南シナ海沿岸国-1



2021.07.12-NHK NEWS WEB-https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210712/k10013134401000.html
外相「中国の主張 法の支配損なう」南シナ海仲裁裁判 判断5年


















2021.06.19-Yahoo!Japanニュース(産経新聞)-https://news.yahoo.co.jp/articles/38f2ff1e8bcac54764e062b0e1a05bb8fd1e1a51
<独自>政府、マレーシアに防空レーダー輸出へ 来月から入札参加

  政府がマレーシアへの防空レーダーの輸出に向け、来月始まる入札に参加することが19日、分かった受注に成功すれば、装備の海外移転に道を開いた防衛装備移転三原則に基づき昨年8月に契約したフィリピン向けに続くレーダー輸出で、国産装備の完成品輸出としても2例目となる。

  マレーシア周辺空域での中国軍機の威嚇が明らかになる中、南シナ海で安全保障協力を強化する意義がある。 マレーシア国防省は今年6月2日、空軍が航空機探知用に導入する防空レーダーの入札公告を出し、8月末までに輸出できる装備を提案するよう求めた。
  7月1日に入札内容に関する説明会をオンラインで開き、入札手続きが始まる。 導入するレーダーは当面1基で、数カ月かけて選定するとみられる。ロッキード・マーチン社などの米国勢、2018年にタイへのレーダー輸出で日本が競り負けたスペインのインドラ・システマス社をはじめ欧州勢も入札に参加すると見込まれ、激しい受注争いが予想される。

  日本がマレーシアへの輸出に向けて提案するレーダーはフィリピンから受注した三菱電機製が有力だ。三菱電機はフィリピンへの輸出にあたり、航空自衛隊が運用しているレーダーのFPS3を基にフィリピン空軍の要求も加えた新たなレーダーを開発・製造しており、政府はこの提案方式をマレーシアにも適用することを視野に入れている。

  輸出の前提として、装備を相手国に適正に管理してもらう上で欠かせない法的枠組みである防衛装備品・技術移転協定はマレーシアと締結済みで、平成30年に発効している。受注が決まればスムーズに輸出できる環境は整っている。 マレーシアにとって空域監視態勢の強化は急務の課題となっている。マレーシア空軍は今年5月31日にボルネオ島沖の南シナ海上で中国の16機の軍用輸送機が領空に接近するのを確認し、空軍機を緊急発進(スクランブル)させたと発表した。

  輸送機は沿岸から60カイリ(約110キロ)内で戦術的な編隊を組んで飛行していた。 南シナ海上空でも中国の脅威 政府がマレーシアに対する防空レーダーの輸出に向け、入札に参加する方針が明らかになった。昨年8月に日本が受注に成功したフィリピンに続き、マレーシアでもレーダーを増強する必要性が高まっているのは、南シナ海で中国の脅威が海域だけでなく空域でも深刻化している証しだ。 「中国の威嚇を受けて入札を前倒ししたのか時期が偶然一致したのか定かでないが、マレーシアが危機感を強めているのは確かだ」 日本政府高官は指摘する。

  マレーシアがレーダーの入札公告を出したのは今年6月2日だ。その2日前の5月31日、中国軍機が領空付近に大挙して押し寄せ、民間旅客機の空路付近も通過し、レーダーで探知したマレーシア空軍は戦闘機による緊急発進で対処を迫られたばかりだった。
  南シナ海では中国がエネルギー資源確保を強化するため2019年以降、中国が一方的に主張する境界線「九段線」と重なる海域で海警局の船舶や海洋調査船を投入し、マレーシアの資源探査などへの威嚇を繰り返してきた。フィリピンの排他的経済水域(EEZ)には今年3月から中国船団が居座っている。
  こうした海域での示威行動に加え、空域での脅威も高まっている。フィリピンは中国軍機が16年ごろからバシー海峡を出入り口にして台湾を周回する飛行に神経をとがらせ、防空レーダーの増強に踏み切った。マレーシアも今年5月の中国軍機の領空接近まで表沙汰になっていなかったとはいえ、空域での中国の脅威を以前から深刻に受け止めていたからこそレーダーを増強する。

