捕鯨問題-1


2024.08.26-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240826-LIW42P4TS5G6PBY4CIWZSPCJPI/
反捕鯨ワトソン容疑者の弁護人 ゴーン被告も担当、日本の逮捕要求に「政治報復だ」と反発
(三井美奈)

  日本がデンマークに身柄引き渡しを求めている反捕鯨団体「シー・シェパード」の創設者、A容疑者を巡り、弁護人のフランソワ・ジムレ弁護士が産経新聞とオンラインで会見した。ジムレ氏はフランス人で日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告の弁護人を務めた人物「日本では公正な裁判が期待できない」と主張し、A容疑者の日本への移送を阻止するため法廷闘争を続ける構えを示した

  A容疑者は7月21日、デンマーク自治領グリーンランドで日本の国際手配に基づいて逮捕された。9月5日が勾留期限で、デンマーク政府が引き渡しの是非を決める
  ジムレ氏はフランスの元駐デンマーク大使。産経新聞との会見で、「日本側の追及は(傷害や威力妨害容疑に)見合わないほど執拗(しつよう)。捕鯨に戦いを挑んだことへの『政治報復』にほかならない」と主張した。
  その上で、日本での裁判を拒否する理由に「人質司法の問題」をあげた。無罪を主張する容疑者が長期勾留される状況を指す言葉で、国際社会でも批判が強いと訴えた。2018年に逮捕されたゴーン被告への取り調べを重ね、「2つのケースは同じ。日本のプライドと報復の問題になっている」と司法制度への不信感をあらわにした。A容疑者は「日本文化に敬意を持っている。日本人に反発を抱いているわけではない」とも述べた。
  会見には、シー・シェパードのラミヤ・エセムラリ仏支部長も参加した。A容疑者は2016年、米連邦地裁の調停で、調査船妨害は永久に行わないとする合意を日本側と結んでいるが、同支部長は「合意は南極海が対象」であり、北太平洋での活動は拘束されないと反論した。また、「日本の主張は虚偽だと裏付けるビデオがある」と主張。2010年にシーシェパードが日本の捕鯨船に薬品瓶を投げ込んだとき、デッキには乗員がおらず、傷害容疑を否定する証拠になるとした。
(三井美奈)


2024.08.16-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240816-4O4S3UMFRZDNRDEYKYYEKVBM7U/
捕鯨船妨害A容疑者 弁護側「日本の虚偽主張示すビデオある」と法廷で主張

  デンマーク自治領グリーンランドで拘束された反捕鯨団体「シー・シェパード」創設者A容疑者をめぐり15日、グリーンランド地裁は9月5日までの勾留延長を決定した。弁護側は同日、オンラインで記者会見し、「日本の主張は虚偽だと裏付けるビデオがある」と主張。日本への身柄引き渡しを阻止するため、高裁に控訴したと明かした。

  A容疑者については、2010年に海上保安庁が傷害や威力妨害容疑で逮捕状を取った。デンマーク当局は国際手配に基づいて7月21日に拘束し、日本は身柄引き渡しを請求している。8月15日は勾留期限だった。グリーンランド警察の発表によると、勾留延長の決定は、引き渡しの是非が決まるまで身柄を確保する必要があるとの判断に基づく。
  弁護側は会見で、地裁でビデオを証拠提出しようとして拒否されたと不満を示した。高裁に不服を申し立てたが、「デンマーク政府が、9月5日までに日本への引き渡しを決める可能性がある」と懸念を示した。
  報道によると、ビデオは「シー・シェパード」薬物入りの瓶を捕鯨船に投げ込んだときの様子を映したもの。デッキには船員がいなかったとして、弁護側は傷害容疑を否定する証拠になるとしている。


2024.08.03-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240803-NMW6WH37JRJTVEQLKFEZCRTOLA/
社説<主張>調査捕鯨の妨害 日本で裁判を受けさせよ

  海の安全を守るために、日本による厳正な法の裁きが必要だ。
  日本の調査捕鯨を妨害したとして、デンマーク自治領グリーンランドの警察に拘束された反捕鯨団体「シー・シェパード(SS)」創設者、A容疑者=威力業務妨害などの容疑で国際手配中=について、海上保安庁がデンマーク当局に身柄の引き渡しを請求した。
  A容疑者が関与したとされる妨害行為は、負傷者も出るほど危険で悪質なものだ海保の請求は当然である。デンマーク当局はできるだけ早く身柄を引き渡してもらいたい。

  SSは平成17年頃から日本の調査捕鯨船団に小型船で体当たりするなどの妨害を繰り返してきた。22年にはメンバーが捕鯨船団に酪酸入りの瓶を投げ、船員にけがをさせる事件を起こした。このため東京海上保安部が傷害と威力業務妨害の疑いでA容疑者の逮捕状を取り、国際刑事警察機構(ICPO)が国際手配していた。
  A容疑者は今回も日本の捕鯨を妨害するため、7月21日、船の給油でグリーンランドに立ち寄ったところを拘束された。海保の請求を受け、デンマーク司法省が近く引き渡すかどうか正式判断するという。
  懸念されるのは、反捕鯨感情の強い欧州の一部で引き渡しに反対する声が上がっていることだ。フランスではマクロン大統領がデンマークに対し、日本に引き渡さないよう求めた
  これは極めて非友好的でおかしな発言だ。日本の調査捕鯨は、国際捕鯨取締条約に基づく正当な活動である。
  一方、SSの活動はテロ行為だ。アイスランドやノルウェーの捕鯨船を体当たりで沈没させたこともある。米国の連邦高裁は10年ほど前に「海賊」と認定した。
  林芳正官房長官は2日の会見で「関係国機関への必要な働きかけを含め、適切に対応していく」と述べたが、生ぬるいのではないか。フランスの非友好的態度に抗議し、法に基づいて対処することの正当性を明確に主張すべきだ。
  A容疑者は、12年前にも別の事件でドイツの治安当局に身柄を拘束された。だが、保釈中に逃亡した。これ以上のテロを防ぐためにも、このような失態は禁物である。


2024.08.01-産経新聞-https://www.sankei.com/article/20240801-V4UHX2QDLVPP5CXAAHVCXNXAOI/
<独自>ポール・ワトソン容疑者、日本に身柄引き渡しへ シー・シェパード創設者

  日本の調査捕鯨船の妨害活動に関与したとして、デンマーク自治領グリーンランドで身柄を拘束された反捕鯨団体「シー・シェパード」創設者、ポール・ワトソン容疑者(73)について、海上保安庁がデンマーク当局に身柄の引き渡しを請求したことが1日、政府関係者への取材で分かった。関係者によると、デンマーク側も応じる意向を非公式で日本側に伝えたという

  ワトソン容疑者を巡っては、フランスのマクロン大統領が身柄を日本へ引き渡さないようデンマーク側に働き掛けるなど、反捕鯨国を中心釈放を求める動きが広がっている。日本に身柄が引き渡されれば、反発がさらに強まる恐れもある

  シー・シェパードは2005年から日本の調査捕鯨船への妨害活動を実施海保は10年、南極海で日本の調査捕鯨船団の航行を妨害した事件の共犯として、傷害と威力業務妨害容疑でワトソン容疑者の逮捕状を取り、日本側の要請を受け国際刑事警察機構(ICPO)が国際手配した
  ワトソン容疑者は7月21日、日本の捕鯨船「関鯨丸」の操業を妨害するため、グリーンランドの中心都市、ヌークへ立ち寄った際、地元警察に身柄を拘束された。政府関係者によると、デンマーク側は勾留期限となる8月15日までに日本に引き渡すかどうかを決定する必要がある。



2023.09.20-産経新聞(KYODO)-https://www.sankei.com/article/20230920-YO2UWXCWCJMEJDVTFWBMWRNLR4/
IPEF「反捕鯨」見送り 日本抵抗、米が提案撤回

  日米韓など14カ国が参加する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の交渉で、米国が「捕鯨に反対」との立場を協定に明記するよう求め日本の抵抗で見送っていたことが20日分かった。複数の交渉関係者が明らかにした。IPEFを推進する日米両国の間の最大の懸案事項が決着し、11月の首脳会議での大筋合意に向けて前進した。

  日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、商業捕鯨を再開してから4年超が経過。米国の提案が通れば、北海道や三陸の沿岸、沖合などで行われている商業捕鯨が難しくなる可能性があった。
  バイデン米政権内では環境保護の観点から反捕鯨論が根強い。日本は最悪の事態を回避したとはいえ、経済協力の相手国に反捕鯨を徹底させたい米国の姿勢が浮き彫りになった形だ。(共同)


2020.6.29-SankeiBiz-https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200629/mca2006290635010-n1.htm
自民党捕鯨議連副幹事長の江島氏「脱退で不利なし」

