エジプト(スエズ・ナイル川)の問題-1


2023.12.02-毎日新聞-https://mainichi.jp/articles/20231202/k00/00m/010/018000c
首相、エジプト大統領と会談 ガザへの対応評価、340億円支援検討
【ドバイ畠山哲郎】

  岸田文雄首相は1日夜(日本時間2日未明)、訪問先のアラブ首長国連邦(UAE)ドバイで、エジプトのシシ大統領と会談した。岸田首相はパレスチナ自治区ガザ地区への支援物資搬入などで隣国エジプトが「極めて重要な役割を果たしている」と評価。厳しい財政状況にあるエジプトに対し、最大約2・3億ドル(約340億円)の支援を検討すると伝えた。

  会談は夕食会形式で約90分間行われた。岸田首相はイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘再開について「残念だ」と語り、「事態の沈静化が重要だ」との認識を表明。民間人の被害を防ぐため「あらゆる措置を講じる必要がある」とし、エジプトの更なる役割への期待を伝えた。
  シシ大統領は、ガザ地区の人道状況改善に向けた日本の支援に感謝を表明した上で、戦闘休止を恒久的な停戦につなげる努力の重要性を強調。「国際社会がパレスチナ問題の公正かつ包括的な解決に向けて真剣に行動することが必要だ」と語った。【ドバイ畠山哲郎】


2023.01.08-REUTERS-https://jp.reuters.com/article/egypt-tech-surveillance-idJPKBN2TL09S
焦点:エジプト新首都、市民「見守る」監視カメラ網に懸念
(翻訳:エァクレーレン)

  [カイロ 4日 トムソン・ロイター財団] - エジプトのシシ大統領が看板政策として推進するのが、光り輝く高層ビル群とハイテク施設が集まる「新首都」だ。カイロ市街の雑踏や今にも倒壊しそうな家並みとは別世界である。

  砂漠の中に出現しつつある「新行政首都」では、街灯の柱がWiFiのアクセスポイントを兼ね、カードキーを使ってビルに入る。いずれは650万人に達する住民の最初の一団を見守るのは、6000台以上の監視カメラだ。
  この街の住民は、モバイルアプリ1つあれば、公共料金の支払いや公共サービスへのアクセス、当局への苦情申し立てができる。
  こうした機能は日々の生活をより簡単に、より安全にしてくれると考える人々もいる。だがデジタル人権の専門家は、シシ大統領が政権を握ってからの10年間、反対派に対する弾圧や言論の自由の制限が広がっており、監視能力は基本的人権への脅威になると指摘する。
  「都市全体に監視カメラを設置すれば、当局は公共空間を統制し、抗議行動や平和的な集会の権利を行使したいと考える市民を抑圧する前例のない能力を手にすることになる」と、デジタル人権擁護団体「アクセス・ナウ」のポリシー担当マネジャー、マルワ・ファタフタ氏は語る。
  「市民のための空間への大掛かりな攻撃が続くエジプトのような国では、監視能力の強化は非常に危険だ」と同氏。
  こうした懸念について政府広報官にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
  アブダビからチュニジアに至るまで、この種の「スマートシティー」計画では、人工知能(AI)やセンサー、顔認識、機械学習といった先進的なテクノロジーを統合することにより、犯罪対策と効率向上、ガバナンス改善を図るとしている。
  だが、こうしたプロジェクトは個人データの大量収集と処理に立脚しており、通常はユーザーによる認識や同意を欠いているため、監視の拡大につながると人権擁護団体は主張する。
  さらにファタフタ氏は、政権が権威主義的であれば、こうした危険がさらに高まると指摘。「エジプト政府は、この新行政首都では住民の生活の質が高まると喧伝(けんでん)している。だが現実には、彼らが建設しているのは『監視都市』だ」とトムソン・ロイター財団に語った。
<名目は犯罪対策>
  この新行政首都はエジプト国内10数カ所で進められている新しいスマートシティー計画の1つで、その規模は700平方キロメートル。政府省庁や金融機関、各国大使館などが立地し、監視システムは米国企業ハネウェルが開発したものである。
  ハネウェルは2019年の声明の中で、監視カメラネットワークの司令センターは「先進的な動画分析により、人混みや交通渋滞の監視、盗難事件の検出、不審者や不審物の発見を行い、緊急事態が生じれば自動的に警報を発する」能力があるとしている。
  ハネウェルによれば、政府当局者はこの司令センターが提供する監視カメラネットワークによるライブ映像にアクセスできるというが、対象となる映像については特定していない。
  ハネウェルは2019年当時、「都市の全体像を把握するためにIoT(モノのインターネット)のソフトやハードによる先進的なソリューションを活用し、治安対応部隊や都市警察、救急体制の調整を行う統合的な公共安全サービスを提供する」と説明。同社はその後、このプロジェクトに関する最新情報を発表していない。
  ハネウェルのカレド・ハシェム北アフリカ支社長と、新行政首都建設公社のハレド・アッバス会長にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
  ハネウェルは世界各国に大規模監視システムを販売しているが、英国開発学研究所(ロンドン)の研究員でデジタル人権を専門とするトニー・ロバーツ氏は、こうしたテクノロジーをエジプト政府に提供することは「倫理的に擁護できない」と述べ、同国における過去の人権侵害問題を指摘する。
  「エジプト市民には、プライバシーの権利と言論の自由、結社の自由がある。だが、政権はジャーナリストや政敵にとって都合の悪い監視情報を利用して、彼らを投獄し、拷問を加えている」とロバーツ氏は言う。
  当局者は、監視テクノロジーは犯罪の摘発と治安改善を狙ったものであり、データは国内法と国際基準により保護されると述べている。
<行き過ぎた監視>
  近年、アフリカ各地では監視テクノロジーが急速に拡大しているが、そうしたシステムを提供しているのは米国や中国、欧州諸国に拠点を置く企業であることが調査により明らかになっている。
  アフリカ・デジタル人権ネットワークによれば、ケニアや南アフリカなど、メディアや司法が比較的自由な国では、市民社会が政府の責任を問うことができ、監視体制の改革もある程度は実現しているという。
  たとえばケニアでは、高等裁判所が2020年、新たなデジタル身分証明書制度によって市民のDNA情報や位置情報データが収集されてはならないとし、もっと強力な規制を導入するよう政府に命じた
  だが、エジプトやスーダンではメディアや司法がもっぱら政府による統制を受けており、監視体制へのチェックが行われていない、とロバーツ氏は言う。同氏は最近、アフリカ諸国における監視ツールの利用について2本の報告書を執筆した。
  軍司令官出身のシシ大統領が就任して以来、エジプトでは繰り返し人権侵害が問題視されてきた。昨年エジプトで開催された国連気候サミットの参加者からは、公式モバイルアプリを通じた監視を受けたという抗議があった。
  「政権は市民に対して大規模な監視を行い、日常的にプライバシー権を侵害していることが分かった。しかも、それによって刑事責任を問われることはない」とロバーツ氏は語る。
  「仮に権利侵害が判明したとしても、過剰な監視について訴追される、あるいは失職することはない」
<当然視する声も>
  カイロの東方約45キロに位置する新行政首都では、政府当局者や住民の入居が始まっている。もっとも、カイロ住民の多くは、この新都市に住めるような生活の余裕はないと話している。
  ソフトウエア技術者のアフメド・イブラヒムさんは、新行政首都の高層住宅地区でマンションを購入した。監視システムについては気にしておらず、単なる新たなハイテク機能にすぎないと考えている。
  「違反行為を監視して犯罪を根絶するために街中に監視カメラを設置することに、何の問題があるのか」とイブラヒムさんは言う。
  「私は政府を信頼している。このシステムのおかげで、我々住民にとって生活ははるかに楽になるだろう
だが、監視システムに懸念を抱く住民もいる。
  「こうしたシステムは世界中の多くの場所で稼働している。しかしエジプトのように抑圧の問題がある国では、懸念の的になる」と語るのは、まもなく一家で新行政首都に転居する予定のヘバ・アフメドさん(33)。
  「誰だって、監視され私生活をさらされるのは嫌なものだ」とアフメドさんは話した。
(翻訳:エァクレーレン)