  南シナ海上空で中国の脅威が高まることは予期されていた。 中国は14年から埋め立てを強行した人工島の3つに滑走路を整備した。南シナ海上空で航空優勢を確保しやすくするため中国軍機の展開能力を向上させ、米軍を南シナ海に寄せ付けないのが狙いだ。一方的に防空識別圏を設定する可能性も指摘されている。

  航空戦力で劣るマレーシアが対処できないと踏めば中国は威圧を強める。マレーシアが中国に屈することなく航行の自由と並ぶ上空飛行の自由を維持できるよう、レーダー輸出とそれに伴う防空態勢強化の教育訓練を通じ、日本の海上交通路(シーレーン)の要衝でもある南シナ海の平和と安定に寄与することは日本の国益に資する。(半沢尚久)


2021.05.05-参議院 衛調査委員会-https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2016pdf/20160701097.pdf
中国の南シナ海進出と国際社会の対応
参議院-外交防衛委員会調査室 佐々木 健

  1.はじめに
  これまで中国は、かつての最高指導者鄧小平氏が示した「韜 とう 光 こう 養 よう 晦 かい 、有 ゆう 所 しょ 作 さく 為 い (国力が 整わないうちは目立つことはせず、なすべきことをする)」を外交戦略の基本としてきたが、 2010 年に米国に次ぐ世界第2位の経済大国となり、今日では新たな「大国」として、既存 の国際秩序の再構築を目指す姿勢を明らかにしている 。
   経済分野においては、中国から欧州に至る巨大な経済圏の構築を目指す「一帯一路」構 想2 を掲げ、アジアインフラ投資銀行(AIIB)等の設立を進めている。 他方、安全保障分野では、特に南シナ海において積極的・強硬的な海洋進出を展開し、 「九段線」を始めとする独自の主張を掲げながら、埋立てや軍事拠点化を進めている。
  こ うした中国の姿勢は、フィリピンやベトナム等の沿岸国の反発を招き、武力衝突を伴う紛 争も生じている。また、国際法で認められた「航行の自由」が損なわれるとの懸念を有す る米国が軍艦を派遣して牽制するなど、米中の緊張関係もエスカレートしている。