  日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退して30日で1年となる。昨年7月1日からは31年ぶりに領海と排他的経済水域(EEZ)での商業捕鯨が再開されたが、昭和40年度に約20万トンだった国内の鯨肉消費量は平成29年度には3千トンにまで減少し、需要拡大と採算確保が課題となっている。母船式捕鯨の基地である山口県下関市の元市長で、IWC脱退を推進した自民党捕鯨議員連盟副幹事長の江島潔参院議員に話を聞いた。(原川貴郎)

-IWCからの脱退には内外の批判があった
  「脱退に際して一番声高に批判をしたのは日本のメディアだった。『戦前の国際連盟脱退に通じる』『世界の孤児になる』『他の漁業資源の管理で、日本の発言力がなくなる』『(米国環境保護団体の)シーシェパードが妨害を強めてくるおそれがある』などと、考えられる悲観的な状況をすべて描きだしていた。しかし、そうしたことは全く起きていない。少なくとも現時点において、脱退により日本がすごく不利になったということはない
-今後のIWCとの関わり方は
  「IWCには投票権はないが、発言権はあるオブザーバーとして参加する。総会に先立って開かれる科学委員会には今後も科学調査のデータを提供していく。カナダも同じオブザーバーの立場で、ノルウェーやアイスランドは一度、IWCを脱退した後、再び参加した。しかし、IWCが鯨の『保護』と『持続的な利用』という本来の2つの目的を果たす組織にならない限り、日本が参加することはおそらくないだろう。国際捕鯨委員会ではなく、国際鯨類保護団体へと変わってしまい、もはやIWCではないというのが今の日本の考え方だ」
-鯨肉供給量の少なさや採算の確保が商業捕鯨の課題となっている
  「鯨肉の消費量が昔に比べて少ないのは事実だ。調査捕鯨になって捕る量が限られ、値段が高くなってしまったため、鯨肉は、どの肉よりも高い高級肉になり、珍味的な扱いとなっている。ただ、血抜きを後回しにする調査捕鯨とは、(商業の鯨肉は)おいしさが本当に違う。鯨の肉質が違うこと、おいしさをしっかりPRしていかないといけない。捕獲量をもう少し増やす体制を作り、鯨肉を食文化として広げていくことに力を入れていくべきだ」 


2020.5.24-Yahoo!!Japanニュース(KYODOU)-https://news.yahoo.co.jp/articles/3c3223690489c23d48ac1397f5e1d859c489f0ab
商業捕鯨、旧基地を初復活へ 北海道室蘭、拠点化で協議

  国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退に伴い昨年7月に31年ぶりに再開した商業捕鯨を巡り、沿岸操業の業者でつくる日本小型捕鯨協会(福岡市)が、かつて捕鯨基地だった北海道室蘭市を今後、新たな拠点とする方向で協議していることが24日、関係者への取材で分かった。
  協会や水産庁によると、商業捕鯨再開後、旧基地が拠点として復活するのは初。  同市の追直漁港を拠点に室蘭沖でミンククジラを捕獲する計画で、既に関係する漁協と交渉を進めており、月内の合意を目指す。実際の拠点化は来年以降の見通しが強いが、別の海域の捕獲状況次第では、今年6月に実現する可能性もある。



2019.7.1-産経新聞-THE SANKEI NEWS-https://www.sankei.com/life/news/190701/lif1907010036-n1.html
日本、国際捕鯨委脱退 7月に31年ぶり商業再開

日本は30日、クジラの資源管理を話し合う国際捕鯨委員会(IWC)を脱退した。戦後、日本は主要な国際機関を脱退した例はなく、極めて異例の対応だ。7月1日には領海と排他的経済水域(EEZ)を対象海域として31年ぶりに商業捕鯨を再開。関係者には悲願の再開となるが、鯨肉消費は縮小しており、事業の先行きは不透明な情勢だ。オーストラリアや欧米などの反捕鯨国を中心に国際社会から批判が強まる恐れもある。
 日本は反捕鯨国が過半を占めるIWCで協議を続けても、4分の3の賛成が必要となる商業捕鯨再開が認められるのは困難と判断。昨年12月に脱退を表明してIWC側に通告していた。条約の規定で30日が脱退成立日。

商業捕鯨の灯、ふたたび】(中)クジラで地方が生き返る 安い鯨肉を食卓へ
鯨捕りにとって31年ぶりの悲願達成を告げる船の汽笛が港に鳴り響いた。1日午前9時30分すぎ、北海道・釧路港。捕鯨船5隻が、海上保安庁の巡視船に見守られ、沖合に出て行った。
 出航に先立ち、行われた式典。反捕鯨国の海外メディアも多数取材する中、古式捕鯨発祥の和歌山県太地町出身で、日本小型捕鯨協会の貝良文会長があいさつに立ち、「商業捕鯨の再開は心が震えるほどうれしく感無量です」と述べた。
 続いてあいさつした水産庁の長谷成人長官の言葉には国際捕鯨委員会(IWC)を脱退した意義と日本の主張を認めようとしない反捕鯨国へのメッセージがこめられていた。
 「資源の利用が持続的である限り、各国の食文化が尊重されるべきとの当たり前に思える考え方にさえ、(IWCで)クジラの保護のみを求める国々からの歩み寄りはみられなかった」
操業拠点を限定
 日本はクジラの資源管理を担う国際機関を見限った形だが、国際ルールに反した捕鯨を行うわけではない。IWCが認めた方法で算出した捕獲枠を独自に設定し、「この頭数なら100年継続しても資源に影響を与えない」(農林水産省)規模で操業を続ける。
 さらに、違法操業を取り締まるため、各拠点に捕獲数を調べる監視員を派遣する一方、衛星を利用した船舶位置情報を元に、捕鯨船が排他的経済水域(EEZ)内から出ることがないように監視するという。
操業拠点は歴史的な捕鯨基地を抱える自治体に限定された。太地町、千葉県南房総市、宮城県石巻市、青森県八戸市、北海道釧路市、同網走市の6カ所は小規模の捕鯨船が沿岸で操業する拠点。一方、山口県下関市は、調査捕鯨の実施主体だった共同船舶(東京)が母船「日新丸」と、遠洋操業が可能な数隻の捕獲船で船団を組む母船式捕鯨の基地となる。
■地方活性化に期待
 鯨肉を安定的に供給できる調査捕鯨主体の枠組みとは違い、商業捕鯨は天候や海流の変化によっても捕獲数が左右される。捕鯨業者が独り立ちするには30年間の空白期間の影響は大きく、商業捕鯨の枠組みはしばらく、農水省が補助金を出して支える「実証事業」として実施される。漁場探索や販路拡大など最適なビジネスモデルの構築を目指して、試行錯誤を続ける。
 そして、商業捕鯨の実施は何よりも人口減少や自然災害被害などを抱え、経済が落ち込む地方の活性化にとって意義が大きい。
 石巻市は、牡鹿半島の付け根にある鮎川浜地区(旧牡鹿町)に20世紀初頭、近代捕鯨の基地が設けられた。以来、同地区はクジラの街として発展。東日本大震災で主要施設が全壊したが、地元の人々の根強い希望もあって、中核となる集合施設が再建されることになった。
 この9月には、鯨肉や加工品を売る直売所や飲食店が入る観光物産交流センターがオープン。来年4月には、捕鯨文化を体感できる博物館「おしかホエールランド」が開館し、津波被害からの復興を促すにぎわいの創出を期待する。
「(オープンは)商業捕鯨の再開と重なり、まさに千載一遇。以前のように観光客が戻るのも夢じゃない」と語る石巻市の担当者。鮎川港まちづくり協議会の斎藤富嗣会長は「なぜクジラが日本の食文化なのかということを伝えなくてはいけない。(地域の)交流人口を増やす1つのきっかけになる」と意気込む。
■新しい料理PR
 和歌山県は、文化庁が平成28年に太地町を含む熊野灘沿岸地域を「鯨とともに生きる」日本遺産に認定したことを受け、新たなクジラ料理の開発に挑んだ。若い女性をターゲットにした、鯨肉を用いたドリアやピザなどのメニューが生み出された。和歌山県の担当者は「鯨肉は調理次第ではクセがなくなり、さらにおいしくなる。新しい料理をPRしたい」と語る。
 1962年度に23万トンあった国内の鯨肉消費量は近年、5000トン前後まで落ち込んだ。消費者の関心を取り戻すためには、手頃な価格の鯨肉の供給が重要となる。早速、沿岸操業の小型捕鯨船は1日、ミンククジラを釧路沖で捕獲した。水産庁の諸貫(もろぬき)秀樹参事官は「クジラの味を知らない人が増えている。若い人を中心に機会を提供しないといけない。業界、自治体と一緒にプログラムを考える」と語った。
■日本の捕鯨の歴史
 日本では各地の沿岸で捕鯨が営まれてきた歴史があり、和歌山県太地町では17世紀に組織的な捕鯨が始まったとされる。1930年代にはクジラが集まる南極海の捕鯨に進出した。だが、60年代以降に国際的に捕獲規制の動きが強まり、82年には国際捕鯨委員会(IWC)が商業捕鯨モラトリアム(一時停止)を決定。日本は商業捕鯨から撤退し、調査捕鯨を実施してきた。


