虐待・惨殺の問題-wikipedia



児童虐待
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  児童虐待: child abuse, child maltreatment)は、児童の周囲の人間(保護者、学校教師、施設職員など)が、児童に対して虐待を加える 、または育児放棄(ネグレクト)することである。幼児の場合は幼児虐待と言う。
  WHOは全成人の4人に1人は年少児に身体的虐待を、女性の5人に1人と男性の12人に1人は年少時に性的虐待を受けたと報告している。WHOによれば毎年4.1万人の15歳以下児童が自宅にて殺されているという。経済協力開発機構(OECD)は児童虐待に起因する医療・司法・逸失利益のコストは、米国においてはGDPの約1%、豪州においては少なくともGDPの1%に上ると推計している。(個別の児童虐待事件の一覧については、児童虐待事件の一覧を参照。)
定義
  世界保健機関(WHO)では、Child maltreatmentは「18歳以下の子供に対して起きる虐待ネグレクト」と定義している。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では、「親またはその他の養育者の作為または不作為によって、児童に実際に危害が加えられたり、危害の危険にさらされたり、危害の脅威にさらされること」と定義している。日本国では、児童虐待の防止等に関する法律第2条で定義されている。
種別
身体的虐待
  殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせるなど。結果として外傷がなくとも、その可能性が明らかにあった場合を含む。手や脚を使うこと全てが含まれているわけではなくて、裁判などでは、手でたたいた身体部位やそのたたき方(「拳」「平手」の別)、継続時間、などの差異が焦点となることがある。また、児童の側が先に殴りかかって保護者の側がとっさに応戦し短く殴った場合は含まない(正当防衛)。
  なお、いわゆる「揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome)」として乳児が「硬膜下血腫、脳浮腫、眼底出血」の3症状があると児童虐待が疑われるが、小児脳神経外科医からは「3兆候イコール虐待」と判定すべきではないとの主張がある。判決では親族に実刑判決が出たのちに、無罪となる事例が出ている。眼底出血は確かに揺さぶられっ子症候群に伴いやすい症状であるものの、歩き始めの子供が軽く転倒するだけでも「中村1型」と呼ばれる乳幼児型の急性硬膜下血種が起きて、それが眼底出血を伴うこともある可能性を眼科医も示唆している。
性的虐待(「児童性的虐待」も参照)
  児童性的虐待のことで、児童を性行為の対象にしたり、児童に対して強制的に猥褻なものごと(自らの性器性交)を見せ付けたりすること。子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にする など。
  全国統一ダイヤルで受け付ける子どもの電話相談「チャイルドライン」で、宮城県内から2017年度に発信された児童虐待の相談52件のうち、性的虐待が53.8%(28件)を占めていた。被害者は主に小学生から高校生の女子で、特に中学生が多く加害者の多くは実父とみられる。性暴力を受けたときに相談できるワンストップ支援センターの大阪支部では、2010年度~18年度に来所し、受診につながった者のうち19歳以下の子どもは1285人で6割を占めている。また17、18年度、家族からの性暴力を訴えた子どもは161人となり、実父からが36%、実兄・義兄からが18%を占め、そのほか母の恋人・祖父・いとこが加害者の事例もある。
  内閣府男女共同参画局の「男女間における暴力に関する調査」によると、無理やりに性交等をされた被害者の女性は 7.8%、男性は1.5%であり、18歳未満のときにあった被害について、「その加害者は監護する者(例:父母等)でしたか」という質問に対して、「監護する者」が 19.4%であった。被害の相談をしなかったのは、女性で58.9%、男性で39.1%で、半数が羞恥心によると回答している。
  刑法200条に規定されていた尊属殺人の規定は、自己または配偶者の直系尊属を殺した者は死刑または無期懲役に処する旨、普通殺人よりも重罰規定が定められていたが、昭和48年4月4日最高裁判所大法廷にて憲法一四条一項に違反するとされ、1995年に刑法が改正(平成7年法律第91号)された際に傷害罪等他の尊属加重刑罰と共に削除された。本事件は、1968年(昭和43年)に実父(53)を殺害した女性(29)は14歳の頃より父より性虐待を受け、その結果親娘間で数名子を出産するなど夫婦関係を強いられ、職場で正常な恋愛相手に恵まれたが父に阻まれ思い余ったという背景を持つものだった。

  2019年には生活保護受給世帯において女児が中学2年生から性的虐待が繰り返され、専門学校への進学資金を父が工面したことにより再び性行為を強要された19歳の娘に対する性行為について準強制性交罪に問われた事件で、第一審で父親が無罪となったが、名古屋高裁では、父親は逆転有罪となった。実父に小学生時代から性虐待を受けていた女性は「家族がばらばらになる」とその被害を長期間打ち明けられなかったが、父親は避妊しない性行為すら虐待だと認識していないことが裁判で明らかにされている。
