ふるさと納税-1
2023.09.03-読売新聞-https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230902-OYT1T50172/
ふるさと納税で税収115億円失い、川崎市長「全国一の影響」と不満
(田村直広、村松魁成)
神奈川県と県内33市町村で2023年度、ふるさと納税による寄付に伴う住民税の控除額(流出額)は過去最多の計707億5244万円に上ることが、総務省の調査でわかった。県と市町村に集まった22年度の寄付金は過去最多となったが、計163億1059万円にとどまっていた。
流出分について、川崎市は国の 補填 を受けられないため、115億円近い税収を失うことになる。
(田村直広、村松魁成)
川崎市に22年度集まった寄付金が前年度比2億9622万円減の6億3008万円だったのに対し、23年度の流出額は18億2394万円増の121億1527万円で全国ワースト4位。失われる税収は、市内全世帯の90%にあたる69万世帯のごみ処理費に相当する。
ふるさと納税は本来、自治体が減収になっても、その75%分は国が穴埋めする仕組み。ただ、
川崎市などは税収が多いため、国からの補填はなく、
寄付金と流出額の差額のすべてを失うことになる。福田紀彦市長は「制度の趣旨と現状は 乖離 し、川崎は全国一影響を受けている」と不満を抱く。
横浜市の流出額は、川崎市の2倍超の272億4243万円(前年度比42億3352万円増)で、8年連続の全国ワースト1位。国から減収分を穴埋めされるため、川崎市ほど「実害」は少ないが、横浜市税制課は「失われる税収は年々拡大している。国には制度の改善を求めていきたい」と訴える。
総務省の資料を基に計算すると、このほかにも相模原市、藤沢市、大和市など県と16市町で、集めた寄付金よりも流出額の方が多い「赤字」となっていた。
一方、22年度に集めた寄付金が県内で最も多かったのは、ハムやシャツなどの返礼品がある鎌倉市で、前年度比7億138万円増の24億533万円だった。
21年度県内1位だった南足柄市は、返礼品で人気だったビールの工場がなくなったことで7億円以上減らしたが、県内2位に踏みとどまった。次いで箱根町、厚木市、小田原市の順で、上位5自治体は21年度と同じ顔ぶれだった。
横浜市PR強化 掲載サイト拡充…ホテル宿泊券も
ふるさと納税による流出額が全国ワーストの横浜市は9月以降順次、新たな返礼品を増やすとともにPR強化のため、掲載する民間ポータルサイト数を2から7へ拡充する。
返礼品は昨年度末から70種近く増やして409種となる。体験型ではホテルニューグランド(中区)など高級ホテルのスイートルームや、一般には販売されない横浜ベイホテル東急(西区)のVIPルームの夕食付き宿泊券を追加した。物品では横浜中華街の重慶飯店のヤムチャセット、ファッションブランド「キタムラ」のオリジナルグッズなどを加えて「横浜らしさ」を出していく。
市は今年度、政策局にふるさと納税担当を移管。大手旅行会社「JTB」の協力も得て新たなアイデアの創出に取り組んでいる。流出超過を緩和するため、寄付の目標額は、25年度に現在の4倍超となる20億円としている。市財源確保推進課は「現行制度には課題もあるが、地域の活性化につなげたい」としている。
2022.12.29-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20221229-FACLTGZEUNNUHG4O7VHSPACIFU/
旅先納税 ふるさと納税格差解消 観光業活性化にも期待
(牛島要平、藤谷茂樹)
新型コロナウイルスの行動制限がなくなり旅行需要が回復する中、