2021.07.10-SankeiBiz-https://www.sankeibiz.jp/macro/news/210710/mcb2107100600001-n1.htm
ナイル川「水紛争」再燃 エチオピアがダム貯水、エジプトは水不足懸念

  【カイロ=佐藤貴生】アフリカ東部エチオピアがナイル川上流で建設中の巨大ダムで今年の貯水を始めると表明し、水不足を懸念する下流のエジプトとスーダンが反発を強めている。エチオピアによる貯水は昨年夏の雨期に次いで2度目。エジプトなどは毎年の貯水量や貯水計画について法的拘束力を持つ協定の締結をエチオピアに要求している。国連安全保障理事会は8日、この問題を討議したが対話促進を呼びかけるにとどまり、対立は解消されていない。

  問題になっているのは、エチオピアが2011年から建設している総工費約45億ドル(約5千億円)の「大エチオピア・ルネサンスダム」(GERD)。エジプト政府高官は5日、エチオピアから貯水開始の通告を受け、「地域の安定を脅かす一方的な手法には断固として反対だ」とする声明を出した。

  エチオピアの狙いは水力発電による電力供給だ。アフリカ最大となる水力発電所(6千メガワット)を稼働させて国内の電力不足を解消するほか、余剰電力を周辺国に売ることを計画する。これに対し、水需要の9割をナイル川に依存するエジプトには、ダムの貯水が急激に進めば水不足に陥り、国の命運を握られかねないとの懸念がある。
   エジプト紙によると、エチオピアのアビー首相は「わが国の関心は国内の電力需要に対応するとともに、スーダンとエジプトの懸念を解消することだ」と述べ、円滑な貯水に努める意向を表明した。

  アビー氏はエリトリアとの国境紛争を解決したとして19年のノーベル平和賞を受賞した。一方、アビー氏率いるエチオピア連邦政府は今年6月の停戦まで約8カ月にわたり同国北部ティグレ州を拠点とする「ティグレ人民解放戦線」(TPLF)と武力紛争を展開し、国際的に非難を浴びた。スーダンには紛争で4万人以上の難民が流入、混乱が深まっている。


2021.05.31-日本経済新聞-https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR303Q40Q1A530C2000000/
スエズ座礁、賠償請求4割減額 600億円に

  【カイロ=久門武史】エジプトのスエズ運河庁は30日、3月の大型コンテナ船座礁事故について記者会見を開き、船を所有する正栄汽船(愛媛県今治市)への賠償請求額を5億5千万ドル(約600億円)に4割減額したことを説明した。「船主から積み荷の明細の提出を受け再計算した」とした。

  運河庁は4月に9億1600万ドルの賠償を求め、船主責任保険を引き受けている「英国クラブ」が「大部分は根拠が乏しい」と疑問を呈していた。座礁した大型船「エバーギブン」は6日間にわたり運河を遮断し、運河庁がしゅんせつやタグボートを使った作業で離礁させた。
  運河庁は賠償交渉の決着まで船を運河内の湖に留め置くとしている。30日の記者会見には同庁の賠償交渉を担当する弁護士らが出席し「エジプトに限らずどの国でも賠償の支払いまで留め置かれる」と強調した。船主側が1億5千万ドルの支払いを提案していることも明らかにした。
  座礁した際、船には運河庁の水先案内人が同乗していたが「助言をしたのであり最終決定権は船長にある」と説明した。「船長のミスだ」として運河庁の責任を否定した。事故原因の調査結果については「友好的な解決に失敗した場合に書類やデータを公表する」として開示しなかった。


