一帯一路


2019.5.13-産経新聞-https://www.sankei.com/premium/news/190513/prm1905130005-n1.html
【ASEAN見聞録】中国「一帯一路」事業の縮小に成功 マハティール首相の老練手腕

(シンガポール 森浩)
世界各地で「債務のわな」との批判を受ける中国の巨大経済圏構想「一帯一路」。事業を中国に明け渡す例も出る中、マレーシアで関連鉄道事業の
   見直しが発表された。立役者となったのが昨年の総選挙で再任したマハティール首相(93)だ。いったん計画中止を表明して交渉を重ね、事業規模の
   3割圧縮を実現。中国に事業縮小をのませた背景にはベテラン政治家の駆け引きがあった。

一帯一路の根幹事業…「マラッカ・ジレンマ」解消が狙い
   (当初案は)われわれにとってあまりに不公平だ」
 マハティール氏は4月15日の記者会見でこう説明し、中国との契約が負担となることを主張した。
   事業規模縮小が決まった「マレーシア東海岸鉄道」は、マラッカ海峡に隣接するマレー半島西部クラン港から東部クアンタン港を通り、海岸線を北上して
     タイ国境付近トゥンパットまでを結ぶ大規模鉄道計画だ。
 東海岸鉄道は一帯一路の中でも中国にとって重要な意味を持つ。マラッカ海峡は中国の輸入原油の8割が通過しており、米軍などに封鎖された場合、
     エネルギー政策は大打撃を受けることになる。その戦略的脆弱(ぜいじゃく)性は「マラッカ・ジレンマ」と呼ばれ、中国政府にとって解消は急務だ。
 東海岸鉄道が完成すれば、中国は南シナ海からマラッカ海峡の最狭部を通らずにインド洋へと抜けるルートを得ることになり、ジレンマ解消に近づく。
     「米海軍の一大拠点であるシンガポールを迂回(うかい)できる思惑もある。東海岸鉄道は一帯一路の根幹をなす事業だ」と外交筋は分析する。
ちらついた「スリランカの悲劇」
 中国肝いりの事業だが、他の国での一帯一路事業と同じく、契約には不透明さと不公平感が漂っていた。


2019.4.12-NewSpere-(https://newsphere.jp/world-report/20190423-2/)
中国が大幅譲歩で継続、マレーシア鉄道計画 「一帯一路」のジレンマ

マレーシアと中国は12日、建設費用を5800億円圧縮することで、マレーシア東海岸鉄道の建設プロジェクトを再開することで合意した。このプロジェクトは、今年1月にマレーシアのアズミン経済相が、国家財政を圧迫するとして同計画を中止したことから、今回事実上、中国が大幅に妥協する形となった。マレーシアのマハティール首相は15日、建設プロジェクトの再開を発表し、完成時期が当初計画の2年半遅れの2026年末になるとの見通しを明らかにした。

一帯一路にとってのマレー半島
 中国が妥協した理由はどこにあるのか。まず、一帯一路を進める上で、マレー半島は北京にとって極めて重要だ。東海岸鉄道計画は、東海岸のクアンタン港と西海岸のクラン港を結ぶものだが、これは南シナ海とインド洋を繋ぐことを意味する。中国東部沿岸とインド洋、遠くは中東とアフリカとの海上貿易を発展させるには、マレー半島における影響力を高めることが重要となる。また、マラッカ海峡の通過は、費用や日数が掛かるだけでなく、世界有数の海賊出没地帯でもあるので、マレー半島を開拓する意義は極めて大きい。中国にとっては、建設費用を5800億円圧縮しても両海を横断する道がほしいのかもしれない。





「トランプ大統領のもと、米国が世界経済でリーダーシップを発揮しなくなってきているが、そのリーダーシップの空白を埋めようとしているのが中国の習近平国家主席である。彼が提唱する『一帯一路』構想の国際会議には、約30ヵ国の国家主席、IMF、世界銀行、国連のトップなどが集まった」

このように始まるのは英紙「フィナンシャル・タイムズ」の社説だ。

同紙は、中国が世界中で大量の道路、鉄道、港湾、空港を建設しようとする「一帯一路」構想について、「世界経済に貢献する真のポテンシャルがある」と評価する。

だが、中国の狙いが単にアジア地域で政治力を増すものであるのならば、「貸し付けた資金が、生産的に使われる可能性は低くなる」とも指摘。世界経済を回復させるプロジェクトにはならないかもしれない、と懸念も述べた。

同様に、この巨大インフラ投資計画のリスクについて触れる報道は多い。たとえばフランスの三大日刊紙だ。「フィガロ」は、「地域全体のインフラ整備費用は、中国だけではまかなえないだろう。中国の外貨準備高は急激に減少し、2030年までに1兆7000億ドルと見積もられる」と書く。

「ル・モンド」も、計画の計画合理性自体が怪しいとして、こう述べる。

「融資する中国の金融機関にとって、融資に見合った見返りは期待できないだろう。中央アジアでは投資のだいたい30%が損失、パキスタンでは80%が損失だと見込まれていると、中国政府関係者も認めている。パキスタンへの投資は、中国のインド洋へのアクセスを可能にするものだが、そもそも実現が専門家から疑問視されているのだ」

さらに「リベラシオン」は、以下のように関係諸国の不安にまで踏み込んで分析している。

「パートナーの国には、財政的に信頼できなかったり、政治的に不安定だったりする国が少なくなく、赤字と未完成の計画だけが残る危険は少なくない。また、中国は『ウィンウィン』の関係をうたうが、小国は中国が自国の資源に手をつけることだけが目的ではないかという警戒感も存在する。国によっては、中国が完成したインフラを自らの軍事目的に使用するのではないかという危惧も持っている」

一方、英誌「エコノミスト」は、これらの疑義について触れながらも、「この構想が破綻すると見込むのは、間違いかもしれない」として、このように書く。

「習近平は、この構想を強力に推進してきたので、いまさらやめることはできないだろう。また、中国が抱える多くの経済問題を解決するためにも、この構想は必要だ。アジア諸国も、インフラの整備を熱望している。一帯一路構想には問題が山積みだが、習近平は、この構想を引き続き推進していく決意である」

「ブルームバーグ」も、計画のスケールを小さくしていけば、「目玉のプロジェクトも減るが、そうすることで『一帯一路』構想も、中国も、より堅実になっていける」と指摘。アジアインフラ投資銀行(AIIB)同様に、厳格な審査基準を設ければ展望が開けるとする。 

実際に「一帯一路」に関係する国ではどのような報道が出ているのか。オーストラリア紙「オーストレイリアン・ファイナンシャル・レヴュー」は、計画のリスクを承知の上で、「私たちは、この構想を両手を広げて受け入れ、積極的に関与していくべき」として、以下のように積極的な論を展開する。