2019.6.30-産経新聞-THE SANKEI NEWS-https://www.sankei.com/life/news/190630/lif1906300032-n1.html
【商業捕鯨の灯 ふたたび】(上)IWC脱退の内幕 敗訴後ひそかに練られた4つのシナリオ

31年ぶりに商業捕鯨を再開するのろしが上げられた。2018(平成30)年12月26日、首相官邸。定例記者会見に臨んだ菅義偉(すが・よしひで)官房長官がこう発表した。
 「昭和63年以降中断している商業捕鯨を来年7月から再開することとし、国際捕鯨取締条約から脱退することを決定しました」
 日本がクジラの資源管理を話し合う国際機関、国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、商業捕鯨を再開するとのニュースは、瞬く間に世界中に伝えられた。
 国際機関からの脱退は、日本の国際協調路線に反する突然の政策転換のように見られたが、ひそかにシナリオは練られていた。
 2014年4月11日、東京・永田町。報道陣が締め出された会議室で重要会議が開かれた。自民党捕鯨議員連盟の幹部数人が集まった「インナー会議」。1週間余り前、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)で、日本が実施している南極海調査捕鯨の中止を命じる判決が出たばかりだった。
 外務審議官当時、裁判で日本政府代理人を務めた鶴岡公二氏がインナー会議に事情説明に訪れ、「責任は自分にある」と陳謝した。
 10年にオーストラリアが提起した訴訟で、日本の調査捕鯨は「(IWCの)科学的目的の調査の範疇に収まらない」と判断された。政府団の一人が「まさか敗訴するなんて」と漏らす予想外の判決だった。

 外務省、水産庁が今後の捕鯨政策に与える影響を分析した結果、新たな調査計画を組み直しても、判決内容を踏まえていないと見なされれば、「国際裁判に提訴され、敗訴する可能性がある」と結論づけられた。
 解決の糸口が見えない反捕鯨国との対立。IWCにとどまっていては、目標とする商業捕鯨はますます遠のく。インナー会議で鶴岡氏は「新たに提訴されれば、われわれでは抑えきれない」と危機感を訴えた。
 ある議員がついに会議室中に響き渡る声でこう切り出した。 「IWC脱退を真剣に考えるべきだ」
 日本の悲願といえる商業捕鯨の再開が、議論の俎上(そじょう)に載せられた瞬間だった。
秘密文書
 ICJ判決から約3週間後の2014年4月22日。自民党捕鯨議連の会合で、「秘」と注意書きのある日本政府作成の文書が配られた。今後、進む可能性のある4つの選択肢が記されていた。

 (1)「新たな調査計画による調査捕鯨」(2)「IWCを脱退して新たな国際機関を設立し調査・商業捕鯨」(3)「IWCを脱退して領海内に限定した商業捕鯨」(4)「IWCを脱退して商業捕鯨モラトリアムに留保を付して再加盟」。 日本が1951(昭和26)年に加盟したIWCは、加盟国のクジラ乱獲などが原因で82年に商業捕鯨モラトリアム(一時停止)を採択。当初は異議を申し立てた日本も最終的に受け入れ、クジラの生態を調べる調査捕鯨の道にかじを切った経緯がある。
 4つの選択肢にはそれぞれ政府が捉えるリスクも示された。(1)は「再び提訴される恐れ」、(2)は「国際機関設立に時間が必要」、(3)は「漁場・捕獲頭数が制限的」とあった。(4)は捕鯨国のアイスランドが採った方式だが、国際法違反を避けるためのこのやり方は反捕鯨国の反発が大きく、実現性が危惧された。 どの道を歩んでもいばらの道で、国際的非難や訴訟リスクが高まる。日本政府は2つの基本方針を定めた。一つは、鯨類を重要な食料資源として科学的根拠に基づき持続的利用を図る。もう一つは、ICJ判決を踏まえた新たな調査捕鯨の実施に取り組む-と。
 IWC脱退は国際法上、脱退が効力を持つには1年後となる。残された選択肢は従来通り、調査捕鯨を続ける(1)しかなかった。
] 2014年6月、安倍晋三首相は調査捕鯨の継続を宣言した。
■科学データも拒否
 日本側が捕鯨の継続にこだわるのは、モラトリアム以降、大型鯨類の資源が回復している科学データが日本の調査で集積されていたからだ。
 しかし、反捕鯨勢力はクジラを知能の高い特別な動物と捉え、一切捕獲してはならないと主張していた。IWC日本政府代表の森下丈二・東京海洋大教授は「モラトリアムの意味がいつしか独り歩きし、商業捕鯨の『永久停止』と理解されるようになった。科学的に持続可能な捕鯨が可能であっても、IWCで再開につながる提案は一切、拒否されてしまう」と語る。
ICJに日本を訴えたオーストラリアは「IWCは鯨類の保護を担う機関に変容した」と主張した。さらに、15年に新たな調査計画による日本の調査捕鯨が実施されると、「法的措置の選択肢を探求している」と牽制(けんせい)してきた。
 こうしたことを背景に、日本政府はIWCを脱退して行う商業捕鯨の枠組みをひそかに検討した。推進力となったのは、捕鯨拠点が地盤である山口県出身の安倍首相と和歌山県出身の二階俊博・自民党幹事長。農水省幹部はこう振り返る。 「IWCにとどまっていては日本の捕鯨はなくなる。決断するのは安倍政権の今しかなかった」
■最後の提案も否決
 18年9月、ブラジルで開かれたIWC総会。日本政府は最後の提案を行った。同じ屋根の下に捕鯨支持国と反捕鯨国の間に敷居を作って「家庭内離婚」の状況を実現し、商業捕鯨の再開につなげるという内容だった。しかし多数を占める反捕鯨国が支持せず、否決された。
 「万策尽きた」(農水省幹部)。日本政府はIWC脱退と商業捕鯨の再開を決断した。14年に示された選択肢の(2)と(3)の中間的な枠組み。操業エリアは排他的経済水域(EEZ)内に設定したが、それでもオーストラリアや欧米などの反捕鯨国を中心に国際社会から批判が強まる恐れがある。
森下氏は「IWC脱退はゴールではなく、新たなスタート」と強調する。その言葉には、八方ふさがりの国際環境を改善する努力を怠れば、日本の捕鯨は袋小路に追い込まれるという危機感が込められている。

 日本は30日、IWCを脱退し、7月1日から31年ぶりに商業捕鯨を再開する。IWC脱退はICJでの敗訴が大きく影響した。歴史的転換点を迎える日本の捕鯨が進むべき針路を探る。
商業捕鯨と調査捕鯨
商業目的の捕鯨は国際捕鯨委員会(IWC)がモラトリアム(一時停止)を1982年に採択。IWC加盟国のうち日本は88年に商業捕鯨から撤退し、再開に向けて必要な科学的データの収集を目的に、南極海や北西太平洋で調査捕鯨を続けてきた。一方、ノルウェーやアイスランドは異議申し立てや留保という手法により規定が適用されずに商業捕鯨を実施。日本も当初、モラトリアムに異議を申し立てたが、米国からの圧力などで撤回した経緯がある。


2019.6.17-産経新聞-https://special.sankei.com/f/society/article/20190616/0001.html
IWC脱退の日本、商業捕鯨再開後も国際訴訟リスク

日本の国際捕鯨委員会(IWC)脱退に伴い、7月から排他的経済水域(EEZ)内で再開される商業捕鯨について、日本政府が国際裁判に訴えられるリスクを指摘する内部文書を作成していることが16日、分かった。2014年3月に日本が敗訴した国際司法裁判所(ICJ)の南極海調査捕鯨訴訟の判決内容が与える悪影響も想定。約30年ぶりの商業捕鯨は、反捕鯨国の動きを警戒しながらの厳しい船出となりそうだ。
 日本政府は昨年12月、鯨類の保護のみを重視する反捕鯨国側との歩み寄りが困難になったことなどを理由に、IWC脱退を決断。日本のEEZ内で商業捕鯨を再開することを公表した。」
 日本は国際捕鯨取締条約(ICRW)に基づき、ICJで提訴国のオーストラリアと争って敗訴したが、ICRWの制約を受けずに商業捕鯨を再開しても他の国際法の制約を受ける。「海の憲法」とされる国連海洋法条約の第65条では、鯨類は適当な国際機関を通じて資源の保存や研究を行うことが義務づけられており、IWCを脱退した日本が合法的な捕鯨を確立するためには、IWCに替わる国際機関の創設が必要だとの指摘がある。
産経新聞が入手した内部文書は「国際法上の問題点」に言及。IWC脱退後、EEZ内における捕鯨は同65条などの義務を果たす必要があり、違反した場合、条約上の紛争解決手続きに「付される可能性がある」と明記している。文書はICJ判決後、日本の捕鯨政策に与える影響を分析するために作成されたとみられる。新たに想定される国際裁判で、日本が敗訴したICJの「判決が参照される可能性が高い」として、影響を懸念している。
 捕鯨問題に詳しい同志社大法学部の坂元茂樹教授も「国連海洋法第65条の協力義務違反を根拠に、日本が訴えられるリスクがあることは事実」と指摘。科学的に資源が回復しているとしてEEZ内の商業捕鯨の捕獲対象に含めたミンククジラでさえ、反捕鯨国は日本の主張に反対しているとした上で「今後、発表される捕獲枠を含め、商業捕鯨の内容がどのようなものになるかが訴訟リスクをはかる上で重要になるだろう」と話している。
【用語解説】商業捕鯨再開
 日本は2010年、オーストラリアが提訴した南極海調査捕鯨訴訟で14年に敗訴した。事態を受け、今後の捕鯨のあり方を検討してきた日本政府は昨年12月、国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を決定。商業捕鯨モラトリアム(一時停止)を受け入れて以降、約30年ぶりに日本の排他的経済水域(EEZ)内で商業捕鯨を始めると発表した。IWC脱退により、南極海や北西太平洋で続けてきた調査捕鯨は中止する。