2021.04.19-産経新聞 THE SANKEI NEWS-https://www.sankei.com/world/news/210419/wor2104190004-n1.html
エジプトで列車脱線11人死亡 カイロ近郊、100人負傷

  エジプトの首都カイロ近郊で18日、列車の車両4両が脱線し、保健省によると、18日夜までに死者が少なくとも11人、負傷者は約100人に上った。シシ大統領は原因究明を指示した。政府系紙アルアハラムが伝えた。

  列車はカイロから北部マンスーラに向かっていた。
  エジプトでは列車の事故がたびたび発生している。南部ソハーグ近郊でも3月26日、衝突事故があり、少なくとも18人が死亡した。(共同)


2021.03.30-Yahoo!Japanニュース(産経新聞)-https://news.yahoo.co.jp/articles/457f90c2466374a16853a2f668d24702582335c5
スエズ運河庁、日本の船主に賠償請求も 海運業のリスク分散が裏目

  エジプトのスエズ運河で座礁したコンテナ船「エバーギブン」は、世界の海上輸送物資の1割超が通過する大動脈を遮断した。運河を所有・管理するスエズ運河庁は、徴収できなくなった船舶の通航料に加え、運河修繕の費用などについて、同船を所有する今治造船のグループ企業の正栄汽船(愛媛県今治市)を相手取って賠償を求め、エジプトなど現地の裁判所に訴訟を起こす公算が大きい。

   海運関係者によると、スエズ運河の通航料は1回当たり約3000万~5000万円程度とみられ、通航船舶は1日当たり約50隻に上る。1日遮断すると20億円前後の損失が生じる計算だ。事故の影響で420隻以上が足止めされ、アフリカ大陸南端の喜望峰を経由する代替ルートに切り替える船舶も出始めているという。
   コンテナ船が接触して岸の一部が崩落し、離礁作業の完了後も復旧作業が続く可能性が高く、賠償額は増えそうだ。海運に詳しい保険業者は、スエズ運河庁が、正栄汽船と同社が加入する保険会社に、示談交渉を持ちかける可能性もあると指摘する。 
   座礁した船は、台湾の海運会社、エバーグリーン・マリンが運航し、ドイツ系の船舶管理会社、ベルンハルト・シュルテ・シップマネージメントが乗組員らを手配していた。海運会社は巨額投資が必要になる造船を行わずに運航用船舶を調達し、船主は船舶管理を別会社に委託し海運会社からリース料を受け取る。「用船契約」と呼ばれる、世界の海運業界では一般的で日本では明治時代から採用されている、リスク分散の仕組みだ。
   船主は船体の損傷や事故などで生じた損害に責任を持つため保険に加入することとなる。保険には、船体にかけるものと、荷物や油の流出事故などに備える2種類ある。コンテナ船は船底が損傷した可能性があり、正栄汽船の担当者は、修理費用は「間違いなく保険適用になる」と話す。一方、ある関係者は、「運河に与えた損害補償は、正栄汽船が保険を使うなどして対応する可能性が高い」という。
   英海運専門紙は、運河が遮断され多くの船が足止めされたことで、遅延などに伴う損害額は1日当たり96億ドル(約1兆500億円)と推計した。ただ、この損害に対する補償は、各船舶を保有する会社が加入している保険で対応するようだ。船舶が代替ルートを使う場合は追加費用が発生するが、過去に起きた同様の賠償金請求訴訟の例をみると事故を起こした船への請求が認められたケースは少なく、費用や時間などを考慮して提訴する会社は少ないとみられている。(岡田美月)


2021.03.30-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210329/k10012943631000.html
スエズ運河 座礁コンテナ船「船体の離礁に成功」管理当局発表

  エジプトのスエズ運河で座礁して動けなくなっていた、愛媛県の会社が所有する大型のコンテナ船について、現地の管理当局は、座礁から6日以上たった29日午後、船体の離礁に成功したと発表しました。このあと、航路の安全を確認するなどして運河の通航を再開させるものとみられます。
  エジプトのスエズ運河では、23日、愛媛県の正栄汽船が所有し、台湾の会社が運航する大型のコンテナ船が座礁して運河が塞がれ、ほかの船が通れなくなっています。
  運河を管理するスエズ運河庁は、29日未明からタグボート10隻を使って船を動かす作業を進めた結果、船体が浮上し始め、午後3時すぎ、日本時間の29日夜10時すぎ、船体の離礁に成功したと発表しました。
  このあと、航路の安全を確認するなどして運河の通航を再開させるものとみられます。
  アジアとヨーロッパを結ぶ海上交通の要衝であるスエズ運河が塞がれてから6日以上たち、周辺に待機する船舶は、360隻以上にのぼっています。
  ふだんは、平均で1日当たり50隻ほどが運河を利用していて通航が再開されても混雑の解消には時間がかかるものとみられ、物流への影響は、当面、続く可能性があります。
船を所有 愛媛県の会社がコメント
  エジプトのスエズ運河で大型のコンテナ船が離礁したことを受け、所有する愛媛県の会社がホームページ上にコメントを出しました。
  船を所有する正栄汽船はコメントで「コンテナ船は、日本時間の午後10時4分に離礁致しました」と報告しています。
  今後については「船をグレートビター湖に移送し損傷状態を確認するとともに、できるだけ早期に航路に復帰することを目指します」としています。
  そのうえで「本件の事故に際しましては、スエズ運河庁、サルベージ会社、関係各社の皆様に多大なるご協力を賜りましたこと感謝申し上げます」と記しています。