「ウィンウィンの結果を得ることは不可能ではない。中国は、世界経済のリーダー役に慣れていない。中国の指導者は、世界の舞台でどのように振る舞うべきなのかを学びはじめたばかりだ。その点では、いまの中国は、20世紀初頭の米国に似ている。

中国の政策立案者のなかには、自国のためだけでなく、世界経済のためになりたいと考えている人が少なくない。そうした中国の政策立案者に何をすればいいのかを教えることこそ、いま世界各国がすべきことである」

逆に厳しく批判を浴びせているのは、インド誌「アウトルック」だ。同紙は中国が口先では平和目的を語りながら、実際には軍事的な野望を隠さないことを厳しく批判している。

だが、単に「一帯一路」を拒否するだけでは先が開けない。どうすればいいのか、日本にも言及する同誌の提言を以下に引用しておこう。

「インドは、もっとポジティブなメッセージを発信していかなければならない。インドには、『一帯一路』構想に対抗できる構想を推し進めることはできないが、『一帯一路』に関してインドと近い考えを持つ日本などと協力して、アジア諸国やインド洋の島国のインフラを整備していくことは可能だ。

中国の『一帯一路』構想を帝国主義的だと感じる国は、ほかにも出てくるはずだ。そんなとき、インドが真に協調的な選択肢を用意することができれば、中国の構想からほかの国々を引き離していくことができるだろう」





2019.4.30
飯山 辰之介(バンコク市局長)
一帯一路は債務のわな払しょくに懸命な中国日本には好機
越えられるか「バンカブル」の壁
(https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/042600306/?P=2)

4月25日から27日にかけて、中国の首都北京で経済圏構想「一帯一路」の国際協力フォーラムが開かれ、150カ国以上の代表が集った。新華社通信によれば、
     このフォーラムの開催中、中国は640億ドル(約7兆1000億円)を超える規模のプロジェクトについて合意したという。さらに習近平国家主席は26日の
     基調講演で「150以上の国や組織が一帯一路に協力していくことで合意している」とも話し、構想の巨大さを改めて印象付けた。
  一方で、今回のフォーラムでは「持続可能な開発」とか「国際基準にのっとったプロジェクトの推進」といった文言があちこちで強調された。返済能力を
     上回るほど中国の投資に依存し、積み重なった対外債務で身動きが取れなくなり、ついには重要なインフラを中国に明け渡さざるを得なくなる国が
     出始めたからだ。一帯一路は「債務のわな」ではないかとの批判に配慮し、イメージの払しょくに努める姿勢が鮮明だった。

「持続可能を重視」とアピール
  基調講演で習主席は「全てのプロジェクトは商業的にも財政的にも持続可能でなければならない」、「我々は(プロジェクトの推進において)国際的
     なルールとスタンダードを受け入れていく」と表明している。27日に発表された、37カ国の首脳らによる会議で採択された共同声明でも「我々
     は全ての次元で持続可能性を重視する」といった表現が重ねて用いられている。さらに中国財政部は25日、世界銀行とIMF(国際通貨基金)
     の手法を参考に、一帯一路沿線国の債務の持続可能性について分析する枠組みを発表した。
   実際、一帯一路の沿線国では「債務のわな」を警戒し、中国との間で進んでいたインフラプロジェクトの見直しに動く国も出始めた。昨年首相に
     就任したマレーシアのマハティール氏は、マレー半島の東海岸で建設が予定される高速鉄道のプロジェクトに対し「コストが高く、国の財政に
     与える影響が深刻」だとして計画を中止すると発表。その一方、水面下で中国と再交渉に入り、譲歩を引き出したうえでプロジェクトを再開
     させることに成功した。建設費を3分の1ほど削減し、マレーシア国内企業の参加率を全体の3割から4割に引き上げた。
  マレーシアの交渉見直しは他の沿線国にも影響を与える可能性がある。たとえばインドネシアの閣僚経験者は「2014年から2018年の間に中国向
     け債務が50億ドルも増えた」と警戒感をあらわにし「我々もマレーシアのようにプロジェクトについて中国と再交渉する必要がある。
     声を上げないといけない」と話している。

日本と中国、現地では「バンカブル」の基準が異なる
  対外債務の持続可能性やプロジェクトの透明性についての関心の高まりは、日本への追い風にもなる。

  日本は中国と協力して第3国でビジネス展開していく方針を既に示してきた。ただそれには条件もある。対象国の財政の健全性やプロジェクトの開放性、
     透明性そして経済性が担保されていることだ。特に各プロジェクトが金融機関にとって融資可能な状態かどうか、つまり「バンカブル」であるかどうか
     について日本は重視している。
  4月2日、日本貿易振興機構(ジェトロ)と中国国際貿易促進委員会(CCPIT)がタイの首都バンコクで開いたワークショップでも、日本側関係者は繰り返し
     プロジェクトが「バンカブル」であることの重要性を強調していた。「どこの国がいいとか悪いとかではなく、プロジェクトが成り立つケースを日中と
     当事国とが協力して探していく。その際に重要なのが、プロジェクトがビジネスとして成り立つか、バンカブルかどうかだ」。記者会見した
     経済産業省の石川正樹・貿易経済協力局長はこう話した。
  ただ、どんな案件が「バンカブル」と言えるのか、どうすれば「バンカブルになるのか」、その基準は官民との間で、あるいは日本と中国、当事国との間で
     大きく異なる。

  タイではバンコク近郊の3空港をつなぐ官民連携(PPP)方式の高速鉄道プロジェクトが進む。この地域の経済開発について陣頭指揮を執る
     カニットEEC事務局長は「資金の出し手として国際協力銀行(JBIC)に期待している」と話す。ただ、この案件に日本企業は事業者としては
     関わっていない。4月下旬、タイ国鉄(SRT)はタイの財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと中国国有企業の中国鉄建(CRCC)などからなる
     コンソーシアムに開発を発注すると決めた。当初は日本企業も関心を示していたが、事業リスクが高く投資回収が容易には見込めないとして
     手を引いてしまった。JBICの関係者はプロジェクトに関心を持っていることは認めつつも「日本企業が参加していることが前提。現段階では
     何とも言えない」と口を濁す。