観光客が旅先の自治体にふるさと納税(寄付)を行い、返礼品として現地の飲食店や観光施設で即座に使える商品券などを受け取る動きが広がっている。返礼品になる地場産品に乏しい自治体でも、観光やサービス業を中心に幅広くふるさと納税の効果が及ぶと期待されている。
大阪ガスと電子ギフト販売などを手掛けるギフティ(東京)が連携した新サービス「
関西おでかけ納税」が来年1月以降の開始を目指し、参画する自治体を募っている。観光客がスマートフォンの専用サイトから旅先の自治体にふるさと納税を行うと、自治体から返礼品としてスマホにデジタル商品券「おでかけ商品券」が発行される仕組み。
すでにギフティは同様の仕組みで「旅先納税」を令和元年11月から始め、今月上旬で全国23自治体が採用している。
背景には、
ふるさと納税が抱える課題がある。返礼品は地場産品に限定されているが、肉や海産物、米などが豊富な自治体に寄付が集中しているため、
名産品が乏しい自治体には寄付が少なく、不公平感がくすぶる。瀬戸内海の小豆島北部に位置し、今月下旬から旅先納税に参加した香川県土庄(とのしょう)町の担当者は
「オリーブやそうめんなどの産品はあるが、旅館や飲食店などがふるさと納税の恩恵を受けていなかった。また、通信販売に対応できる業者しか返礼品を出せなかった」と打ち明ける。
ギフティの旅先納税は認知度が低く、返礼品に参加する店舗などが伸び悩んでいたため、関西の家庭や業者に広い顧客ネットワークを擁し、PR力を持つ大ガスと提携して関西おでかけ納税を企画した。
ギフティの太田睦社長は「コロナ後の旅行回復や2025年大阪・関西万博の来客増を幅広い経済効果につなげたい」と話す。大ガスの近本茂常務執行役員は「加盟店200店程度からスタートし、将来的には1万店で利用してもらうのが目標」と意気込みを語る。
旅先でのふるさと納税の動きはほかでも広がりをみせている。
今月23日、
関西国際空港のターミナルに隣接する「ホテル日航関西空港」のロビーで稼働を始めたのは、対岸の大阪府泉佐野市にふるさと納税ができる自動販売機。寄付をクレジットカードで受け付け、ホテルの利用券を返礼品として受け取れる。市の担当者は「今まで(ふるさと納税に)関心が薄かった人にも目を向けてもらえる」と見込んでいる。
関空などを拠点とする格安航空会社のピーチ・アビエーションは11月から国内線全31路線の機内で、京都府京丹後市へのふるさと納税をスマホからできるようにした。返礼品には市内の宿泊施設で使えるクーポンなども用意され、市の担当者は
「乗客が京丹後市を知り、次の旅先にしてくれれば」と狙いを明かす。
同府京丹波町は9月下旬、
道の駅「京丹波 味夢(あじむ)の里」に、店頭のQRコードをスマホで読み取って寄付できるシステム
「ふるさとズ」を導入。返礼品は道の駅の商品券で、
その場で買い物に利用できる。
毎年12月は、ふるさと納税のピークとなる。帰省や行楽で往来が増える年末年始、旅先納税の返礼品の恩恵を受ける業者も多くなるとみられる。
駒沢女子大の鮫島卓准教授(観光学)は
「観光業界が政府の全国旅行支援に依存しなくても、ふるさと納税で恒常的に恩恵を受けられる機会になる。ご当地グルメや土産物など、新たな地場産品の商品開発につながる副次的効果も期待できる。モノにとどまらず実際に地域を訪れる旅先納税は、都市と地方の人間関係を深め、重層的な関係をつくる契機にもなる」と指摘する。
(牛島要平、藤谷茂樹)
2020.7.3-産経新聞 SANKEI NEWS WEB-https://www.sankei.com/west/news/200703/wst2007030027-n1.html
ふるさと納税復帰、泉佐野市長「早い判断に驚き」
高市早苗総務相が、ふるさと納税の新制度から除外した4市町のうち大阪府泉佐野市など3市町の制度復帰を認めると正式発表したのを受け、同市の千代松大耕(ひろやす)市長が3日、記者会見し、「
泉佐野らしさが伝わるような返礼品の準備など、できるところから最大限取り組む」と意欲を語った。