2021.03.27-Yahoo!Japanニュース(産経新聞)-https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20210327-00229587/
スエズ運河のコンテナ船座礁事故 1日1兆500億円の海上輸送を止める サプライチェーンの弱点再び

  [ロンドン発]国際海上輸送の12%をさばく海の要衝、エジプト北東部スエズ運河で今月23日、正栄汽船(愛媛県今治市)所有の世界最大級コンテナ船「エバーギブン」(全長400メートル、総トン数約22万トン)が運河を完全にふさぐ形で座礁した事故で、懸命の離礁作業が続けられています。
  この事故で200~300隻の船が紅海で立ち往生しています。正栄汽船の檜垣幸人社長は26日の記者会見で「コンテナ船は満船状態で重量が重く、動かすのが難しい。潮の干満差は90センチ程度で浮力を利用して動かすことができない。スエズ運河庁は浚渫の方が早く離礁できると考えている」と説明しました。
  同船はTEU(20フィートコンテナ換算)で1万8349本のコンテナを積んでおり、浚渫で離礁できない場合はバージや起重機船を用意してコンテナを下ろし、船全体の重量を軽くしてから離礁させる方針です。
  米誌フォーブスによると、エバーギブンは毎日96億ドル(約1兆522億円)の海上輸送をブロックしていると推定されています。運航がすぐに再開されればサプライチェーンの遮断による損失も少なくて済むものの、長期化した場合、膨らんだ損失の賠償責任はどうなるのでしょう。
  まずエバーギブンのオーナー(船主)やオペレーター(運行会社)の関係を見ておきましょう。
船主:正栄汽船
  100隻以上を保有。1万TEU以上のコンテナ船が25隻、それ以下は20隻程度。大半が定期用船で、半分は自社で船舶管理、残りは船舶管理会社に委託管理を任せている。
船舶管理会社:ベルンハルト・シュルテ・シップマネジメント(BSM)
  正栄汽船から船員配乗やメンテナンスの一括管理を任されている。
用船者:台湾の海運会社「長栄海運(エバーグリーン・マリン)」
  正栄汽船所有の船を長期用船している。
  檜垣社長の説明ではエバーギブンは今月13日、マレーシア・タンジュンぺラパス港を出港。23日にスエズ運河に到着し、2人のパイロット(水先人)が乗り込んで運河を航行中、砂嵐に遭って座礁したとみられるそうです。「船員のミスはなかったのではと予想しているが、断定はできない」と話しています。
  一方、長栄海運は「用船の場合、回復作業で発生した費用、対第三者、修理費用の責任は船主にある」と主張しています。BSMは「汚染や貨物の損傷の報告はなく、優先事項は船舶を安全に再浮上させ、スエズ運河の海上交通を再開することだ」と発表しました。

  日本海事新聞によると、正栄汽船が船主としての過失責任を問われる最大のポイントは予見可能性です。しかし座礁当時、エバーギブンにはパイロット2人が乗船していました。今のところ風速15~20の突発的な砂嵐が発生した可能性が強く、予見可能性を認めるのは難しそうです
  仮に予見可能性が認定された場合、結果回避義務が発生します。風速15~20メートルの強風を操船で回避できたかどうかが問われます

  パイロットが乗船していたものの、米ブルームバーグは「スエズ運河の独自の方針では、たとえパイロットが座礁した船の舵を取っていたとしても咎められないことを示唆している」と指摘しています。
  「共同海損(航海中に生じた損害を船主や用船者、荷主などで分担し合う制度)と呼ばれるプロセスが宣言された場合、支払いは非常に複雑になり、数年かかる」(ブルームバーグ)そうです。

  正栄汽船の「船体保険は日本の三井住友海上、東京海上日動火災保険、損害保険ジャパンの3社。油濁事故や人身事故に関わる賠償責任保険は海外のP&I(船主責任保険)クラブを起用」(檜垣社長)しています。P&Iの補償範囲は浚渫費用や失われた収益も含まれるそうです。

  浚渫作業だけで離礁できず、コンテナを船から下ろさなければならなくなった場合、巨額の費用が発生します。船自体の保険は通常1億~2億ドルの範囲でカバーされ、離礁にかかる費用は数千万ドル(ブルームバーグ)とみられます。
  しかし他の船がスエズ運河で立ち往生したり、南アフリカの喜望峰を回ったりして発生したコストはどうなるのでしょうか
  仮に船主に過失があったと認定された場合でも、スエズ運河の停滞で第三者の船に生じた遅延による損失は「当事者が予見しにくいことから『間接損害』『結果損害』や『純粋経済損失』とみなされ、一般的に損害賠償は認められにくい」という、海難事故に詳しい青木理生弁護士の見方を日本海事新聞は伝えています。
  檜垣社長やBSMが言うように今はエバーギブンを早急に離礁させ、スエズ運河の航行を再開させるのが喫緊の課題です。しかし今回の事故はグローバルサプライチェーンがいかに脆弱かを改めて見せつけました。


2021.03.25-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210325/k10012936171000.html
スエズ運河コンテナ船座礁 復旧作業続く 物流遅れ懸念高まる

  アジアとヨーロッパを結ぶ海上交通の要衝、エジプトのスエズ運河で愛媛県の会社が所有する大型のコンテナ船が座礁し、ほかの船舶が通れなくなってから丸2日がたちました。管理当局は運河内の船舶の通航を止めて復旧作業を続けていますが、復旧の見通しは明らかにしておらず、物流の遅れへの懸念が高まっています。

  エジプトのスエズ運河では23日午前、愛媛県の正栄汽船が所有し、台湾の会社が運航する大型のコンテナ船が砂嵐による悪天候の中、地中海に向かう途中で座礁して運河をふさぎました。
  管理当局のスエズ運河庁は、25日もタグボートや土砂をさらうしゅんせつ船を出して、コンテナ船を動かす作業を続けていて、作業が終わるまで運河内の船舶の通航を止めると発表しましたが、復旧の見通しは明らかにしていません。
  運河の通航許可の手続き業務などを行う会社によりますと、運河の中や入り口などに待機する船舶はおよそ150隻に増えているということです。