捕鯨問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

捕鯨問題とは、クジラおよびイルカの捕獲(捕鯨)の是非に関する国際的な論争、摩擦問題である。

経緯
捕鯨の歴史現在では反捕鯨側に立っている国々も、過去には捕鯨国だった場合がある。それらの国々の捕鯨も、最初は沿岸捕鯨から始まった。19世紀末にはノルウェー式捕鯨が開発され、ナガスクジラ科の捕獲も進んだ。鎖国中の日本と異なり遠洋航海が可能だった国々では、沿岸捕鯨で鯨が減れば、沖合捕鯨・遠洋捕鯨へと移行し、さらに他の漁場へ移動して捕鯨を続けた。初期には食肉利用も行っていたが、十分な保存技術がなかったため、鯨油・ヒゲなどの資源のみを目的とするようになった。南極海でも20世紀初頭に本格的な捕鯨が始まった。19世紀から20世紀半ばにかけてアメリカやオーストラリアやノルウェーは灯火燃料や機械油用の鯨油目的の捕鯨を当時世界最大の規模で盛んに行ったため、絶滅寸前に瀕した鯨種もいたといわれ、主にセミクジラマッコウクジラが減少した。1931年にシロナガスクジラ捕獲はピークとなる。以後もナガスクジラなどのより小型の鯨種に移行して捕獲が続いたが、最終的には、鯨類資源の減少と鯨油需要の低下から不採算となる。
日本では鯨文化が全国で育まれていた事から欧米の商業捕鯨とは一線を画す漁法が行われていたものの、前述のアメリカの捕鯨船の捕鯨により日本近海は短期間の内に資源の枯渇を招いた、とする論調もある。しかし、欧米の捕鯨の対象種が種としてマッコウクジラとセミクジラを対象にしているのに対し、網捕り式捕鯨では当時欧米が捕れなかったシロナガスクジラなども獲物に出来たため、必ずしも欧米のみに起因する資源枯渇であったかは疑問視されている。特にアメリカ式捕鯨で重視されたのはマッコウクジラであるが、殆ど食用に向かないマッコウクジラは日本の捕鯨ではあまり重視されていなかった。セミクジラに関しては日本近海での欧米の操業は行われてはいない。また、そもそも世界規模の航海を伴うものの、この時代のアメリカ式捕鯨とは帆船の母船から肉眼でクジラを捜し、発見後手漕ぎのボートを降し、人力にて銛を打ち込むというものであって、全盛期で世界全体で800隻程度が年10頭程度ずつを捕獲していた。
日本各地に点在していた鯨組の多くが姿を消していった。この為日本は前述のノルウェーなどとともに20世紀初頭から南氷洋捕鯨に参加している。
日本における捕鯨
日本の鯨肉食文化は縄文弥生時代から存在し、弥生時代にはより大型の鯨の捕鯨も行われていたとみられる。北海道でも古代に捕鯨が始まっていた。江戸時代には鯨組の成立など大規模化が進み、セミクジラなどを組織的に捕獲して、鯨油や鯨肉などとして商品化していた。
江戸時代末期になり、アメリカイギリスなどの諸国からの多数の捕鯨船が日本近海で活動した(この頃の遠洋捕鯨は「アメリカ式捕鯨」と呼ばれる帆船捕鯨。「白鯨」などで描写された)。その結果、日本近海でも鯨の個体数は激減し、日本の古式捕鯨は壊滅的打撃を受けた(なおペリーからの開国要求及び日米和親条約は当時日本沿岸で活動していた捕鯨船への補給も一因であり、小笠原諸島に居住している欧米系島民は、定着したアメリカ捕鯨船員の子孫)。
その後、明治時代になると近代捕鯨法が導入され、定着したのはノルウェー式捕鯨だった。これにより捕鯨対象鯨種もシロナガスクジラなどが中心となる。古式捕鯨法は、1878年(明治11年)の太地における海難事故「大背美流れ」などの海難事故もあって打撃を受け、九州の一部を除き近代捕鯨産業への変身には失敗して、沿岸域でのゴンドウクジラやミンククジラを対象とした捕鯨として存続した。もっとも、古式捕鯨の行われた地域は近代捕鯨産業でも重要な拠点だった。捕鯨が近代化され沖合捕鯨へと漁場を拡大するのと平行して、日本も1934年以降は鯨油を目的として南氷洋まで船団を派遣して捕鯨を実施。第二次世界大戦が始まると、母船式捕鯨は一旦中止された。
戦後、日本の食糧事情を改善するため、大量かつ容易に確保が可能な蛋白源としてクジラが注目され、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の協力も得て捕鯨が推進され、南氷洋での捕鯨も復活した。
捕鯨規制の流れ
1931年にシロナガスクジラ捕獲はピークとなったが、同時期に国際的な捕鯨規制が始まり、1931年のジュネーブ捕鯨条約、1937年の国際捕鯨取締協定などが結ばれた。セミクジラコククジラの禁漁や、漁期制限、未成熟個体の捕獲禁止などが内容だった。鯨油の生産調整も行われた。日独ソなどはこうした条約への参加には積極的でなかった。日本は1939年に加盟するはずだったが、第二次世界大戦の勃発のため未加盟に終わった。
国際捕鯨委員会の設置
戦後の1946年、上記の各条約を発展させる形で、国際捕鯨取締条約が結ばれた。これにもとづき1948年に国際捕鯨委員会 (IWC) が設置され、日本も独立直後の1951年に加入した(捕鯨国のうちスペインポルトガルチリペルーは1970年代以降の加盟)。捕獲枠は1963年以降大きく縮小され、1966年にザトウクジラとシロナガスクジラは禁漁となった。コスト上昇に耐えられず、捕鯨業から撤退する国が増えた。1960年代にイギリス・オランダ・オーストラリアなどが捕鯨から撤退した。
商業捕鯨モラトリアム
1950年代、実質他国の撤退する中で日本が一人勝ちしていた「捕鯨オリンピック」の時期に、効率の良い鯨から資源が減少し、当時IWCの科学委員会ではシロナガスクジラの全面禁漁を提案していたが、日本、ソ連、ノルウェー、オランダは受け入れなかった件などが紛争の火種になったといわれ。1960年代末、鯨類全面禁漁の意見が出始めた。米国は1972年国連人間環境会議で商業捕鯨の10年間一時停止を提案し採択された。IWCでも同年にモラトリアム提案を提出したが、科学的正当性に欠けるとの理由で否決された。アメリカが反捕鯨を持ち出したのは、当時話題になっていた核廃棄物の海洋投棄問題から目をそらせるためであったと国際ピーアール(現ウェーバーシャンドウィックワールドワイド)「捕鯨問題に関する国内世論の喚起」に記されている。この他、人間環境会議に出席した日本代表の米沢邦男は、主催国スウェーデンオロフ・パルメ首相が、ベトナムでの米軍の枯れ葉作戦を非難し環境会議で取り上げることを予告していた。アメリカはそれまでIWCに捕鯨モラトリアムを提案しておらず、それを唐突に焦点にしたのは、ベトナム戦争枯葉剤作戦隠しの意図があったのではないかといわれている。しかしながら、同会議に日本から出席した綿貫礼子によれば、当時は国連主催の会議でベトナム戦争には言及しない事が暗黙の了解となっており、同会議場ではアメリカの「地球の友」と英国の「エコロジスト」を出しているグループが共同で出したミニ新聞には国連会議の動きが記されており、国連会議で鯨に対する日本政府の姿勢を攻撃するニュースも記されていた。また、人間環境会議にいたる状況を調べた真田康弘によると、人間環境会議から八ヶ月前にIWCで採択していた南半球の一部海域でのマッコウクジラの捕獲制限措置に対して、日本が充分な科学的根拠がないと異議申立てを行い、捕獲制限に従わない意向を表明した為モラトリアムを不要としてきた米国の立場は著しく困難になり、米外務省担当官が「もしアメリカがモラトリアムを本当に追求することとなれば、適切な国際フォーラムに提起することになるだろう」と当時の在米日本大使館佐野宏哉一等書記官に対して示唆し。その後、米国政府ではCEQ(環境問題諮問委員会)から持ち上がった捕鯨政策転換に同調した、ロジャーズ・モートン内務長官が1971年11月に十年モラトリアムの支持を公言した、と人間環境会議に至る過程の米国内部の変遷を明かし、人間環境会議で米国が唐突に反捕鯨の提案を行ったとする見方を否定している。結局、人間環境会議でスウェーデンのオロフ・パルメ首相は言及しないのが暗黙の了解とされていた中で、枯葉剤作戦を人道的見地および生態系破壊の面から非難したのである