  2018年には離婚後に7年ぶりに会った娘(13)に対し、体を触るわいせつ行為をする事件も起こっている。2020年10月には幼少期から中学生の頃まで性的虐待を受け、今もフラッシュバックなどの後遺症に悩まされているため、40代女性は父親に損害賠償を求め提訴した。父親は性交や猥褻行為を認めるものの、時効による排斥期間を主張していると報道されている。3歳~8歳まで叔父にあたる男性から性的虐待を受けた40代女性も叔父を提訴し、1審で時効排斥されたが2審の札幌高裁は鬱病の発症を新たな被害ととらえ、請求の一部を認めた。叔父側が上告し最高裁まで争った。両親からは身内の恥と黙っているよう示唆された。ドイツでは、性的虐待被害者が満21歳になるまで損害賠償請求権の時効が停止し、さらに30年間(満51歳まで)権利行使ができるよう段階的に法改正された。フランスでも満18歳まで時効が停止するなどの規定がある。
  2020年コロナ禍の最中に性虐待が判明した少女には、10歳での母の恋人からの性暴力の妊娠や12歳での父からの性強要による事件も含まれ、日本は他国に比較し性虐待の顕在化がされていない可能性が高い一方で自分の体を守り大切にする性教育が不足しているため自らを責めたり我慢をする少女もいる。性虐待を呼び起こす原因は性欲ではなく支配欲であるとの分析もある。

  社会福祉法人恩賜財団母子愛育会の平成26年度調査によると、一時保護所入所者の虐待は性的虐待が13.03歳でそれ以外は9~10歳と分析されている。
  日本では明治時代に制定された性犯罪に関する制度の継続により、13歳の中学1年生から性行為に同意する能力があるとしている。2020年5月には、性的同意年齢を13歳からとしていた韓国では通信アプリのチャットルームで、脅迫などにより行わせた女性のわいせつな動画や画像を提供して暴利を得た「n番の部屋事件」に中学生とみられる被害者が含まれていたことをきっかけとして年齢を16歳に引き上げた。またフランスも性犯罪事件によって15歳に引きあげられた結果、日本はアメリカ、ドイツ、イギリス、スェーデンなど14~18歳とする各国より最も低い13歳となっていることにより、一層若年層に自己を守る知識が不可欠となっている。
  教師や塾講師など信頼する身近な大人から猥褻行為や性暴力を受ける事件もあり、被害者は自傷行為に陥ったり成長してからその意味を理解して深く傷つく場合がある[25]。身近な人物からの被害は3割に上り、フランスではどのような相手でも体の大切な部分を触らせない教育の重要性を説いている。
  また、2017年に性犯罪を厳罰化する刑法改正案が可決成立し、第177条の強姦罪が「強制性交等罪」に改められ、被害者を女性に限っていた強姦および準強姦の罰則規定が、男性にも等しく適用となった。日本の未成年男子で何らかの性被害を受けたことがある人は高校生男子で5~10人に1人、レイプ被害率は1.5%となっているとの統計もあり、男児だから性被害に合わないというわけではなく、自身を恥じ入りトラウマとなって精神的にも被害を受けるケースもあるため男女共に性犯罪を防ぐ知識と犯罪に合ってしまった時のケアが大切となる。

  男女交際の場においても、束縛や性行為の強要などが起こるデートDV危険性がある。現在、児童ポルノ被害の約4割は「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」で、児童がだまされたり、脅されたりして自分の裸体を撮影させられた上、メール等で送らされる被害が増加している。男女問わず銭湯やトイレ、階段などで盗撮される被害も起こっている。一度インターネットで拡散された画像や動画は完全に回収することはできず、性的画像を提供したり撮影されたことから取り返しがつかない被害を長期に被る危険性も現代に生きる子どもには不可欠な知識となっている。
  また、電車などの公共の場においても、被害者は18歳以下の場合が71・5%で中学生以上の通学時だけでなく、性的知識が不十分な幼児や小学生がターゲットとなっている痴漢という性的虐待が、その多くが既婚男性が34.7%を占める4大卒のサラリーマンにより行われている。痴漢は再犯率が高く、加害者が反復する性的逸脱行動の結果、性依存症に陥っている。被害者は公共交通機関利用ができなくなったり、うつ病を発症するなどPTSDに苦しみ、自傷行為や自殺を考えるほど追い込まれる人もいる。電車内での痴漢行為という性犯罪に日常的にさらされた被害者の女子中学が自殺念慮を抱きリストカットした事例もある。加害者は大人しそうで泣き寝入りしそうな人物を狙い、「制服は従順の象徴である」判断して学生への加害行為に及んでいる。
  フランスにおいても、虐待は貧しい家庭に起こりがちとの考えを覆すように、著名な法律家や建築家、政治家がその子供から性的虐待が告発されることが相次ぎ社会問題となった。また前妻の連れ子に6人の子どもを産ませ、それを村ぐるみで容認していた事件も起こっている。フランスでは2022年度から、小学校と中学校で計2回、医師の聞き取りによる近親姦予防診察が義務付けられると発表されている。欧米では、10歳の子ども30人中平均1人から2人は近親姦の被害者がいるとの推計もある。
  また、人間における子供への性犯罪の前に加害者が子供の孤独や承認欲求につけこみ被害者との親密な関係性を築き、性犯罪に及ぶ準備の懐柔行為を示すことがある。グルーミングはツイッターやTikTokなどSNSを通じて行われることがある。2021年の性犯罪の刑法改正審議会では性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設することについての審議が明記された。
心理的虐待
  言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子供の目の前で家族に対して暴力をふるう(DV)など。児童に対して心理的な後遺症が残るほどの言葉の暴力、極端な恫喝を行うこと、兄弟間の極度な差別的扱い、また、無視しつづけること、存在自体を根本から否定すること、自尊心を踏みにじりつづける行為などが含まれ、虐待の根源とされる。離婚、別居など両親の不和家庭(環境)に多く見られる監護親によって別居親の存在を否定、削除させる事、これすなわち子どもにとって生命の誕生をも否定する事となり心理的成長阻害の代表的例となる。母親が子供に対して連日のように「あんたさえいなければ私は再婚できる。あんたさえ消えてくれれば。」「あんたの父親(母親)はろくな人間じゃない。」などと言い続けることもこれに該当する。洗脳虐待も含まれる。