  スエズ運河はアジアとヨーロッパを結ぶ海上交通の要衝で、平均すると1日に50隻ほどの船舶が通航しますが、運河を使わずアフリカ大陸の南を回るう回ルートを通った場合、1週間ほど余分にかかるということで、物流の遅れへの懸念が高まっています。
船所有会社「作業は難航」
  愛媛県今治市の会社が所有する大型のコンテナ船がエジプトのスエズ運河で座礁したことについて会社がコメントを発表し、船を動かす作業が難航していることを明らかにしました。
  エジプトのスエズ運河で23日午前、愛媛県今治市の正栄汽船が所有し、台湾の会社が運航していた大型コンテナ船「エバーギブン」が、運河をさえぎるように座礁しました。船は全長400メートル、全幅およそ60メートルで国内最大手の造船会社今治造船が2018年に建造しました。
  現地ではタグボートなどを使ってコンテナ船を動かす作業を急ぎ、浅瀬の土砂を取り除く船を派遣するなど作業を続けていますが復旧の見通しは明らかになっていません。
  船を所有する正栄汽船は25日午後、コメントを発表し、この中で「現地関係当局や船舶の管理会社と協力して離礁を試みていますが、困難を極めている」として作業が難航していることを明らかにしました。
  そのうえで「スエズ運河を航行中、航行予定の船舶など関係者の皆様に多大な心配をかけていること誠に申し訳ありません。引き続き、離礁に向けて全力を尽くし事態の早期解決に向けて取り組みます」としています。
  愛媛県には海外に貸し出す外航船のオーナーが多く「愛媛船主」として知られています。
  正栄汽船は今治造船のグループ会社で、船を海運会社に貸し出すいわゆる「船主」として国内の海運大手のほか、台湾や香港の企業とも取り引きがあります。
座礁船管理行っている独の会社「貨物影響や油流出なし」
  座礁した大型コンテナ船の技術面の管理を行っているドイツの会社によりますと、日本時間の午後5時半現在、船のまわりの土砂を取り除く作業が続いていて、船を動かせる見通しは立っていないということです。船の乗組員25人にけがはなく、貨物への影響や油の流出などもないとしています。会社では、スエズ運河の管理当局などと連携し、早急に復旧作業を進めたいとしています。


2021.03.25-NRI-https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0325_2
スエズ運河の座礁事故が世界のサプライチェーンを遮断し世界経済と金融市場に打撃も

座礁事故はエネルギー輸送に大きな打撃
  欧州と中東・アジアとを繋ぐ海上交通の要衝であるスエズ運河が、現在、封鎖状態に陥っている。過去151年間の歴史の中で、今まで運航が止まったのはわずか5回だけだという。日本の会社が所有し、台湾船社エバーグリーン・マリン(長栄海運)が運航する巨大コンテナ船が、現地時間3月23日にスエズ運河の紅海側入り口に近い地点で座礁した。中国からオランダ・ロッテルダムに向けて航行中だった。その結果、南北双方向で航行ができない状態が続いている

  スエズ運河庁によると、2019年の船種別同運河通航量では、コンテナ船が5,375隻で最多である。タンカーが5,163隻、バルカーが4,200隻と続き、この3船種で全体の8割弱を占める。また年間1万8,000隻超の船舶が航行し、1日の平均航行隻数は約50隻だという。

  ロイター通信によると、現時点でエバーギブンの北方には少なくとも30隻、南方には3隻の船舶が通航を待っているほか、運河の南・北側入り口近辺でも数十隻の船舶が進入待ちとなっているもようだ。約1,300万バレルの石油を積載したタンカー10隻の運航に影響が及ぶ恐れがある、との指摘もある。
  スエズ運河は世界海上貿易の約10%を占める重要ルートだ。特に原油・天然ガスの輸送では戦略的な輸送路となっている。ペルシャ湾岸の産油国から欧州の消費国まで北上する船だけでなく、南下してロシア産のエネルギー資源をアジアに運ぶ船も多い。米エネルギー情報局によると、このスエズ運河と併設のスメドパイプラインの合計で、世界の石油輸送の9%、液化天然ガス(LNG)の8%を担うという。今回の座礁事故を受けて、原油価格が急騰したのも当然のことだ。
自動車のサプライチェーンに度重なる混乱
  また自動車船も、アジア―欧州間の基幹輸送はスエズ運河を経由しており、自動車輸送にも大きな打撃となる可能性がでてきている。
  新型コロナウイルス問題による巣ごもり需要の高まりを受けて、鉄道、港湾、トラックなどに加えて、海運にも需給のひっ迫感が昨年から高まっていた。今回の座礁事故は、そうした物流の逼迫を加速させ、輸送コストを一段と上昇させる可能性があるだろう。
  自動車業界にとっては、昨年から続く車載用半導体不足に加えて、足もとでは米国テキサス州での寒波による停電が自動車部品の調達を難しくしている。さらに日本では、先日のルネサスエレクトロ二クスの火災によって、マイコンの調達が滞り、完成車の一時的な生産停止が避けられない状況だ。それらの混乱に今回の座礁事故が加わって、サプライチェーンの混乱が非常に深刻になっているのである。
世界経済の回復に水を差し金融市場を混乱させるリスクも
  スエズ運河での座礁船引き上げには、満潮がピークを迎える3月28日あるいは29日まで待たなければならない、との指摘がある。スエズ運河の通行の遮断が長引く場合には、現在近くで待機している船舶、あるいは今後スエズ運河を通る予定だった船舶が、南アフリカの喜望峰を大回りするルートを選択する可能性が出てくる。
  その場合、航海期間は1週間程度延びるため、世界の物流に大きな打撃が及ぶことになる。さらに、その結果、海運の費用が大幅に上昇し、それらが多くの製品の価格に転嫁されるだろう。
  シンガポールからロッテルダムのコンテナ船の運航のケースでは、スエズ運河経由では平均で22日間を有し、平均費用は106万ドル程度だ。これに対して、喜望峰経由の場合には、平均で30.9日を要し、平均費用は148万ドル程度となる。喜望峰経由となれば、コンテナ船の運航費用は平均で42.7万ドル上乗せになるのである。
  このように、今回の座礁事故は、サプライチェーンの混乱を通じて、新型コロナウイルス問題からの世界経済の回復に水を差す可能性がある。また、供給不足懸念は物価上昇観測を高め、それが足もとで世界的に高まっている長期金利の一段の上昇と株価の下落を促すなど、世界の金融市場にとっても逆風となる可能性が出てきたといえる。
  経済、金融市場にどの程度の打撃となるのかは、スエズ運河の通行再開までに要する時間にかかっている