「おいしい」プロジェクトだけつまみ食いはできない
  たとえプロジェクトの当事国からラブコールがあったとしても、リスクが高いと民間企業が判断したプロジェクトについて、政府系の金融機関が
     「バンカブル」と見なして資金を提供することはできるだろうか。またプロジェクトが大規模であればあるほど、回収にも相当の時間がかかる。
     日本企業が現場にいない状況で、そのリスクを政府系金融機関が長期に渡って背負うことに国民が納得するかという問題もある。
  何より、中国は既に各国で鉄道や橋、道路、港、空港といった巨大なインフラを手掛けてきた。しかもプロジェクトがバンカブルであればあるほど、
     それは中国にとっても「おいしい案件」のはず。そこに日本勢が入りこむのは難しいかもしれない。
  一方で、プロジェクトの透明性や財務の持続可能性に対する関心の高まりは、日本に新しい活躍の場を与えることにもなる。少なくとも東南・南アジアの
     国々は、日本を信頼できる国と見ている。その立場を生かし、日本の官民が一体となってプロジェクトを「バンカブルなものに仕立てる」
     役割を果たせれば存在感を発揮できるかもしれない。ただし、投資回収が見込めそうな一帯一路のプロジェクトに相乗りするといった消極的な
     姿勢では、そのポジションを手に入れることは難しい。中国勢と対等に渡り合える体制を作り、プロジェクトの立ち上げから積極的に関わって
     透明性と経済性とを確立していく、そんな難しい仕事が求められる。


一帯一路
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

シルクロード経済ベルトと21世紀海洋シルクロードとは、2014年11月10日に中華人民共和国北京市で開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議で、
     習近平総書記が提唱した経済圏構想である。

概要
 中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」(「一帯」の意味)と、中国沿岸部から
     東南アジアスリランカアラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(「一路」の意味)の二つの地域で、
     インフラストラクチャー整備、貿易促進、資金の往来を促進する計画であり[1]、インフラ投資計画としては史上最大規模とされ[2][3]
   前者は習総書記が行った2013年9月7日のカザフスタンナザルバエフ大学での演説、後者は同年10月3日のインドネシア国会での演説で
     アジアインフラ投資銀行(AIIB)とともに初めて提唱された[4]
   一帯一路構想のルートである中欧班列は、中国大陸ヨーロッパを繋ぐ世界最長の鉄道路線[5]義烏・ロンドン路線英語版
     義烏・マドリード路線英語版であり、2017年には列車は3673本運行された[6]。基本的にユーラシアランドブリッジ英語版(亞歐大陸橋、
     英語: Eurasian Land Bridge)の浜州線集二線を経由するトランス・ユーラシア・ロジスティクス英語版などが代表的だが、厳冬期での輸送
     などに適してないロシアを迂回するルートとして新ユーラシアランドブリッジ英語版(新亞歐大陸橋、英語: New Eurasian Land Bridge)の
     北疆線アゼルバイジャンジョージアトルコを通るルートも開発されており[7]テヘランマザーリシャリーフとも結ばれてる[8]
   ヒューレット・パッカード[6]BMW[9]といった欧米企業、伊藤忠商事日本通運など日本企業もこれを活用してる[10][11]
   海洋では北極海航路、北米航路も第三のルートとして含まれている。ロシアムルマンスクの埠頭を開発して、
     ヨーロッパ - ロシア - 日本 - 中国というルートである。これはロシアの大統領ウラジミール・プーチンが一帯一路と北極海航路の連結という形
     で提唱し[12]、中国は「氷上シルクロード」と呼んでいる[12]。「北有钏路 南有新加坡」(北の釧路 南のシンガポール)として日本の釧路港
     アジアの玄関口、北のシンガポール港という位置づけで強い関心があることも公表されている[13][14]中国遠洋海運集団はドイツから釧路港
     に穀物を輸送した他[15]、日本の商船三井は中国企業と合弁して北極海航路でロシアのLNGを運んでいる[16][17][18]
  貨物輸送だけでなく、旅客輸送のためのインフラストラクチャーも重視されており、日本の奄美大島の大型クルーズ客船寄港地計画にも、一帯一路の
     後押しがあるとされる[19]。また、さらに北京・モスクワ高速鉄道からアメリカ大陸と繋ぐ、高速鉄道構想もある世界的な物流網戦略でもあり、
     南米大陸横断鉄道英語版などの構想がある中南米諸国とは「太平洋海上シルクロード」の構築で合意している[20][21]
  中国政府李克強国務院総理は、沿線国を訪問し、支持を呼び掛けている。100を超える国と地域から支持あるいは協力協定を得ており[22][23]
     さらに国際連合安全保障理事会[24][25]国際連合総会[26][27]東南アジア諸国連合アラブ連盟アフリカ連合欧州連合
     ユーラシア経済連合アジア協力対話英語版英語: Asia Cooperation Dialogue, ACD)、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体[21]
     上海協力機構など多くの国際組織が支持を表明している[28]
  李克強首相は「『一帯一路』の建設と地域の開発・開放を結合させ、新ユーラシアランドブリッジ、陸海通関拠点の建設を強化する必要がある」[29]
     としている。
  そのため、諸国の経済不足を補い合い、アジアインフラ投資銀行や中国・ユーラシア経済協力基金[30]シルクロード基金などで
     インフラストラクチャー投資を拡大するだけではなく、中国から発展途上国への経済援助を通じ、人民元国際準備通貨化による中国を
     中心とした世界経済圏を確立すると言われている[31]
  2017年5月14日から15日にかけて北京では一帯一路国際協力サミットフォーラム英語版が開催された。2017年10月の
     中国共産党第十九回全国代表大会で、党規約に「一帯一路」が盛り込まれた[32][33]

上海協力機構参加国との協力
  2015年5月8日には習総書記はロシアのプーチン大統領と会談し、一帯一路をユーラシア経済連合と連結させるとする共同声明を発表した[34][35]
     同年11月17日にロシアのプーチン大統領は、アメリカ合衆国の主導する環太平洋パートナーシップ協定を批判し、中国のシルクロード経済ベルト
     とロシアのユーラシア経済連合の連結がアジア太平洋の繁栄をもたらすとする寄稿文を世界のメディア各紙に行った[36]
  2016年6月17日のサンクトペテルブルグ国際経済フォーラムでプーチン大統領が中国・パキスタン・インド・イランなど上海協力機構の参加国を
     中心[37]に進めるとする「大ユーラシア・パートナーシップ」構想とその第一段階として中国のシルクロード経済ベルトとユーラシア経済連合
     の統合[38]を発表し[39]、25日のプーチン大統領の訪中から同構想が中露共同声明に盛り込まれて共同研究の準備と経済連携協定
     交渉協議が開始された[40][41][42]
  2017年5月14日に、北京での一帯一路国際協力サミットフォーラム英語版の開幕式でプーチン大統領は一帯一路、上海協力機構、ユーラシア経済連合
     などは同構想の基礎となると演説[43]し、同年7月には同構想の共同研究が開始され[44][45]、同年10月に経済連携協定の交渉は完了した[46][47]
     同年11月には、APECに向けてプーチン大統領が発表した論文でもユーラシア経済連合と中国の経済連携協定交渉の完了や
     大ユーラシア・パートナーシップは中国の一帯一路を基礎にすることが述べられ[48][49]2018年5月17日に中国との経済連携協定とイランとの
     暫定自由貿易協定が締結された[50]
  2016年6月24日の中露蒙首脳会談では、モンゴルツァヒアギーン・エルベグドルジ大統領が掲げる草原の道構想と一帯一路とユーラシア経済連合の
     連結を謳った「中国・モンゴル・ロシア経済回廊建設計画綱要」が調印され[51][52]、エルベグドルジの後任のハルトマーギーン・バトトルガ大統領も
     中国・モンゴル・ロシア経済回廊の建設で中露と一致してる[53]
  2017年6月のカザフスタンのアスタナの上海協力機構の首脳会議で、一帯一路への支持[54]などを掲げるアスタナ宣言が採択された。習総書記は
     「カザフスタン訪問の際に自ら打ち出した構想が今や100を超える国の賛同を得た」としてカザフスタンとの関係を重視しており[55]、カザフスタンの 
     ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領も自らの掲げるヌルリ・ジョーリ英語版(光明の道)構想は、シルクロード経済ベルトの一部[56]と認めて一帯一路と
     連結するとしてる[55][57][58]