育児放棄(「ネグレクト」も参照)
  児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食、もしくは長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。「長期間に渡って食事を与えない」の他にも、「病気になっても病院に受診させない」、「乳幼児を暑い日差しの当たる車内への放置」、「習慣的に下着などを不潔なまま長期間 放置する」、「(幼稚園、保育園、保育所、学校への)通学を行わせない」などが含まれる。保護者による治療拒否は特に医療ネグレクトと呼ばれ、その結果が児童の生命・身体に重大な影響をおよぼす場合には親権停止の審判などの対象になるとされる。
歴史
  1874年4月、アメリカニューヨークにおけるメアリ・エレン・ウィルソン事件により、ニューヨーク児童虐待防止協会が設立された。後年には、イギリス1884年に、民間組織として児童虐待防止協会 (Society for Prevention for Cruelty to Children) が設立され、その後は全国児童虐待防止協会 (National Society for Prevention of Cruelty to Children) となる。1960年、フランス歴史学者フィリップ・アリエスが『〈子供〉の誕生』(こどものたんじょう、フランス語: L'Enfant et la Vie familiale sous l' Ancien Regime)を発表した。1962年に、ブレスラウ生まれのユダヤドイツ人で、ナチズムの勃興と共に米国に亡命し、米国で小児科医となったヘンリー・ケンプは、1962年に、「被殴打児症候群」を報告した。
原因
  学説によれば、保護者による児童虐待は、いくつかの要因によって起きる複雑な現象である[47]とされている。児童虐待の受けやすさを増す要因をリスク要因、受けやすさを減らす要因を保護要因といい、リスク要因の一部があってもそれだけで児童虐待が起きているとの判断は必ずしも下せないが、要因が重なることにより虐待の発生リスクが高まるといわれている。
  赤ん坊が泣き止まない、夜尿、おもらし、うんちもらし、食べない、隠れ食い、盗み食い、親を睨み返すなどのことがきっかけで親の中にある子どものイメージと異なる行動を子供がしたとき、親に怒りが生じて暴力に向かうきっかけのできごととなる。親が怒りの感情を持ちやすい、または怒りをコントロールできない。また、特定の子どもだけが怒りの対象となることがある。
  東京都の一時保護後の退所先別集計では、平成30年度は全2,196件中、帰宅が1,360件で最多、次いで児童福祉施設入所302件、他の児童相談所・機関に移送543件となっていて一時保護の後に帰宅するケースが多数のため、「親を責めない」という原則のもとに、親の治療の援助をすることが肝要となる。

  厚生労働省科学研究H20~21年度「子ども虐待問題と被虐待児の自立過程における複合的困難の構造と社会的支援のあり方に関する実証的研究」(研究代表松本伊智朗)に基く調査は、A県の児童相談所における、5歳、10歳、14~15歳の平成15年度虐待受理ケース129の記録を研究メンバーが児童票より転記し、個人情報の保護が可能な119例を整理した上で分析するという方法をとったが、虐待事例における障がいをもつ子どもの比率と、養育者自身が障がいを有している割合が高く、本調査の119事例の中で、56例が当該児童に障がいがあり、48例はきょうだいに障がいがある。当該児童ときょうだいの両方に障がいがある事例は33であり、きょうだいにのみ障がいがあるのは15例である。つまり、71事例は、障がいを持つ子どもを養育していることになる。さらに、養育者が知的障がい、発達障がい、その他の疾病・障がいがある(精神障がいを除く)事例は40に上り、子どもの障がいとも重複する。家族に障がい児者がいない事例は119例中26となり、障がいの偏在化が明らかであった。
  このほか、脳神経科学研究センターの親和性社会行動研究チームの研究によると、子どもが死亡するなどした虐待事件で、実名報道された親たちを対象とした調査では幼少期に自身が虐待を受けた、親が不在だった、などの逆境体験がある人は58%、精神科通院歴や依存症などのある人は71%。また、90%以上が子育てする環境に大きなストレスを抱えていたことが明らかになった。ただし、この調査結果は虐待を受けた人が必ず虐待を繰り返すという意味ではないと注釈されている。虐待が行われる、または行われやすい親に対し、親子の愛着の回復を目指す行動療法の実施や訪問看護、親同士の交流会といった支援の取り組みも行われている。
  2016年8月には、有名大学を卒業しトラック運転手だった父親による、中学受験を控えていたが成績が上がらなかった小学校六年生の長男への刺殺事件(名古屋小6受験殺人事件)という教育虐待が発生している
個人的要因
  生物学的特性(年齢や性別など)やその他の個人の特性が児童虐待の要因となっている場合がある。
親の側の要因
-養育者におけるリスク要因