  本稿では、中国による南シナ海への進出の動向を概観した上で、その背景及び国際法上 の問題について検討し、最後に、我が国を含む国際社会の対応の在り方について、若干附 言する。
  2.南シナ海の概要
  南シナ海は、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ等に囲まれる 広大な海域であり、漁業資源だけでなく、石油・天然ガス等の海底資源の埋蔵の可能性も 指摘されている。また、インド洋と太平洋をつなぐシーレーンであり、世界の貿易の半分 以上が通過するとされる4 。 同海域においては、多数の島や岩等が存在しており、これらにより南沙諸島(英語名: スプラトリー諸島)、西沙諸島(同パラセル諸島)、東沙諸島(同プラタス諸島)及び中沙 諸島(同マックレスフィールド岩礁群)5 の4つの島嶼群が形成されているが、その帰属等については沿岸国・地域の間でいまだ争いが続いている 。
  3.中国の南シナ海進出の経緯と最近の動向
   (1)第二次世界大戦後の領有権問題の顕在化とECAFE報告
   第二次世界大戦前、日本政府は南沙諸島の領土編入を行う7 など、南シナ海において実効支配を進めたが、1952 年4月に発効した「日本国との平和条約」(サンフランシスコ平和 条約)により、「新南群島(南沙諸島)及び西沙諸島に対するすべての権利、権原及び請求 権を放棄」した 。
  他方、これらの帰属先については何ら定められなかったこともあり、南 シナ海の沿岸国・地域は領有権等を主張し、軍艦を派遣して占拠するなど既成事実化を進 めた 。
   また、1969 年には、国連経済社会理事会の下部機構として設立された国連アジア極東経 済委員会(ECAFE)が海底資源調査の報告書を公表し、南シナ海に石油等の海底資源 が豊富に存在する可能性があると指摘した。このため、沿岸国・地域による領有権及び海 底資源をめぐる対立はより先鋭化することとなった。
   (2)「力の空白」と戦略的な進出
  1974 年1月、中国は南ベトナムが実効支配する西沙諸島の西部に軍を派遣して、南ベト ナム軍を破り、以降、中国が西沙諸島の全域を占領するようになった。
  また、1988 年3月 には、南沙諸島の一部を占拠するベトナムと再び衝突し、交戦の結果、ジョンソン南礁を 支配下に置いた。さらに、1995 年2月には、圧倒的な軍事力を背景にフィリピンが占拠す る南沙諸島のミスチーフ礁を奪取した。
   これらの事案の発生を受け、東南アジア諸国は、中国は地域のパワーバランスの変容期 に生じる「力の空白」に乗じて戦略的に進出しているとの認識を有するようになったとさ れる。すなわち、中国の南下が、1973 年1月のベトナム和平協定締結による米軍の南ベ トナムからの撤退、冷戦の終焉を目前に控えた 1980 年代のベトナムにおける旧ソ連の軍事 的プレゼンスの縮小及び 1992 年の米軍のフィリピンからの撤退と時期が符合していたた めである。
   こうした中国の動きに危機感を強めた東南アジアの沿岸国は、ASEANの枠組みで問 題の解決を試みた。しかし、ASEAN内での危機意識の差や中国の消極的な姿勢等から 議論は遅々として進まず、結局、「南シナ海における航行の自由の尊重」や「国際法の原則 に従い、平和的手段により解決」などを内容とする「南シナ海行動宣言」が採択されたの は 2002 年 11 月になってのことであった。さらに、同宣言は法的拘束力を有する「南シナ 海行動規範」の策定について言及しているが、2013 年9月の公式協議の開始まで 10 年以 上を要し、2016 年6月現在においても実質的な進展はみられていない。
   (3)南シナ海における埋立て・軍事拠点化
  近年、中国は、南シナ海においてこれまで以上に強硬的な海洋進出を展開している。特に 2012 年4月のスカボロー礁事件については、フィリピン軍がスカボロー礁に停泊してい た中国漁船を拿捕したため、中国公船がフィリピン軍の進行を妨げ、最終的にはフィリピ ン軍を撤退させたというものであるが、2011 年 11 月に米国のオバマ大統領が経済的・軍 事的にアジアへの回帰を志向する「リバランス」政策を打ち出した後に発生しており、こ れまでの「力の空白」に乗じた機会主義的な動きと質的に異なり、米国主導の地域秩序に 挑戦する意思を明確にしたと指摘される。
  さらに、2014 年以降、中国は南沙諸島の7か所の地形12において大規模な埋立て及び施 設建設を開始した。既にファイアリークロス礁では戦闘機等の離発着が可能な 3,000 メー トル級の滑走路が完成しており、その他の地形においてもレーダーや補給施設等の整備 は最終段階にあるとされる。また、西沙諸島では既に地対空ミサイルや戦闘機等が配備 されており、スカボロー礁においても埋立てに着手する可能性が指摘されるなど、南シ ナ海全域で軍事拠点化が進められている。
  さらに、中国は、2013 年 11 月に東シナ海で設 定した「防空識別区」19を南シナ海でも設定する可能性に言及している。
   (4)国際社会の対応
  このように南シナ海の軍事拠点化を強行する中国に対し、フィリピンやベトナム等の沿 岸国、米国や我が国等は、国連海洋法条約に基づく仲裁手続や二国間会談、国際会議等を 通じて自制を働きかけるとともに、米国が軍艦を派遣するなどして自重を促している。
  フィリピンは、2013 年1月、南シナ海における中国の主張や活動が国連海洋法条約21に 反するとして条約に基づく仲裁手続を開始するとともに、2014 年4月には、冷戦終結や反 米感情の高まり等を受けて 1992 年までに撤退した米軍について、駐留を事実上認める軍事 協定を締結するなど、米国との同盟関係の強化に努めている。
  また、ベトナムも、2015 年7月にベトナム戦争終結後初めて共産党書記長が訪米してオ バマ大統領と会談を行い、名指しこそ避けたものの「脅しや武力による威嚇や行使を拒絶 する」との中国を牽制する共同声明を発出した。
  さらに米国は、こうした沿岸国との関係強化に努めるとともに、中国との二国間会談や 国防総省(米軍)による作戦行動を通じて中国の動きを牽制している。
  2015 年9月の米中 首脳会談においては、オバマ大統領は南シナ海の問題を取り上げ、航行及び上空飛行の自 由を強調するとともに、「国際法が認めるいかなるところにおいても、米国は航行し、飛行 し、運用し続けていく」と指摘した。
  また、埋立て、施設建設及び軍事化について重大な 懸念を伝えた。これに対し、習近平国家主席は、「南シナ海の諸島は古代から中国の領土で ある」、「我々は自らの領土に対する主権及び合法かつ正当な海洋に関する権利と利益を堅 持する権利を有する」と反論した。
  米中首脳会談から約1か月後の 2015 年 10 月、米国は、イージス駆逐艦を南シナ海に派 遣し、中国が埋立て等を進める南沙諸島のスビ礁の 12 カイリ内を航行させる「航行の自由 作戦」23を決行した。作戦を実施した翌日、カーター国防長官は米国上院軍事委員会にお いて、今後とも同作戦を継続すると明言し、その後、2016 年1月には西沙諸島の領海内に、 同年5月にはファイアリークロス礁の 12 カイリ内に、それぞれイージス駆逐艦を派遣した。
  また、G7諸国においても中国の行動に関する議論が繰り返されており、2016 年5月に 開催されたG7伊勢志摩サミットの首脳宣言においても、中国を名指しすることは避けた ものの、国際法に基づく主張、力や威圧の不使用とともに、フィリピンが開始した仲裁手続を念頭に、仲裁を含む平和的手段による紛争解決の追求の重要性が再確認されている。
   4.中国による南シナ海への進出の背景
    (1)海洋権益の保護、シーレーンの確保
  中国が南シナ海に進出する背景の1つに、海洋権益の保護があるとみられる。
  中国は、 他国が南シナ海の多数の島嶼を不法に占拠し、その周辺海域の原油や天然ガス等の資源を略奪していると考えているとされる。また、急速な経済成長を背景にエネルギー需要が 急激に増加しており、海洋権益の重要性が高まっていることも背景にあるとみられる。
  さらに、持続的な経済発展の前提となるエネルギー資源を安定的に輸送するには、シー レーンの確保が不可欠である。中国の原油輸入は大部分を中東に依存しており、何らか の理由により、南シナ海のシーレーンが途絶すれば、中国経済にとって致命的な打撃とな りかねない。
  無論、中国もエネルギー資源の輸入先の多角化や南シナ海を回避する輸送路の開拓を進 めている。ミャンマーにおいては、インド洋の港湾からミャンマーを経由して中国雲南省 までつながる石油・天然ガスパイプラインが既に建設されている。また、ロシアや中央ア ジアの国々との間でも資源開発やパイプラインでの輸送に関するプロジェクトが進められ ている。しかし、陸上での輸送は他国の陸上国境を通過する必要があるため、不安定要素 が大きく、南シナ海のシーレーンの代替手段とはなり得ないとされる。
  (2)軍事戦略上の重要性
  中国の軍事戦略において、南シナ海は死活的に重要な海域とされる。中国は、台湾有事 等の大規模な軍事作戦の実施の際に予想される米国等の第三国による介入に備え、周辺地 域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を阻害する非対称な軍事能力(A2AD)の強化に努めている。
  このA2ADに 関して、日本政府は、現在南シナ海で進められている軍事施設の建設により、中国の軍事 的プレゼンスが増大し、南シナ海におけるA2AD、すなわち、マラッカ海峡などのチョ ークポイントを経由した米軍等の南シナ海への接近を阻止する効果や、南シナ海における 米軍等の行動の自由を制限することで中国軍による南シナ海から西太平洋への進出を容易 にする効果が生じる可能性があると分析している。
  他方、中国は、現有の通常兵力では米国を相手に勝利を収めることは困難であるとの認 識から、自国の生存を確保する究極的手段として、核兵器による抑止を考えているとみら れる。
  中国は既に米国本土を攻撃可能な大陸間弾道ミサイルの開発に成功しているが、 陸上に配備する兵器は位置の秘匿が難しく、米国の先制攻撃により破壊されるおそれがあ る。そのため、核弾頭搭載弾道ミサイルを発射可能な原子力潜水艦(戦略原潜)を、米国 本土を射程に捉える西太平洋でパトロール(戦略パトロール)させることにより核抑止力 を担保しようとしているとみられる。