一帯一路国際協力サミットフォーラム
  2017年2月、北京市で一帯一路国際協力サミットフォーラムを5月に開催すると発表し[59]アントニオ・グテーレス国際連合事務総長ら70を超える
     国際機関代表団[60]やロシアのプーチン大統領ら29カ国の首脳[60]が出席を表明したのをはじめとして、世界130カ国超[60]の政府代表団が参加を
     決定した[61][62]。しかし、G7は閣僚級などを出席させて首脳のほとんどは欠席し、出席したのはイタリアパオロ・ジェンティローニ首相だけ
     となった[63]。イタリアはギリシャなどとともにEU加盟国では一帯一路への協力に積極的な国の1つとされ、後にG7で初めて一帯一路に関する
     覚書を中国と締結している[64]
  一帯一路を中国主導の巨大経済圏構想と警戒してAIIB参加を見送ってきた日米も、米国のドナルド・トランプ政権は同サミットに
     マット・ポッティンガーNSCアジア上級部長を団長とする代表団を派遣させており[60][65][66][67]、同サミットでポッティンガーは米国企業の
     参加準備と一帯一路の作業部会設置を表明しつつ透明性と民間資本の活用を主張した[68][69]
  トランプ大統領の上級顧問で、元中央情報局(CIA)長官のジェームズ・ウールジー英語版はAIIBへの米国の不参加を前任のバラク・オバマ政権の
     「戦略的失敗」と批判[70][71]してトランプ政権は中国の一帯一路に「ずっと温かくなる」との見通しを述べていた[72]
  トランプの支援者であり、民間軍事会社ブラックウォーターUSAで有名な元アメリカ海軍特殊部隊SEALsエリック・プリンスは中国政府系
     (中国中信集団公司)の警備・流通会社フロンティア・セキュリティ・グループ英語版の会長としてアフリカなどで一帯一路戦略を支援している[73]
     トランプ政権になってから北京のアメリカ大使館などで米国企業と中国国有企業を集めた一帯一路での米中協力を謳う会合が行われるように
     なった[74]
  トランプ大統領自身も一帯一路への協力について米国はオープンであると述べてる[75]
  トランプ大統領の訪中の際は、習総書記と一帯一路への協力で一致し[76]、成立した約28兆円の商談の中にはシルクロード基金英語版GE
     共同投資プラットフォーム[77]など一帯一路関連のものもあった[78]。米国内ではカリフォルニア州知事ジェリー・ブラウン[79]などが独自に
     一帯一路構想への参加を表明しており、カリフォルニア州は作業部会を設立してる[80]
  日本国政府も安倍晋三内閣総理大臣は、今井尚哉内閣総理大臣秘書官[81]松村祥史経済産業副大臣[60]二階俊博自民党幹事長
     榊原定征経団連会長[82]ら約50人規模[83]の官民代表団を出席させ、団長の二階幹事長は「日本も積極的に協力をする決意をもってうかがってる」
     「日本は一帯一路に最大限協力する」[85]としつつ同サミットではインフラの開放性と公平性を主張した[86]。同行した松村経産副大臣もオープンかつ
     公正なインフラ整備を訴えた[87]