  ・実子ではなく、連子や養子である事  ・困難を伴った妊娠や合併症を伴う出産  ・子どものころの虐待経験。ただし、虐待の世代間連鎖は30%ほどと言われ、子どもを虐待する親は被虐待経験を持つことが多いが、虐待を受けている子どもが将来必ずしも虐待をするとは限らない  ・子どもの発達に対する無知または非現実的な過度な期待  ・子どもの正常な発達についてよく知らない親は、しつけのつもりで子どもを虐待してしまうことがある。例えば1歳の子どもに排尿管理をさせようとして罰を与えても効果はない。虐待の範囲を知らない親も多い  ・身体的・精神的な健康問題や認知障害の存在  ・アルコールや薬物などへの依存  ・薬物依存は、児童虐待の重要な要因である。米国のある研究によれば、薬物依存が証明された患者では、(多いのは、アルコールコカインヘロインであるが)子どもを虐待する割合が、ずっと高い。また、裁判所が命じたサービスや治療から脱落する割合が高い。別の研究によれば、児童虐待のケースの3分の2以上では、薬物依存の問題を抱えている。この研究は、アルコールと身体的虐待、コカインと性的虐待の関係が深いと報告している  。犯罪行為に巻き込まれている場合  ・社会的に孤立している場合  ・抑うつ感・自己評価の低下・自己不適応感の存在  ・若年であること等による養育スキルの欠乏  。経済状況が困難な場合  ・失業と経済的困窮は、児童虐待の増加と関係している。2009年CBSニュースは、経済不況の時に、米国の児童虐待件数が増加したことを報道している。子どもの世話をあまりしてこなかった父親が、子どもの世話をするようになると、子どものケガが増えるのである
-子どもにおけるリスク要因
  ・望まない妊娠や出産であった場合  ・望まれなかった妊娠で生まれた子どもは、虐待を受けたりネグレクトされたりする割合が、より高い。そして、望まれなかった妊娠では、意図的な妊娠と比較して、虐待的な人間関係である割合が、より高い。望まれなかった妊娠では、妊娠期間中に妊婦が身体的虐待を受けるリスクが、より高く、母の精神衛生が悪化し、母と子の関係の質が悪化する  ・妊娠中に両親の死別または離別があった場合  ・母親の育児不安が大きい、産後うつ病  
多子世帯
-子ども側の要因
  ・よく泣き、なだめにくい、過敏、こだわりが強いなどの「手のかかる子」「育てにくい子」という気質  ・慢性疾患や障害  ・未熟児(低体重児)
関係性要因
  家族や友人など個人の社会的関係性が児童虐待の加害者または被害者となるリスクとなる場合がある。
  子どもの殺害に関する1988年の米国の研究は、非生物学的な親は、生物学的な親に比べて、100倍も多く子どもを殺害すると報告している。非生物学的な親とは、例えば義理の親、同居人、生物学的な親のボーイフレンドガールフレンドである。これについての進化的心理学による説明は、他人の生物学的な子どものために自分の資源を使うことは、繁殖で成功するチャンスを増やすには、良い戦略ではないということである。もっと一般的に言えば、義理の子どもは、虐待を受ける割合が、ずっと高いということである。これはシンデレラ現象と呼ばれている。
  片親に育てられる子どもは虐待を受けやすい。米国の統計によれば、片親家庭の子どもが虐待を受ける率は、子ども1,000人に対して27.3人であり、それは、両親のいる家庭の子どもが虐待を受ける率15.5人の、約2倍である。また米国の高校生1,000人を対象とした調査では、実父と実母のいる家庭で育った子どもが虐待を受ける割合が、3.2%であったのに対して、それ以外の形態の家庭で育った子どもが虐待を受ける割合は、18.6%であった。虐待の加害者に最もなりやすいのは、片親の実母である。
関係性要因には下のような要因がある。-・親子間における愛着の欠如等  ・家族に身体的・発達的・精神的な健康問題が存在する場合  ・家庭崩壊の存在等  ・家庭内暴力の存在等  ・地域内で孤立している場合
地域的要因
  近隣・学校・職場など社会的関係を生じる環境がリスクとなる場合がある。地域的要因には下のような要因がある。
   ・家族等を支援する制度の欠如  ・失業率の上昇  ・近隣住民が流動的な地域である場合
社会的要因
  社会規範・経済格差・セーフティネットの欠落など社会基盤の状態がリスクとなる場合がある。社会的要因には下のような要因がある。
   ・低い生活水準や社会経済上の不平等・不安定を引き起こすような政策  ・対人暴力に対する社会的・文化的規範
  平成15年子ども家庭総合研究事業「児童相談所が対応する虐待家族の特性分析」調査では、3都道府県17児童相談所において14年度中に一時保護され一定の方針が立った501ケースの家庭を調べている。経済状況についての分析では、「生活保護世帯」が19%,「市町村民税非課税」「所得税非課税」世帯が併せて26%となっていた。併せると半数近くとなり,日本全体の有子世帯に比べると,虐待ケースの家庭は低所得世帯に偏っている結果となった。特に母子家庭で見ると生活保護率が45.9%で父子家庭も20.8%とひとり親家庭において生活保護率が高くなっている。また虐待問題を抱える家庭において、ひとり親家庭の割合はきわめて高い。虐待種別ではひとり親家庭でのネグレクトが多い傾向が出ている。
  経済状況と虐待とも関連が深く、2006年の報告では虐待のために児童養護施設に入所した100例を調査したうち、親の精神障害、ひとり親家庭、生活保護家庭が3割以上を占めており、無所得も2割あった。
影響
  児童虐待は、以下の疾患の原因となる。- ・暴力行為の加害者もしくは被害者になる  ・不安や自己破壊的行動  ・抑うつ  ・喫煙  ・肥満  ・ハイリスクな性的行動  ・望まない妊娠  ・アルコール乱用、薬物乱用
  児童虐待は子どもに生命上の危険や身体的な後遺症を生じさせるおそれがある[48]。また、人生の早期に親又は親に代わる保護者などから心的外傷やトラウマがもたらされるため、その後の人生に深刻な影響を与えるおそれがある(複合型心的外傷後ストレス障害PTSD
