると考える。
  1956年にDNAが発見されて以降は、「全染色体を構成するDNAの全塩基配列」という意味も持つ。
ゲノム分析
  ゲノム分析とは、倍数体種のゲノム構成を染色体レベルで明らかにする方法である[1]。倍数体種とその両親種を交配し、その雑種第一代の減数分裂での染色体対合を観察し、ゲノム相同の程度を計算する。主に植物において、生命維持の基本単位であるゲノムが一つの細胞に3組以上存在するという、多倍数性がみられることがある。木原によるゲノム説の元となったパンコムギにおいては、3種のゲノムが2組ずつ合わさった6倍体であることがゲノム分析により示された。
ゲノム配列解析と機能マッピング
  1990年代から、ゲノムの全塩基配列を解読することを目標としたゲノムプロジェクトがさまざまな生物種を対象に実施されている(完了したのはゲノム配列決定であり、内容の解読は完了していないので、「ゲノムプロジェクト」ではなく、ゲノムシーケンシングプロジェクト、あるいはゲノム配列決定プロジェクトともいう)。全ゲノム情報の解明は網羅的解析による生命現象の理解の基盤となるものである。しかし塩基配列を読み取っただけでは生命現象の理解には不十分で、個々の塩基配列の機能や役割、発現したRNAやタンパク質の挙動などを幅広く検討していかなければならない。
  そこで、現在ではゲノムを研究するゲノミクスを初めとして、オーミクス(-omics = -ome + -ics)と呼ばれる、網羅的解析を特徴とする研究分野が盛んになってきている。ゲノムDNAからの転写産物(トランスクリプト; Transcript)の総和としてトランスクリプトーム(Transcriptome)、存在するタンパク質(プロテイン; Protein)の総体としてプロテオーム(Proteome)がある。また代謝産物(Metabolite)の総和としてメタボローム(Metabolome)という概念もある。特にプロテオームを扱う分野をプロテオミクスという。これらのゲノム解読以降の研究を総称してポストゲノムと呼ぶことがある。
  オーミクスでは、データを効率良く網羅的に収集し、コンピュータによって解析することが必須となる。これに対応するバイオインフォマティックスという分野の研究も盛んである。
ゲノム合成
  試験管の中でオリゴヌクレオチド(小規模なDNA断片)を化学合成する技術は、1950年代から存在した。
  2003年、J.C.ベンター研究所クレイグ・ヴェンターらは、大腸菌のDNA合成機構を利用して、ウイルスのDNA断片をつなぎ合わせ完全なゲノムを合成することに成功した。
  2005年、より大きい生物でもゲノムを丸ごと合成する技術が日米の研究機関で独立に開発された。慶應大学三菱化学生命研究所枯草菌を用いるシステムと、ベンター研究所の酵母菌を用いるシステムである
  2007年、クレイグ・ヴェンターらは、酵母菌を利用してDNAの断片をつなぎ合わせて、マイコプラズマ・ジェニタリウムという細菌のゲノムを構築した。
  また同年、慶應大学の板谷光泰らは、枯草菌を利用して短いDNAをつなぎ合わせて、マウスミトコンドリアゲノムおよびイネ葉緑体ゲノムを再構築した。
  2010年5月、ベンター研究所はマイコプラズマ・ミコイデスという細菌のゲノムを人工合成し、別種の細菌のマイコプラズマ・カプリコルムに移植して、移植先の細胞を制御することに成功した。合成ゲノムによって細胞の制御に成功したのは世界初である。これは、ゲノムを人工的に設計・合成し、細胞に移植して、細胞が機能することを実証したもので、合成生物学の進展につながる成果となった。細胞膜や細胞内の器官は人工合成していないため完全な「人工生命」ではないが、これらの研究がさらに進めば、合成生命の誕生に行き着くことになる。
数と大きさ
  半数体ヒトゲノムは約30億塩基対からなり、体細胞は2倍体であるため約60億塩基対のDNA内に持っている。分裂酵母では3本の染色体DNA上に、大腸菌ミトコンドリアでは一つの環状DNA上に保持されている。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のようなレトロウイルスではRNAが媒体になる。