  二階俊博幹事長はAIIBについて「参加をどれだけ早い段階で決断するかだ」と発言し[88]、安倍首相はAIIBの日本参加について「公正なガバナンスが
     確立できるのかなどの疑問点が解消されれば前向きに考える」と述べ[88]、一帯一路については「国際社会共通の考え方を十分に取り入れる
     観点から協力したい」と述べ[89]、日中首脳会談でも習総書記に協力を表明してる[90][91]。中国政府は日本政府の一帯一路への協力的な姿勢
     を歓迎することを表明している
  2017年8月には、自民党・公明党と中国共産党の間で行われた第6回日中与党交流協議会は、一帯一路への協力を積極的に検討するとする共同提言を
     まとめた[94]。民間でも日本経団連経済同友会は「AIIBへの参加を前向きに検討すべき」と主張しており[95]、2017年11月に史上最大規模の
     財界訪中団が中国を訪れた際に、経団連などは一帯一路への協力のための窓口設置や共同研究体制を提言しており[96]、中国の日系企業は
     一帯一路連絡協議会を設置している[97]
  中国からも、経団連や安倍首相の一帯一路への協力に前向きな姿勢を歓迎され[98]、同年12月には安倍首相は自らの「自由で開かれた
     インド太平洋戦略」と一帯一路の連携を推進する意向を固め[99]、「一帯一路に大いに協力できる」「自由で開放的なインド太平洋戦略を推進
     するとともに中国の一帯一路により広範に協力する」などとも述べており[100][101]、軍事利用されかねない港湾開発は対象外に指定しつつ、
     日本国政府は一帯一路に関する第三国での日中民間経済協力指針を策定した[102][103][104]
  2018年1月22日に、安倍首相は施政方針演説で、アジアのインフラ整備で中国と協力することを表明して、中国政府から歓迎され[105]、一帯一路について
     「地域の平和と繁栄に貢献することを期待する。日本としてはこうした観点から協力していく」と述べ[106]、同年5月9日の李克強首相と安倍首相の
     会談で、一帯一路に関する第三国でのインフラ整備協力を具体化させる官民合同委員会など官民協議体の設置で合意し[107][108]、翌6月に第三国
     での日中インフラ整備協力をインフラシステム輸出戦略に盛り込み[109]、同年9月25日に北京で官民合同委員会の初会合を開催した[110]
  2018年10月、内閣総理大臣としては7年ぶりに安倍晋三の公式訪中で、官民フォーラムで第三国でのインフラ共同投資などを行うための52件の
     協力文書が交わされ[111]、習総書記は「一帯一路を共に建設することは、中日協力の新たなプラットフォーム」と述べた[112]。AIIBへの
     参加申請を拒否[113]されるなど核実験をめぐり中国と関係冷却化が伝えられる北朝鮮からも金英才(キム・ヨンジェ)対外経済相が出席したが
     AIIBに参加した一方でTHAADミサイル配備をめぐって蜜月ではなくなったとされる韓国から参加するのは駐中国大使と対外経済政策研究院院長
     ら3名のみで閣僚級の招待状すら送られなかった[115][66]。しかし、2017年大韓民国大統領選挙でTHAADに批判的な文在寅政権が誕生した
     同サミット直前になって中国から正式な招待状がおくられたため[116]、韓国政府は代表団の派遣を急遽決定した[117]。文在寅政権では初となる
     韓国と北朝鮮の要人接触も同サミットで行われた[118]
  中国がこの会議に国際社会から経済制裁を受けている北朝鮮を招いたことに対し、アメリカ合衆国政府は北京のアメリカ大使館を通じて強い懸念
     を表明した[119]
  北朝鮮は5月14日、サミット開幕に合わせて弾道ミサイルを発射し、日本の安倍首相はこれを強く批判[120]、出席した二階幹事長も安倍首相と電話で
     対応を協議してサミットで抗議文を読み上げ[121]、フランスのメディアは北朝鮮のミサイル発射をサミット開幕への「祝砲」と報道した[122]
  上海協力機構とAIIBの加盟国でもあるインドは2017年5月13日、一帯一路の一部である中国・パキスタン経済回廊英語版が係争地の
     ギルギット・バルティスタン州インドの主張によればインドカシミールのパキスタン占領地)を通るとして「主権と領土保全における核心的な懸念を
     無視した事業計画を受け入れる国は1つもない」と批判する外務省声明を発表し[123]、一帯一路国際協力サミットフォーラムからの
     ナレンドラ・モディ首相らへの招待を拒否[124]して世界で唯一公式にフォーラムをボイコットした国となった[125]。また、「支えきれない債務負担を地域
     に作り出す事業は行わないようにするという財務上の責任の原則に従うべきだ」とも述べ、中国がスリランカを借金漬けにしてることなどを念頭に
     牽制している[124]。同じく上海協力機構とAIIBの加盟国で一帯一路に参加するロシアは「個別に問題があっても政治的解決を他の全ての分野に
     結び付けてはならない。一帯一路からメリットを得る道を探せるだけの非常に賢明な政治家や外交官がインドにいると信じる」として友好国のインド
     に対して中国の一帯一路に協力するよう求めている[125]。2018年6月の青島での上海協力機構の首脳会議ではインドのモディ首相のみ一帯一路に
     支持を表明しなかった[126]
  2019年4月25日、第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが北京で開催され、国連事務総長らと37カ国の首脳や日本など150カ国を超える代表団が
     出席するも前回参加した米国は中国との貿易摩擦により一帯一路への批判を強めたために出席を見送った[127][128]

問題点
  中華人民共和国から融資を受けても、財政の健全性や透明性といったガバナンスコンプライアンスが無いために、莫大な債務を発展途上国が
     負わされて、土地を代わりに取り上げられることが問題になっている[129][130]
  マレーシアは、中国の国営企業から受けた融資が国営ファンドに利用された可能性と、過剰なコストの問題から4つ中3つを中断した。
  パキスタンは、2015年に中国が世界に披露する一帯一路の象徴的プロジェクトとして始まった620億ドル規模の事業に、公的資金が投入されなければ
     継続不可能な莫大な借金をきたして、国際通貨基金(IMF)やサウジアラビアなどにも財政支援を要請することとなった[131]。また構想以前の
     2013年1月にはグワーダル港の操業権を中国に譲って海上輸送の要衝となっているが、インドは真珠の首飾り戦略を掲げる中国による軍事利用
     を警戒していた。
  スリランカは、建設費のほとんどを中国からの融資受け完成させたインフラに赤字が続き、中国への11億2000万ドルの借金帳消しの条件で、2017年12月
     に株式の70%を引き渡して、南部のハンバントタ港に99年間の港湾運営権を中国企業に譲渡する事態に追い込まれた。獲得した港の軍事目的が
     指摘されている。
  ミャンマーの港湾事業も、中国の軍事的目的が疑われる事例として指摘されている。ウォールストリート・ジャーナルは、中国の大規模な資金支援で、
     ラオスモルディブモンゴルモンテネグロジブチが大規模な負債の返済リスクに直面している状態だと報道している。
  キルギスの場合、一帯一路のために国債の国内総生産(GDP)の割合が62%から78%に、ジブチは82%で91%に急騰と推定した。
     これらの問題の背景として、建設中のインフラは完成した後に中国に返済義務化されているが、事業採算性を判断する能力やノウハウが不足
     している途上国は、負債が積み重なっている事がある。
  大韓民国の国民日報によると、中国の利益優先主義が背後にあることによって、中国の銀行から事業へ融資契約をしなければならないため透明性
     がなく、施工まで中国企業が行うために、中国にますます借金を負う仕組みになっている。中国国営の環球時報に名指しで批判されたインドの
     戦略研究家ブレーマ・チェラニー英語版は、スリランカが中国に背負わされた負担を過小にしていること、日本によるプロジェクトの金利は
     0.5%なのに対して一帯一路など中国人によるものは6.3%もするスリランカの例を上げて、一帯一路は『債務のワナ』と指摘している


2019.1.12-jiji com(時事ニュース)(https://www.jiji.com/jc/article?k=2019011200406&g=int
中国の一帯一路に問題噴出=「債務のわな」で関係国悲鳴