  2015年11月から2016年1月時点での少年院の在院者は、被虐待経験のある人が60%、家族以外の第三者からの被虐待経験者は約80%と高率だった。特に女子は被虐待経験者が約70%、第三者からの被虐待経験者は90%となっていてその後の人生に影を落としている可能性がある。
  令和元年度犯罪白書によると、平成30年少年院入所者のうち、男子は33.7%女子は51.4%が被虐待経験を持っており、多くは身体的虐待を受けた経験がある。ただし、被虐待経験の有無・内容は,入院段階における少年院入院者自身の申告等により把握することのできたものに限られている点に留意する必要があるとされている。
  望まない妊娠においては、高校生など学生で妊娠に至った場合、学校は退学処分になり将来の夢が阻まれるほか、2017年には東京都台東区で女子高校生が妊娠が分かり親からの叱責などを恐れ交際相手に嘱託殺人させた事件や千葉市では2018年に交際相手(16)が出産した新生児の遺体を自宅に隠した少年(17)の事件、2017年には静岡市で女子大生(20)が乳児遺体遺棄で逮捕される事件が起こっている。
厚生労働省の虐待死の統計では、その被害者は半数以上が0歳であり、児童虐待死が最も多いのは「0歳0ヶ月0日」となっている。
診断
  子どもが、あざ(手の形をした)、噛み傷、裂傷、やけど、凍傷、骨折、頭蓋骨骨折、眼科外傷、脊髄損傷、内臓損傷、口腔内損傷、適切な説明の無い怪我、肛門や性器のあざ、性感染症などの場合、これらは身体的虐待の可能性を検討する。
  また、子供の行動や感情が年齢相応に発達しておらず、また神経発達症注意欠陥多動性障害自閉症スペクトラム障害など)ではない場合、これらは虐待の可能性を検討する。
  また、子どもが重度で継続した感染(疥癬アタマジラミなど)を持っていた場合、適切でない衣装や靴をずっと着用していた場合、栄養失調と思われる場合、これらはネグレクトの可能性を検討する
予防
  多くの国で行政組織や民間団体などが対策を講じている。WHOの「暴力と外傷の予防」部門の Mikton は、児童虐待予防のための対策の効果を、先行する諸研究を検討して評価した。その結果、家庭訪問親への教育、頭部外傷予防、多方面の介入には、児童虐待を減らす効果が認められた。また、家庭訪問、親への教育、性的虐待予防には、児童虐待のリスクを減らす効果が認められた。
  虐待を受けていた者が子供に虐待をすることを避けるための自助グループや、虐待をする親を対象としたペアレンツ・プログラムの実施と、当事者・ほかの家族、支援者が一堂に会する会議で解決策を当事者自身が決め、支援者がその進捗を見守る制度を運営するNPOがある。
  兵庫県明石市では、児童の安否確認のために、子どもと会えない、会わせてもらえないような場合は、児童手当の振り込みを停止し、子どもを連れてきてくれたら手渡しするようにしている。
  なお、虐待の予防という観点から、児童虐待より広い概念である「大人の子どもに対する不適切な関わり」という意味のマルトリートメントという概念が用いられることもある。
対策
  マルトリートメント(子どもに対する不適切な関わり)に対する社会的介入のレベルはグレーゾーン、イエローゾーン、レッドゾーンの3つに分類される。
   ・グレーゾーン(要観察、要支援、啓発・教育) - 虐待までは至らないものの不適切な養育にあたる状態・・・育児指導、妊婦健診、出産前小児保健指導(プレネイタルビジット)、新生児訪問、乳幼児健診などによる支援を通じて事態の深刻化を回避する段階である。  ・イエローゾーン(要支援) - 子どもを継続的に見守り、養育者への支援を行う必要がある状態  ・レッドゾーン(要保護) - 子どもの命や安全を確保するため保護が必要とされる状態

  虐待を受ける子供が発達の遅れや衝動的な行動をすることで親は疲弊し、怒りをコントロールできないことがある。また虐待の親子連鎖がある場合も報道されている。また保護したあとの受け皿がなく、保護は子どもが親に愛着を持っている場合には子の発達にマイナスになる恐れも元児童相談所職員は指摘する。虐待後の対応には、親の回復に向けたケアの受講を命じ、家族再統合の基準を作って審判することを裁判所が行うべきだとの意見もある。
  虐待を行う保護者は自身の成育歴及び信念から、自らの行為を「躾」だと信じて疑わないことがある。カウンセリングを継続的に受けることにより、虐待された側の心理を理解していくことがあるが加害者更生プログラムの実施体制は十分でないことが指摘されている。
  虐待者は虐待をしている自覚がなく、児童相談所でも虐待を否定し続け認める方が少数である。
  2020年4月には神奈川県警に殺人など凶悪事件を捜査する捜査1課に児童虐待専従捜査班を新設した。
援助
  児童虐待の事例への介入として、オープンダイアローグの手法を用いることが試行されている。報告されているメリットは以下のようなものがある。
   1支援者の肩の力が抜け、柔軟になれる。  2問題をめぐる矛盾した考え(声)を表現でき、透明性が高まる。  3当事者の発言が増える。
  この手法を用いることで、被害者・加害者・支援者、全体にとって有益な回復をもたらす対話の場面を、より積極的に作り出す効果が期待できる。ただし、暴力という問題の深刻さから、安全な対話の場を設定することの工夫や準備が必要である。
  虐待を受けている子どもは恐怖または愛情から親をかばうことがある。自分から虐待を受けたことを訴えることは稀であり、虐待について確認しても、否定したり、一旦は認めても後からその事実を取り消したりする子どももいる。虐待を受けているという認識を持てないでいる子どもも少なくなく、虐待を受けた子どもの多くは、虐待を受けたのは自分が悪かったせいだと認識している。このため、支援者から自宅に戻りたいか尋ねられると帰ることを希望し、一時保護が解除され結果死亡に至るケースもある。