1982年、反捕鯨国多数が加入したことでIWCで「商業捕鯨モラトリアム」が採択される。これは、NMP方式によるミンククジラの捕獲枠算定が、蓄積データ不足で行えないことを名目とするものである。この「商業捕鯨モラトリアム」は、1982年7月23日のIWC総会において採択された国際捕鯨取締条約附表に属するもの[7]であるが、1972年と1973年のIWC科学委員会において「科学的正当性が無い」として否決されていたもので、1982年においてはIWC科学委員会の審理を経ていないことから、国際捕鯨取締条約の第5条2項にある付表修正に要する条件である「科学的認定に基くもの」に反しており同条約違反で法的には無効であるとの立場を日本は取っている
日本による商業捕鯨撤退と調査捕鯨
日本・ノルウェー・ペルーソ連の4カ国が異議申し立てをしたが、その後日本とペルーは撤回した。日本が1985年に異議申し立てを撤回したのは、米国のPM法に基づいて同国の排他的経済水域内における日本漁船の漁獲割り当て量が大幅に削減される可能性があったためであった[9]
アメリカは日本に異議申し立てを撤回しなければ、アメリカの排他的経済水域から日本漁船を締め出すとの意向が伝えられたため、日本はやむなくモラトリアムを受け入れるかわりに、科学的調査として「調査捕鯨」を開始した1988年に日本は商業捕鯨から撤退した。異議撤回の背景には、米国による水産物輸入停止などの制裁措置があった。同様の制裁措置は、1990年代にはアイスランドに対しても行われた。アイスランドは1992年以降一時IWCを脱退していたが、2003年にモラトリアム条項に異議ないし留保を付して再加入している。
1997年にアイルランドから「調査捕鯨を段階的に終了し全公海を保護区とする代わりに日本の沿岸捕鯨を認める」とする妥協案が提示され継続的に審議されたが、合意に至らなかった。
2000年頃にアメリカは、日本の調査捕鯨停止を求め、形式的ながら制裁を再度発動した。日本は沿岸捕鯨の復活を訴え続けてきたが、2007年のIWC総会でも認められず、政府代表団は「日本の忍耐は限界に近い」と脱退を示唆し、2018年平成30年)12月26日に、日本国政府はIWCからの脱退を通告した。なお鯨類捕獲調査は、国際捕鯨取締条約第8条第1項の締約国の権利として、日本政府日本鯨類研究所に特別採捕許可を発給し、日本鯨類研究所が実施主体となって行っている法的に正当な調査活動である
保護区、サンクチュアリ
またモラトリアムとは別に1979年にはIWCでインド洋の保護区指定などが採択された。南極海については保護区とする付表修正が採択され、南太平洋と南大西洋についても、それぞれオーストラリアなどと南米諸国により保護区化が提案がされた。
捕獲枠
1974年にIWCは鯨種ごとの規制である新管理方式 (NMP) を導入。これによりナガスクジライワシクジラの禁漁措置が適切に行われるなど一定の成果を収めた。残る捕獲対象はミンククジラマッコウクジラニタリクジラのみとなった。
1994年、少ないデータでも捕獲枠が算定できる改訂管理方式(RMP)が採択されて、現在までに北西太平洋のミンククジラについては捕獲枠の試算が完了している。なおRMPによる捕獲枠算定には調査捕鯨のデータは必要ない(RMPの運用に調査捕鯨のデータは不要)。現在のIWCでは捕獲枠の実効確保のための監視などの枠組み(RMS)の交渉が行われていたが、2006年に交渉は決裂した。環境保護団体グリーンピースなどは、たとえRMSが採択されても乱獲を防げないと主張し、一切の商業捕鯨に反対している。
オーストラリアによる日本提訴
2010年5月、オーストラリアは、南極海での日本の調査捕鯨は実態は商業捕鯨とし国際条約に違反しているとして停止を求め国際司法裁判所に提訴した(南極海捕鯨事件)。2010年12月、ニュージーランドは、オーストラリアによる提訴に、意見陳述などを行うなど協力すると発表した。2014年3月31日に国際司法裁判所は、日本の南極海での現状の調査方法による調査捕鯨は事実上の商業捕鯨であり、調査捕鯨とは認められないとする判決を下し、オーストラリア側の主張が認められた。日本は判決を受けいれるとした。
捕鯨国と捕鯨反対国
基本的には、今後捕鯨を行うことに賛成か、反対かの対立構造があり、2010年5月時点で国際捕鯨委員会(加盟国88カ国)の内、捕鯨支持国は39カ国、反捕鯨国は49カ国ある。
捕鯨国
伝統的文化を持ち食糧として捕鯨をしている国々には、ロシア日本ノルウェーアイスランドフェロー諸島デンマーク自治領)、カナダなどが挙げられる。捕鯨国のカナダは1982年に国際捕鯨委員会を脱退している。
アメリカ合衆国は、国内少数民族の先住民生存捕鯨は是認しているが商業捕鯨には反対しており、そのように国内に捕鯨推進派・捕鯨反対派の両者を抱える国も珍しくない。
捕鯨反対国
捕鯨反対国には、商業鯨油目的の捕鯨を行っていた元捕鯨国のオーストラリアフランススペインなどのEU加盟諸国、ラテンアメリカ諸国(反捕鯨の立場を鮮明にしているアルゼンチンブラジルなどが主導するかたちで、他のラテンアメリカ諸国も反捕鯨の立場で足並みをそろえている)、ほかニュージーランドインド等が中心となっており、これに与するNGOも多い。各国で反対理由は異なる。
捕鯨再開国
商業捕鯨モラトリアムを留保していたノルウェー1993年に商業捕鯨実施を公式に認めた。
アイスランドは、2003年から2007年にかけて調査捕鯨を実施したほか、2006年に商業捕鯨再開を認め、2007年の1期のみ操業した。
韓国は2009年6月23日に国際捕鯨委員会総会で近海捕鯨活動を再開したいと公式に要請した。2012年7月4日には領海内の調査捕鯨開始を表明したものの、様々な批判に対し、6日その発言を訂正し、捕鯨は行われなかった。
非加盟国による捕鯨
IWC非加盟国による捕鯨(IWC管轄外の小型鯨類は含まない)もある。  フィリピンではニタリクジラが年間約5頭捕獲。  インドネシアのレンバタ島ではマッコウクジラが年間20 - 50頭、推定生産量は数百トン規模。  カナダ北極海沿岸住民イヌイット)ではホッキョククジラが捕獲されている
先住民生存捕鯨
米国やカナダでは先住民の「伝統的な生業」(狩猟漁撈)活動の継続は先住権として認められており、アメリカのアラスカ州のイヌピアックやカナダ・イヌイットにはホッキョククジラを捕獲する権利が承認されている。ほかグリーンランドロシアなど北極圏に住む北方先住民、カリブ海のベクウェイ島などでの捕鯨は、「原住民生存捕鯨」として一定の捕鯨がIWCでも認められている。この原住民生存捕鯨は、原則として近代的なノルウェー式捕鯨と異なる伝統的な捕鯨手法に基づくものとされ、致死時間の短縮に寄与する銃器の使用などは認められている。
小型鯨類の捕鯨
IWC管轄外の小型鯨類の捕鯨は現在も各地で実施されている。
  カナダの極北地域に住むイヌイットシロイルカイッカクを捕獲している。
  グリーンランドのカラーリットはシロイルカやイッカク、ゴンドウクジラを捕獲している。アラスカチュコト半島先住民は、シロイルカを捕獲している。
  デンマークフェロー諸島カリブ海諸国ではゴンドウクジラが捕獲されている。
  ソロモン諸島などではイルカ漁がなされている。
 日本でも、北海道網走函館宮城県の鮎川、千葉県の和田浦、和歌山県の太地で、ツチクジラやマゴンドウ、タッパナガ、ハナゴンドウを捕獲している。 そのほか、日本各地において追込漁や突棒漁、石弓漁によってイシイルカやリンゼイイルカ、スジイルカ、ハナゴンドウ、オキゴンドウバンドウイルカなどの イルカ漁が実施されている。
国際法上の捕鯨問題
国連海洋法条約海の憲法とも評される海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)[23]に日本も1996年に批准している。
日本は国連海洋法条約第116条 - 第120条に基づき「公海での自由な漁業の権利」として公海利用に関する国際法上の根拠としている。
しかしながら、この条約では200海里の水域内では沿岸国の主権的権利を求める一方、公海における海洋生物の利用は国際管理体制の確立を求めるのが原則であり「公海の利用には国際社会の合意が必要」とされる。たとえば、漁獲高を維持するための「資源保護」に協力する義務があると定めており、第65条において締約国は海洋哺乳類の保存のために協力するものとし、鯨類については国際捕鯨委員会等の国際機関を通じて管理を行なう義務があるとされている。したがって、もしIWCを脱退すればモラトリアムなどのルールに縛られない一方、「今以上に反捕鯨勢力から違法だという批判にさらされ、それに対する法的反論が難しい」ことが水産庁漁業交渉官によっても認識されている。
