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2023.03.03-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20230303-HNWLVBJCKNMQTP3CXN6EYWYF4A/
「ゴーン逃亡」が契機 保釈中GPS、実務課題多く
保釈中の被告に衛星利用測位システム(GPS)を搭載した端末を装着させる制度の導入を柱とする刑事訴訟法などの改正案が3日、閣議決定された。日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(68)の逃亡事件などを契機に議論が進められてきたもので、
政府は公布後5年以内の導入を目指すが、端末の性能や逃亡を図った被告の身柄を確実に確保するシステムの構築など、実務面で課題は多い。
国内では平成30年から令和元年にかけて、被告や容疑者が逃亡する事件が相次いだ。
平成30年8月、強制性交容疑などで逮捕されていた男が大阪府警富田林署から逃走。男は翌9月に身柄を確保されるまで、約50日間にわたって西日本を転々としていた。
令和元年6月には窃盗罪で実刑が確定した男が刑務所に収容するために訪れた横浜地検職員に包丁を振りかざして逃げ、約4日に及ぶ逃走劇の末、身柄を確保された。
その後も全国で同種事案が相次ぐ中、決定的だったのが
ゴーン被告のレバノンへの逃亡だった。
元米軍特殊部隊の父親と、その息子を高額の報酬で雇い、楽器の箱に隠れてプライベートジェットで違法に出国。今も公判への出頭を拒んでいる。
刑事訴訟法を管轄する法相は令和2年2月、こうした逃亡事案を防ぐ手立てを法制審議会に諮問。3年10月に今回の改正案の骨格となるGPS端末の装着命令制度などを答申していた。ただ、運用までにはさまざまなハードルがある。実務面でカギを握るのが、適切な端末の開発だ。
被告の逃亡を確実に検知し、身柄の確保までつなげるためには、装着する端末が生活の中で故障しないような頑丈さに加え、通信が途切れないことも不可欠。ある検察幹部は「風呂に入っても大丈夫なくらいの防水機能が必要だ」とする。
こうした
通信端末の技術は日進月歩といい、法務省幹部は「そのときの最先端技術がどれだけ使えるか次第だ」と指摘する。
今回の改正案では、保釈中の被告のプライバシーに配慮し、設定された禁止区域に実際に立ち入るなどの違反が検知された段階で、裁判所や捜査当局が被告の位置情報を確認できるとされた。
検察幹部は「空港などに立ち入った後に急行しても、間に合わず出国される可能性がある」と憂慮する。禁止区域は空港周辺などが想定されているが、どこまで広く設定するかなどの議論も今後、必要となりそうだ。
最高裁によると、全国の地方裁判所、簡易裁判所における保釈率は平成23年に19・2%だったが、令和3年時点で31・4%に上昇。保釈される被告は近年、年間1万人を超えている。
改正案では、
GPS端末を装着する命令を出す対象について、海外逃亡のおそれがある被告に限定している。国内での逃亡防止に端末を活用できないかなど、制度面でのさらなる検討も引き続き求められる。