  大阪府では未受診や飛び込みによる出産を分析し、受診妊娠と児童虐待死亡事例の背景因子が非常に類似していることを確認し、未受診妊娠で出生した子どもたちがその後児童虐待を受ける事例が多数報告されたことを把握した。これにより大阪では未受診妊娠対策医療機関を中心に実施されている。
  「虐待を認めない者(行為も虐待も認めない者、行為は認めるが虐待を認めない者)」の割合は、男性が約62%、女性が約48%で、男性の割合が約14%高くなっている。「虐待を認めない者」は援助を求めない。しかし、虐待者の中には「虐待は認めても援助を求めない者」も存在し、「援助を求めていない虐待者」の割合は、男性で81.1%、女性で63.4%となっている。女性虐待者へのプログラムはあっても、男性虐待者へは「東京都児童相談センター」と「大阪市児相」「茨城中央児相」が男性向けのグループ療法を開始しているが、男性向けプログラムを用いて実施しているのはこの3児相のみと指摘されている。
  2008年4月から6月までの全国の児童相談所が取り扱った約10,000件のケースについて、「児童虐待相談のケース分析等に関する調査研究」として全国児童相談所長会が2009年に報告書を作成している。その調査報告の中で、虐待者における虐待の認知状況についての項目では、行為も虐待も認めないものが17.3%、行為は認めるが言い逃れにより虐待を認めないものが15.7%、行為は認めるが信条によるとして虐待を認めないものが19.3%、虐待を認めて援助を求めているものが30.4%となっていた。
  繰り返しDV、虐待を行う加害者を更生させる支援についての重要性を支援NPO団体の理事長は述べている。
  2019年6月公布の児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律により、令和4年度までに「児童の保護及び支援に当たって、児童の意見を聴く機会及び児童が自ら意見を述べることができる機会の確保、当該機会における児童を支援する仕組みの構築、児童の権利を擁護する仕組みの構築その他の児童の意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されるための措置の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるもの」とされている。三重県では子どものアドボケイト(代弁者)制度を試験導入し一時保護所でも子どもの意見を聞く取り組みを行った


虐待
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  虐待(英:abuse, maltreatment)は、繰り返しあるいは習慣的に、暴力をふるったり、冷酷・冷淡な接し方をすることである。具体的な内容は様々で、肉体的暴力をふるう、言葉による暴力をふるう(暴言侮辱など)、いやがらせをする、無視をする、等の行為を繰り返し行うことをいう。

概要
  児童虐待性的虐待など、虐待は、その対象も行為主も様々である。例えば家庭では、を虐待する、父親が子を虐待する、妻が夫を虐待する、母親を虐待する、夫婦で子を虐待する、成人している子が高齢者となった親を虐待する、などということが起きている[2]職場では、雇用主経営者)が従業員を、また先輩格の従業員が後輩格の従業員を虐待することがある。刑務所では、看守囚人を虐待することがある。警官被疑者に対して、「取り調べ」と称して虐待を行うこともある。また戦時には、(たとえ戦争捕虜であっても虐待してはならないことが国際法で定められているにもかかわらず)捕虜を虐待するなどということもしばしば起きている。また、近年ではアメリカ合衆国が、非戦闘員の多くのイスラム教徒をあえて意図的にアメリカ国境外のアブグレイブ収容所に収容することで国内法の適用を免れ、かなり組織的に虐待を行っていたこと(アブグレイブ刑務所における捕虜虐待)も明らかになっている。
  行為者は、虐待しているという自覚がある場合もあるが、自覚が無いことも多い。例えば、虐待を行っている親には自覚が無いことも多く、勝手に、「(しつけ)をしている」と思っていること(勘違いしていること)もしばしばである。
  虐待を受けているかもしれないと感じた子ども、虐待をしてしまっているかもしれないと感じた親、虐待の可能性のある言動を見聞きした人々は、児童相談所(児童相談所虐待対応ダイヤル:189, )に、ただちに連絡する必要がある。児童相談所では、子どもと親への相談援助活動・子どもの一時保護などを行っている。
虐待行為の分類
  身体的虐待-対象に身体的暴力を加える
  心理的虐待(精神的苦痛)-対象に心理的暴力を加える(精神的苦痛を与える)
  性的虐待-対象にセクハラをしたり、性的暴力を加える
  経済的虐待(金銭的虐待)-対象に金銭を使わせない、無心する・奨学金を勝手に使う(成長した子供・高齢者に多い)
  ネグレクト(養育放棄・無視)-対象に必要な養育を提供しない、小学生ぐらいになるとお金だけ渡すこともある
  教育虐待-子供の意思に反して塾や習い事漬けにする。子供の人生に割り込み、進路を勝手に決める。反発・結果を出せないと虐待する
(※なお、他の虐待においても、躾と称して加えるケースも多い。)

被虐待者への心理的ケア
  まず、加害・被害関係の中に置かれたままの状況下では治療は成立しがたいことを肝に銘じ、被虐待者を安全が保証される場所・関係へと移したうえで、虐待の専門機関と連携を取り続けることが大切である。その際、虐待をされる側は何も悪くなく今後丁寧に支援・ケアをしていくということを心を込めて伝え、被虐待者をサポートする。
  虐待をされたことが原因で、PTSDトラウマの症状が出る場合が多い。(「PTSD#治療」も参照)(「トラウマ#治療」も参照)