中国が推進するシルクロード経済圏構想「一帯一路」をめぐり、パキスタンやマレーシアなどの関係諸国でトラブルが噴出している。重い債務負担に苦しむ
  国が相次いでおり、中国からの借り入れを「債務のわな」と警戒する動きが広がる。習近平国家主席の提唱から5年が過ぎ、地球規模の壮大な構想
  は曲がり角に差し掛かっている。
中国の在外公館襲撃
 「中国は土地の占領と資源の収奪を目指している」。パキスタン南部カラチにある中国総領事館が2018年11月、武装集団の襲撃を受け、
     パキスタン人警察官や市民ら4人が死亡。分離独立を唱えるバルチスタン州の過激派「バルチスタン解放軍(BLA)」が犯行声明で、
     中国を厳しく非難した。
 中国の友好国であるパキスタンは「一帯一路プロジェクトの要衝」(北京の外交筋)と言われる。現在、中国西部とパキスタン南西部グワダル港を結ぶ
     中パ経済回廊(CPEC)の構築が進むが、襲撃が相次げば事業の遂行に影響が出かねない。
 スリランカでは中国からの借り入れで港湾を整備した結果、返済不能に陥り、中国国有企業に99年間にも及ぶ運営権を譲渡。債務のわなにはまった
     典型例と言われた。モルディブでは、中国の資金で住宅開発などを進め、対中債務は国内総生産(GDP)の4分の1超に膨らんだとされる。
地元にメリットなし
 東南アジアでも混迷が拡大。マレーシアでは、中国の銀行融資などで建設する東海岸鉄道線計画をめぐり、「マレーシアに何のメリットもない」
     (マハティール首相)と見直しの動きが出ている。ただ、一方的に中止すれば中国側に多額の違約金を払う必要があり、対応を検討中だ。
 中国は15年、日本との競争を制し、インドネシア・ジャワ島の高速鉄道建設を受注。だが、土地収用が順調に進まないことを理由に中国側が資金を出し渋り、
     今年5月の完成予定が少なくとも2年遅れとなっている。


【特集】中国「一帯一路」覇権街道の「いま」
JIJI COM-(https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00239_201809050001)

中国「一帯一路」覇権街道の「いま」(上)カンボジア
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樋泉 克夫
 1970年代末に鄧小平が最高権力を握ってから現在までの歴代中国共産党政権は、経済成長至上の道を驀進する一方で、権力と合体した特権層を
     生み出し、腐敗・不正を日常化させ、社会の格差と環境破壊をもたらすこととなった。前者をGDP(国内総生産)至上主義、後者を特権腐敗社会主義
     と呼んでおく。
 現実に庶民の日常生活が向上し国威発揚が図られているわけだから、GDP至上主義が悪であると糾弾できそうにない。その1例が今年の春節に
     ブルネイで目にした光景――中国でも貧しい地方に属する広西チワン族自治区の住民までもが海外旅行を楽しめるようになっていた――であり、
     習近平政権が先進技術のさらなる革新を目指して掲げた「MADE IN CHINA 2025」だろう。
 この計画が先進技術による世界制覇を狙ったものだからこそ、トランプ政権が計画達成阻止に動いたとしても強ち不思議ではない。目下エスカレートする
     ばかりの米中貿易戦争も、その一環だろう。

「腐敗」は中国の「伝統」
 GDP至上主義が特権腐敗層と結びつくことで、腐敗・不正を雪だるま式に拡大させることが問題とされる。だが、その原因を共産党による独裁に求めるだけ
     では問題は解決しそうにない。
 それというのも、林語堂が『中国=文化と思想』(講談社学術文庫 1999年)で指摘しているように、中国においては伝統的に「『賄賂を取る』は規則動詞」
     であり、同時に「中国には実際にはただ二つの階級しかない。一つは特権を享受している官僚階級であり、もう一つは税を納め、法に従わねば
     ならない非官僚階級、すなわちただの人である」からだ。ここでいう「官僚階級」は現在に置き換えるなら幹部であり、「非官僚階級」は一般国民
     に当たる。いわば共産党独裁によるGDP至上主義は、格差と環境破壊という猛毒を撒き散らしながら、悪しき伝統を復活させてしまったということだ。
 1989年6月に天安門事件が発生したことで、鄧小平式開放路線は頓挫の危機に直面した。対外開放から10年程の試行錯誤を経て、漸く経済発展が
     成長軌道を描き始めた頃、独裁政権に反対し、民主化を求める声が高まったのである。このまま民主化を求める勢力に押されて、共産党の
     権力基盤を動揺させるわけにはいかないと考えた党長老を中心に、共産党を守るために鄧小平路線を即刻中止せよとの声が沸き起った。
     長老を含む共産党幹部の多くが1党独裁によって享受してきた既得権益を失うことを恐れるがゆえに、声を上げたであろうことは容易に想像できる。
   かくて鄧小平独裁体制は危機を迎えた。ここまでは西欧社会が秘かに願っていた筋書き通りの展開だったように思える。
   あの時、既得権を守るため鄧小平を政権の座から引きずり降ろし、対外開放を停止させ、「竹のカーテン」で国境を閉じていた毛沢東時代のように
     戻っていたら、中国は金正恩率いる北朝鮮の“超巨大版”に退行していた可能性すら考えられる。そんな中国が出現していたなら、世界の政治や
     経済の構造は現在とは大いに違い、ドナルド・トランプ大統領主導の米中貿易戦争など考えられようもなかったはずだ。

共産党独裁と市場経済の「双贏関係」
 こう見てくると、天安門広場で展開された民主化への動きを断固として押さえ込み、社会の安定を目指しながら対外開放路線を堅持・加速させることを
     内外に向けて鮮明に打ち出した1992年1~2月の「南巡講話」が、現在の中国がかたちづくられるうえで決定的な役割を果たしただろうことを、
     やはり認めざるを得ない。
 天安門事件後の混乱した社会にあって鄧小平が南巡講話の大号令を掛けていなかったら、現在の強固な独裁政権による市場経済、いわば
     中国式市場経済とでも呼ぶべきシステムが生まれることはなかっただろう。共産党独裁を堅持するために、鄧小平は経済面においてのみ
     社会主義をキレイサッパリと棄て去って市場経済に大きく踏み込んだ。かくして世界は、独裁政権と市場経済が――中国得意の表現に倣うなら――
     「双贏(ウイン・ウイン)関係」にあることを知らされたのである。同時に、中国で経済が発展して生活レベルが向上すれば、国民の意識が民主化
     され独裁政権は揺らぎ、やがて崩壊して民主化されるだろうという西側諸国の目論見――天安門事件の際に鄧小平式が強く反発した
     「和平演変」――が、絵に描いた餅に過ぎないという現実を見せつけられたわけだ。
 独裁政権は市場経済をフル回転させるだけではなく、国境を越えてグローバル資本と蜜月関係を結ぶことも厭わない。人々は生産者であり消費者であった
     としても、政治的発言者であってはならないという1点において、独裁政権とグローバル資本との利害は一致し、両者は「双贏関係」で結ばれた。
 強力な独裁政権によって社会を安定させ外資を呼び込む。社会の安定が長期的に予想されるからこそ、日本やら欧米などの外国企業は、安価な労働力を
     求めて資本と先進技術を持ち込んだ。かくして中国は毛沢東時代の貧困を脱し、世界の工場を経て大消費市場へと変貌を遂げ、経済大国への道を
     疾走しはじめた。
 これを経済発展の中国モデルとするなら、現在の東南アジアを見回した時、カンボジアを中国モデルの優等生として挙げることができるだろう。

