生殖補助医療(AID)の問題-1
2024.01.15-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240115-HLU7MPZU3FF7RJMVNHSMJVTE7M/
18~25歳の45%が「将来、子供ほしくない」 仕事は充実、結婚も急がない
(水内茂幸)
少子化に歯止めがかからない原因はどこにあるのか。昨年の民間調査では、
18~25歳までのいわゆる「Z世代」の45%が、「将来子供を持ちたくない」という衝撃的なデータも明らかになった。彼らの生の声を聞くと、
経済的な理由だけにとどまらない、社会の構造的な問題が浮き上がる。
東京都内の大手商社に務める夏穂(24)=仮名=は、入社2年目の営業職だ。
独身で現在は交際相手もいないが、今後も
「結婚や子育てと無縁の人生を送るだろう」と考えている。子供が嫌いというわけでもなく、身体的な問題もない。大学時代には同学年の男性と交際した経験もある。今の職場は、出産や子育てに関する制度が「恵まれすぎるほど」充実しており、一度職場を離れてもキャリアは遅れない。
それでも、
なぜ結婚や子供と無縁だと考えるのか。夏穂は子供を持つ前提として結婚があると考えるが、今は「長く特定の人と一緒に暮らすことが考えられない」という。大学時代の交際相手からは「2~3年後には結婚だね」と強く言われたことが響いたのか、就職後に自然消滅した。
仕事はやりがいを感じるほど充実している。
休日は1人で街歩きをすることも多く、プライベートでも、今は満足した日々を送る。隣県に住む両親も結婚を急かさない。
「自分と同じ教育環境用意できないのでは」
夏穂が子供を考えないもう1つの理由が、教育費への懸念だ。「自分が大学を卒業するまでの間、両親が与えてくれたものと同じだけの教育環境を、わが子に用意できる自信がない」と不安を感じるという。
夏穂は大学時代、子育てにいくらかかるのか、平均的な教育費のデータなどを参考にシュミレーションをしたことがある。
出生から大学を卒業するまですべて公立学校に通っても1千万円以上、私立なら2千万円以上はかかりそうだと判断した。これに自らの収入の将来見通しを重ね合わせると、
子供を育てられる確信を持てないというのだ。
ただ、
夏穂は子育てする未来を完全に閉じてはいない。仮に将来子供を持つならば、30歳くらいでパートナーを探し、35歳までには出産か‥という人生設計もおぼろげに考える。ただ充実した毎日を送るだけに、今は「30歳になったときに改めて考えればいい」と思う程度だ。
夏穂の同世代では、似たような考えが増えている。インターネット情報提供会社「ビッグローブ」(東京)の昨年2月の調査では、
18歳から25歳までのいわゆる「Z世代」で未婚で子供もいない人のうち、「将来結婚したくないし子供もほしくない」と考える人が36・1%に達した。
「将来結婚したいが子供はほしくない」との答えも9・4%あり、
合計45・5%が子供を持たない将来を描く。
やりがいのある仕事環境と充実したプライベート、教育費への漠然とした不安があいまって、夏穂は子供を持つという考えから離れている。「今はまったく淋しさを感じない」と笑顔で語る姿には、少しの焦りも感じられない。
岸田文雄首相は昨年、「若者人口が急激に減る2030年代に入るまでが、少子化トレンドを反転させるラストチャンス」と訴え、約3兆6千億円の財源をかけた新たな少子化対策
「こども未来戦略」を策定した。
対策には児童手当の拡充など金銭的な支援強化が目立つが、真の処方箋になるのか。少子化のリアルな背景を連載で探る。
(水内茂幸)
2021.04.16-産経新聞 THE SANKEI NEWS-https://www.sankei.com/politics/news/210416/plt2104160034-n1.html
タブー視されてきた生理の課題 国民民主・伊藤孝恵参院議員「議論のチャンス」
(1)
公の場で語ることがはばかられていた女性の生理が国会で議論されるようになった。
長引く新型コロナウイルス禍による生活苦で生理用品が買えない「生理の貧困」が浮き彫りになり、与野党の女性議員が国会で取り上げたことで、政府も対応に乗り出した。不妊治療の支援や学校での月経教育など、生理をめぐる課題は多岐にわたる。生理政策に先駆的に取り組んできた国民民主党の伊藤孝恵参院議員に話を聞いた。(豊田真由美)