  また虐待は、気分障害不安障害、様々なレベルでの解離など、様々な症状をも引き起こす。虐待を長期間受けると、虐待を受けた人の脳が萎縮し取り返しのつかないことが起きる。具体的には、東京福祉専門学校講師石坂わたるによると、落ち着きのなさ、多動、衝動が抑えられないなど、発達障碍児と極めて似た症状や問題行動に苦しむ子どももいる。治療については、「うつ病#治療」・「不安障害#治療」・「解離性障害#治療」を参照。
  さらに、虐待をされるという体験は、強い恐怖や不安、怒りや抑うつ、無力感やあきらめ、孤立無援感などの否定的な感情をもたらすほか、自責感や罪悪感、自尊感情や自己評価の低下、安心感や信頼感の喪失など、否定的な認知を強める。また、対人関係、学習能力、日常生活における問題解決能力、感情調整や行動制御能力などにことごとく影響を及ぼし、心身の健全な発達を阻害する。これらへの心理的ケアについては、「心理療法の一覧」を参照。
代表的な虐待事件(児童虐待については、児童虐待事件の一覧を参照。)
  ・メアリ・エレン・ウィルソン事件(1874年発覚)
  ・児童虐待防止法やニューヨーク児童虐待防止協会Gerry Society)が創立、児童を虐待から救う活動が広がるきっかけとなった。
  ・ローマ・カトリック教会の聖職者らによる性的虐待事件(2002年発覚)
  ・北九州監禁殺人事件(2002年発覚)
  ・福岡猫虐待事件(2002年)
  ・匿名掲示板2ちゃんねるにおける動物虐待写真掲載事件。
  ・岸和田中学生虐待事件(2004年)
  ・イラク戦争においてアブグレイブ刑務所における捕虜虐待(2004年発覚)
  ・大相撲時津風部屋力士暴行死事件(2007年発覚)
  ・ビール瓶金属バットを用いた虐待(集団リンチ)が行われ、被害少年が死に至らしめられた。
  ・尼崎事件(2011年発覚)


殺害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


  殺害とは動物を死亡させること。特に人間を死亡させることを殺人と表現する

概要
  生命は、その生化学的な機能を有し、また生物的な活動を持って「生きている」と認識される。殺害は、この生命に働き掛けて、その機能を破壊するなどして、生命としての活動を停止させる行為である。
  この行為によって発生するという状態への変化は、不可逆である。このため殺す対象によっては、取り返しのつかない犯罪行為ともみなされる。しかしその一方で、一次生産者ではない・消費者である種類の生物は、多かれ少なかれ他の生物の犠牲の上に成り立っている(→捕食)。これを指して(ごう)という概念もある。
  なお、が様々な意味を内包しているように、人間社会でも単に生物的側面から殺害するのと、社会的に殺害するのとでは大きな違いがある。(詳細は「社会的動物」を参照)
人間社会での対象による扱いの違い
  人間社会では、殺す対象や状況によって生じる結果は異なる。
(詳細は「殺人」を参照)
  人を殺害することを「殺人」と表現する。ほとんどの人間社会では忌避され、また極めて重い犯罪である。しかしこれは平和な時の社会において、同等の存在である「誰か」を殺害した時に適用される(→人権)。
  ただ、時代に拠ってや地域に拠っては、人間観がそれぞれに異なることもあり、生物学的なヒトであっても殺害が問題視されない場合もある。例えば奴隷制のあるところでは、それら奴隷は家畜とみなされ、その生命を(処罰などで)奪うことは所有者の権利とされたケースも少なくない。また人工妊娠中絶では、「どの段階から人間と呼べるのか」という問題にも絡んで21世紀初頭の現代においても議論の的である。なお歴史を紐解けば、口減らしなど諸般の事情(主に貧困飢餓)でまだ生産力の少ない子供や、逆に衰えていくことでやがて負担となる高齢者を、口減らしとして積極的に殺害したり、あるいはいずれ死ぬように仕向けるなどの対応が図られたケースも見出される。子殺しうばすてやまなどを参照。

  一方、社会的状況から特定の集団に属する相手側を殺害することがむしろ積極的に求められる場合もある。顕著な例として戦争の際にを殺害する事は、味方の社会から褒賞を持って報いられる。また、社会にとって極めて有害な活動を持って被害を与える対象(人)を殺害した場合に、その対象の犯した罪によって、殺人の罪は相殺される場合もある。特に顕著な例は、相手が自身を殺害しようという意図で攻撃してきた場合、自身の生命を守るために、相手の命を奪う行為が挙げられる(→正当防衛)。防衛か、それとも他の理由に拠る攻撃かによる事情は、客観的にその行為を評価する際において、大きな差が有ると考えられている。このほか、緊急避難の考え方では自身が生存するために他者を見殺しにしたり、あるいは他者の生存しようとする行動を妨害することで結果的に死に至らしめる「消極的な殺害行為」が結果的に容認される場合もある。こういった殺人の正当化は、常に議論の的である。社会が個人の行動(犯罪)を問題視し排除する機能として、死刑のような「刑罰として殺害すること」という社会制度もあり、こちらも議論の的となっている。
  なお大抵の動物では、パニックを起こすなどして、多少自らを傷つける行動を取る事は有っても、それはむしろ自身の生存のための活動であるが、人間は自らを殺害する事もできる数少ない動物である。人間が自らを殺害する事を自殺という。自殺は多くの場合、何かに絶望する事によって引き起こされる。
儀礼的な殺し
  古くは宗教などとの関連において、儀礼的に人を殺す場合があった。生け贄人柱殉死などその目的や様式によって様々に名付けられる。
  また、心理学では母親殺し父親殺しに重要な意味を持たせる考えがある。ジークムント・フロイトは息子による父親殺しをエディプスコンプレックスとして重視し、カール・グスタフ・ユングは息子による母親殺しを母親から独立するための男性にとって重要な発達段階と考えた。なおこの心理学上の「殺害」は比喩的な意味を含み、その社会的な機能を主観の中で不要とする事もさす。