この日、同市役所で開いた会見で千代松氏は「
これほど早く判断いただいたことに正直驚いているが、深く感謝する」と述べた。
ふるさと納税は3日から受け付けることが可能だが、返礼品の内容などについては別途、国への申請が必要なため、現在は返礼品を設定できない。千代松氏は「準備が整い次第、提供したい」と語った。具体的には泉州タオルや泉佐野沖の関西国際空港周辺でのクルーズ体験などを挙げた。
新型コロナウイルスの影響で、市内のりんくう総合医療センターが4~6月で約10億円の赤字になっていることや、宿泊業者が打撃を受けていることに触れ、「ふるさと納税を活用し、センターや業者を支援したい」と話した。
千代松氏は同日、ふるさと納税の新制度から除外されていた昨年6月から今年9月までの対象期間について「(ふるさと納税の)基準に適合する地方団体」として指定する旨の総務相の通知を受け取った。
2020.6.30-NHK NEWS WEB-
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200630/k10012489311000.html
ふるさと納税訴訟 大阪 泉佐野市勝訴 市除外を取り消し 最高裁
ふるさと納税で過度な返礼品を贈ったとして制度の対象から除外された大阪 泉佐野市が国を訴えた裁判で、最高裁判所は泉佐野市の訴えを認め、
市を除外した国の決定を取り消す判決が確定しました。
ふるさと納税の返礼品競争が過熱したことを受けて法律が改正され、去年6月から新たな制度となった際、
大阪 泉佐野市は過度な返礼品を贈るなどして多額の寄付金を集めていたことを理由に対象から除外され、除外の取り消しを求める訴えを起こしました。
大阪高等裁判所では訴えが退けられましたが上告し、最高裁では、国が、法律改正前の寄付金の集め方に問題があったことを理由にして改正後に制度から除外したのは妥当かが、大きな争点となりました。
30日の判決で
最高裁判所第3小法廷の宮崎裕子裁判長は「
総務省がふるさと納税制度の指定を受けられる基準を定めた告示は、法律改正前に著しく多額の寄付金を集めたことを理由に指定を受けられなくするものといえる。法律の条文や立法過程の議論を考慮しても、総務大臣にこのような趣旨の基準を定めることが委ねられているとはいえず、告示のうち、過去の募集状況を問題とした部分は違法で無効だ」と指摘しました。
そのうえで、
高裁の判決を取り消して泉佐野市の訴えを認め、国による除外を取り消す判決が確定しました。これにより、泉佐野市の申請をどう扱うのか、今後の総務省の対応が焦点となります。
高市総務相「判決の趣旨に従い対応行う」
高市総務大臣は、「泉佐野市の請求が認められ、総務大臣が敗訴したとの報告を受けた。最高裁判所の判決内容を精査したうえで、判決の趣旨に従い、できるだけ早く、必要な対応を行っていく」とするコメントを出しました。
泉佐野市 千代松市長「全面的に認められ、ほっとしている」
泉佐野市の千代松大耕市長は最高裁の判決を受けて会見し、「泉佐野市の主張を全面的に認めていただき、ほっとしている。後出しじゃんけんで後付けの法律によって地方自治体に不利益を与えることはやってはいけないと、総務省の判断を今回の判決で否定していただいたと思っている」と述べました。
そのうえで「新型コロナウイルスの感染拡大の下で、インバウンドも途絶える中、ほかの自治体のようにふるさと納税を活用できなかったのは苦しく、残念だった。判決を受けたものの、まだ、新しいふるさと納税の制度に参加できたわけではないので1日も早く復帰できるように努力していく」と述べ、ふるさと納税制度への復帰を認めるよう総務省に求めていく考えを示しました。
泉佐野市「非常に喜ばしい結果」
判決を受けて泉佐野市はコメントを発表しました。