「昨年夏、政治家と有権者をつなぐ政治プラットフォーム『PoliPoli(ポリポリ)』の代表者から頼まれたのがきっかけだった。生理に関する政策リクエストがとても多いそうで、『いろんな先生に声かけたけど、みんな嫌がる。でも伊藤さんならやってくれるよね』と」
--
生理が堂々と語られることは少ない
「やっぱり、ギョッとするでしょう。私も最初は戸惑った。国会で『生理政策』とか言うと変な扱いをされそうで…。でも、生理は恥ずべきことでも隠すことでもない。最後は乗ってみることにした」
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国民民主の玉木雄一郎代表も「生理政策と言われたときギョッとした」と
「最初に持ち込んだときは著しく反応が悪く、『う、うん…』という感じで全然目が合わなかった。でも、呪文のように言い続けることで理解してもらい、今では生理政策について発信してくれるようになった」
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過去1年以内に生理用品の入手に苦労した人が約2割いるとの調査を大学生らでつくる団体が3月に発表し、与野党の女性議員が国会で取り上げた
「あの調査で『
生理の貧困』が可視化された。メディアが特集し世論が盛り上がったことで男性議員の理解も進み、『伊藤さんがやっている生理教育は大事だね』と声をかけてもらえるようになった」
(2)
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生理に関する法律にはどのようなものがあるか
「調べたが、生理休暇を定めた労働基準法第68条だけ。実際に取得する人は少ないし、労基法だからフリーランスには適用されない。生理に対するスティグマ(社会的烙印(らくいん))により顕在化されていない多くの課題を見て、やはり生理政策はやらなければと思った」
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今後の課題は
「強固なスティグマの解消と生理用品への税制優遇、『生理教育』だ。生理はいつ来て、いつまであって、腹痛などの随伴症状や経済的な負担もあるが、新たな生命を育む素晴らしいものだということを子供たちが学校で学べるようにしたい。みんなが生理を語り始めた今が、千載一遇のチャンスだと思っている」
いとう・たかえ 愛知県出身、金城学院大卒。テレビ大阪、資生堂、リクルートなどを経て平成28年参院選に当時の民進党から立候補し初当選。昨年12月の国民民主党代表選に出馬し、玉木雄一郎代表との一騎打ちに敗れたが、国会議員票は同数だった。同党副代表。45歳。
2020.11.24-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201124/k10012728401000.html
精子提供で生まれた当事者が訴え “出自を知る権利 明記を”
第三者から精子や卵子の提供を受けることによって
生まれた子どもの親子関係を民法で特例的に定める法案について、精子提供で生まれた当事者などが「
出自を知る権利」を盛り込むべきだと訴えました。
議員立法の形で提出されたこの法案は、
第三者から卵子の提供を受けて妊娠・出産したときは、出産した女性を母親とし、夫の同意を得て夫以外から精子の提供を受けて生まれた子どもは夫を父親とするとしています。
今月、参議院本会議で可決され、衆議院に送られていますが、生まれた子どもが精子の提供者の情報などを知る「
出自を知る権利」などの課題については、おおむね2年後をめどに検討するとされています。
この法案をめぐって、第三者からの精子提供で生まれた当事者などが、24日、会見を開き、「
出自を知る権利」について、問題を先送りせず、法案に当初から盛り込むべきだと訴えました。
さらに、親を含めた当事者がさまざま葛藤を抱えることを前提にした相談体制や、容姿や学歴、才能などに応じて高額な謝礼を支払うといった商業的なあっせんの規制などについても検討が必要だと呼びかけました。
精子提供で生まれた当事者で、会見した石塚幸子さんは