  そして、この戦略原潜の運用拠点に適しているのが南シナ海である。東シナ海が日本 や米国が警戒監視活動を行っており、西太平洋に進出する前に探知されるおそれがあるの に対し、南シナ海の沿岸国は警戒監視能力が脆弱である。
  また、南シナ海は東シナ海より 水深が深く、立体的な動きが可能となるため、位置が探知されにくいという利点がある。
  さらに、今後、ミサイルの能力が向上し、直接米国本土を射程距離内に収めることができ るようになれば、南シナ海からの攻撃が可能となる。
   現在、中国は、南シナ海の北部に位置する海南島に基地を建設し、戦略原潜の配備を進 めており、年内にも西太平洋での戦略パトロールを実施するとみられている。
   5.南シナ海をめぐる国際法上の問題
   (1)南シナ海に対する中国の主張と九段線
  2009 年5月、マレーシアとベトナムは、国連海洋法条約に基づき設置されている大陸棚 限界委員会に対し、南シナ海における 200 カイリ以遠の大陸棚に関する申請を行った。
  こ れに対し、中国は「南シナ海及び隣接する海域の島嶼について争う余地のない主権を有し ており、関連海域並びにその海底及びその下について主権的権利及び管轄権を有している」とする口上書といわゆる九段線が描かれた地図を国連事務総 長に提出し、両国による申請を検討しないよう求めた。
  中国は「法的にも歴史的にも正当な権利を有する」などと主張して自らの行動を正当化 しているものの、具体的にいかなる権利を有しているのか、その法的根拠は何かについて、 明確な説明を行ったことはないとされるが、南シナ海における権利の主張と九段線を結 びつけて対外的に示したのは、公式にはこれが初めてであったため、南シナ海における 中国の主張との関連で強く意識されることとなった。
  この九段線の法的位置付けについても、中国政府自身は明確な説明を行ってないものの、 中国国内では様々な見解が存在する。そのうち主要なものは「伝統疆界線(国境線)」、「島嶼帰属の線」、「歴史的な権利の範囲」及び「歴史的な水域線」の4つである