なお、過去には多くの国が公海捕鯨を行ってきたが、公海での捕鯨をめぐる争点は主として南極海での捕鯨を求める日本のみを対象としたものとなっている
南極海洋生物資源保存条約
南極海洋生物資源保存条約第6条において、同条約のいかなる規定も、国際捕鯨取締条約に基づき有する権利を害し及びこれらの条約に基づき負う義務を免れさせるものではない旨を規定している。
ワシントン条約
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)では、付属書Ⅰにシロナガスクジラザトウクジラミンククジラなどの鯨類を掲載し、これらについては商業目的での貿易並びに海からの持込を禁じている。「海からの持込」規定は、ワシントン条約の適用範囲を、公海での漁獲・捕獲活動に広げる意義を有している。条約案が検討された当初の構想ではクジラ類に対するIWCでの規制が不十分であるとの自国の環境保護団体からの強い突き上げを受け、米国政府が「海からの持込」規定を条約草案に挿入、1973年に開催されたワシントン条約採択会議で強く同条項の盛り込みを求め、この結果挿入された経緯がある。
日本は鯨類に関してミンククジラ、イワシクジラ(北太平洋のものを除く)、ニタリクジラナガスクジライラワジイルカ、マッコウクジラ、アカボウクジラにつき留保を付し、上記鯨種については同条約の適用を免れた。但し留保を付していないザトウクジラと北太平洋に生息するイワシクジラについては、公海上での標本捕獲・持込について、当該持込がされる国の科学当局(日本では水産庁)が、標本[注釈 8]の持込が当該標本に係る種の存続を脅かすこととならないこと、標本が主として商業目的のために使用されるものではないと認める必要がある。なお、経済的な利益獲得のための活動のみならず、非商業的側面が際立っていると明らかにはいえない利用方法についても「商業目的」と解釈するものとされている。以上から鑑み、日本によるザトウクジラと太平洋イワシクジラ捕獲はワシントン条約の諸規定を侵害する違法行為にあたるとの見解が元ワシントン条約事務局長で国際法学者のピーター・サンド教授により提起されている。これに対して日本鯨類研究所は、商業目的であるか否かについての判断は締約国に委ねられていると主張している。なおワシントン条約違反行為等に関しては、締約国会議の下に常設委員会が設けられており、同委員会は締約国会合において採択された諸決議に即し、条約違反国に対する貿易制裁を締約国へ勧告する権限を有している。
争点
捕鯨を巡る争点を以下、概説する。
一般的に捕鯨と反捕鯨の対立とされる場合も多いが、中立的な立場や、捕鯨自体には賛成するもののその方向性において様々な立場があり、捕鯨と反捕鯨の対立という短絡的な解釈には問題があり、現実の構図はこの一般的理解よりもはるかに複雑であり、問題を単純化、一般化するのは必ずしも容易ではない。また、捕鯨を推進する日本政府に対する批判は特別に反捕鯨に組していなくても、ことごとく反捕鯨のレッテルが貼られるという指摘もある。
鯨害獣論
1999年の漁業白書によれば、鯨類の餌消費量は2.8 - 5億トンと日本鯨類研究所が推定した。大隅清治は1999年の著書で、増えすぎたミンククジラなどの鯨を間引くことは正に一石二鳥の効果をもたらす、としている。
元沿岸小型捕鯨担当の水産庁調査員の関口雄祐によれば、この効果を実現する為には「海洋全体のコントロール」が絶対条件であるものの、80種の鯨類の管理は単一種の生物を管理する牧場や畑とは段違いに難しく、気象や温暖化も完全に予測できない現在の人類には不可能であるとしている。また、大泉宏は確かに鯨類は沢山の餌を食べているが、鯨類の餌生物は必ずしも人類が利用する生物ばかりではない(一例、ナンキョクオキアミは現在では然程大きい漁業ではない)。イシイルカが食べるスケトウダラのように漁獲高を圧迫しているのではないかと見られるものもあるが、豊漁期のマイワシは年間百万トン近い漁獲が有り、鯨類の他に魚類や海鳥が捕食していたが、食べきれないほどの数であり、マイワシ資源学者はそれで減ったとは考えておらず。鯨類と漁業との競合は個々のケースで考える必要があるとしている。
調査捕鯨を前提にした農林水産省の2011年の「鯨類捕獲調査に関する検討委員会」第3回と第4回において、この件に触れられており。横浜国立大学教授松田裕之は「数学論モデル的に立証された『ピーター・ヨッジスの間接効果理論』は捕食者と被捕食者以外の第三者に対する影響の間接効果の理論であり、これが鯨類(というより特定の水棲捕食生物)による捕食が餌生物の減少をもたらすとは限らない」と指摘し、WWFジャパン自然保護室長岡安直比は「生態系の変動は一種類の動物だけを見るのではなく、全体的なバランスの上で考えなければいけない。全体的に生態系が絶滅に追いやられるほど大きく崩れた事例はあまり観察されてはおらず、国際社会の中では科学的ではないとみられている。」と指摘した。それに対して、野村一郎は「鯨害獣論は科学的に検証が難しく、それよりも鯨の資源が多いから捕っていいのだと言う議論の方が受け入れやすい」とし、東海大学海洋学部専任講師大久保彩子は「鯨害獣説は2002年ぐらいにPRが盛んに行われていたが、科学的妥当性に批判があり、また、2009年のIWC会合で日本の政府代表団が日本の科学者が漁業資源の減少の要因がクジラであると結論づけた事がないとの発言を指摘し、仮説に過ぎないものを大々的にアピールするのは日本の科学の信頼性を損ねる」とし、高成田亨は「生物学の権威が疑問を呈している点は真剣に考えるべき所である」としている。
バーモント大学ジョー・ローマンは「我々が新たに検証した複数の研究では、クジラのような大型捕食動物が存在するほうが、生態系における魚類の個体数が多くなることが明らかになっている」と2014年に指摘した。
絶滅の可能性
国際捕鯨委員会科学委員会の推定資源量では、
ミンククジラは南半球761,000頭、北大西洋174,000頭、西グリーンランド10,800頭、北西太平洋及びオホーツク海25,000頭。シロナガスクジラは南半球2,300頭。(世界的に10000~25000頭(IUCNレッドリスト))ナガスクジラは33200頭。コククジラは26421頭。ホッキョククジラは11730頭。ザトウクジラは北西大西洋で11,600、南半球42,000、北太平洋で少なくとも10,000頭。セミクジラは約7800頭。ゴンドウクジラは78万頭
であり、シロナガスクジラやセミクジラは絶滅の危険性が高い。また、クロミンククジラについては増加に度々引き合いに出される76万頭という生息数は下方修正されており、増加の停止が確認されている(後述)。なお種としての生息数が豊富であっても、世界中に生息する種類では生息域によっては系群単位で危機にある場合もあり、そういった事実を鑑みた上で資源管理は地域ごとにおこなわなければならない。
捕鯨に対して、数をコントロールしやすい「家畜」と違い鯨類の捕獲はその減少をコントロールできなくなるという懸念もグリーンピースが主張している。
商業的競合
中田宏(当時横浜市長)によると、牛肉の輸出市場を保護するため、政治的・経済的な観点から捕鯨反対運動が繰り広げられているのではないかという見方がある。また、流し網漁業攻撃にもこうした背景があるのではないか、という向きもあるが、これは、飽くまで疑ってかかるような見方をすればというものであり、根拠がある発言ではない。
一方、ホエールウォッチングの観光産業との対立という問題は顕在化している。A.ピースによれば、オーストラリアでは、鯨が自由に領海内を移動することが「人道的で、進歩的で文明化された場所」という自国のアイデンティティを持つに至っており、一方、「捕鯨を行う日本人を悪魔とみな」しているとされる。もちろんこの論法で行けば、捕鯨国の国民(ロシア、日本、ノルウェー、アイスランド、フェロー諸島(デンマーク自治領)、カナダ)や生存捕鯨をする先住民族も全て「悪魔」と言うことになる。岸上伸啓は、これを人種差別であると批判している。