「私は成人したあとに突然事実を告知され、信頼していた親に裏切られたと感じて信頼関係が崩れてしまったし、隠さなければならない技術で私は生まれたのかと、自分を肯定的に受け止めることもできなくなりました。早い段階で事実を伝え、知りたいときに提供者の情報を知ることができるよう、法律にも明記してほしい」と話していました。
AID
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
非配偶者間人工授精 (Artificial Insemination by Donor) -
人工授精#ヒトにおける適用参照。
精子バンク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
精子バンクとは、ドナーから採取した精子を格納保存する施設、機関のこと。血統を重んじる馬、肉質が求められる牛、などの動物では、生産地のブランドを守るために厳重な管理の下に精子を保存している。
人間の精子では、主に不妊症者、同性愛者、非婚の希望とともに提供されている。
歴史
精子バンクは
ハーマン・J・ミュラーによって提唱された。
1964年に不妊の
人工授精のために、最初の精子バンクが
米国・
アイオワシティと
日本・
東京で誕生した。これにより、子供の求める性質を精子の段階で選択できるようになった。以後、精子バンクの利用者は増え続け、
1980年にはミュラーの影響を受けた
ロバート・グラハムが
ノーベル賞受賞者専用の精子バンク「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」(ジャーミナル・チョイスはミュラーの言葉である)を開設し、大きな話題を呼んだ。現在ではアメリカだけで100万人以上の子どもが精子バンクの人工授精によって誕生している。
方法
採取された精子は、0.4~1.0mlほど小さなガラス瓶やストロー容器に入れ、液体窒素で凍結する。保存期限はなく、20年以上経った精子を使って健康な子が生まれた例もある。
法規制
日本には、精子バンクや精子提供を規制する法制度はない。ただし、日本産科婦人科学会が関連する倫理規程を有している。
日本における状況
日本では、日本産科婦人科学会が定める「非配偶者間人工授精に関する登録施設」が、公式的な精子バンクの役割を担っている。ただし、利用可能な者は不妊の法定婚夫婦に限定され、施設数も10数ヵ所にとどまるほか、慶応病院のように、ドナーの減少により休廃止となる施設も多い。このような中、個人の精子提供サイトが多数立ち上がり、同性婚者や性同一性障害カップル、非婚女性等のニーズに応じている状況にある。精子提供により生まれた者として、DI(提供精子による人工授精)で生まれたことを公表している主な例としては
横浜市立大学医学部付属病院の加藤英明医師が、DIで生まれたことを公表している。
米国における状況
米国では、2005年5月24日より新しいガイドラインを伴って
FDAによって管理・規制されている。匿名ドナーと公開ドナーのいずれを使っても安全性は確かめられている。ドナーは頻繁にテスト、監視され、全ての精子は最低6ヶ月間ドナーの健康性の確証が得られない限り公開されない。検査は、
HIV-1,HIV-2,HTLV-1,HTLV-2、
白血病、
梅毒、
クラミジア、
クロイツフェルトヤコブ病、核型分析46,XY、海綿状脳症、
サイトメガロウイルス、
淋病に及ぶ。無償提供の団体も多々あるが、全く個人的に精子を販売している人もいる。
精子は人気ごとに異なる値段がつけられ、ランキング上位には
スーパーモデル、(TV、新聞、雑誌や、ホームページなどで活躍する)モデル、成功を収めた商人、優秀な
医者や
弁護士や
数学者等の専門家、スーパー
ハッカーなどが名を連ねる。
米国では精子提供者の匿名性保持が不可能となったため、提供者は減少している。また所得の少ない女性には、自宅でのセルフ受精を行っている企業もある。冷凍されて送られた精子を室温で解凍し、専用の注射器で子宮口付近に自己注入する手順である。注入後15-30分横になっていることが推奨されている。また注入後、腟への異物の挿入を伴わないオルガズムは、子宮口が腟内の精子プールに動くことを助け、受精率を上げるとされている。