2021.01.10-産経新聞 THE SANKEI NEWS-https://www.sankei.com/world/news/210210/wor2102100023-n1.html
【ファラオの復権 アラブの春10年】(下)息ひそめる同胞団
(1)
  エジプトの政府系紙アハバルは1月中旬、同国のシーシー政権が敵視するイスラム原理主義組織、ムスリム同胞団の海外や獄中にいる幹部多額の資産や外国企業の多数の株を保有していると報じた。
  イスラム教の価値観を重視する同胞団は清貧を旨とし、団員の会費以外に運営資金は存在しない建前だ。蓄財に励む幹部がいるとの情報で、組織内の分断を図る政権側の思惑がのぞく。
  大統領のシーシーは国防相だった2013年、軍を率い、同胞団出身の大統領モルシーを拘束して強制的に排除。幹部も根こそぎ逮捕し、百万人ともいわれる団員は沈黙に転じた。
  14年に発足したシーシー政権は16年、同胞団思想の拡散を防ぐため、国内のモスク(イスラム教礼拝所)の金曜礼拝で指導者が行う講話の内容を画一化した。警戒を緩めないのは公然と支援する国があるからだ。
  エジプトで起きた同胞団と軍の対立は「イスラムの教えを政治に反映すべきか否か」をめぐる衝突といえ、地域を巻き込む争いに発展した点に特徴がある。
  中東の衛星テレビ、アルアラビーヤによると、13年以降にエジプトを脱出した同胞団員のうち、トルコは最大3万人、カタールは1万人を受け入れた。
  トルコの大統領エルドアンは熱心なスンニ派が支持基盤で、同胞団との連携は「イスラム世界の盟主」を目指す自身の立場の強化につながる。カタールが同胞団を保護したのは、ペルシ湾岸の“兄貴分”であるサウジアラビアなどに対して存在感を誇示する目的だったとみられる。
  あらゆる法の解釈をイスラム教に求める同胞団の思想は、君主制という世俗のシステムに基盤を置くサウジなどの湾岸諸国とは水と油の関係にある。カタールはこれを逆に利用した格好だが、シーシー政権やサウジは17年、カタールに同胞団との絶縁を求めて断交。対立の構図が定着した。
(2)
  カタールは断交中、トルコのほか政教一致を国是とするイランと関係を深めた。アフガニスタンの和平協議の場を提供するなど、「調停外交の国」という独自の立場も確保した。
  カタールは今年1月、エジプトやサウジと国交回復で合意したが、同胞団保護の姿勢を変える兆しはなく、全面的な和解に至るかは不透明だ。

 「カタールから同胞団が追放されることなど心配していない」。エジプトからトルコに逃亡した同胞団の報道官タラアト・ファハミ(60)は取材にこう述べ、カタールとの関係維持に自信を示した。その上で「エジプトで再び政権を狙う気はない」とも繰り返し強調した。
  同胞団は個人から社会、国家へと段階的にイスラム化を進めるのを根本理念にしているとされる。国際テロ組織アルカーイダの指導者ビンラーディンの思想に影響を及ぼしたといわれ、パレスチナの反イスラエル組織ハマスの母体にもなった。
  イスラム原理主義の「老舗」が簡単に理念の実現をあきらめるとは思えない。実現には政治参加が不可欠だ。ファハミの言葉は「穏健化」を装う方便だったとしても不思議はない。
  「アラブの春」からの10年で、イスラム教の価値観をめぐる勢力争いは中東の主要な対立軸となった。それを顕在化させたのが同胞団。エジプトで壊滅状態になっても、「イデオロギーには今も影響力があり、復活する可能性はある」(同国の政治評論家ムニール・アディブ)との見方は根強い。古代の王ファラオにもなぞらえられるシーシーが強権の手綱を緩めることは当面、想定しがたい。=敬称略

カイロ 佐藤貴生)   =おわり



2020.10.29-SankeiBiz-https://www.sankeibiz.jp/macro/news/201029/mcb2010290041012-n1.htm
ナイル川めぐり上下流で険悪 エチオピアのダム建設にエジプト農民が懸念

  世界最長のナイル川で巨大ダムを建設した上流のエチオピアに対し、下流のエジプトで農民らが危機感を強めている。ダムの貯水が急速に進めば川の水量が減り、農作に影響が出かねないからだ。地方住民の半数以上が農業で生計を立てているとされるエジプトにすれば死活問題で、貯水には時間をかけるようエチオピアに求めているが、協議は平行線をたどっている。

  ナイルデルタと呼ばれる肥沃な三角州に位置するダカリーヤ県のミッドダムシス地区。ナイル川沿岸では10月中旬、モーターが轟音(ごうおん)をあげて水をくみ上げ、乾き切ったキャベツ畑に勢いよく吐き出していた。