  しかし、これらの見解には、国連海洋法条約を始めとする国際法との整合性について疑 義が呈されており、特に「伝統疆界線(国境線)」については、国際法上は正当化がおよそ 困難であると指摘されている。
  他方、「島嶼帰属の線」とする理解は、海域に対する主張としては、4つの見解の中で国 連海洋法条約と最も整合性が取れているとの評価もなされているが、低潮高地の領有に係 る主張等について国際法上の問題が指摘されている。
  また、「歴史的な水域線」及び「歴史的な権利の範囲」は、いずれも中国と南シナ海との 歴史的な関わりを根拠として海域に対する何らかの権利を主張する見解であるが、国際法 上、歴史的水域及び歴史的権利についての定義は必ずしも確立しておらず、国連海洋法条 約においても「歴史的湾」についての規定は存在するが、その定義につ いての具体的な定めはない。
  他方、歴史的水域に関しては、1962 年に国連国際法委員会の求めに応じて国連事務局が 作成した報告書「歴史的湾を含む歴史的水域の法制度」において検討がなされている。
  同報告書では、歴史的水域として認められる要件について、「歴史的権利を主張する国家に よる権限の行使」「権限の行使の継続性」及び「権限の行使に対する他国の態度」の3つ を挙げているが、中国による継続的な権限の行使を示す事実はなく、沿岸国・地域との 領有権等をめぐる争いも存在することから、中国の主張を認めることは困難とされる
   (2)人工的に造成された「島」の法的地位と低潮高地の領有に係る問題
  南シナ海には、高潮時に水中に没する地形やごくわずかな突起物しか残らない地形が数 多く存在するが、中国はこうした地形を埋め立て、施設等を建設し、あたかも「島」のよ うな外形を有する地形を造成している。
  このような中国の活動によって人工的に作り出された「島」が国連海洋法条約上どのよ うな地位を有するかは、本来の地形の地位によって決まることとなる。
  まず、条約第 121 条に規定される島を土砂等で埋め立てることにより拡張された「島」 は、従来どおり、島としての扱いとなり、沿岸国は従来の基線からカイリ内に領海を、 200 カイリ内に排他的経済水域(EEZ)及び大陸棚を設定できる。
  また、岩を土砂等で埋め立てることにより拡張された「島」も岩としての法的地位が変 わることはなく、沿岸国は従来の基線から 12 カイリ内に領海を設定できる。 他方、高潮時に水中に没する低潮高地を埋め立てて造成された「島」は、低潮高地と 評価されるか又は周囲 500 メートルに安全水域の設定が可能な人工島、施設及び構築物 として評価されるものと考えられる。