動物・家畜
  野生動物狩猟で殺害する行為は捕食の延長として扱われ、家畜を殺す行為は屠殺(とさつ)という。家畜は人間の社会あるいは個人の所有物(→所有権)であるから、その生命を奪い、その肉体を食べるなり、または皮革などの部位を得ることは、多くの社会で容認されている。また捕食に関しても雑食であるとはいえ消費者であるヒトが作った社会では、食べるという基本的な生命活動であることから、その動物に特別の価値が無い限りにおいて容認される。
  しかしこれらの生命は、その野生動物や家畜の所有物である。これを生存のために奪う事は「業」であるとはいえ、それらの生物から奪い去る事に他ならない。このため多くの社会では、道徳人道の面で、それらの動物が残した肉体を十二分に活用する事で、その動物の存在に感謝するという文化を生んでいる。
  他方では、この生命を捕食や皮革などの部位を得るためではなく、娯楽や、単なる憂さ晴らしのために虐待し奪う事を忌避する文化も見られる。娯楽や憂さ晴らしといった理由に拠る殺害行為では、他の犯罪行為に発展するとみる危惧もあり、動物虐待として罰せられる地域も多い。ただこれらは文化的要素にも関連して、一部地域にて食用とされる特定の動物に対する扱いが、他地域で問題視されるケースを含む(→捕鯨犬食文化など)
  なお、不要になったり生存させることで人間の側に害が及ぶ、あるいはまだ生きているがそこから利益が得られない、ないし致命的な状態であるため苦しませるのにはしのびないなど、諸々の事情から動物を殺害してしまうことを指して殺処分という。いわゆる動物実験にて危険な伝染病に人為的に感染させその反応を見るなどした観察対象としての実験動物や、所定の家畜に伝染し根治不能な病気に罹患した動物は、伝染病蔓延の予防という観点から処分されることもある。なおこういった「殺害して処分してしまうこと」に関しては、前述の動物虐待行為に対する忌避感にも絡んで、殺害に際しても不要に苦しませることを回避しようとする活動も見られる。ことペットコンパニオンアニマルなど、人間と深い感情的かかわりのある動物などでは、老衰や治療不能な末期症状にあるものを、安楽死のような形でその命を失わせる場合も見られる。
細菌などの微生物や有害昆虫など
  人間の社会では、人間にとって有害な他の生物を排除する事で、更に発展できると考えられている。特に病気を発生させる病原体や、それを媒介する生物に対する攻撃は、被害の程度によっては熾烈なものともなる。また、それらは正当化されることが多いが、生態系の破壊などの理由で問題視されるケースもある。
  これらの活動は、細菌類やウイルスにおいては殺菌昆虫などの虫に対しては殺虫とも呼び、殺虫の場合はこれを殺す専用の薬剤として、殺虫剤がある。なおこれらの殺菌や殺虫に用いられる薬剤はでもあり、種類と量によっては人間でも中毒を起こすほか、環境の中で大量に使用すれば生態系を破壊するケースもあり、『沈黙の春』など警告が成されている。
自然界における生物同士の殺し
  前述のように、生物は生産者あるいは独立栄養生物でない限りは、他の生物あるいはその一部を食べることで自分の生命活動を維持している。そのために他の生物を殺すことを一般的な意味で捕食という。
「食べる」の種類
  相手を殺さずに栄養を摂取するものもある。たとえば相手の生物の体の一部のみを摂取する場合はその個体の命を奪うことは直接には行わない。植食動物は大抵はそうである。また、寄生共生吸血などもそのような方法の一つである。
  老廃物や死体を喰うのも一つの方法であるが、この場合、肉眼では確認できないが、実はそこに生活する微生物を捕食している例が少なくない。ハエにたかるが、一説ではこの糞表面に繁殖している細菌を捕食しているとも見られている。
捕食以外の殺害
  栄養摂取以外の目的で他者を殺す場合もある。たとえば同種内で争いがある場合や、他種から攻撃された場合である。しかし、多くの場合には相手を殺すには至らない。稀な例としてキリンライオンを蹴殺したりといったケースも見られるが、これはどちらかというとキリンの自己防衛中の偶発的事故に過ぎないとみられる。
  自己防衛では多くの場合に、その目的を達するのに相手を殺す必要がないこと、相手を殺すためには、相手を逃亡させるより多くの労力と危険があることから、それに至らずに決着をつけられるケースも多い。また攻撃して撃退される捕食側も、殺されるまでその場に踏みとどまるだけのリスクを負う意味が無く、攻撃して反撃されにくい個体(幼体や病気・高齢など)を狙う様式も発達している。
  なお生物には、逃避威嚇の行動や儀礼的な攻撃の様式が発達したと見られる場合もあるが、社会性昆虫では個体を犠牲にしても群れを守る行動が発達する。この場合には、防衛側・攻撃側の双方で、相手勢力の行動が継続不能になるまで続けられるため、個体間では相手を殺すまで戦う例が多く見られる。
  この「逃避 / 威嚇 / 儀礼的攻撃」と「相手勢力を殲滅する」という二系統の様式は、しばしば人間の社会でも戦争という形で見出される。小規模な合戦や、それ未満のレベルでは双方の大将の生死ないし双方の政治的やり取りによって勝敗が決したことから前者的な戦争の様式であったが、古代中国や第一次世界大戦以降の戦争では、拠り巨視的なレベルで勝敗が決するため、主に後者の戦争の様式が顕著である。
その他の様式
  他に、親による子殺し共食いなどには、生物の行動様式によってより特殊な意味があるとされる例もある。多くでは観察と実験、あるいは社会生物学などでは数理的にその様式が解き明かされているが、依然不明な行動もまま観測されており、今後の研究の待たれるところである。







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