独裁を強めるカンボジア「フン・セン首相」
 フン・セン首相は総選挙という“民主的手続き”に基づき、30年余りの長期に亘ってカンボジアに君臨し、年を経るごとに独裁化の度合いを深めている。
     いまや司法は政権にとっての補完機関となり果てた。“合法的手続き”に則って野党有力指導者が次々に国外追放され、野党は解散処分。政権批判
     は封じられ、いまや反フン・セン勢力は消えたも同然だ。
 かくて社会が安定すればこそ中国を筆頭とする外資が次々に導入され、経済成長が続く。1970年代後半のポル・ポト政権時代のキリング・フィールドは、
     いまやビジネスのフロンティアーと化した。カンボジア日本人商工会の正会員となっている日本企業は、今年5月の段階で185社を数える。
     35社だった2008年に較べて、10年で5倍強の伸びだ。
 3月初旬、カンボジア国防省はフン・マネット武装警察部隊副司令官(40)を3軍統合参謀長へ昇格させると発表した。アメリカ陸軍ウエスト・ポイント士官学校
     を卒業した彼は、名前からも想像できるようにフン・セン首相の長男である。この人事発表から3カ月ほどが過ぎた6月30日、
     彼は3軍統合参謀長兼陸軍司令官にスピード昇進したが、引き続き首相身辺警護部隊副指揮官兼国防部反テロ部門統括官も務めている。
 次男のフン・マニット(36)は安全保障部門を統轄する陸軍情報総局局長であり、昨年12月に陸軍大佐に昇進したとされる3男(35)のフン・マニは、
     与党・カンボジア人民党の青年運動部門を統括する。加えて今年1月にはフン・セン首相の娘婿が国家警察副司令官に就任した。
 どうやらカンボジアにおける国防・治安部門はフン・セン首相一族によって占められたようだ。国防・治安部門のトップから非フン・セン首相系が排除されつつ
     あるとの報道もある、一連の人事は偶然というより、やはり意図的に行われたと見做すべきだ。

独裁の背景にある「中国モデル」経済発展
 振り返れば1970年代末のポル・ポト政権崩壊後に成立したカンボジアの最高権力機関である人民革命評議会で、世界最年少の27歳で外務大臣
     (同評議会外務担当副議長)に就任して以来、フン・セン首相は一貫して政権の中枢に在った。初期にはヴェトナムを背景に権力基盤を固め、
 1980年代末から数年続いたカンボジア和平交渉においては日本とタイの影響力を背景に外交上の得点を重ね、国際的知名度をあげる一方、国内では
     1993年に国連監視下で実施された総選挙で共同首相(第2首相)に就任して以来、軍事クーデターや選挙干渉によって政敵を排除し、超長期政権
     への道を歩んできた。
 フン・セン政権も当初はポル・ポト時代の恐怖政治の残滓を取り除き、国内対立の解消を掲げ社会の安定を目指した。実際、社会を安定させ外資を
     呼び込み経済成長路線を始動させたことは確かだが、特権富裕階層を生む一方で新たな国内対立を引き起こすことになった。
 独裁化の道に舵を切ったフン・セン政権は特権富裕階層に軸足を置き、民主化を求める声を“合法的”に押さえ込んできた。ここでフン・セン政権について
     「民主を破壊する」と非難することは容易だが、貧困からの脱却を求める圧倒的多数の「声なき声」に向って「先ずは民主だ」と説得することは
     至難だろう。極論するなら、民主では腹は膨れないからだ。
 7月29日に実施された総選挙の結果は、8月15日の正式発表を待つまでもなくカンボジア人民党の圧倒的勝利(125議席独占)に終わった。
     同党スポークスマンは「民意は我が党を支持した。我が党が導くことでカンボジアは繁栄する豊かな国家となる」と語っている。白々しい限りの
     勝利宣言ではあるが、その背景にカンボジア経済が拡大基調を維持しているという事実があることは否定できない。


中国「一帯一路」覇権街道の「いま」(下)-JIJI COM(時事ニュース)https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00239_201809050001
タイ、マレーシア、ミャンマー、そして日本フォーサイト-新潮社ニュースマガジン

樋泉 克夫
 1970年代後半のカンボジアを支配したポル・ポト政権の後ろ盾は中国共産党であり、カンボジア全土はあたかも毛沢東思想の実験場と化していた。
     ヴェトナムの強力な支援を受けて反ポル・ポト陣営の一員に加わったフン・センが権力の頂点に立ち独裁の度合いを強め、GDP至上主義の道に
     転じた今、ポル・ポト政権当時とは較べるべくもなく中国寄りの姿勢を貫いている。いや一部には「中国の植民地」との酷評すら聞かれる。
     歴史の皮肉というべきか。あるいは「漢族の熱帯への進軍」による必然か。
 たとえば2017年にカンボジアに投じられた外資の53%は、中国資本が占める。「一帯一路」を掲げて嵩にかかってカンボジアに進出する中国からは、過去2年
     の間に官民合わせて30億ドル近い資金が投入されたとも伝えられる。カンボジア最大のシハヌークビル港の再開発のために2016年から今年3月
     にかけて投じられた13億ドルのうち、11億ドルは中国資金だ。
 フン・セン政権はシハヌークビル港周辺の広大な土地(バチカンの20倍に相当)で、2020年完成を期して経済特区の建設を進めている。さしずめ
     「カンボジア版深圳」といったところだろうか。ここに中国から300余の製造業者が進出し、1万人余の雇用機会を創出するという。すでに100余の
     企業が進出し、一帯一路に沿ってカンボジアと周辺国、さらにヨーロッパ市場との中継基地化を狙っている。
 目下のところ中国が絡んだと伝えられているインフラ建設は、プノンペン―シハヌークビル港間の幹線道路、発電所建設、海洋石油探査など
     総計42億ドル規模に達する。
 これほどの資金投入は、カンボジアの体力からして過重であり、いずれ借金漬けとなってカンボジアを危機的状況に陥れるという指摘もある。だが、
     人民元の怒涛の進撃を前にして打つ手はない。トランプ政権は東南アジアへの介入の度を加えると宣言するが、ブルネイで痛感したように、
     極論するなら最早手遅れに近いのではないか。