生命倫理上の問題点
精子バンクは、
優生学や
人種差別に繋がる等と指摘されており、問題視する声も上がっている。先述の「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」(胚の選択のための倉庫)は、そもそも創設者ロバート・クラーク・グラハムの公言する設立主旨
はマスコミや世論から轟々たる非難を浴びた。一方、社会学者
シュテファン・キュールは著書『ナチ・コネクション』の中で現代アメリカで人間を対象としている精子バンクなどの遺伝子産業と
ナチスが進めていた優生学研究との関連性について指摘している。
書籍『ジーニアス・ファクトリー』によれば、「結果として言うのであれば、ノーベル賞科学者の精子を元に子供を生んでも、同じノーベル賞科学者は生まれなかった。ある程度の優秀さを持つ人間から、人生を棒に振った者まで、すべて”天才”というわけではなく、そこに様々な人生の成功者から失敗者が存在した」(あとがきより)という記述がある。
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/watching/wt0711a.pdf
非配偶者間人工授精と「出自を知る権利」の行方 -研究開発室 殿村 琴子
<日本学術会議で進む生殖補助医療に関する議論>
代理出産の是非をめぐる関心の高まりを背景に、日本学術会議「
生殖補助医療の在り方検討委員会」 は、従来からの議論の整理と今後の方向性について審議を進めている。一言で「生殖補助医療の在り方」 といっても検討対象は、各治療法の実施可否、
誕生する子をめぐる親子関係、精子・卵子・胚(受精卵) の第三者提供の仕組み、提供者の制約、当事者のプライバシー保護、出自を知る権利など広範にわたる。 本稿では、8月の第8回会合で行われた
AID(非配偶者間人工受精)で生まれた子の立場からの証言 を紹介しながら、会議における主要な論点の一つである「
出自を知る権利」について、考えてみたい。
<
AID(非配偶者間人工授精)と出自を知る権利をめぐる議論の背景>
AIDとは、無精子症などの男性要因による不妊治療法で、第三者から提供された精子を子宮に医学 的に注入、妊娠させる方法である。通常、精子提供者は匿名のボランティアで、生まれた子は依頼者夫
婦の実子として戸籍登録され、医師も両親も子に事実を告げることはない。精子提供者、両親、医療関 係者のいずれもが、治療の事実を積極的に明らかにすることはないため、子は何かのきっかけで事実を
知るまでは、自分の遺伝上の「父親」の存在を知りえない。わが国では、治療開始から既に60年近くが 経過し累計1万人以上、現在でも年間100~200人規模のAID児が誕生している
<出自を知る権利についての問題点と諸外国の対応>
ドナーである遺伝上の「父親」を知らないことでおこりうる直接的な問題として、一般には①遺伝に ついての情報の欠如が子の「健康に生きる権利」を侵害する可能性があること、②子が結婚する際に近 親婚の可能性が排除できないこと、などが指摘されている。諸外国では、法律で図表2のような取扱と することが定められている。AID児が出自を知る権利を行使するためには、その子に治療の事実が告 知されることが前提となるが、現状ではどの国においても積極的に告知しようとする親は多くない。最 も早く関連法制が整ったスウェーデンでも、2003年時点でドナー情報の請求は1件も行われておらず、 その背景として治療事実を告知している親が全体の1割程度にとどまることが挙げられている(米本昌 弘『「出自を知る権利」についての各国の制度』日本医師会総合政策研究機構リサーチ
エッセイ 2003年9月)。
また、スイスでは法律上、精子ドナーと治療を受ける男性とは血液型に加え容貌が似ていること にも配慮することができるとしており、親はたとえ憲法上の権利であっても事実を告げる気にならない
のではないかとの指摘もある。また、「非配偶者間人工授精により挙児に至った男性不妊患者の意識調査」 (日本不妊学会雑誌 2000年7月)によれば、日本でAIDにより子を設けた男性不妊患者の63%が告知
を「ぜったいにしない」、18%が「できればしたくない」としており、「できればしたい」はわずか1% にとどまっている。