  「ナイル川は体の一部のようなもの。少しでも水量が減れば被害は大きい。エチオピアは下流の住民の事情を考慮すべきだ」。キャベツやバナナ、オレンジなどを栽培するナグダさん(73)が言った。この地区の農家1軒当たりの年収は3万エジプトポンド(約20万円)前後で生活に余裕はなく、農業への打撃は避けたい。
  水需要の9割をナイル川に依存するエジプトでは、伝統的に川の水を大量に使う灌漑農業が広く行われてきた。地元メディアによると、農業部門の水使用量は国内全体の4分の3に達しており、政府は今年、節水につながる新たな農法の推奨に乗り出した。エチオピアのダムに対する懸念もほの見える。
  エチオピアはナイル川源流近くで建設した「大エチオピア・ルネサンスダム」(総工費約4700億円)で、この夏に貯水を始めた。水力発電を行って余剰電力を周辺国に売却する計画もあり、10月には1年以内に発電を始める意向を表明。また、すべての航空機のダム上空の飛行を禁止するとし、空軍幹部は「あらゆる攻撃からダムを守る用意がある」と述べた。

  これを受けてトランプ米大統領が、エジプトは「ダムを爆破するかもしれない」と述べ、エチオピア外務省が米大使を呼び出して「戦争をあおっている」と批判する一幕もあった。米政権はダムの問題で以前からエジプト寄りの姿勢を示していた。

  エチオピアがエジプトとの協議に応じない背景には、歴史に根差した反感もありそうだ。エジプトは1929年、かつて同国を保護領とした英国との協定で、水の配分に影響を与える上流の事業について拒否権を得た。59年にはスーダンとの協定で水利用の年間割当量も明示され、周辺国より優先利用できる地位を確保してきた。エチオピアでは「植民地時代の遺産を押し付けようとしている」などと、エジプトへの批判が相次いでいる。
  国際河川をめぐる上流国と下流国の争いは、東南アジアのメコン川や中央アジアのシルダリヤ川、中東のチグリス、ユーフラテス川でも起きている。ヨルダン川の水資源争いはイスラエルとアラブ諸国の第3次中東戦争(1967年)の遠因になったともいわれる。


  川の水利用の問題に詳しい沖大幹(おき・たいかん)東京大大学院教授(55)は「基本的に上流の国が有利で、紛争になりやすい」と語る。国際法では水の使用量を規定する法律はなく、関係国間の意思に任されているため、「調停で納得いく妥協案を見つけるしかない」という。
  また、中東・アフリカの全般的な水事情については「紛争や難民など問題が多く、水へのアクセスが難しい。川から直接水を運ぶには時間を取られるため、子供がやれば学校に行けず、女性は家の仕事にしばられてしまう」とし、就学率や就業率に関わる大きな問題だと指摘した。(佐藤貴生)


2020.2.25-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200225/k10012301241000.html
エジプト ムバラク元大統領死去 「アラブの春」で辞任

エジプトで30年にわたって権力を握り、9年前に「アラブの春」と呼ばれた民主化運動で辞任に追い込まれたムバラク元大統領が死去しました。エジプトの国営テレビは、25日、ムバラク元大統領が死去したと伝えました。91歳でした。
  ムバラク元大統領は軍出身で、1981年に当時のサダト大統領が暗殺されたあと、副大統領から大統領に就任し、その後、30年にわたって権力を握りました。
  在任中は、「アラブの盟主」を自任し、欧米とも協調して国際的な影響力を強めたほか、アラブ世界でイスラエルと国交がある数少ない国としてイスラエルとパレスチナの仲介などに重要な役割を果たしました。
  一方で内政面では野党勢力やメディアへの締め付けなど強権的な支配体制を続け、2011年に「アラブの春」と呼ばれた民主化運動によって辞任に追い込まれました。
  その後、デモの参加者の殺害を指示した罪や公金を横領した罪などで起訴され、このうち横領の罪で実刑判決を受けましたが、殺害を指示した罪では無罪となり、3年前に釈放されていました。
  ムバラク元大統領は最近、病気の治療で首都カイロ市内の病院に入院していたということです。
  エジプト大統領府は「国に命を捧げた指導者であり、アラブの団結と尊厳を取り戻した第4次中東戦争の英雄だった」とする追悼の声明を発表しました。


エジプト新王国
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


  エジプト新王国(紀元前1570年頃 - 紀元前1070年頃)は、古代エジプト史における時代区分。エジプト第18王朝の王イアフメス1世が第15王朝ヒクソス)を滅ぼしてエジプトを再統一してからの時代が新王国に分類されている。古代エジプト文明が最も栄えた時代であり、この時代に建てられた無数の記念建造物、文化遺産は現在に至ってもエジプトに数多く残されている。