一方、豪在住の日本人ライター集団の柳沢由紀夫は、2007年12月にイギリスゴードン・ブラウン首相の環境・食料・農村省ウェブサイトの「クジラを守る〜国境を越えた責任」の序文によると捕鯨は残忍である他に経済上の必要もない行為とし、観光産業の利益(ホェールウォッチングが世界中で1050億円)に言及している事実について、これは外国人の「本音と建前」に過ぎないと指摘している。対して日本の調査捕鯨という言い方は「本音と建前」ではなく「うそ」かつ「アンフェア」な印象しか与えないとも指摘しており、うそつきという評価の一助になっていると指摘している。また海老沢は捕鯨問題での差別論も問題視しており、日本人が差別と感じるのは「過剰反応」と「自虐的解釈」が多く、全てを差別のせいにするのは思考停止である。としている。
海洋資源の過剰搾取
国連食糧農業機関の2008年報告によれば、海洋水産資源の利用は19%が過剰漁獲、8%が枯渇、1%が枯渇から回復しつつあるとされ、52%が満限利用の状態にあり、20%が適度な利用又は低・未利用の状態とされている。FAO水産委員会の「漁獲能力に関する国際行動計画」に即し水産資源を持続的に利用していくためには、各国による水産資源管理の一層の強化が求められている。
自然保護の観点からは、「人間による捕鯨を含む漁業によって海洋生態系が撹乱されている」という海洋資源の過剰搾取問題がある。捕鯨は、海洋生態系ピラミッドの頂点に立っていた鯨類をバイオマス換算で半分以下まで減らし、その結果海洋生態系はダメージを受けている可能性がある(鯨類の餌としての水産資源消費も鯨類のバイオマス総量に比例して激減していると推測され、鯨類の死体を経由しての生態系ループもまた激減している)。これまでの人類による海洋の過剰搾取を見直す必要がある。この問題は鯨類だけではなく、マグロミナミマグロやタイセイヨウマグロを含む)など特定魚種の集中的漁獲について同様の問題を抱えている。 また、化学物質汚染などにより海洋生態系の状況の悪化も指摘されており、海洋の利用は抑制に転じるべきであると言う主張がある。
人道的捕殺
日本が電気銛からライフルを中心に切り替える旨を表明し、これを評価する国が多かったため、イギリスなども提案を撤回した。
致死時間の長さの一因について日本鯨類研究所は「年齢測定のために耳垢栓を無傷で入手する必要があり、致命傷を与えうる部位のうち頭部を避けて捕鯨砲を打ち込んでいたため」と説明。その後独自に開発した効率の高い爆発銛の使用により陸上野生動物のケースに劣らない即死率と平均致死時間を達成している、 と反論している。 日本鯨類研究所によれば、2005-2006年の調査捕鯨において平均致死時間(銛命中から致死判定まで)は104秒、即死率は57.8%である(抗議団体の妨害を受けていない場合)。ノルウェーが発表した2000年のデータでは、平均致死時間が136秒、即死率が78%である。
日本の沿岸でのイルカ漁についても致死時間が長いとの批判がされたため、フェロー諸島で使用されている技術の導入が図られている。この方法によれば、脳への血流を即時に停止させ、即死に導くことができる。ただし、スジイルカなど一部の種については、水際で激しく動くために適用が困難で、さらなる改善研究が行われている。
最新の食肉用家畜の屠殺においては、専用の道具(主に屠殺銃)および炭酸ガス麻酔法を用いた安楽死が多いのに対し、鯨は専用施設内での殺処理が行えず、致命傷でなければ死ぬまで時間がかかり、動物福祉の観点から非人道的であるとされる。乗組員の安全性(「大背美流れ」など)や人道的視点などからの致死時間短縮は比較的古くからの課題であり、鯨を感電死させる電気銛などの研究が戦前からあった。日本でも1950年代に電気銛の試験が行われ、鯨の即死が確認されたものの、有効射程の短さなど運用上の困難から主力にはならなかった。
その後、砲手の技量向上や対象鯨種の小型化による即死増加などから、IWCでは「非人道的ではない」との結論に達し、日本の調査捕鯨で二番銛に用いていた電気銛が、不必要な苦痛を与え非人道的であるとし、1997年にはIWC総会でイギリスとニュージーランドにより電気銛の使用禁止が提案された。
食の安全からみた鯨肉
元々食性の生物段階が低いヒゲクジラ類では汚染の程度は低く、南極海産のヒゲクジラについては汚染はほとんどないことも判明している。南極海のミンククジラにも汚染物質がほとんどないことが南極海鯨類捕獲調査で判明している。特に南極海のクロミンククジラの脂皮や筋肉中に蓄積されたPCBやDDTなど人口有機塩素化合物や水銀はごく微量で、北半球の個体と比べると10分の1以下の値である。
2003年厚生労働省調査ではマッコウクジラゴンドウクジラハンドウイルカなどのハクジラ類全般について、1970年代に定められた遠洋沖合魚介類に関する暫定的規制値を上回る高濃度のメチル水銀PCB類が検出された。他方でヒゲクジラ類については、北西太平洋産のミンククジラやニタリクジラに関しては、ミンククジラの脂皮からは暫定規制値を超えるPCB類が認められたものの、メチル水銀は暫定規制値を超えるサンプルは無かった。流通量の過半数を占めていた南極海産のミンククジラ肉については、水銀・PCBともに汚染はほとんどないことが確認された。メチル水銀やPCB類が人体に摂取された場合の健康に生じる影響に関してはフェロー諸島での調査で妊娠中の母親体内の水銀濃度が高度となった場合に胎児の発育に一定の影響を与えることが確認された。それ以外の場合については、影響は科学的には確認されなかった。以上を踏まえて、日本の厚生労働省は、妊婦を対象とした魚介類の摂食ガイドラインを設定し、マグロやキンメダイと並び、ハクジラ類も摂取量の目安が定められた。ただし、これはあくまで妊婦のみを対象としたもので、幼児や授乳婦などを対象とするものではない。また、ミンククジラなどのヒゲクジラ類は汚染が軽度であるとして、沿岸域のものも含めて制限の対象外である。
2010年国立水俣病総合研究センターによる太地町の健康影響調査で、全国の他地域と比べて平均で4倍超の水銀濃度を毛髪から検出され、うち43人(調査人員の3.8%)の対象者は毛髪水銀濃度の下限値を上回ったが、日本人の平均の70倍の水銀が蓄積している事例がみられ、これは水俣病患者のレベルに達している[65]。濃度が比較的高い182人はメチル水銀中毒と思われるような健康への影響は認められなかったが、非常に心配な状況と見る向きもある。太地町は水銀の影響を受けやすい子供の調査を実施すると発表した。
食の安全の観点から、鯨肉が有害物質によって汚染されており、捕獲自体も止めるべきで、沿岸域の鯨肉、特に栄養段階が高次であるハクジラ類の鯨肉については安全性に問題があると言う主張がある。人間・自然由来の海洋の化学物質が生態系ピラミッドの上位者であるクジラ類・イルカ類の体内に濃縮されること、特に、年齢を重ねるごとに脂溶性の物質が脂肪細胞に蓄積される。その主たるものは水銀および有機塩素系化合物(PCB等)である。生態系ピラミッドの上位である他のマグロやカジキなどの大型魚類についても同様の指摘があるが、哺乳類のクジラ類の寿命は長く、前述の通り年齢を重ねるごとに蓄積される汚染物質が多くなる為、その値はクジラ類ほど高くはない。と言う主張がある。
食文化の伝統、捕鯨文化
日本においては鯨食はただ単に食料としてではなく、骨や皮まで全て廃棄することなく利用してきた[20]平安時代からは公家滋養強壮として、戦国時代には武士が戦いに勝つための縁起担ぎ贈答の最高級品として珍重した、江戸時代からは組織捕鯨の隆盛と共に庶民にも親しまれ、時節ハレの日に縁起物として広く食されるようになり、多種多様な鯨料理が生まれ現在も伝承されている。食文化以外では「花おさ」に代表される縁起物としての工芸品でもある鯨細工は、クジラの歯・骨や鬚を原材料としており、その他にも人形浄瑠璃のエンバ板や、歌舞伎の肩持ちやカラクリ人形ゼンマイに使われ、捕鯨禁止による資源の枯渇が、伝統文化を阻害する。捕鯨問題に係わりその伝統文化の消失が危惧される。
ノルウェーアイスランドなどにも鯨食文化が残っている。また、鯨肉は美味であるだけでなく、高タンパク、低脂肪、低カロリー、でコレステロール含有量も少なく、脂肪酸には血栓を予防するエイコサペンタエン酸(EPA)や頭の働きをよくするドコサヘキサエン酸(DHA)、抗疲労効果のあるバレニン成分が豊富に含まれ、生活習慣病アトピー等のアレルギー症状を軽減する。