  遺伝子数とゲノムサイズは必ずしも比例しない。両生類や植物のユリのゲノムサイズは大きく、昆虫トラフグではゲノムサイズが小さい。これはイントロンや遺伝子間のジャンクDNAの長さが原因である。例としてミジンコの方がヒトよりゲノムサイズは小さいが遺伝子数は多い。また原核生物真核生物よりゲノムに占めるコーディング領域の割合が高い傾向があり、遺伝子がゲノムにコンパクトに収まっている。
  それからゲノムサイズが大きくなると大量の情報を保存できるが複製に使うエネルギーが増え生存に不利に働くため、一定のゲノムの大きさで自然選択圧が掛かる。また原核生物より真核生物の方が複雑で必要な情報量が多い傾向があり、一般に真核生物ではスプライシングによってイントロンが抜けエクソンのコーディング領域が翻訳されるため、原核生物に比較して真核生物はゲノムサイズが大きくなる傾向がある。


ヒトゲノム
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  ヒトゲノムは、その名の通りヒト (Homo sapiens) のゲノム、すなわち、遺伝情報の1セットである。ヒトゲノムは核ゲノムミトコンドリアゲノムから成る。
概要
  核ゲノムは約31億塩基対あり、細胞核内で24種の線状DNAに分かれて染色体を形成している。最も大きいものが2億5千万塩基対で、最も小さいものが5500万塩基対である。
  染色体は22種類の常染色体とXとYの2種類の性染色体に分類される。核を持たない赤血球をのぞく体細胞は2倍体であり、同じ種類の常染色体を2本ずつ、性染色体を2本(女性はXとX、男性はXとY)の合計46本の染色体を持っている。生殖細胞は1倍体であり、常染色体を1本ずつ、性染色体を1本の合計23本の染色体を持っている。なお、細胞核中のゲノムは(フラクタル構造の一種である)ヒルベルト曲線と類似した、コンパクト形に折りたたまれていることが近年になって判明した。
  ミトコンドリアゲノムは16569塩基対の環状DNAでミトコンドリアの中に多数存在している。体細胞も生殖細胞も約8000個ずつ持っている。
  近年の研究では、ゲノム中のほとんどのノンコーディングDNAが生化学的活性(遺伝子発現調整、染色体の構造形成、エピジェネティクスのコントロールなど)を持っていることが示唆されている。
歴史
  ヒトゲノムの塩基配列の解読を目的とするヒトゲノム計画1984年に最初に提案され、解読作業は1991年から始まった。2000年6月26日ドラフト配列の解読を終了したのち、2003年4月14日に解読完了が宣言され、この時点でのヒトの遺伝子数の推定値は3万2615個であった。しかし、その後の解析によりこの推定値が誤りであることが判明し、新たな推定値は2万2287個であると2004年10月21日付の英科学誌ネイチャーに掲載された。 ただし、本計画により解読された配列は、標準配列(複数国、複数人のゲノムDNAの混合試料)のユークロマチン領域を中心とする全ゲノムの99%の領域について、多数決的に決められたものである。このため、実際の遺伝子数は個人差などにより多少の変動が見込まれる。また、標準配列についてもヘテロクロマチン領域を中心とした未解読の領域や重複領域等について解析が継続されており、2004年の報告(HGSC Build 35)以降も定期的に修正報告がなされている。
  このように少ない遺伝子からヒトの複雑な体や脳が構築されているという事実は、科学者にさえ驚きと狼狽を与えた。その後、イネ科の植物の遺伝子がヒトよりずっと多いことや、下等生物と考えられていたウニの遺伝子の数がヒトとほとんど同じであり、しかも70%がヒトと共通していることなどが判明すると、人間が遺伝子の数で他の生物より優位にあるはずだという予想は、間違いであることが確定的となった。このようにヒトゲノムの解読が終了はしたが、まだまだ全てを理解したとは言えないのである。
  また「ゲノム」は1倍体(半数体)の全DNA配列であり、ヒトは2組のゲノムをもつ。このため、個人のゲノムにおいても父親と母親に由来する配列間でもある程度の差異(平均1,000塩基に1カ所程度)がある。個人ゲノム配列の解析は医学研究に重要な意味をもつことから、2008年より1000人ゲノムプロジェクトも開始された。







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