   なお、この低潮高地については、独自に領有の対象となるか否か議論がある。 国際司法裁判所は、カタール・バーレーン間での事案において、低潮高地に関する国際法上の規則が僅かであることを認めつつも、主権の取得については、低潮高地と島その 他の陸地とを同視することはできない旨の判断を示している。
  また、マレーシア・シン ガポール間での事案では、両国間で主権の帰属が争われた低潮高地について、領土とし てその主権の帰属を問題とすることはせず、領海の境界画定を行った後に、領海に位置す る低潮高地は、その領海の国に帰属するものと判示している51。 なお、前述のカタール・バーレーン間での事案の国際司法裁判所判決において示された、 低潮高地が独自に領有の対象とならない旨の見解からすれば、中国が低潮高地の領有を 主張し、埋立て等を通じて物理的に占拠したとしても、国際法上は意味をなさないと考え られる。
    (3)フィリピンによる国連海洋法条約に基づく仲裁手続の開始
   国連海洋法条約は、その解釈・適用に関する紛争が生じた場合、まずは、当事者間の合 意に基づいて選択する平和的手段により解決することを求めている。
   こうした当事者間における自主的な手段では解決に至らなかった場合、拘束力を有する 決定を伴う義務的手続に移行することとなる。
  この義務的手続におい ては、いずれかの紛争当事者の要請により、国際海洋法裁判所、国際司法裁判所、仲裁裁 判所又は特別仲裁裁判所のいずれかに当該紛争を付託することが可能となる選択制が採用 されている。
  条約の締約国はあらかじめ4つの手続のうちのいずれを選択するかについて 宣言することができるが、紛争の当事国が同一の手続を受け入れていない場合又は選択の 宣言をしていない場合には、仲裁裁判所が管轄権を有することとなる。
   なお、紛争の性質によっては、義務的手続の適用に関して制限又は除外がなされており、 具体的には、海洋の科学的調査に関する沿岸国の権利の行使に係る紛争及びEEZにおける生物資源に関する沿岸国の主権的権利の行使に係る紛争に ついて、そもそも義務的手続の対象から除外されている。
  また、海洋の境界画定に関する 紛争及び軍事的活動に関する紛争等については、事前に義務的手続の対象から除外するこ とを宣言できることとされている

  フィリピンはこの紛争解決手続を利用して、2013 年1月、南シナ海における中国との紛争に関し、仲裁手続を開始した。 フィリピンの請求の内容は多岐にわたるが、主として以下の5つが挙げられる

   ・中国は、国連海洋法条約に基づく権原の範囲を超える海域、海底、およびその下に対し、同国の言う「歴史的権利」を行使する権利はない。
   ・いわゆる「九段線」には、「歴史的権利」に対する中国の主張の範囲を定める意図があることから、国際法上の根拠は一切存在しない。
   ・中国が南シナ海における自国の主張を押し通す根拠として依拠するさまざまな海洋の地形は、排他的経済水域または大陸棚の権原を生じさせる島ではない。それどころか、あるものは「岩」であり、あるものは低潮高地であり、またあるものは恒久的に水没している。ゆえに、12海里を超えて権原を生じさせ得るものは何もなく、一部はまったく権原を生じさせないものである。昨今の中国の大規模な埋め立て活動によって、こうした地形が本来持つ特質および性格を合法的に変更することはできない。
   ・中国は、フィリピンの主権と管轄権の行使に干渉することによって、本条約に違反している。
   ・中国は、国連海洋法条約に反して、フィリピンのEEZ内水域を含む南シナ海のサンゴ礁を破壊し、破壊的で危険な漁業活動を行い、絶滅危惧種を捕獲することにより、当該地域の海洋環境に取り返しのつかないほどの損害を与えている。