概略
  エジプトには第1中間期時代から次第にアジア人を中心とした外国人を傭兵や奴隷などとして導入する動きが活発になった。既に第1中間期の文献にもアジア人に関する数々の記録が残されるようになっている。こうしてエジプト内に定着していった「外国人」たちは次第にエジプト国内で地歩を築き、中王国時代には高位の官職にも登用されるようになっていった。中王国は第12王朝時代に完成された官僚制によってエジプトを統治していた。第12王朝を引き継いだ第13王朝時代には王権が弱体化したものの、官僚達の最上位に立つ宰相を実質的な統治者としてなお全エジプトに支配を及ぼした。
  王権の弱体化と関連するかどうか必ずしも明らかではないが、第13王朝時代末期には中王国はその統制力を失い、下エジプトで自立政権が誕生し、エジプトの統一は崩れた。下エジプトに打ち立てられた政権は慣習的に第14、第15、第16の3王朝に分類されているが、第14、第16王朝についてはいくつもの群小政権をまとめたものである可能性もある。
  これら下エジプトで権力を握った人々の中にはシリア・パレスチナ系の名前を持っている者が頻繁に登場する。こういった異民族達はヒクソスと呼ばれる。この中でも一般に「ヒクソス」、「ヒクソス政権」などと呼ばれるのは第15王朝である。第15王朝は紀元前17世紀半ば頃までにはエジプトの首都メンフィスから下エジプト東部、そしてパレスチナに至る地方に直接支配を確立した。下エジプト西部では第16王朝に分類される諸首長が第15王朝の覇権の下で活動し、上エジプト(ナイル川上流)でも最有力のテーベ(古代エジプト語:ネウト、現在のルクソール)政権(第17王朝)をはじめとした諸侯が第15王朝の覇権の下に置かれた。
  第15王朝、即ちヒクソスによる支配は後世のエジプト人の記録では暴力と悪に満たされた野蛮な統治であったとされているが、現代の学者はこのようなエジプト人の歴史観を基本的に支持していない。少なくてもヒクソスの人々はいくつかの外来の風習をもたらしたことを除けば、エジプト文化をとりいれていたし、国家機構もその多くはエジプトの旧来のものを引き継いでいた。
  ヒクソスの覇権の下に甘んじていた第17王朝は、やがて反ヒクソスの軍事行動を起こした。セケンエンラー(前1574頃)王が始めたこの軍事行動は、彼の二人の息子、カーメスイアフメス1世によって引き継がれ、最終的にイアフメス1世は紀元前16世紀半ば頃までに第15王朝を滅ぼしてエジプトからヒクソス勢力を一掃し、これを追ってパレスチナまで支配下に納めた。こうして再びエジプトは統一され、古代エジプト史上最も繁栄した新王国時代が始まる。
第2中間期に関する史料
  動乱の時代に付き物であるが、第2中間期の歴史を伝える史料は乏しい。第17王朝については、この王朝によってエジプトが統一したこともあり比較的記録が多い。とりわけ重要な記録は、対ヒクソス戦争を始めたセケンエンラー王に関する後世の説話『アポフィスとセケンエンラーの争い』や、カーメス王の戦勝記念碑、水軍の船長であった「イバナの息子イアフメス」の墓に記された伝記などで、視点が第17王朝側に偏っているものの、対ヒクソス戦争の具体的な経過を知るためには必ず参照されるものである。また、第20王朝時代に記録された『アポット・パピルス』という文書も貴重である。これは第20王朝時代に実施された王墓の見回り調査記録であり、第17王朝のアンテフ5世からカーメス王にいたるまでの6王墓に関する記述がある。このパピルスの記事は現代の学者が王墓の所有者を特定するのに非常に役立った他、既に原型をとどめていないこれらの王墓が、元来は小規模なピラミッド状の構造を持っていたことを明らかにしている。
  一方でヒクソス(第15王朝)に関する同時代の文書史料はほとんど残されていない。これは彼らが直接支配したのがナイル川三角州の限られた地方だけであったことも原因であるが、それ以上に異民族によるエジプト支配が屈辱的なものと見なされて、エジプト統一がなるやヒクソスに関連した記念物の多くが破壊されてしまったことが大きな理由である。後世にヒクソスについて書かれた記録はいずれも著しい偏見と敵意に満ちており、信憑性に問題があるものが多い。考古学的にはヒクソスの拠点アヴァリスなどの遺跡が残されており、それらから発見された数々の小規模遺物が貴重な情報を提供している。特にこの時代に特徴的な遺物がスカラベである。これには王名が付されているものも多く第15王朝の支配領域のほか、周辺諸地域の遺跡からも発見されており、ヒクソス王の名を現在に伝えている。また、テル・アル=ヤフーディア式土器と呼ばれるシリア風の土器の分布状況が注目される。テル・アル=ヤフーディア(ユダヤ人の丘)式という呼称は、このタイプの土器が最初に発見された場所にちなむが、その後の調査の結果、このタイプの土器は中王国時代末期頃から登場し始めることがわかった。更に、当初は主に北シリアで製作されたものが広く普及していたが、次第に生産拠点が下エジプトの東部に移動していった。この事実は、「ヒクソス」支配下において拠点となった下エジプト東部の生産力が増大したことを示すとともに、土器を作る職人が北シリア地方からエジプトへ移動した可能性をも示している。
  ヒクソス時代には以前にもまして対外貿易が活発化したらしく、ヒクソスにまつわる小規模遺物はクレタ島キプロス島メソポタミアアナトリア半島などからも見つかっている。とりわけアヴァリスの遺跡からクレタ様式の壁画断片が見つかったことは、ヒクソスとクレタ文化圏の関わりを示す興味深い事実である。
オリエント国際政治とエジプト
  第2中間期の支配者ヒクソス、即ち第15王朝はエジプト世界から西アジアの一部を包括して継続支配した王朝であり、この王朝の存在によってエジプトと他の西アジア地域は文化的にも政治的にも接触を密にした。無論旧来より人的交流や交易は盛んであったが、第2中間期の激動を経て、シリア・パレスチナ情勢はエジプトの支配者にとって最も関心を払うべき問題の1つになっていた。「外から進入した」と見なされたヒクソスの再来を恐れるエジプトの支配者達が、シリア・パレスチナの支配によって安全保障を得ることを求めたとともに、彼らが「ヒクソスが持っていたアジア地域に対する支配権を継承した」として、シリア・パレスチナに対して領有権を有すると考えるようになっていったのである。
  こうしてエジプト世界と他のオリエント世界は、緊密な関係を持った1つの政治世界を形成するようになったのである。第2中間期に続く新王国時代には、エジプトはオリエントの大国の1つとして巨大な影響力を振るうようになる。







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