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2019.3.23-産経新聞-
【国際情勢分析】EU、強まる警戒感
【国際情勢分析】EU独自の防衛協力に米国の「壁」 ロシアの脅威、ハイブリッド戦、テロ…課題は山積

経済分野の統合の側面が強調されてきた欧州連合(EU)が、防衛面でも紐帯(ちゅうたい)を強めている。今年3月、EU理事会は有志の加盟国
   で防衛協力を進める「常設軍事協力枠組み(PESCO)」の行程表を採択。昨夏には、EU域内で効率的な軍事投資を支援する
   「欧州防衛基金(EDF)」も創設された。ただ、EUの防衛力強化は、軍事同盟「北大西洋条約機構(NATO)」を主導する米国の利益に反する
   恐れがあるほか、加盟国間でも意見が一致しているとは言い難い。EU独自の安全保障の先行きはいまだ流動的だ。(ブリュッセル 小野田雄一)

 「EUとNATOはこれまでほとんど関係がなかった。しかしNATOを補完する存在として、EUの重要性が認識されはじめた」。
   ユルキ・カタイネン欧州委員会副委員長(雇用・成長・投資・競争力担当)が指摘する。 こうした状況を導いたのは、欧州を取り巻く情勢の変化だ。
   複数のEU防衛関係者によると、背景に(1)強力な軍事力を持つ英国のEU離脱(2)「応分の負担」を求めるトランプ米政権の誕生で迫られる
   対米依存からの自立(3)テロの増加(4)ロシアへの危機感(5)「ハイブリッド攻撃」への警戒感の強まり-があるという。

 PESCOでは、EU域内での軍隊移動の迅速化や軍事訓練の共同化など、推進する17事業が定められた。各参加国は得意分野でセンターの役割
   を担い、研究成果の共有を目指す。 EDFは資金面でEUの防衛力向上を支援する。EU加盟各国が独自に戦闘機や主力戦車、駆逐艦などを
   開発・保有している現状は非効率だとして、研究開発などに資金を拠出する計画だ。共同開発や仕様の統一で、加盟国全体で毎年2千億ユーロ
   (約25兆4千億円)超支出している防衛費を250億~1千億ユーロ削減する。

 EDF関係者は「現在、EU加盟国全体で29種類の戦闘艦、20種類の戦闘機、17種類の主力戦車を保有している。仮に航空機を1機のみに共通化
   すれば、最大83%の費用削減が可能と試算される」と話した。 ただ、EU独自での軍事力向上を実現するまでに越えるべき壁は少なくない。

 一つはNATOを主導する米国との関係だ。イタリアやオランダなどEU・NATO共同加盟国は、米国にとっては兵器の重要な取引先。EUが兵器を
   共有化し、米国からの輸入が減ればEUと米国の関係に悪影響が生じる恐れがある。

 加盟国内の意思疎通の問題もある。あるEU防衛関係者は「向上させたEUの軍事力を他地域への影響力や政治的利益実現の手段にすることを望むフランスに対し、ドイツは純粋な域内防衛力にとどめるべきだと考えている」と指摘する。

 各国には、兵器の共通化により自国の軍事技術やサプライチェーンに打撃が加えられることへの危惧や、要求が異なる軍事能力の共有化が
   どこまで可能かを疑問視する声もある。


ハイブリッド攻撃に対応、“仮想敵”はロシア

防衛面での連携深化を図るEUが現在、注力している分野の一つが「ハイブリッド攻撃」への対応力強化だ。EUはフィンランドの首都ヘルシンキに
   「欧州ハイブリッド脅威対策センター」を昨年設置。PESCOで推進する17事業の一つにも、サイバー攻撃への対処力向上を盛り込んだ。
   EU側の“仮想敵”として念頭にあるのは、大国としての復権を目指すロシアだ。 

 2015年2月23日、リトアニアのテレビ局が視聴者を対象に、ロシアのプロパガンダ(政治的宣伝)が強まっていると思うか否かの調査を
   インターネット上で実施。質問開始から約2分間で、1つのIPアドレスから7千を超える回答が「プロパガンダではない。ロシアの主張は事実だ」
   とする項目に寄せられた。この結果、同項目の回答率は82%に。「思う」は12%、「思わない」は6%にとどまり、女性キャスターは
   呆然とした表情を浮かべた。

 リトアニアのリナス・イドゼリス・リトアニア軍戦略通信・指揮中佐も「状況的に、ロシア側が関与した疑いが強い」と指摘する。同中佐によると、
   このほかにも一部メディアが「リトアニア人女性が(NATOから派遣され、同国を防衛中の)ドイツ軍人に暴行された」などと報道。

 こうした事実はなく、何者かがフェイクニュースを通じてリトアニア国内でNATOへの不信感をあおり、連携を揺るがそうとした疑いがある。 
   こうした現状の中、ハイブリッド脅威対策センターは各国の専門家をネットワーク化して情報共有をサポート。攻撃かどうかを即座に判断する
   能力の向上や防衛策の研究、対処訓練などを行っている。

 PESCOに基づいてサイバー攻撃への対処力向上を主導するリトアニアの政府関係者は「軍隊の攻撃には軍隊で対抗できるが、ハイブリッド攻撃
   は攻撃者を特定しづらく、反撃が難しい」とした上で、国民のリテラシー(情報の真偽を判断する能力)向上やフェイクメディアへの制裁、
   社会インフラの危機管理能力の強化などを通し、「社会全体で攻撃へのレジリエンス(抵抗力)を高めることが重要だ」と話している。

【用語解説】ハイブリッド攻撃

近年欧米で生まれた概念で、プロパガンダやフェイクニュースによる世論操作・選挙介入▽発電所など生活インフラへのサイバー攻撃▽対象国内
   の反体制派支援▽“自警団”など国家の関与を隠した武力-などを使って相手国の安定性を揺るがせ、その後の軍事力展開を容易にしようと
   する手法。ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合の過程でもこうした手法が使われたとされる(ロシア側は否定)。少ないコストで実行
   できるほか、攻撃者の特定が難しく対処が困難などの特徴がある。


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