  こうしたフィリピンの請求に対し、中国は、同年2月、仲裁手続に応じない立場を明ら かにした。また、中国の外交部報道官が記者会見の場で、「領土の帰属の画定は海洋境界画定の前提であるが、フィリピンの請求は南シナ海における両国の海洋境界画定に関わり、 これは必然的に島嶼の主権・帰属の問題に関わる。
  領土の主権問題は国連海洋法条約の適用範囲ではないため、両国間の領土問題が未解決であるうちはフィリピンの請求は条約の義務的手続の対象とはならない
」こと、「中国が 2006 年8月に条約第 298 条に則り、海洋 の境界画定に関する紛争を義務的手続の対象から除外している」ことを挙げるなど、仲裁 裁判所に管轄権がないと主張した(これらに関し、フィリピンは仲裁裁判所に領土主権問 題の裁定を求めているのではないと述べている)。
  このため、仲裁手続は中国が欠席したまま進められることとなった

  2015 年 10 月、仲裁裁判所は、中国が埋立て等を進める特定の地形の法的性質に係る請 求について管轄権を認めるとともに、条約第 297 条及び第 298 条により義務的手続の対象 から制限又は除外されるか否かの判断を要する請求は本案の審理において検討されるべき として判断を留保する等の判断を示した
  これに対し、中国は声明を発出し、従来の主張を繰り返しつつ、仲裁裁判所の判断に従わないとの考えを示した。 また、近く判断が示されるとみられる本案の判決についても、フィリピンとの二国間の 交渉と協議によって解決するとして、受け入れない姿勢を示している。

   6国際社会の今後の対応
   (1)海における「法の支配」の強化
  ここまで見てきたように南シナ海をめぐる中国の主張や活動は、国連海洋法条約を始め とする国際法に反するとの指摘が多く見られ、また、仲裁裁判所が近く示すとされる判断 は、中国に不利な内容になるとの見方が優勢であるが、中国は一貫してこれらを受け入 れない姿勢を示している。
  しかし、仲裁裁判所がフィリピンの請求の一部について同裁判所に管轄権があると認め た以上、中国は、今後下される同裁判所の本案の判決に従う条約上の義務がある仮に判 決を無視すれば、国際法を尊重しない国として国際社会で孤立することとなり、中国が国 際社会で責任ある「大国」の地位を得ることは困難となろう。 法秩序に支えられた「開かれ安定した海洋」は、国際社会の平和と繁栄に不可欠な公共財であり、四方を海に囲まれた海洋国家である我が国には、海における「法の支配」を尊 重する国際世論を形成する外交が求められる。
  このため、海洋の問題においても中国との 距離感に差がみられるASEAN諸国に足並みを揃えるよう促すとともに、地理的に遠く 離れ中国を経済的なパートナーとみる欧州諸国に対する、積極的な働きかけが必要であろ う。
   (2)地域における多数国間協力への中国の包摂
中国は、米国が南シナ海の沿岸国や日本、豪州等の同盟国・友好国とともに、安全保障 面における包囲網を構築していると受け止めている。しかし、経済を始めとして相互依存 が深まった今日において、このような対立や緊張は双方にとって望ましくない。 2016 年6月に開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアログ)において、 米国のカーター国防長官は、南シナ海における中国の活動を批判する一方で、アジア太平 洋地域において各国が協力し、航行及び上空飛行の自由や紛争の平和的解決といった原則 を守る「原則に基づいた安全保障ネットワーク」構想を打ち出した。同構想は特定の国を 排除しないとして、中国にも参加の道を開いている63。 また、我が国の中谷防衛大臣は、昨年に引き続き、各国が強調して取り組むべき指針と して「シャングリラ・ダイアログ・イニシアティブ(SDI)」64を示すとともに、国際法 の原則に基づく秩序の維持を中心とするSDIの実現に向けた国際的なフォーラムを開催 し、共通のルールや具体的なプログラム作りを呼びかけている。 今後、こうした地域における多数国間協力を中国を含む形で推進し、国際法の原則に基 づき、平和的に紛争の解決を図ることで、地域の安定と発展を実現していくことが求めら れているといえよう。