<AID(非配偶者間人工授精)で生まれた子の立場>
一方、AID児の立場からは、より根源的な問題として、自立やアイデンティティーの確立といった 観点から遺伝上の親を知る、自分の生まれ方を知ることの重要性を訴える声が聞かれている
日本学術会議「生殖補助医療の在り方委員会」におけるAIDで生まれた子の証言
(前略)自分がAIDで生まれたと知っている人の多くは、親の病気や親が死亡した際、または離婚や夫婦喧 嘩など家庭内に何らかの問題が起きて言わざるを得ないような状況になって初めて知るケースが多く見られま
す。子どもの立場から言わせていただければ、家庭内の危機的状況がまず起っている中で、まずそのことで子ど もは少なからずショックを受けているのに、そこにさらに突然AIDで生まれたという事実を聞かされるという
状況になっていて、ダブルにショックを受けるような状況になっています(中略)。自分がAIDで生まれてい るということがショックなのではなくて、親がそのことを二十何年も隠していたということが非常にショックで
した。子どもにとって親というのは最も信頼している存在だと思います。その親との関係の中にそんな重大な隠 し事があったということが子どもにとって悲しいことなんです(中略)。
自分というのは小さい頃からの経験や体験を重ねて徐々に形づくっていくものだと思います。その根底にある というか、土台となる部分が自分がどのようにして生まれたかというものだと思います。その部分について今ま
で自分が信じていたものが違うと突然いわれてしまうと、その上に積み重ねてきたいろいろな体験や思い出な ど、そういったもの全てが同時に揺らいでしまいます。(中略)。自分がどうやって生まれたかという、自分にと
ってとても重要な部分を親ですらみとめてくれないということが子どもにとって非常に悲しいことです(中略)。 AIDで生まれたという事実を告げると子どもが傷つくというようなことをよく言われますが、では逆に、子ど
もを傷つけている、傷つけるようなことをあえて親は選んでいるのかと私は思ってしまいます。AIDで生まれ たと伝えることが子どもを傷つけることだとして、多くの親がAIDの事実を捉えていること自体が子どもにと
って失礼だし、子どもたちを傷つけていると思います・・・
このように述べた上で、今後もAIDという治療法が継続されることの前提条件として、治療に関す る情報へのアクセス権の確立と相談機関の設置、ドナー情報については本人が特定できるレベルのもの
をAID児が求めるタイミングで入手できる権利の保障が必要であると主張した。
さらに告知について は、子どもがなるべく幼い時期、両親の夫婦関係が安定している時期になされることが肝要と指摘し、 こうした条件の整備なしには、今後の同治療法の継続に反対であると主張している。
<不妊当事者では「出自を知る権利」を支持するものが5割以上>
ちなみに、第一生命経済研究所が不妊当事者を対象に行った調査によると、出自を知る権利について 53.7%が「子どもには事実を知る権利がある」と答えている。
一方、無作為抽出で行った厚生 労働省調査では回答者の51.4%が「事実を知らせるかどうかは親の判断に任せるべき」としており、「子 どもには事実を知る権利がある」とした人はその3分の1の15.4%にとどまる。出自を知る権利を肯定 する意見が、生殖補助医療についての理解が深いと思われる不妊当事者の方で多いことは注目に値しよ う。
今回の証言によれば、AID児の多くが、「自分を知る=アイデンティティーの確立」のためには、 自分のルーツ、自分はどこからきたのかを知ることが必要と考え、「出自を知る権利」を強く求めている
という。
一方、AID治療を選択する男性不妊患者を対象とした調査(前述)からは、親となる当事者 の大多数で「事実を知らせたくない」との思いが強いことも示されている。さらには、法律の専門家の間
でも、治療で生まれた子の「知る権利」、「知らされない権利」の双方をめぐって意見が分かれている。
親の想いと子の権利のいずれが優先するのか。知らせずに最後まで自分の子どもとして育てきること と事実告知、いずれが本当の意味での「子の福祉」に叶うのか。これから生まれる子を代弁する「既に
生まれた子」の主張を非常に重く感じるのは筆者のみであろうか。