この中で「判決では、市が訴えていたことが認められた。ふるさと納税制度への不指定の取り消し請求だけでなく、日本の地方自治の在り方を問いただすという重要な意味をもった裁判だったので、地方自治体すべてにとって非常に喜ばしい結果になったと考えています」としています。
そのうえで「ふるさと納税の制度への復帰には、総務大臣の指定が必要になることから、新しいふるさと納税制度のスタートラインに立てた訳ではありません。今後も法令を順守しながら、しっかり取り組んでいきたい」としています。
官房長官「枠組み自体は今後とも変わらない」
菅官房長官は午後の記者会見で「判決が出た以上、それに沿った対応が求められることになるが、ふるさと納税については、過度の返礼品が問題になっていたことから、去年6月から寄付額の3割以内で地場産品を使うという基準を法律に明記し、自治体の間で健全な競争を行い、それによって地域活性化に貢献するものだ。その枠組み自体は今後とも変わらない」と述べました。
総務省の対応見通しと焦点
総務省は高市総務大臣が、「最高裁判所の判決内容を精査したうえで、判決の趣旨に従い、できるだけ早く、必要な対応を行っていく」とするコメントを出しましたが、具体的にどのような対応をとるかは明らかにしていません。
一方で、判決が出る前、総務省幹部はNHKの取材に対し、「総務省側の主張が退けられれば、泉佐野市のふるさと納税制度への参加を認めるほかない」と話していました。
30日の最高裁判所の判決では、総務省が泉佐野市を制度から除外したことを違法だと結論づけました。
総務省が今後、泉佐野市の参加を認める場合、いつから、どのような形で認めるかが焦点となります。
そして、泉佐野市と同じ理由で制度から除外している、和歌山県高野町、静岡県小山町、佐賀県みやき町への対応をどうするかも焦点となります。
泉佐野市に批判の補足意見も
最高裁判決は国の対応を違法と判断しながらも、泉佐野市のこれまでの対応を批判する指摘や裁判官の補足意見もありました。
判決では、泉佐野市が法律が改正された後もふるさと納税の返礼品としてアマゾンギフト券を交付して募集をエスカレートさせたとして、「社会通念上、節度を欠いていたと評価されてもやむをえない」と批判しました。
また林景一裁判官は、泉佐野市の勝訴となる結論について、「いささか居心地の悪さを覚えたところがある」と前置きしたうえで補足意見を述べました。
意見の中で林景一裁判官は、「居心地の悪さの原因は、泉佐野市がことさらに返礼品を強調する寄付金の募集を推し進めた結果、集中的に多額の寄付金を受領していたことにある。とくに、法律の改正後にも返礼品の割合を高めて募集を加速したことには眉をひそめざるをえない」と市の対応を批判しました。
また、ふるさと納税制度については「国家全体の税収の総額を増加させるものではなく、端的に言って、限られた中で税収を取り合うゼロサムゲームだ」としました。
林裁判官は、こうした意見を述べたあとに判決を振り返り、「たとえ結論に居心地の悪さがあったとしても、法的には判決の通りと考えざるをえない」と締めくくっています。
同じく除外の和歌山県高野町は…
ふるさと納税をめぐっては、和歌山県高野町も返礼品に、寄付金の半額に相当する旅行券や町では生産されていない缶ビールやゴルフボールを取り入れるなど、過度な返礼品を贈るキャンペーンを行うなどして多額の寄付金を集めたとして、大阪府泉佐野市とともに制度から除外されています。
町では、返礼品を寄付額の3割以下相当のものにしたり、地元の産品にしたりするなど見直しを行ったうえで、ことしの夏以降の制度への参加を目指しています。
高野町の平野嘉也町長は「判決そのものについてコメントする立場にはないが、ふるさと納税について問題提起ができた点ではよかったと思う。町としても制度に再び参加できるよう取り組んでいきたい」と話しています。