ナンシー・シューメイカーは、かつて鯨肉食を普及させようと試みたが失敗した米国政府は捕鯨規制には鯨肉を食す国の視点は取り入れずに規制しようとしたため、商業か生業か、文明か野蛮かという二分法の枠組みで扱われた。石油開発によって鯨油は産業資源でなくなったため、アメリカはクジラの捕獲を禁止してもアメリカ人は失うものは何もなく、すなわち鯨肉はアメリカの文化的な好みに合致する味にはならなかったため、国際合意に負の影響を与えていると指摘している。
反捕鯨側の立場であるグリーンピースは、捕鯨の慣習が根付いていたのは仙台や勝山など日本のごく一部の地域だけで、全国規模で広まったのは第二次世界大戦で食糧難に直面してからであり、伝統文化とはいえないと主張している。またグリーンピースUKは「我々の調査では95%の日本人は鯨肉を食べたいとは思わないという結果が出ており、あまりに需要が低いので日本政府はクジラを食文化として浸透させるためのマーケティング会社さえ設立し、反捕鯨派の日本人は非国民扱いを受ける被害にあっている。我々がクジラを食べなければいけない理由というのがそもそもない」と主張している。鯨食は戦後の国策で普及したのであり、日本の伝統ではないという主張は日本人研究者からも出ている。
鯨類由来の資材は大量に必要になるものではなく、寄り鯨などからも得ることができ、一定の在庫はある。また鯨髭は調査捕鯨対象のミンククジラからも入手可能である。在庫不足よりは、在庫管理・流通手配の問題が大きい。
このような食文化その他の文化面における対立には、中国の一部、韓国やベトナムにおける犬食文化や、アメリカの北方先住民エスキモー)による捕鯨・アザラシ狩猟もある。
伝統捕鯨、原住民生存捕鯨
先史時代縄文時代前期より日本では捕鯨が行われてきた。江戸時代の鎖国政策によって遠洋航海が可能な船の建造が禁止されていたため、遠隔捕鯨化に伴う産業的な拡大は限定的で、これは明治以降の沿岸捕鯨の近代化・沖合捕鯨の開始・南極海商業捕鯨(輸出向けの鯨油の確保による外資稼ぎが主目的で、冷凍船の導入などで持ち帰りが可能に)にもある程度引き継がれた。
2002年のIWC下関会議では、原住民生存捕鯨枠には反捕鯨国が含まれる一方で、日本に対しては捕獲枠がいっさい認められず、調査捕鯨も引き続き反捕鯨国から非難され、また先住民には絶滅危惧種であるホッキョククジラなどの捕獲を認める一方で、日本に対しては絶滅の危機に直面しているわけではないクロミンククジラの捕獲も許さないという対応がとられた。日本は「反捕鯨国による二重基準である」と反発し、生存捕鯨の採択を否決に持ち込んだ。このため、生存捕鯨枠の運用は一時停止を余儀なくされた。ユージン・ラポワントは欧米人が植民地主義の贖罪意識から絶滅危惧種のホッキョククジラ捕獲を自国の先住民に認め、他方で日本やノルウェーの捕鯨を認めない理由について、かつて両国は自分たちの意のままにならなかったためであると指摘している。
日本が求める沿岸捕鯨は、日本の伝統捕鯨とは捕獲方法も対象鯨種も異なり、「原住民生存捕鯨」と同じカテゴリで認められる可能性はない。
NGOグリーンピースは2007年に日本が提出した議案「沿岸小型捕鯨の捕獲枠」は「原住民生存捕鯨」と同列に扱い、また「調査捕鯨」の拡大解釈とともに二重基準であると批判している。またグリーンピースは「原住民生存捕鯨」及び鯨肉食自体にも反対せず。逆に日本政府がアイヌ民族寄り鯨利用も禁じるなど先住権を認めず、近代捕鯨を「原住民生存捕鯨」に見せかけ偽装することは先住民族を傷つけるものであると非難している。
国際捕鯨取締条約の解釈
国際捕鯨委員会(IWC)の目的の一つが捕鯨産業の秩序ある発展であることは、IWC設立の根拠となる国際捕鯨取締条約にも明確に記載されている。 国際捕鯨取締条約8条ではIWCメンバー国は自国が適当と考える条件で科学調査を目的として鯨を捕獲できるとしており、商業捕鯨モラトリアムや南大洋鯨類サンクチュアリー(保護区)に拘束されずに、捕獲調査を行うことができると条約で認められている。むしろ、モラトリアムはもう必要がなく、南大洋の永久保護区(サンクチュアリー)は資源量と無関係に設定されているため、条約に反している。
1994年、日本をのぞいてIWC全会一致で南極海は永久保護区(サンクチュアリー)に指定された。
調査捕鯨
1987年から実施されているJARPA(日本の調査捕鯨)は国際捕鯨取締条約第8条により各国政府の固有の権利である。
調査捕鯨の仕事は大別すると、鯨体を捕獲する捕獲調査と個体数を数える目視調査がある。鯨の推定頭数の算出や生態調査も目的としている[73]。平行してバイオプシー調査も行っており、こちらでは確保不能なシロナガスクジラなどの種のサンプルも集めている。
調査捕鯨が開始された理由は、1982年のモラトリアム導入に際し反捕鯨国側は「現在使われている科学的データには不確実性がある」ことを根拠にして安全な資源管理ができないと主張したためであった。
日本捕鯨協会によれば日本の南極海鯨類捕獲調査捕鯨ではクロミンククジラザトウクジラなど各種クジラが増加していること、鯨種や成長段階による棲み分けの状態、回遊範囲が非常に広範囲であること、1980年代後半から現在までクロミンククジラの資源量推定値に大きな増減はみられず、個体数は安定していることも明らかになり、多様な調査結果が得られている
北西太平洋鯨類捕獲調査においては、日本周辺のクジラは豊富であること。DNA分析で太平洋側と日本海側の鯨は別の系群にあること、などがわかった。IUCNレッドリストで「絶滅危機」に分類されているイワシクジラ調査捕鯨では、北西太平洋イワシクジラの生息数を2004年6月までは28,000頭、2004年9月からは67,600頭、2009年5月からは28,500頭と考えており、年間100頭程度の捕獲はイワシクジラの安定的な生息には影響を与えないとしている。
調査捕鯨に関して日本は1987年から2006年までの間に、査読制度のある学術誌に91編の論文を発表し、IWCの科学小委員会に182編の科学論文を提出するなどしており、2006年12月のIWC科学小委員会では、日本の研究について「海洋生態系における鯨類の役割のいくつかの側面を解明することを可能にし、その関連で科学小委員会の作業や南極の海洋生物資源の保存に関する条約(CCAMLR)など他の関連する機関の作業に重要な貢献をなす可能性を有する」と結論づけ、1997年のIWC科学小委員会においても、日本の調査が「南半球産ミンククジラの管理を改善する可能性がある」と評価されている。「捕獲調査は商業捕鯨の隠れみの」という批判は、調査捕鯨の実態を知らない無責任な指摘であり、クジラ調査は専門の学者が調査計画に基づいて船を運航させて、若干の捕獲を行い、耳垢栓や卵巣などの標本を採取し、調査後の鯨体は完全に利用することが条約(ICRW第8条第2項)で定められているので調査の副産物として持ち帰り、市場に出し、販売で得られた代金は調査経費の一部に充当されており、鯨体を可能な限り利用することは資源を大切にするという意味で極めて常識的なことである。
また、耳垢栓や生殖腺などの器官は鯨体の内部深くにあり、体内の汚染物質、胃内容物の調査を効果的に実施するためには致死的調査は不可欠である。バイオプシーなど非致死的調査で得られる情報もあるが非効率で現実的でないことはIWC科学委員会でも認識されている。
IUCNの基準は予防原則に基づき生息数の現状のみで判断するものではなく、過去から現在に向けて野生生物が受けてきた影響を考慮するものである。
日本は生態系調査を目的とする「調査捕鯨」(鯨類捕獲調査)に切り替えたが、捕殺した鯨の肉の一部を商業市場で販売しており、調査捕鯨は科学調査という大義名分を使った疑似商業捕鯨である。日本は集積された情報を独立した審査のために公開することを拒否し、調査で集められたデータの殆どは殺さない方法で得ることが可能であり、日本の鯨調査計画が信頼にたる科学として最低限の基準を満たしていない世界自然保護基金に批判されている。前述の通り、国際的に調査捕鯨という言い方自体にアンフェアな印象しか与えないとする指摘もある。
2014年国際司法裁判所は、日本の南極海での調査捕鯨は事実上の商業捕鯨であるとする判決を下した。






このTopに戻る






monomousu   もの申す
最近のニュース
ここは、2019年~のニュースです
TOPにもどる