   7.終わりに――
中国にどう向き合っていくか
  南シナ海をめぐる紛争の激化は、単なる領土紛争ではなく、中国の台頭により生じたア ジア太平洋地域におけるパワーバランスの変質が顕在化した事例として捉えられている
  中国が軍事力の発展を背景として強行に海洋進出を図る一方、米国はリバランス政策によ ってアジア太平洋地域における軍事的プレゼンスを増しており、今後、突発的な事故が発 生する可能性もあり、さらには「大規模な軍事衝突につながらなくとも、限定的な局地紛争に発展する可能性は否定できない」との指摘もある。
   また、中国は経済分野においても存在感を増している。AIIBの設立に際しては、日 米は参加を見送ったが、膨大なインフラ需要を抱えるアジア諸国からは歓迎の意が示され、 経済的利益を重視する欧州諸国も参加を表明している。
  このように国際社会において影響力を拡大させる中国への対応について、当面は、南シ ナ海行動規範の策定や地域における多数国間協力体制の整備により軍事的衝突を回避する とともに、一帯一路やAIIBといった中国の経済外交との協調等が課題となろうが、将 来の超大国化の可能性も踏まえ、我が国を含む国際社会は、大局的・長期的な視点に立ち ながら今後の中国の対外姿勢を見据えつつ、中国との関わり方を検討する必要があると言 えよう。



2020.7.4-Yahoo!!Japanニュース(THE WALL STREET JOURNAL)-https://news.yahoo.co.jp/articles/955fa7734069f2d6b627c34a91630a9d3e8ac008
米中、南シナ海で大規模軍事演習 同時期は異例

  米海軍は南シナ海に「ロナルド・レーガン」と「ニミッツ」の空母2隻を派遣し、近年では最大級となる演習を4日から実施する。周辺では中国軍も同時に演習を実施しており、南シナ海の実効支配を強める中国をけん制する狙いがある
   通商問題や新型コロナウイルスの世界的大流行、中国による香港への統制強化を巡り、米中の間で緊張が高まる中、米当局者は中国による「違法な領有権の主張」に対抗する構えだ。
   ロナルド・レーガン空母打撃群の司令官を務めるジョージ・M・ウィコフ少将はインタビューで、「米国が地域の安全保障と安定に注力しているとの明確なメッセージを同盟国に示すことが目的だ」と話す。
   演習には空母2隻のほか、軍艦4隻も加わり、空母艦載機の攻撃力を試す連続飛行訓練も行われる。
   中国は近年、とりわけ南シナ海で軍事力を誇示する取り組みを強化している。ほぼ全域を自国の領土だと主張しており、同様に領有権を争う東南アジア諸国の主張を退けている。中国はミサイルを配備しているほか、人工島を建設して軍事施設を構築するなどして、米国やその同盟国が南シナ海で展開することを困難にしている。
   また、中国は1日から西沙(英語名パラセル)諸島近辺で演習を開始した。国営テレビによると、演習は5日まで行われる予定。中国は1974年、ベトナムから西沙諸島を奪い取った。
   米中が同じ地域で同時期に大規模な軍事演習を行うのは異例。  ウィコフ少将は、演習の具体的な実施場所については明らかにしなかった。今回の演習は中国軍の演習に対する措置ではないとしながらも、中国が軍事的な支配を強めていることを踏まえると、米海軍のプレゼンスは正当化されると述べた。「それは非常に有益だと考えており、この地域におけるわが軍の作戦の正当性を立証するものだ」
  米国が軍事力を誇示する背景には、新型コロナを克服した中国が周辺諸国・地域への圧力を強めていることがある。中国は台湾空域への戦闘機の派遣を増やしているほか、インドとはヒマラヤ山脈の国境付近で衝突。香港では「国家安全維持法」の施行を強行した。
   米当局者によると、中国は米国がコロナ対応に追われているのに乗じて、国際貿易の主要経路である南シナ海での活動を活発化させている可能性がある。  オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年中国が南シナ海ほぼ全域の領有権を主張している問題で、主張に法的根拠はないとの判断を下した。だが、中国は判決を無視し、その後も周辺での軍事拠点化を進めている









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