異例の長期化「タイ暫定政権」
 カンボジアの隣国であるタイに目を転ずると、反政府批判を抑え込むなど独裁体制の強化を続けるプラユット・チャンオチャ政権は、発足以来4年余を
     経過しているものの、飽くまでも暫定政権なのだ。
 クーデターによる政権交代の歴史を重ねてきたタイでは、クーデター実施1年程の後に総選挙が実施され、暫定政権から民政に移管されることが通例
    であった。
 9世王(前プミポン国王)の健康不安が続き、2016年10月の逝去があり、1年間の服喪期間を経て王国タイにとって最重要の国事行為、つまり葬儀を執り
     行わなければならなかったという事情を考慮したとしても、異例ともいえる長期の暫定政権ではある。
 国王葬儀終了後、プラユット政権は総選挙実施時期を具体的に示すようになったが、2018年6月実施予定が11月に変更されたように先送りされるばかり
     であり、現在では2019年前半が明言されている。だが、10世王(現ワチュラロンコーン王)の戴冠式、さらには10世王の王母である
     シリキット前王妃の体調を考慮するなら、総選挙が来年前半からさらに延期される可能性も否定できない。
 だとするなら政権の暫定期間はさらに伸びる。新憲法や新選挙法からして総選挙が行われたとしても暫定の2文字が取れるだけで、プラユット政権の長期化
     の既定路線のように思える。
 プラユット暫定政権の長期安定化は当然のように経済指標に反映され、2018年のGDPの伸び率を筆頭に、タイ経済の主力である輸出入、製造業、
     観光、農業などが揃って右肩上がりを予測されている。好調経済を背景に一帯一路と絡めた大型案件(EEC=東部経済回廊整備、高速鉄道建設
     など)が、今年中に本格スタートする。

経済低迷に苦しむミャンマー
ハイフォンの経済特区である「DEEP C工業団地」など大型インフラを次々に完成させたヴェトナムでは、経済は好調に推移している。フィリピンでは
     ドゥテルテ政権は外交的に是々非々路線を語るが、中国傾斜は否めない。
 マレーシアではマハティール・ビン・モハマド政権がナジブ・ラザク前政権の総点検を終えた後に、新たに対中関係を模索することになろうか。経済的に中国
     との関係を断つことは、やはり非現実的だろう。
 他のASEAN(東南アジア諸国連合)諸国が中国との経済関係を深めてゆく中で、ミャンマーのみが経済低迷に苦しむ。前テイン・セイン政権下の2015年度に
     年間100億ドルに近づいた外国からの投資認可額は、アウンサン・スーチー政権1年目の2016年度には66億ドル規模に、2017年度では57億ドル規模と
     2年連続で減少している。しかも発電や不動産関連が主力であり、期待の製造業への投資は少ない。
 ロヒンギャ問題の解決に筋道が見つからないままに、3月21日にはティン・チョー大統領が「休みを取るため」に辞任し、実質的な最高権力者である
     アウンサン・スーチー国家顧問兼外相も体調不安が伝えられるなど、なにやら不穏な空気が漂いはじめた。
 7月21日には、ロヒンギャ問題解決に向けて設置された国際諮問機関のメンバーでタイの元議員、元外務省高官でもあるコープサック・チュティクーンが、
     職務遂行不可能を理由に辞意を表明している。どうやら資金欠如に加え、定まらない方針が同諮問機関運営の阻害要因といわれる。ロヒンギャ問題
     を巡る複雑な内外状況が見て取れるようだ。
 おそらく民主化の闘士のままであったなら、彼女はロヒンギャ問題解決に向けて内外へ強力にアピールできただろう。だがミャンマーにおける
     「唯一の指導者」となった現在、それは不可能に近い。
 ロヒンギャ問題解決に積極的姿勢を見せないことを過度に批判することは、彼女が敵対した独裁者のタン・シュエ将軍が歩いた親中路線に、彼女を追い
     やってしまうことに繋がる。となれば、ミャンマーを回廊にインド洋への進出を進める中国の思うが侭の展開となってしまうだろう。

「大竜」と呼ばれた日本
 かつて日本では東アジアの経済開発を巡って「雁行形態論」という理論がもてはやされたことがある。1935(昭和10)年に経済学者の赤松要によって
     提唱され、戦前・戦中は埋もれていた経済発展に関する一般的理論だが、日本が高度経済成長期を経て東南アジアを軸に海外進出に転じ
     始めた1970年代に入って生まれ変わり、脚光を浴びるようになった。東アジア諸国経済を雁の編隊飛行に例え、経済先進国である日本が
     周辺後発国に生産拠点を移転させることで、周辺後発国の経済発展を牽引する――先頭を飛行する日本という雁をモデルにして、後発国は
     経済成長が可能になる――というのだ。
 この理論が正しかったのかどうかの検証はともあれ、1970年代以降、シンガポール、台湾、香港、韓国などが経済成長を遂げ、これらが「4つの小竜」、
     日本が「大竜」と呼ばれるようになった。すると、日本、シンガポール、台湾、香港、韓国の共通項を儒教に求め、「儒教資本主義」「儒教経済圏」なる
     考えが持ち出された。
 この考えを主導した中嶋嶺雄は「各国地域の経済発展は様々であるが、ひとたび『離陸』(テイク・オフ)が開始された社会においては、儒教文化ないし
     漢字文化の伝統を有することが近代化と経済的・社会的発展の促進要因になっているというメカニズムを具体的に解明し、これを学問的に
     受けとめることが重要である」(溝口雄三・中嶋嶺雄編著『儒教ルネッサンスを考える』大修館書店 1991年)と説く。

「雁行形態論」の主役となった中国
 いまや日本では、「雁行形態論」「儒教資本主義」「儒教経済圏」は聞かれない。
 これらの考えが正しかったか否かの検証は必要だろうが、ASEANの現実を見る限り、「雁行形態論」の主役は残念ながら中国に移ったといえる。もちろん
     独裁政権と市場経済という枠組みに基づくものであり、現在の中国が「儒教」を基盤に動いているなどと考えることはできない。ただ、少なくとも「漢字」
     ――簡体字は漢字ではないという異論はあろう――で意思疎通が行われていることは確かだろう。
 「雁行形態論」「儒教資本主義」「儒教経済圏」は、中国が対外閉鎖された状態であるがゆえに、日本が東南アジアにおいて自由に振る舞えた時代の“仮説”
     に過ぎなかったとしか思えない。中国が対外開放に踏み切り、あまつさえ内向きの度合いを深める日本を尻目に独裁政権と市場経済を合体させた
     中国モデルを引っ提げ、東南アジアで圧倒的存在感を見せつけている現実を、いまこそ冷静に受け止める必要がある。
 いまなすべきは中国崩壊論に我が意を得たりと納得することでも、中国崩壊論の崩壊を呟いて悦に入ることでもなく、東アジアの将来のあるべき姿を構想
     することではないか。中国大陸、それに朝鮮半島という厄介な存在から逃れられない日本にとって、それは避けては通れない道ではなかろうか。
  (2018年8月)



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